トライカー全球大会編⑨珠
わあああー。
観客達が、逃げ回る。
ぴすぴすぴすぴす。
突き出た管が、アリーナにいたひとびとへ、刺さる。
きゅうー、ん。
海中で暮らす哺乳類のような鳴き声に似た音が、響く。
もうWEDAは、ヒュネアが生体兵器だと言う事を、隠す気が無くなったらしい。
当然だ。
「あなた」はたった昨日、UBDA所属の生体兵器イヴ・イールアンぜをこの惑星、地球人類に解析不能な方法で破壊、ひとりの少女として再生した。
きゅ、きゅうー、う。
それを見たWEDAは、手段を選ばなかった。
シャリイィィ。
管を、振動させたランサーで切り払う。
黒い帽子に黒いロングコート、美しい金髪だったヒュネアは─、
わああー。
管で繋がれた観客席のひとびとの喉からは、一人の少女の声が聞こえる。
「殺す。」
「助けて。」
「殺す。」
震えるようにそれ、は
きゅうう、あー。
鳴く。
その鳴き声、いや、エンジン音はこの地球人類の文明レベルのものでは無いように見える。どちらかと言えば─天の川銀河中心天体、命球で太陽系第三惑星人と絶滅戦争を繰り広げたクルルガンナ星人の作った─対惑星文明兵器に内蔵された反陽転斥力エンジンのものに近い、と感じる。
「もうこんなん、人間のやることや、ない。」
ガルデニアの花に包まれたマチコが声を上げる。
これほどのものを見てまだ声を出せるのなら、マチコの胆力は並外れている。
「そこまでして、ヒュネアを勝たせたいのか…。」
同じく花の中のAADA出向のエンジニア兼技術者も、声を上げる。流石にここまでの物を見たのは初めてだろう。
くぉぉ、こ、きゅうーん。
ドーム型アリーナの中空に浮かぶ、漆黒の球状構造物。
ヒュネア、だったもの。
「ふーむ、この惑星の文明れべるのわりに、がんばってまーすなー。」
この中でただ一人、違う反応をした。
先程までいくらかのひとびとを花で包み保護し、退避させていた女の子。
「あなた」と同じく命球から送られた正真正銘の対惑星文明兵器、ガルデニア・ヴィナヴァルテが口を開く。
「そーのーかーんじー、ナインひとりでヒュネアをたすけるつもりでーすなー?ずるーいでーすぞー。」
既にガルデニアの周囲には独特の花の香りが漂い初めていて、「あなた」の号令があれば、いつでも飛び出すのだろう。
「あなた」は目の前の女の子を肩に抱く。
A、「これは一応トライカーの大会で、ヒュネアのあの身体もトライカーなんだから、ぼく/私がケリをつける。」
A、─「むー、へりくつですなー。」拗ねるガルデニアへ「イヴとマリアは?」「イヴはAAoEの施設で保護済みで、マリアが守ってますなー。」「ありがとう、WEDAを完全制圧、関係者を生かしたまま捕縛を。」と「あなた」は肩に抱いたまま、告げる。
「はーい、がんばりまーす、なー♪」
ふわ。
羽衣を纏ったガルデニアは浮かび上がり、白い花に包まれて消えた。
きゅくおおお。
ヒュネアだったものは、ガルデニアの消失を検知したのか、鳴動した。
「あんなもんトライカーなんて、冗談きついて…。」
マチコが言うのも当然だが、大会規定にも、
「その改造に制限は無いとされている。」
エンジニア兼技術者はそう言って、白い花に身を隠した。
WEDAは「あなた」を試合の形式で排除するため、玩具と兵器の境界線を超えたあれ、を用意したのだろう。
ヒュネアと観客達の命を燃料にして。
「WEDA所属のヒュネア・フィカスは試合開始の直後に、球体へ変化しました!ここ実況席とAAoE司令官は騎士ナイン・エルナが守って─。」
ガルデニアの花に包まれた実況席の司会は、カメラに向かいまくし立てる。この中継を見ている全球のひとびとは、どう感じているのだろう。
ただ、AAoE総司令は、
「イヴくんを助けたように、ヒュネアくんも救助出来るか?騎士ナイン。」
しぱぱぱぱ。
ヒュネアだったもの、はアリーナの観客に突き刺していた管を引き抜く。
最たる脅威のガルデニアが消えたので、破壊行為に移るのだろう。
こきゅおお、ん。
A、「出来ることを、」
「あなた」は続けて、「やるだけです。」
きゅうい、あおおーん。




