トライカー編29 星
ぬちゃ、あ。
白魚のような指が、鎌をもたげた蟷螂のように、ゆっくりと伸びる。
ごぽ、あ。
眼窩から、口から溢れ出した無数の指は、人体に備わっていた臓器、内容物の残骸を、吐き捨てる。
「あなた」は、
A、とんつーつーつー、つーつーとんつーとん、「彼を解放しろ。」ランサーの光を強弱させ、モールス信号を送る。
「水2ムカイ君はもう死んでいる!」
「そんな化け物早よ殺してまえ!」
「いやあああ!」
「殺せ!」
「殺せ!」
「こーろーせ!」
「こー、ろー、せ!」
同僚が、同胞が、同じ人間が、下水管に潜む原生動物に殺され、食われ続け、あまつさえ死体を移動用の容器、日光の防護服にされている。
「ナイン。」
「あなた」の後ろ、ガルデニアが。
「わたしが花を咲かせる前に、そのひとは殺されてる。」
現在この市街地全体はガルデニアの花に覆われ、ひとびと、地上の生き物は保護されている。
同じようにイングラに捕獲された水3と4のトライカーコマンダーは、ガルデニアの保護が間に合い無事だ。
「もとからイングラは、ひとをたべものとしか、見てない。」
だから、
「こーろーせ!」
「こーろーせ!」
「こーろーせ!」
それが最も簡単で、気分のすっきりする、解決法なのだろう。
「殺してあげて、ナイン。」
A、「あなた」は、更にランサーホルスターに手をかけた。
「うおお!」
「殺せー!」
「やれー!」
たす、
タタスタスタス!
「あなた」は、水2と「あなた」を囲むようにランサーを投げ刺し、励起させた。「─ャ。」その言葉、圧縮言語の祝詞と共にランサーが振動を始め、それぞれの突き出た先端同士が青白い輝きを持って繋がる!
A1、「この中に足を踏み入れた者は、誰であれ燃やし尽くす。」
正五角形を描くランサーは、輝きを弱める。
A2、つー、とんとんとん、とんとんつーとんとん、とんとん、つーつーつーつーつーとん、とんとん。「あなた」は、円の中の正五角形、ランサーで大気をプラズマ化させ、モールス信号を打つ。当然プラズマに囲まれる「あなた」は、ガルデニアのルリローで保護されてはいるものの、体温の異常上昇と顔の表皮に軽度の火傷が起きる。
「あなたたちの、おかあさんはどこ?」
この場に集まった人たちの中で、最初にモールス信号の規則性に気付いた小さな女の子が、呟く。
「そんなあほな!まだお話しよっちゅーんか!」
マチコが叫ぶ!
「もうイングラは一線を超えた!ナインくん!彼らは絶滅させるべきだ!」
沈黙を保っていたAADA職員、いや方面司令官も叫ぶ!
A1、─ぽん、ぽん。
誰かの放り投げた空き缶は、石つぶては、
バヂィ!
瞬時にプラズマ化した。
「ふむ、確かにその光の剣?でムカイくんの表皮を加熱すれば、中のイングラは対話に応じざるを得ない。」
恐らくは研究者の女性は、冷静に「あなた」の行動を周りの人びとに説明する。
再びの静寂の後、
A2、とんつーつーとんつー、とんつーとんとん、とんとん、つーとんとんつー、つーとんつーつーとん。
返事があった。




