トライカー全球大会編①風
しゃあああ。
半球形の鉄鍋に獣脂を注ぎ、燻らせてから元の容器へ戻す。
高温により獣の匂いが溢れる。
じゃああ。
癖の強い香味野菜を獣の脂で数度揚げ、黒く焦がしたものをすり潰し、さらに脂と合わせすり潰したもの、を垂らし、先の獣脂のものと合わさり濃厚な香りを充満させる。
トライカーのAADAエリア大会は、ひとつの波乱も無く「あなた」が優勝した。それより、イングラ事件を解決に導いたとして、町中を歩けばさまざまな人物にトライカー勝負を挑まれるようになった。どうやら「あなた」のトライカー:プロタガルテにどのような負け方をするか、を動画撮影するのが流行っているらしい。普段はお店で町中華を営み、数少ないフリーの時間は予約された野良試合を行う。最近は1:5形式などの、チームを丸ごと相手にすることも増えた。マチコも飛び入りで参加する事もあったが、当然挑戦者側に着いた。対多数の戦いは騎士として経験があったものの、新しい着眼点も開けた。
たぱぱ。
溶き卵を注ぎ入れてからおたまで軽く整え、
だぱっ。
穀類を炊き上げて冷ましたものを投入し、
カンカンカンカン。
鍋を振り、おたまで刻み炒める。
ぱら、ら。
ひとつまみの塩、こしょうをふりかけ、さらに鍋を振り、刻み、炒める。
カンカンカンカン、
おたまで炒まったものを掬い、お皿へ乗せる。
す。
鶏の肋骨胸骨で煮出したスープを器へ注ぎ。
A、「ルニア。」
呼ぶ。先程までお店が大混雑していたので、ルーとも呼んでいた。
A、─「はいはーい。」
白い帽子とエプロンに身を包んだ愛しい少女は、カウンターに乗せた焼き飯とスープを運んでゆく。
カカン、
鉄鍋をおたまで叩き、獣脂を馴染ませる。
ガスコンロの熱気と、スープを煮詰める寸胴からの湯気。
「おいしかったー。」
「今度来たら次はあれ食べよ。」
テーブルからは、お客さまの団欒が聞こえる。
ふぅ、と一呼吸置いて天井の灯りを見つめ─。
「もーいっぱしの町中華店長やな。」
カウンターにおかけのお客さま、マチコから声がかかる。
「他の星の騎士って話で、トライカー操作したり、ランサー?を構えてる所はカッコええけど、アタイは今のナインも見惚れてまうで。」
餃子をつまみ、マチコは成人向け飲料を飲む。
「ほー。マチコはナインにコナをかけてますなー?」
お客さまをお見送りしたガルデニアが、テーブルの食器を片付けながら言う。
「そんなんじゃねェって…。」
「ナインはそんな感じでお嫁さんをどんどこ増やしたのですなーあむあむ。」
ガルデニアもカウンターに座り、からあげをつまむ。
「うーん、話には聞いてるけどほんとにそんなにおんのかいな…。」
「ふうむ!今はわたし含めて9人いますぞー。」
「けどこっち来てから会われへんて寂しいんとちゃうの?」
「ここ、これ。」
「ん?何やのそれ。」
「わたしの首輪にカメラ付けてましてな。」
かちゃかちゃ。
流しにお湯を張り、「あなた」は洗い物をする。
「…ほんで?」
「常に実況中継してるんですなー。」
「いやいや待って。お手洗いはともかくお風呂とかも?」
「もちろんですなー。お布団も毎晩一緒ですぞー。」
「うーっわ、ほんとに子持ち人妻ムーブしよるん。あ、からあげ追加で。」
じゅうわああ。
「あなた」はお皿にからあげを乗せ、提供する。
「そーれーで、毎晩ナインはみんなそれぞれに愛の言葉を囁くのですなー。」
「はー、そんなにおったらアタイ増えてもバレへんのちゃう?」
「ナインは行く先行く先で女を増やしますからなー、今さら1人か2人増えても誤差ですぞー。」
不穏な会話が聞こえて「あなた」はぎょっとする。…強い風が吹いたから人の声に聞こえたのだろう。そう思っていると。
からら。
引き戸が音を立てる。
ひゅうぅ。
少し冷える風が吹き込む。
「いらっしゃいませですなー。」
ガルデニアがカウンターから立ち上がり、姿勢を正して礼をする。お昼も過ぎてお腹が空いて仕方ない時間。「あなた」もお客さまのため、鉄鍋に獣脂を乗せて「いらっしゃいませー。」と続ける。
「あの…。」
お客さまは、頼りなさげにガルデニアに声をおかけになられる。秋口に入って寒くなったのだろう、全身を黒いコートで包み、頭にも同じ黒の帽子。
「ここに来れば、」
両手を胸の前で組み、伏し目がちな表情は、長めの金髪でよく見えない。
「お腹をいっぱいにしてもらえると、聞いたのですが。」
トライカー全球大会編①風




