トライカー編30 命
群体。
同じ種の小さな生き物が、寄り添ってひとつの塊、生き物となり、同じ種でありながら、それぞれの役割に準じた振る舞いをする。
手が欠ければ別のものが手となり、臓器を担当する者が壊れれば、同じように他のものが臓器の役割を担う。
ザザ。
「トライカーチームθ(シータ)、配置に着きました。」
ジジ、
「チームε(イプシロン)、準備は万端だ。」
さまざまなトライカーチームからの報告が上がって来る。
ザザ。
「AAoE、全球機構の区域防衛機構以下、全トライカーコマンダーが作戦に参加する。」
AADA方面司令官が、告げる。
「イングラによる発光幻覚への視覚防護は30秒間隔で切り替わります。その間カンマ5秒は無防備となります。」
「あなた」の元スマートフォン、アロエがガンベルトのポケットから発話する。
「必ず2トライカー1ペアで、お互いをカバーしながら行動してください。」
チャキ。
その通信を聞きながら、「あなた」はガンベルトを締め直す。
硬く冷たい、AADAの用意したトライカーコンソール。
「ほんとーにざぶとん要らないのですかなー?」
むぎゅ。
ガルデニアが「あなた」の膝に座る。抱きしめて温かさを感じ、口付けを交わす。
「おアツいんはえーけど、帰ってからにしーや。」
隣のコンソールに向かうマチコは、呆れた顔で「あなた」とガルデニアを見る。
ザザ、
「AAoE総司令のフルツガヤだ、全コマンダーには、各地下水管に潜むイングラに混乱を与えてもらう─。」
総司令が一般コマンダーに作戦の再説明をする。
イングラはナインがランサーで行ったような情報遮断、隔離を行わなければ、即座に全球の個体が情報共有を生体発光で行う。
「そのため、コマンダーナイン・エルナがイングラ母体、目標ドゥモナ・ディエナに交信を行うための、時間を作る。」
ナインが聞き出した群体の総合的な、意思決定ユニットの位置は、かつて日本と呼ばれた国に建設された、地球最大の下水管、S県K市の首都圏外郭放水路の遺構。
かつて異星文明との戦乱の折、関東圏全体が汚染されたため、AADA、アジア─オーストラリア区域防衛機構により完全封鎖がなされて久しい。
「まーさか、そんな所でうねうねしとったとはなー。」
ジャコン。
ペアを組むことになったマチコのトライカー:リベンジゴージャス2は、「あなた」のトライカー:プロタガルテに合わせ突入準備を行う。
人間が侵入不可能な汚染区域であっても、水素結晶で構成されたトライカーなら、潜れる。
「なー、ほんまにやっつけへんの?」
マチコは、現状を理解した上で、冗談めかして言う。
「あなた」は微笑んで首を振る。
地球全体に張り巡らされた下水管。
人びとの営みを、可能な限り清めて海へ返し、またそれは生命を育み、雨として、恵みとして人びとの暮らしへ還る。
「それはわたしも思いましたがー。」
ガルデニアは「あなた」の胸元に頭を擦り付けて、続ける。
「イングラちゃんたちも生きてますからなー。」
イングラは、ひとの生み出した澱み、汚水その分解浄化を行う原生動物だ。彼らが居なくては、人類も生きてゆけない。駆除するのでは無く、住み分けをする。
「まーそんなもんやな、アタイも邪魔やからゆーて殺されるんは嫌やし。」
ひとは、周囲の環境、生き物、天候や自然、星そのものと調和して、生きて来た。
同じことを、やる。
ザ、
「各騎コマンダー、作戦開始。」
総司令の命令が発せられる。
A、「トライカー:プロタガルテ、ナイン・エルナ、出る。」
「あなた」は、コンソールに触れる。




