トライカー全球大会編③把握
ぷるるるううう。
電気軌道客車が警笛を鳴らし、ホームを出発する。
ちりりり、
「2番にY市行き普通列車が参ります─。」
駅アナウンスが入る。
名前は少し変わったものの、これは「あなた」の暮らす現代地球と大差が無い。
戦乱が起きても、技術革新があっても、既にひとびとの暮らしに根付いたインフラは、長年の保守サイクル、自然災害、それを前提とした社会の基盤と資材の蓄積があるため、破壊があっても復旧が行える。
「なんか遠い目をしてますなー。」
「元地球人なんやろ?そりゃ懐かしがるて。」
ガルデニアはプールバッグを両手で持ち、マチコは肩に担いで「あなた」に話しかける。
返事をしながら、先日の来訪者または食い逃げ犯、ヒュネアを思い出す。
確かに3万5千円の食い逃げを行なったものの、彼女の特殊な力を体感出来たのは大きい。
直接対峙した際に対処出来ず撃破さらました。ではお話にならない。
ヒュネア、ヒュネア・フィカス。西ユーラシア─カナダ区域防衛機構の代表トライカーコマンダー。
原理は不明だが、風または粒子のコントロールが出来る。対惑星文明兵器のガルデニアが挙動を制限されるほどの出力だった。本気では無かったとはいえ彼女を押さえ付けたその出力は、対惑星文明兵器相当だと考えて然るべきだろう。天の川銀河中心天体で元地球人の幸拓 結実子が製造したのがガルデニアなら、異星文明との戦乱を経た、西ユーラシア─カナダの技術産業の結晶としてヒュネアが、いる。
恐らくは小型の─反陽転斥力エンジン相当の─を身体に埋め込んでいるのだろう。
現段階では物理的な対処を行うしか無い。
「予約のガルデニアですなー。」
ガルデニアが受付で入場チケットを買う。
AADAの代表トライカーコマンダーとなった「あなた」は、ヒュネアの持つ能力に、技術的─トライカーの武装や機体改良の後付的解決アプローチでは無く、まず「あなた」自身の肉体と身体経験でヒュネアの能力への対処を行う事とした。
防衛産業には、トライカー:プロタガルテの駆動系、指示制御系を「あなた」の脳頚椎脊髄腰椎を通る電気信号との差を減らす方向にのみ、注力してもらっている。
単純に、生身で勝負を挑みたい。UltraSuperGiganticを駆る、太陽系第三惑星人の、次元騎士として。
「お着替えお着替え〜♪」
他の区域代表も確認し、頭に叩き込んである。
まずマリア・サルターレ。恐らくハウスネームは偽名、コードネームだ、「踊り」のマリア。SADA─南アメリカ区域防衛機構のトライカーコマンダー。本人も見事なダンサーであり、旋回とステップの組み舞踏、サルサを戦術に組み込む。
「あなた」がプロタガルテの反応速度を騎士のそれに近付ける事を主たる目標としたのは、彼女こそがこの中で一番手強いと感じたからだ。
次にUBDA─南アフリカ区域防衛機構のイヴ・イールアンぜ。
彼女は相手、また周囲の闘争心、攻撃心を鈍化させる。これもヒュネア同様原理は未公開だが、UBDAは人体の改造、機体ありきでは無く、起源への回帰を目的にしての遺伝子研究とトライカーパイロットを育成する傾向がある。
「ちょお待てや!」
思考を整理しながらガルデニアたちに着いて歩くと、マチコに胸を押された。
A、「どうしたの?」
「んー?」先を歩いていたガルデニアも振り向く。
A、─「こっちは女子更衣室や!じょ、し!こ、う、い、し、つ!」
しまった!
ヒュネア、マリアへの対処訓練のため屋内プールに来ていた!
「あなた」は即座に「ごめんなさい!」と叫んで男子更衣室へ走る!
「ナインはわたしがいないとお着替えのとちゅーでもぼーっとしますからなー。」
「ガルデニアは甘やかしすぎや!」
2人の声を背中に聞いて、「あなた」は男子更衣室へ向かった。




