軌道空域編④瞳
ざ。
「あなた」の足は、激流ボートから大地へ踏み出す。
「ナインの顔は可愛かったですなー。」
「けど、「手を離すな!」って叫んだ時のナイン様はすてきでした。」
「カッコよかったですー。」
「あかん、アタイ歩かれへん…。」
もたれてきたマチコの腕を「あなた」は肩に抱く。「連れて、帰る。」「あんがとな。」
ひゅわ、わ。
周囲に浮かぶ無数のUAVが「あなた」たちの周囲を旋回し、
「はーいこっちですなー。」
ガルデニアの声に合わせて鞄の中へ収まる。
「朝から落ちて、お昼の後は流されて、私も疲れたのでナイン様に抱っこされたいです。」
イヴも寄りかかって来たので、「背中に乗って。」と「あなた」が声をかけると、イヴがよじ登ってくる。
ぴと、
イヴの頬が「あなた」の首筋に擦り付けられる。
「んー、んー。」
「んんん。あー。」
ヒュネアとガルデニアが、急に発声の練習?を始めた。「どうしたの?」と「あなた」が尋ねると─。
「早く駐屯地へ帰りますなー。」
「急ぎます。イヴは私が運びます。」
ふ、わっ。
飛び上がったヒュネアが、「あなた」の背中のイヴを抱え、
ぎゅ。
マチコを抱きしめた「あなた」を、ガルデニアが両腕で抱え、
ひゅあ。
浮いた。
「ちょ、まっ。」
マチコが声を上げ、「あなた」は彼女が舌を噛まないよう唇を押し当て閉じさせる!
「飛ばします!」
「なー!」
ヒュネアが黒のロングコート風の翼を、ガルデニアが羽衣を展開し、はためかせ!
ぎゅあ!
絶叫マシンの比では無い速度で空を駆ける!
「あなた」は肩と首に力を込めて頚椎に負荷がかからないようにし、マチコの首と頭を抱く!
キィ、ィア─。
既に夕暮れの橙色から、赤紫、群青が夜景を染めている。
ばふぅ、ん!
駐屯地の主玄関に激突する瞬間、白い花が咲き乱れ、「あなた」たちの身体を受け止める!
ふわ、さっ。
隣では、ロングコートを翼のように畳み、ヒュネアが降り立った。
ザッ。
衛士が「あなた」たちへ軍礼を行う。
返す。
奇妙だ。
いつもの駐屯地ではあるものの、隊員達の表情、雰囲気は朝とは違う。
AADA方面司令部付き基地のひとつ、楠木駐屯地─かつて日本と呼ばれる国があった場所の、非汚染区域のひとつを防衛する。
そこは今、動いている。
慌てるのではなく、急ぐ。
日々の訓練によりきびきびと動く所作をそのままに、急いでいる。
ガルデニアとヒュネアは、あの短い発声練習のようなもので、基地と通信を行なっていたのだろう。
た、た、た。
先をゆく2人は、そのまま食堂へ向かう。
何かの訓示や発令などであれば、隊舎前やグラウンドで行うはずだ。
「あなた」とイヴ、マチコはその行動に口を挟めない。
正しくは、挟まない。
普段のほほんとした言動の2人が、感情を排したように動く。
駐屯地の空気もあり、「あなた」達は、ただ食堂に入る。
なぜ食堂なのか、
その理由はすぐに理解出来た。
食堂の中央には大型のモニターが置かれて、映し出される映像にはAAoEのエンブレムを映す旗と、複数の足音、マイクの調整を行う音だけが入る。
たたたた。
ごそ、がそごそ。
既にだいたいの隊員は着席し、息を潜めて、呼吸を整えている。
咳払いもせずに。
他の隊員は、寮の中で耳をそば立てているのだろうか。
そして確定的に、
全球に生存する人類全てが、聴いている。
ふぁ、ふぉ。
画面に動きがあった。
ぴろりろり、ぴろりろり。
緊急災害などのアラートがモニターから、基地全体から響く。
恐らくは、全球で。
モニターが深い青に染まる。
③
と表示された。
②
へ切り替わった。
①
そして、
「私は、君たちが異星文明と総称する、惑星Δを由来とする知的生命体の─、」
あの女だった。
「いち融和派に属する、派遣されたいち個体である─。」
イングラ事件では、「あなた」とイングラとの交信の補助を行い、
「現在、Δの主戦派が送った船団がこの岩石惑星、この恒星系に接近しており、─」
トライカー全球大会では、「あなた」のプロタガルテを調整し、ピュモッソへと改修した、
「端的に言おう─、」
彼女は、撮影カメラを見つめた。モニターを見る人類それぞれの瞳を見つめるように。
「私はクズノハ─、」
その瞳は、紅く燃えるように─、
「この惑星は、狙われた!」




