トライカー全球大会編⑦円舞
「一回戦、敗者同士の対決だー!」
わあああ。
会場に、熱気がある。
カチャ、カチ。
両腕、両脚、それぞれに巻いた包帯を、結び直す。
「はァ─、ここまで来ても、何度身体が切り刻まれても、負けてもやめねェんだな。」
ばちぃ。
呆れた顔のマチコは、「あなた」の肩を叩く。
ちょん、ちょん。
もう片方の肩を、指先でつつかれる。
振り向く。
ちゅっ。
両足を揃えてつま先を伸ばしたガルデニアが、「あなた」にキスをする。
「ここまでぼろぼろなら、せっかくだからだいばくはつでもしたらいーですなー!すっきりですぞー!」
一晩さんざん泣いて、充血の取れないまま、ガルデニアは「あなた」に、絵本の中のおひさまのように、笑う。
「勝って。」
カチャチャキチャコ。
ヒュネアとの戦いで「あなた」のプロタガルテは圧壊した。幸いオンボードSoC、オンソクは完全には破壊されていなかったものの、余分な装甲を剥がし、メインのフレームと最低限の動作補助用スラスター、腕部アークソードだけを装備した─、
「要望通り、増加出力装備を保持したままコマンダーである「あなた」、ナイン・エルナの動作をほぼ完全にトレースするようにチューンナップした。機体名はそうだな。もっと動け─ピュモッソだ。」
帽子を目深に被った、どこかで聞いたことのある声の女性は告げる。「ありがとう。」と「あなた」は返し、トライカー:プロタガルテpm/ピュモッソを受け取る。
「身体の傷と機体の仕上がりはどうだー!自称騎士、ナイン・エルナー!」
わあああー!
司会の煽りを受けて、観客が叫ぶ。
足を上げ、フィールドへ、上がる。
ずし、り。
重力を感じる。
「5パーセントほど、上に跳ねるきらいがある!」
もう一段、足を上げて、下ろす。
「後は君次第だ!」
振り向かず、頷く。
司会も、観客席も、静まる─。
ひゅおお。
ドーム型球場を使用したアリーナの空調だけが、遠く音を立てる。
「トライカー全球大会2日目、試合ィー!」
マイクの音が響く。
細部まで再現されたビルヂングの向こう、マリア・サルターレが構える。
「トライカー!」
マリアが、よく通る張った声で叫ぶ!
「開始ィー!」
司会も声を張り上げる!
A、「ゴー!」
叫んだ「あなた」とマリアは、同時にトライカーを放つ!
チャリイイイ!
マリアのトライカーとピュモッソはビルヂングの多い市街地を山手へ走り抜ける!
タタタタタ!
「あなた」もマリアと並走して開けた土地へ出る!
軽くステップを踏みながらマリアは「あなた」へおじぎをする!
「見てたよ、騎士!」
A、「光栄だ。」「あなた」も、マリアの軽やかなステップに合わせて、返す!
タララ、タッタッタタ!
重心を首元に乗せ、マリアは胸部から腰、腿と膝、足首を跳ねさせる!
来る!
タァン!
マリアが回転するように手を地面につき頭部を狙う蹴り!
タ、タン、タタタタン!
舞うリズムに合わせて、スネ、腿、腹部への蹴り込み!
裏に拳も来る!
パシ、パパ、パシシシシ!
ダンッ!
飛び跳ねて下がる!
あの音、恐らくつま先は音速を超えている!
タタタ、タタン!
マリアはつま先だけで十字にステップを踏む!
俊敏なタイプのファイターだ!
フットワークはサルサに似て軸足の置き方は空手、流れる蹴り技と上肢の動きはカポエイラ!
「あなた」は次の蹴りが飛んで来るのに合わせて飛び込めるようステップを踏む!
萎縮すれば、呑まれる!
足技主体の武術は、足を封じるしか無い!
あのつま先に刃物が仕込まれていても、肉が切られても、骨で止めれば良い!
既に左腕には穴が空いているのだから!
そんな「あなた」の気迫を見たマリアは、白い歯を見せて微笑みながら舞い、右手指を鳴らす!
パチィ!
