トライカー全球大会編10 食卓
事務手続きは大変だった。
UBDA所属のイヴ・イールアンぜは破壊されたものの、正式な所有権自体はまだ向こうにあった。
確かに内蔵エンジンを暴走させてイヴの廃棄を行う、という目論見は非人道的ではあるものの、現在も内紛のあるUBDAでは反抗勢力への対処は喫緊の問題でもあり、イヴの同型機は実戦に投入されている。彼女らを救う─平穏な場所へ連れ出すことは、「あなた」には出来ない。産み出された理由すら、否定する事になってしまうから。AADA発議の上AAoEの承認により、イヴの身元はナイン預かりとなった。根本的な原因としての争い。反抗勢力にも、UBDAの人員にも、それぞれの人生と考えがある。この岩石惑星では、それぞれの願いを均等に叶えるには、狭すぎる。
「イヴ1人だけでも助けられてよかったですなー。」
ただ、反抗勢力の持つロミネンシアの出どころ自体には不明な点が多い。
WEDAの持っていた、ヒュネアに代表されるトライカー/ロミネンシアと融合した人間を製造する技術、同型機を複数運用した資源自体の出どころも不明だった。記録書類にも「ある日突然、湧いて出た。」まるで「あなた」とガルデニアが、熱量移動でこの地球に来たように。
この謎を追うのは専門の部署が立ち上がったため「あなた」は普段の生活に戻る。
たた、とにかく書類を作るのに時間がかかった。
「私はSADAでやる事あるし、夫と子どももいるから。」
マリアは何と、夫が5人ほどいるそうだ。なるほどあんなに大胆に、初見の「あなた」へドラマチックなキスと告白が出来たわけだ。
また、彼女からすれば、イヴやヒュネアは娘のようなものらしい。ちなみに2人とも、マリアに着いていくのは辞退した。
2人とも「あなた」といたいそうだ。
イヴは「あなた」のランサーで心臓とエンジン、全身の神経を焼き貫かれたものの、ガルデニアの花がその代替となった。
ヒュネアは─。
「あむあむあむ。」
手元のお皿に乗った焼き飯または炒め飯を、勢いよくかきこんでいる。
「ほんまによー食うなー。」
こと、
マチコが餃子の乗ったお皿をテーブルに置いた。
「ヒュネアは確かに再生されましたが、ナインの記憶からですからなー。おーめにくいしんぼ要素が入ってるのですなー。」
こと、
「おかわり!」
じゃらら、しゃー。
その言葉を聞いて、「あなた」は鍋を振り始める。
「ナインも甘やかしすぎちゃうの?」
「ナイン様はとってもお優しいですから。」
カウンターに肘をつくマチコの隣で、イヴが甜茶の入った湯呑みに口を付ける。
「ごくん。私もガルデニアのようにナインと結婚したいです。」
「私も。」
「ちょー待ちや、アタイが先、先や!」
ヒュネアの言葉を皮切りに、イヴとマチコがおしゃべりを始める。
「カランコエがまたやきもちやいちゃいますなー?」
面白がるようなガルデニアの微笑みに「あなた」は肩をすくめて、鍋を振る。
「そーいや、あの人どこ行ったん?」
「AADAのひとだと思ってたらちがったんですなー。」
イングラ事件の時、死体となった水2コマンダーの体内に潜むイングラと交信を試みる「あなた」に、即興でモールス信号の学習指導法を伝え、全球大会に於いては、「あなた」のトライカー:プロタガルテの神経伝達調整、さらにピュモッソへの改修まで行った、彼女。「あなた」やガルデニアと同じく、「突然湧いて出た。」当然出生地も来歴も不明、目的も不明。AADAは単に「あなた」の知り合いだと認識していたそうだ。
「まーガルデニアも言ーたらめちゃくちゃやけどナインはもーひとつめちゃくちゃやし、知り合いの顔して女寄って来ても誰も不自然や思わへんやろ。」
「ナイン様に貫かれた時のときめきは忘れられません。」
「私も、私を切り刻んだ時のナインの表情がすごく真剣で─。」
イヴとヒュネアが物騒な事を言い出して、洗い物をしていた「あなた」に隣でお皿を磨いていたガルデニアが。
「わたしは毎晩ナインに─。」
「生々しい話やめーや!」
マチコが咆哮した。




