軌道空域編⑥成長期
「さて、それでは君たちの部隊名だが─。」
「ナインが隊長の騎士隊はフラマ セラタでしたからなー、AADAだとわたしから名前を取ってハゴロモズでどーですかなー?」
本来ロミネンシアのチームを組むのだから、緊迫感が必要なのだろう。しかし─、
ふわ、
ゆっくりと、
もわっ、
揺れる。
「あなた」の目の前に座るクズノハの、しっぽが揺れるたび、「あなた」の視線は引き摺られる。
ちょんちょん、
隣のマチコが「あなた」の肘をつつき、
「こら、失礼やで。」
しかし、
ふわっ。
ふわふわで、もふもふのしっぽが、
くるん。
まるで揺らめく炎のように、左右へ揺れる。
「─ふふ。」
クズノハの口から出たその言葉に、「あなた」はどきりとした。
彼女の目は細まり、満足そうに微笑んでいる。恐らくは、いや、確定的に─。
「お気に入っていただけたのかな?」
ごくり、「あなた」は唾を飲む。クズノハは、「あなた」の視線がしっぽに注がれている事を理解した上で、揺らしていた。
「おかしいわよ!急に出て来た女がナイン様の心を鷲掴みにするなんて!」
ちなみに、クズノハの隣のイヴは既にしっぽに抱きついて顔を擦り付けている。
A、「うらやましい─。」
そうこぼし、慌てて口を抑える。
B、「いや別に好きじゃないよ。」
顔を背けるものの、つい視界の端で揺れるクズノハのしっぽと、それに顔を撫でられるイヴの幸せそうな表情が気になる。
A、B、─「ふふ、私の祖先は愛玩動物としてΔの文明種に飼われて来ました。私は従属する事で生き存えた彼らに誇りを持っています。もっと甘えてもいいんですよ。」クズノハの手としっぽは、それぞれ別の生き物のようにイヴのおでこと頬を撫でる。なんて羨ましい。
さ。
クズノハは、空いている手で書類を机に広げる。
「私が正体を開示した事で、UBDA管轄区域の反抗勢力へ、WEDAのヒュネア、同型機の製作者にそれぞれΔの技術、資本を提供した者達も動くでしょう。」
A、「つまり、UBDAとWEDAには─、」
「Δのひとたちが関わってたのですなー?」
「あなた」の言葉にガルデニアが続ける。主戦派は元から地球人類の絶滅を方針に掲げている。と言う事は内乱を起こすためにしても、効率が悪いのでは─。
A、─「はい、既にこの惑星には主戦派、融和派そのいくつもの派閥の工作員が入っていると考えられます。」
今目の前にクズノハがいるように。
「私もその全てを把握しているわけではありませんが─。」
クズノハはイヴの前髪をかき分けて、左上に刻印された線の束、バーコードのような管理表を見せる。
「不特定の勢力へ技術を提供し、体制を不安定にさせる、または─。」
そのための兵器として作られたイヴはそれでも、クズノハに甘えるように抱き着く。
「Δなどの惑星文明に搾取されないように、地球人類の文明度を引き上げる目的での技術供与もあるでしょう。」
ただそれが、あの惨劇を起こしたヒュネアを作り出してしまっただけで─。
ぱくぱく。
そのヒュネアは、クズノハの隣で山盛りのビスケットを食べている。
「うーん、やっぱりナインの焼き飯が食べたいですー。」
「おー、ん。ヒュネアはそのほら、身体の中のエンジンを動かすためにそんなによーけ食べとんの?」
「私が検査した所、ナインの力で再生されたヒュネアは、エンジンなどは内蔵されていませんでした。」
「でも新しいヒュネアはわたしみたいに飛べたり前みたいに空気の温度を操作したり出来てますなー?」
「なぜか出来ちゃいますー、イヴはどうですか?ぱくぱく。」
「私はナイン様に貫いてもらったけど、外部入力を受け付ける神経回路が焼損しただけで、胸のエンジンがあった場所にはガルデニアの花が咲いたままよ。力は使えるわ。」
「そうなんですねーぱくぱく。このいちごクッキーおいしですー。」
「今のヒュネアがよく食べるのは、単に食欲ですね。」
A、「そーなの!?」
「あなた」は声を上げ、「単に腹減っとるだけかい!」マチコは椅子から落ちた。




