トライカー編18 マチコ対ナイン
わあああー!
歓声が、
やっちまえー!
怒号が、
ごおおあああー!
群衆という名のいっぴきの獣が、咆哮する。
す、
足を踏み出す。
た。
リングに上がる。
このアリーナ、「あなた」のいる地球では、シーズンごとに学生たちが健全な球技の、全国から選抜された代表がトーナメント形式で試合を行う場所だった。
ひゅう、う。
東側の都市部の空気が夏の、太陽の熱により温められ、すぐ手前に面する海からの涼しい風と混ざり、アリーナへ吹き込む。
ごおあああ。
およそ4万7千人分の座席は埋め尽くされ、通路にも立ち見の観客がひしめいている。
アジア─オーストラリア区域防衛機構、AADAの主催するトライカーエリア予選決勝。
異星文明との衝突による人口の激減、社会インフラの崩壊、そして、再構築。
ひとびとの抱く暴力性、嗜虐性、復讐心を全て、この競技へと向かわせた。
「さあー今年やって参りました!AADA主催トライカー地区決勝!」
うおおわあー!
司会席のマイクが話すたび、観客席が波を起こす。
このアリーナ周辺の都市部、山あい、港と海を忠実に再現した、一辺が27.431メートル、90フィートの四角形フィールドの向こう。
「掲げるのは異星文明への復讐!過去の大会では常に全国決勝で敗北を喫していた、負ける、負けた、しかし負ける事で強くなる!管理番号000555781992、マチコだー!」
おおおわあああー!
この地球では、姓名の名字に当たる部分には、管理番号が割り当てられる。
普段なら省略されるものの、公式の場では読み上げられる。
紅い、着物のようなものを纏ったマチコは、
「手にするは、重ねた敗北と積み上げた勝利、リベンジゴージャス!」
ごおおおー!
司会の声と共に明るい赤に金のラインが入ったトライカーを右腕で掲げ、観客席がうねる。
「あなた」のいる地球での球技では、いわゆるバッターボックスと呼ばれる位置に立つマチコ。
そして─、
「出生地不明!来歴不明!目的不明!ただただ、破竹の連勝を続ける男、自称騎士、ナイン・エルナ!」
ぴたり。
風が凪いだ。
静寂の中、かつて2塁と呼ばれたそこに立つ「あなた」は、トライカー持つ手とは逆の腕を掲げ、マチコへ向けて下ろし、指を指す。
再現された山あい、都市、ビルヂングの向こう、彼女は構える!
「試合─。」
司会が声を張り上げる!
「トライカー!」
マチコがマイク越しに叫ぶ!
「開始ィー!」
A、「ゴー!」「あなた」も叫ぶ!
ぐわあああーー!
群衆も雄叫びを上げる!
ほぼ同時にマチコと「あなた」はトライカーを投げる、放つ!
「コネージョ、ソルタンド。」
立方体の形状に収めた「あなた」のトライカーが、UltraSuperGiganticのように「あなた」の耳元イヤホンに通信を行う!
「騎士、ナイン・エルナ。」
バキイィン!
立方体の各部に刻まれたパネルラインが、その装甲板を備えたパーツ群が瞬時に展開し、頭部動体両腕両脚各部スタビライザー兼バーニアを備えた、この世界のロミネンシアとUltraSuperGiganticとしてのロミネンシア両方の特性を合わせた機体へ変形する!
ギャイイイン!
フィールドの中央で両機体はアークソードで切り結ぶ!
「あなた」とマチコはそれぞれが逆時計周りに走り出す!
「開始早々互いに全力だァー!」
うおおあああー!
観客席と司会席すら、共に叫ぶ!
「あなた」はこれまでの公式大会記録を観測していた!
だいたいは、相手の装備やセッティング、基本戦術を見定めるために剣道で言う小手調べ、つまりリスクの少ない行動を繰り返し、そこから勝負に繋げる!
しかし!
「見せてみろよ!お前の全部を!」
マチコの叫びが、イヤホン抜きに、観客と司会の怒号抜きに、「あなた」の心に届く!
ギャリリリィィィィイイ!!!!!
切り結び、脚部アクチュエータが衝撃を受け止め、お互いの機体ギヤが火花を上げる!
ダダダダダ!
土を蹴り上げ、駆ける!
トライカーに最適な指示を出すために、走る!
この大会は一般人がロミネンシアのパイロットになるための選定という側面もある!
演算知能を組み上げる思考、ロミネンシア操縦席以外での陸戦を行う体力、そして─!
A、「我は、白檀の銃把を握り─。」
「あなた」は祝詞を唱える。
圧縮された、命令文。
「あなた」のトライカーは演算知能により、自律的にマチコのリベンジゴージャスと切り結びつつ、指示を受け、独自改造により組み込まれた機械構造を展開し、胴体ユニットを変形させる!
A、─「何を、考えてやがる!」
マチコは「あなた」のトライカー胴体が強度を弱めたと見て、それぞれの腕でアークソードを再展開、ラッシュを開始する!
B、「撃鉄を起こせ、我は─。」
バギィ!
「あなた」のトライカーはマチコの剣戟により右肩部の大型スタビライザーを切り落とされ、
バツゥン!
左腕部を切断される!
「このまま、くたばれえええあああ!!!」
マチコが絶叫する!
それは、「上から目線で」何かを企む「あなた」に対して、大切な人を奪った異星文明人に対して、そして、何も出来なかった自分に対して!
叫ぶ!
C、「我は、運命の主人!」
たぱぱぱん!
「あなた」のトライカー、マチコに切り落とされた各パーツ、トライカーを後退させながらリベンジゴージャスに踏ませていたそれらを爆発させる!
ダンッ!
UltraSuperGiganticのロミネンシアのように、哺乳類のウサギ脚部を模したそれにより、後方へ跳ね飛び!「ミ ア ティスティノ!」胴体自体を筒状に、余剰水素結晶を弾薬に、そして胸部を弾頭弾芯に!
パァン!あるいはズギュウウン!
撃ち出されたそれは、リベンジゴージャスのコア、オンボードSoCを、貫いた。
ズギャン。
新たな弾頭を装填しつつ、トライカーが着地する。
ひゅおおあああ。
浜よりの風が、アリーナの中を駆け抜け、砂埃を立てる。
しいぃん。
会場を包んでいた熱気ごと、トライカーの弾丸が連れて行ってしまったような、静寂。
ぱ、た。
マチコが、両膝を突き、崩れる。
A、B、C、─「う、あ─、」司会席すら、呻く。「決着、決着ゥー!」
うおわあああー!
歓声の中、「あなた」は─。




