トライカー編26 交信
「こんくらいでえーんけ?」
「ええんちゃう?ナインはんおるし、やっつけてくれるやろ。」
「ガルデニアちゃんもおるしな。」
「あんたは鼻の下伸ばしすぎや!」
「ナインお兄ちゃんかっこいいもんねー。」
「トライカーでマチコやっつけたもんの!」
わいわい。
がやがや。
商店街の人たち、
「公的磁気記録を開始する。」
AADAの職員、
「公衆衛生の面から見ても気になりますねえ。」
それに伴った、学術面での研究者たち。
ザザ、
「今後のためにも、よろしく頼む。」
中継器から水道局トライカーチーム、コマンダー水4、
「はぁ、アタイも見ぃなあかんの?」
マチコ。
「たくさんお客さまいらっしゃいましたなー。」
調理コンロや食材を持ち出したガルデニア。
「イングラへの対処法は把握しました。お任せください。」
「あなた」の胸元、スマートフォンのアロエ。
商店街の外れ、「あなた」のお店その裏手。
少し歩けば林に入る、整備されてはいるものの、自然と人間の領域の境目。
さああ。
秋の爽やかな風に乗って、木々の枝葉が舞う。
時刻はお昼過ぎ。
太陽は2時。
A、「それでは開始します。─ャ。」
腰のランサーホルスターから一本取り出し、励起させる。
A、─「あわわ、技術開示になっちゃいますけどいーんですかな?あ、らららー♪」
意図を読み取り、ガルデニアが無数の白い花を、人の背丈以上に伸ばし、咲かせる。
日光が遮られ、辺りが暗くなる。
B、「─ガョイェヲン。」
ばち、ばちばちばち。
ランサーを励起させる、触れる大気、酸素や水素、窒素などを加圧加熱し、プラズマ化させる。その余りにもの光量は、居合わせた人達の視界から、相対的に周囲の光を奪った。
B、─「いときみはれりやー♪」
ガルデニアがランサー励起に合わせて、花に覆い包まれた空間に、ひとびとの視界を覆うように水素と酸素を反応させ、何層もの水の膜を作る。
「あなた」はランサーを掲げ、花で包む。光が弱まり、周囲は暗くなる。
かぽ。
ガルデニアの口から溢れた指の容器を開ける。
しゃわ、
「な、何…あれ。」
誰か、目の良い人が気付いた。
しゃわひしゃしゃわよわ。
一本ずつ切り離されていたはずの手指は、
「うあ、わ、あ。」
手のひらを中心に無数にもとの切断面から接続し、蠢いている。
さ。
ランサーを更に花で包む。
辺りの光量が更に減る。
もう灯りの無い夜ほどに。
しゃわ、しゃ。
仮称イングラが、箱から這い出て、「あなた」へ向かって進み出す。
A、「光の無い下水管で発生したイングラは、本来そこに住まう生き物、ネズミやタヌキの発する、ほんとうに弱い光に引き寄せられます。」
「あなた」は身を屈め、顔をイングラへ近付ける。
A、─しゃわひしゃわ。
白い手指は、一本、または二本ずつ、尺取虫のように関節を伸ばし、その上に更に乗り、「あなた」の顔へ、触れようとする。
「うお、お。」
「たべられ、ちゃう!」
すっ。
顔に触れる寸前「あなた」は立ち上がり、イングラは行き場を失って倒れ、また手の形へ戻る。
「あなた」は花で包んだランサーを引き抜き、再び青白い光がこの空間を埋め尽くす。
しゃわひしゃしゃ。
イングラは、その光を嫌い、避けるように箱へと戻り始める。
A、「生き物の発生させる微弱な光には興味を示すように近付き、強すぎる光には耐えられないため、避けて、逃げる。この点から、ある種の原生動物と判断しました。」
汚水の中を泳いで現れたのでは無く、汚水から直接、発生してトライカーに興味を示し、接触した。
A、─「なら、あの幻覚はどう説明する。」
水4コマンダーが口を開き、マチコも頷く。
こちらも理屈自体は単純だ。
暗い空間の中でもう一度箱の蓋を開く。
やはり、イングラはほの白く、光っている。それを聴衆へ見せる。
B、「イングラは群体同士の交信、意思伝達にこの微細な発光を、その強弱と明滅間隔で行っており─。」
説明を続ける「あなた」の見ている前で発光し、明滅し、─。
B、─「ああ、つまり光の点滅による催眠、幻覚を見ている状態となったわけですか。」
恐らくはAADAから派遣されたのであろう、研究者らしき人物が声を上げた。
「あなた」は頷く。
「ならよ、退治するやり方もわかったんちゃうんか?」
誰かが、声を上げる。
A、「しかし、彼らを駆除する事は出来ない。」
そう告げた「あなた」へ、「何でやねん!あんな危険なもの!」「そーだやっつけろー!」聴衆が、声を上げ始めた。
危険であり未知であり、不潔な環境にいる。
「あなた」が説明しようと口を開きかけた時、
「彼ら原生動物は、汚水の処理に役立ってくれている。」
水道局トライカーチームの水4コマンダーが、通る声で言った。
「けど危険じゃ!」
他にも反論の声が上がる、が。
「いいえ、彼ら原生動物は汚水の中に存在する細菌を食べ、汚水、つまり生き物で溢れた泥の状態を安定させてくれます。」
先程の研究者が説明してくれた。
「せやたら、次はどうすんの?」
小さな男の子の声が上がり、
ジジ、ザ。
「あなた」のガンベルトに装着したスマートフォン、アロエから音がする。
「ロストした水2を発見、マニュアルでのイングラ駆除を要請します。」
A、「後は、騎士の領分だ。」
「あなた」は、トライカーのコンソール席へ座った。
複雑な生え方をした手指が、水2を包んでいる。




