トライカー編16 仕込み
かちゃかちゃ、
鶏の肋骨を、砕きながら煮詰める。
ぶぉぉぉ。
換気扇が回り、ある程度の臭気を排出する。
かちゃ、かちゃ。
華々しく見えて、その裏には日が昇る前からの仕込みが必要だ。
たぱぱぱぱ。
卸売りの市場で買った野菜を洗う。
市場で知り合った人たちとも話をした。
戦乱があってもひとびとはお腹が減るし、ご飯を食べる。
戦火の中でもみんなの暮らしを守るために、さまざまな人が、それぞれの戦いをしている。
野菜を育てる、肥料を積み込む、気候を予測して計画を立てる、家畜を育てる、飼料を与える、衛生面の管理をする、それらを運送する。
そんなひとびとの本音を聞くには、ただ外部から質問を投げかけるのではなく、実際に同じ土俵に上がるのが1番だ。
かん、かん。
高温で練り込む。
AADA方面司令官に依頼したのは、この町に溶け込み、実情を知るための立場、店舗開業のため空き店舗を借り受ける社会的信用、地元商工会への手回しだった。
「輝けるニューヒーロー、マチコ!」
壁の棚に置いたタブレットには、マチコのデビュー戦の動画がある。
「あなた」は今日の来客数の予測を立て、仕込みを行い、気の済むまで鶏ガラを煮詰め、そしてマチコの戦法を研究する。
「上から目線だったのかよ!」
そうマチコは正体を明かした「あなた」に言った。
そんな事はない。
同じだ。
息を吸って、吐いて。
お腹が空いて、食事をする。
嬉しければ喜び、気に入らなければ怒り、涙を流して哀しみ、楽しければ笑う。
同じ生き物だ。
「あなた」が第九次元人で、登場人物のマチコが二次元人だとしても、同じだ。
とったっとっ。
天井から右手側を軽く跳ねるような音がする。
愛しい白き花、ガルデニアが目覚めたのだろう。
「むむー、ナイン起こしてくれなかったのですなー?」
開口一番、ほっぺを膨らませた。
A、「おはよう、ルニア。」
エプロンと帽子を着用して手洗いをするガルデニアへ、挨拶をする。
A、─「おはようございます。んっ。今日もナインはかっこいーですなー。」
軽い口付けを交わし、ガルデニアは納入された野菜たちの具合を見て、早めに使う方が良いものから並べ替えてゆく。
「この町のひとたちのお話をこっそり聞いてましたがー、大事なひとを失くされた胸の痛みへの向き合い方は、やっぱり人それぞれですなー。」
音、空気、構成する原子分子粒子の振動を制御する技術に長け、準ダクトロの位階にあるガルデニアは、お客さまとのお話の最中にも、そうやって情報を収集する。
「そーれーで、トライカーの試合でいー感じにはっさんできてますなー。」
アジア─オーストラリア区域防衛機構、AADA他防衛機構はそうやって、地球人の復讐心、暴力性に指向性を与えている。
かちゃ、かちゃ。
ガルデニアの話を聞きながら、鶏ガラを煮詰める。
寸胴に焦げ付かないように、焦げ付いた箇所はおたまでこそぎ落とし、馴染ませる。それもまた、個人のお店だから出来る、味となる。
「わたしはそんな感じで、ナインが何かに打ち込んでるのを見るのが好きですなー。」
丸椅子を持ち出して、調理台に肘をついて手のひらに顎を乗せ、ガルデニアが微笑む。
かちゃかちゃ。
塩と脂と鶏ガラ、コンロから与えられる熱量と、水の流れをコントロールする。
「アタイは!パイロットになって敵討ちをする!」
タブレットには、勝利者の特権としてマイクを握り絶叫するマチコが映る。
カンカン、
おたまで寸胴鍋を擦る。
焦げ付けば、馴染ませる。
過剰になれば、整える。
A、「少しずつ、見えてきた。」




