トライカー全球大会編⑨-2 刹那トラッカー!
たしっ。
飛び跳ね、観客席の背もたれにつま先で立つ。
座席には全身の水分を抽出され乾からびた死体。
このアリーナに集まったさまざまな地域のひとびとは、全てを吸い尽くされた。
しゅもわああ。
ヒュネアだったものから、無数の管が波打つように広がり、
タタタタタ!
「あなた」は遺体を傷付けることの無いように背もたれの上を駈ける!
しゅぱぱぱぱ!
その管のどれもが、意識を持つ蛇のように「あなた」へ殺到する!
A1、「─ャ。」
「あなた」は腰ランサーホルスターから黒鉄の槍を引き抜き、励起させる!
カチャ、チャリリリリ!
振動するランサーでそれらを切り払う!
A1、─ばくぅん!
球体兵器の兵装は、当然管だけでは無い!
「あなた」の跳べる範囲全体をマクロバーストが押し潰す!
ピシュシユシュ!
そこへ管が殺到する!
A2、「─ガョイェヲン!」
圧縮言語により完全励起したランサーは、球体兵器が冷却し続ける空気の層を、その構成する粒子分子をプラズマ化させ、管を焼き切る!
ボタタタタタ!
管のそれぞれはランサー接触部からの無限熱量が本体へ到達する前に自切を行い、再び「あなた」へ殺到する!
A2、─「ナインの光の剣がヒュネアの管を切るー!ヒュネアは再び管を伸ばし、不可視の衝撃波で客席ごとナインを押し潰すー!」
「あなた」が管と空気層への対処を行う中、実況席では、カメラと司会に─。
「現在ナインにヒュネアの救助を指示したAAoE総司令のフルツガヤだ。WEDAは既にAAoEからの通信に応じず、今中継しているヒュネアと同型の球体兵器を複数展開しているのが確認された。」
ヒュネアの伸ばす管はトライカーと同じ水素結晶だ。焼き切る事は可能だが、アリーナに来て、保護が間に合わなかった人たちの体液に含まれる水素を使用して生産を行っているのなら、およそ55千人分の体液。無尽蔵と呼んで差し支えないだろう。
パシュ!
黒鉄の槍が輝きを失う、「あなた」はそれを観客席の後方にある機器に突き立て、次のランサーを展開する。
「騎士ナインは、何をしているのでしょうか?」
司会が疑問を口にする。
「そーいやさっきから、ヒュネアの管を切りながらドームの機械を壊して回っとんな。」
マチコが実況マイクを手に取る。
「ドーム型アリーナは、この場所に限った話だが、観客席の後方に空調設備がある。」
エンジニア兼技術者の女性が、その疑問に答える。
「わざわざエアコンを破壊しているのか?何の為に?」
フルツガヤも会話に参加する。
「報告です!WEDAの展開した球形兵器が破壊活動を開始しました!」
司会が速報を読み上げる。
タタタタタ。
アリーナをほぼ一周した、そろそろだ。
ダンッ、
「あなた」は、マウンドに飛び降り、その勢いで転がる!
きゅくおお、ん。
ヒュネアだったものが、「あなた」に反応する!
着地の衝撃を回転する事で逃し、
ダッ!
その勢いで駆け出す!
こおおきゅうう、ん。
球形兵器は、「あなた」の接近を感知し距離を取ろうと─、
A、「遅い!」
パチィン!「あなた」は両掌を合わせ、バヂヂヂヂイイ!空調設備に突き刺したランサーを完全励起させる!
A、─「またもや、光の剣!先程まで刺していたものを!」司会が目に見えるものをそのまま口に出す。「あー、なるほどな。」マチコは事態を理解する。「空調設備を破壊したのではなく、」エンジニア兼技術者の彼女が続け、「光の剣をフックとして刺して、繋いでワイヤーを張ったのか!」総司令フルツガヤが続けた。
ぱちいぃん。
一本。
じゃりいいん。
二本。
ビュイアアイン。
三本。
ドーム天井、マウンド、観客席、あらゆる箇所からランサーそれぞれを繋ぐ、プラズマの、檻。
「これはぁー!光の剣が幾何学模様を描いているー!」
「こりゃもー、ヒュネアは逃げられへんな。」
「あの管も伸ばすたびに焼かれ、風自体もこの高温では冷やす事が出来ない。」
「高温、そうか騎士ナインが空調を破壊していたのは!熱の循環を止めてヒュネアくんの内蔵エンジンによる過冷却と排熱のダウンバースト効率を低下させる意味もあったのか!」
ばぢぢぢぢぢ!
実況席の声が微かに聞こえる。
「あなた」は、精密な動きに集中する。
ふぉ、ん。
抜いた黒鉄の槍を振動させ、光の格子で拘束した球体を、観測したヒュネアの位置を外し、切断する。
ぼう、
ぱしゃ、あ。
水素の結晶は、切断された側から燃焼し、酸素と結合し、液体である水となり、マウンドを濡らす。
ぱしゃ。
ふぉん、
的確に繰り返し切断する。
「お、おかしい!」
「もー人間の、身体より…。」
「もう、やめて…。」
「しかし、騎士ナインは手を止めていない…!」
司会も、マチコも、エンジニアも、フルツガヤの声も、今だけは聞いている余裕が無い。
さしゅ、
ぱちゃん。
的確に、冷静に刻む。
「じーつは、ナインはやっかいなおんなにみこまれてましてなー?」
「あなたは!?」
「ガルデニアけ!?」
「WEDAの方は…。」
「鎮圧した、という事か…。」
しゅぱ。
ぴちゃん。
もう手のひらほどの大きさになった、ヒュネアだったもの、を両手で抱える。
「やりかたは、ぜーんぶたたきこまれてるわけでしてー。」
A、「この一瞬に─♪」
圧縮言語、祝詞を口にする。
A、─しゅ、
青い走査線が、目の前に走る。
B、「全てを、賭ける─♪」
B、─しゅ、しゅん、しゅしゅしゅしゅしゅ、
走査線は、アリーナ全体へと広がる。
「騎士ナインが何かを歌っている、ようです!」
「これ、古いテレビで映る─。」
「走査線、だね…原理はわからないが。」
「だんだん、アリーナ中の走査線が、人のかたちに─。」
司会たちが、マイク越しに話す。大音量でアリーナ中に響き渡るので、「あなた」はアリーナのスピーカーも破壊しておけば良かったと考えたかも知れないし、考えなかったのかも知れない。
「らら、らららるるら、らららら、ららら─♪」
ガルデニアがただ一人、「あなた」の声に合わせて、マイク無しでアリーナの中へ歌声を響かせる。
「さー、みなさんご一緒に♪」
しゅぱ、ん。
アリーナ全体に、白い花が咲いた。それに合わせて、アリーナ中の青い走査線は、明確にひとの姿を形取る。
「ゆけ、」
作者のおおとろべふこが、二次元作品を読む四次元人、読者である「あなた」の脳、十一次元の領域から、第九次元を定義した。
「ゆけ、」
それは、作品を読む事で「あなた」の脳内で発生する電気信号、熱量を使用して、記憶回路から対象を再生する─。
「刹那トラッカー!」
アリーナで歓声を上げていたひとびとが、そして─。
ひゅうう。
風が吹いた。
黒い帽子から揺れる金髪。
ばささ。
はためく黒のロングコート。
「ぱくぱくぱく!」
大急ぎで、焼き飯をかき込む姿。
「ん、ん、ごく、」
ふらりと立ち寄って、三万と五千円分を食い逃げした女。
「はふほふほほ、ふ!」
ヒュネア・フィカス─。
「おかわり!」




