トライカー全球大会編⑤ 傷
きゅ、
左拳に嵌めた手袋のベルトを締める。
「やはりチューニングを従来通りに戻した方が良いのでは?」
AADAのトライカー技師に声をかけられる。
「あなた」はゆっくりと首を振り、
パチリ、
手首、肘に巻いたベルトを締める。
「なあ、ナイン…。」
マチコが声をかける。
ぱきぱき、
「あなた」は微笑んで、左肩を大きく回す。
「わたしのお花で補強するくらいなら…。」
ガルデニアには…。
A、「大丈夫。紫電に焼かれた時でも戦えたんだ。」
ガルデニアの頬を撫でようとした左手が、
だらり。
力無く落ちる。
A、─「やはり、その傷では…。中継を見ていた誰もが目にしたんだ。今年の大会は控えた方が─。」
AADAの職員はなおも食い下がる。
わあああ。
遠く、観客席の方から声がする。
控え室の隅、置かれたモニターには、ニュース映像が流れている─。
─────
「ただいま私は全球大会に出場する、あのイングラ事件解決の要、破竹の連勝!AADAエリア地区優勝、見事全球大会への出場権を得た、自称騎士、ナイン・エルナさんにインタビューに来ております!」
マイクを向けられた「あなた」は、ちょうどプールでのガルデニアとの特訓を終えた帰りだった。まだ髪にもシャワーの後のしなやかさが残っていた。「どうも。」と「あなた」は返す。プールでの運動の後という事もあり、いつもの騎士制服を着用せず、比較的風通しの良い肌着と白地のシャツだけだった。
つまりガルデニアのルリローによる保護を、受けられていなかった。
「プールを厳重に封鎖した上での特訓だった、と聞いておりますが、第一戦のヒュネア選手の風への攻略に糸口は掴めましたか?」
振り向くと、ガルデニアが舌先を出して笑っていた。「あなた」は肩をすくめ、「手応えはありました。明日それをお見せします。」と返事をした。そこからも歩きながらプライベートな質問や、お店での得意料理などについて聞かれた。もうすぐ駅のロータリー、交差点に着いた─。
わいわい、
きゃあきゃあ。
沢山のひとが、それぞれの人生のために駅へ向かい、また駅から出ていた。
「あなた」たちも、元いた町へ戻るため、ロータリーへ入った。
きゅうあ。
背後からロータリーに侵入する車のタイヤが、路面を掴みきれず、軽く滑る、スリップ音がした。
駅ロータリーにはバスが停車し、大人から小さな子どもまで降車していた。
「あなた」は天の川銀河中心天体にて騎士として、その過酷な訓練の中で、周囲の状況からカンマ数秒先の予測と、それに合わせた全力での身体動作を行う特殊技能を身に着けていた。
「あなた」はインタビュアーを安全な方向へ突き飛ばし、駆け、子どもを抱きしめて、姿勢を丸めて、跳ねた。
きゅいいい、がこ。
ロータリーの縁石に乗り上げた車は、子どもの歩いていた位置まで進んだ。
その位置には、子どもを抱いた「あなた」の身体があった。
ば、き。
車の位置には、「あなた」がいた。
弾き飛ばされた「あなた」は、車の進行方向へ向かって跳ねていたため、だいたいの衝撃は相殺出来た。
子どもも無事だった。
ただ、
「ナインー!」
紅い染みが、
「ナイン!ナイン!」
広がる。
「だ、大事故です!」
「あなた」の左上腕中央に、飛ばされた先のフェンスに括り付けられていた看板から飛び出た釘が、貫通して顔を覗かせていた。