マリアのトライカー背面サブアーム、いや背面ユニットが丸ごと分離し、サブアームが一対の短い棒を構え、
A、─「いい目じゃないか!」
ユニット自体が、ペアの長い筒となる!
カンカン、カカカン!
サブアームが棒を打ち鳴らす!
マリアの足は十字のステップを踏む!
マリアのトライカー背面ユニットは、次のサブアームで長い筒を叩き…!
さん、シュシュシュカッ!
リズムに合わせてマリアの蹴りが来る!
トライカーもまた、ピュモッソへ蹴りを放つ!
タタンタ、タッタッタ!
「あなた」の動きに合わせてピュモッソも円を描くように側転し避ける!
「騎士、君のトライカーも身体の動きをトレースしているね。」
たららら、たたたら、らららた。
緩やかなリズムの、演舞!
それに合わせて蹴りが来る!
これは確実に、裏拍子を意識させないための錯覚!
ヒュ、カカカ、パッ!
見惚れるほどのマリアの足技!
「あなた」も蹴りを返し、
パッ!
お互いに飛び退く!
マリアは高く上げた腿に肘をついて身を乗り出し
「一曲いかが?」
A、「喜んで。」「あなた」は仰々しく右腕で弧を描かせおじぎをする!
マリアの上半身と下半身を逆転させての動きに、「あなた」も無傷の右腕を軸に合わせ、地を指先で支え頭部を狙い蹴る!
たたた、ら、たんたたた、たん!
二人一組のダンス!
「あなた」は左腕を畳み肘で、腰に重心を置いてマリアと蹴り合う!
ららら、らんた、ららら、ら♪
アリーナの至る所から、サルサのリズムで合唱が聞こえる!
「あなた」とマリアは計ったようなタイミングで蹴り合う!
「騎士!」
マリアが微笑む!
必殺の鎌は表と裏の二枚刃!
A、「マリア!」
「あなた」も微笑み、声を上げる!
たん、たた、たんたんたたん!
らー、ららら、らっららーら♪
ただ、守らなくては、という使命感だけがこれまでの「あなた」を突き動かしていた!
異星文明と、地球人類の間の理解への橋渡しになる事だけを、考えていた!
ザンザザ、パシ、シ!
マリアの脚が「あなた」の頭部を狙い!
スササザ、シパ!キィン!
「あなた」の返す脚がマリアの頭部を掠める!
真剣勝負!
しかしそこには、お互いを排除し合うというただ一点にのみ!
バシィ!
共通の認識がある!
スタ、タンッ!
お互いに蹴り合った反動で後方へ倒立回転跳びを行い、着地する!
しぃ、ん…。
会場も、マリアのトライカーが設置した背面ユニットも静止する…!
「お互い、気持ちは通じたね、騎士。」
マリアは微笑んで、
A、「そうだね、マリア。」
「あなた」も微笑み、
たた、た。
お互いに駆ける!
タッ!
お互いに向かい合い、跳ぶ!
キュパァ!
マリアの回転裏拳!
シュパ、
「あなた」は─!
バシィ!
同じように回転し、上体を捻りながら放った掌は、マリアの拳を握りしめた!
ばしぃ!
きゅるるる!
そのまま2人で手を握り合って、回る!
A、─「私の負けだ。」
ちゅっ。
マリアは「あなた」への口付けをした!
「ヒュネアもイヴも、殺戮のために造られた子だ、君ならば、解放してあげられる。」
と唐突なキスの衝撃にあんぐりと空いた「あなた」の唇の中で囁いた。
ちゅ。
再びのキス。
今度は、口を離して、カメラにもよく映るように、
「ヒュネアとの戦いを何度も見た!あの子どもを助ける場面も繰り返した!私は君に、ナインに恋をしてしまった!」
もう一度マリアは、くるりと回る。
「私マリア・サルターレは、生涯のパートナーを見つけた!ナインが勝者だ!」
宣言した。
その晴れやかな笑顔と喝采の向こうには、限界出力で燃え上がるイヴの身体とトライカー、中空に浮かんだまま、中継カメラ越しに「あなた」を見つめる、全身が強化パーツで覆われたヒュネアがいた。




