トライカー編27 交流
「あなた」の座る、お店で使う丸い椅子。持ち出したお一人様用テーブルに乗せたキーボード、そしてマウス。15.6インチのポータブルモニターとそれを支えるぬいぐるみ。「あなた」だけのトライカーコンソール。
カチ、カチカチ。
キーボードのescキーを数度叩く。各トライカーのオンボードSoC、それに埋め込まれた短期記憶回路、物理保存領域に打ち込んだ戦闘プログラム、演算知能による自律行動を停止させる。
しゅうぅん。
隊列の水3、4トライカーは最低限の消費エネルギーで駆動する入力受付状態となる。
A、「イングラの発光パターンと、伝達される意思、言葉はまだ解明されていない。」
それは当然だ、未知の知的生命体とその言語体系の存在を、今まさにこの地球人類と、「あなた」にガルデニアは知ったのだ。
この状況を言葉にしたのは、周りの聴衆と共に思考するためでもある。
目の前では、起動状態にあり水素結晶を輝かせ続ける水2トライカーが、その輝きに同調するように明滅を繰り返すイングラがいた。
A、─「食べよてしとんのか?」「確かにまとわりついて、撫でとんな。」「トライカーが光っとるから、合わせとんの?」
商店街の人たちが口々に思った事を言う。
「なるほど、つまりイングラはトライカーを、見た目は違うけれど同じように光っているから、言葉を話している、と思っているんだね。」
恐らくはAADAの研究者が、口を開いた。
「はー、つまり外人さんが道に迷とるから、声かけとるよなもんか。」
「って事は、最初にガルデニアちゃんの口から出てきたのは、」
「輝いとるからやな!ナインこの幸せもん!」
無骨な手に頭をわしゃわしゃと撫でられる。
輝く、彼の言うガルデニアの輝きは単純に明るく元気が良い、という意味だろうが、それでも─。
「あー、ナインをなでなでするのはわたしですなー。」
「あなた」の頭を撫でるガルデニアは、別の天体で製造された、少女の肉体を基にした対惑星文明兵器だ。
通常の人間より、生体発光のパターンが複雑なのかも知れない。それにより接近を試みたイングラを、その不衛生さから攻撃行動と判断し、花が自動的に食い破った。
「むー、またナインは考えごとしてますなー?」
「あなた」の顔を覗き込むガルデニアを撫でて。
A、「後は、発光パターンの解析が出来れば─。」
言語、意識伝達の体系を生体発光と言う形で持ち、見知らぬ他者であるトライカーにも、恐らくは友愛的な行動を取る知的生命種。
一文字ごとの意味を解明するのでは無く、大雑把な意思表示だけでも可能であれば─。
A、─「こんにちは、とちゃうの?」
小さな女の子が、口を開く。
「トライカー動いとらへんし、けがして痛いん?って聞いとるかも!」
男の子も、続ける。
「そうか、コマンダーが幻覚状態にあってトライカーの操作が行われない状態が続けば、自然と待機、スリープモードに入る!」
研究者らしき人物が続けた。
「スリープ?」
「寝てるんだよ。」
「おやすみ?」
「ほなおはよーさんやな!」
「ちゅうこちゃあ、「早よ起きんかい!」言ーとるかもせんのやな!」
小さい子の質問に、大人が答え、そしてマチコが続けた。
A、「試してみよう。」
「あなた」はキーボードにトライカー:プロタガルテの肩部ライトを、
A2、つー、つー、つー、つー、とん、つー、とん、つー、とん、つー、とん、つー、とんとんとん、つー、とん、つー、とんとんとん。伸ばし、刻み、光らせた。
「これなーに?」
「光って、長いのと短いのが、」
「おっちゃん知っとるで!これあれや!えすおーえすするやつ!」
「あー、船とかで救難信号に使うやつやな!」
「おー、モールス信号や!」
「そうか、お互いの言語が不明でも、規則性を持った光の点滅なら向こうにも「交流したい」という意思は通じる!」
ひとびとの言葉が、意味を成した時、イングラは「あなた」のトライカーへ向けて、点滅した。




