トライカー編15 春巻
かんかんかん。
半球形に近い鉄製の鍋を、おたまで叩く。
じゅうああああ。
四足歩行の家畜化された、元は牙と丈夫な表皮、剛毛を持った偶蹄類、つまり豚の脂をおたまいっぱいに掬い、鍋に入れる。
獣らしい野性味溢れる香ばしい匂いが立ち込める。
かんかん、すすー。
右腕を、足首膝、腰から肩肘を使い、全身でその鍋を傾け、くゆらせる。
ぱふ、じゅわあああ。
蒸した穀類を冷ましたもの、一般的に白米、銀シャリと呼ばれるものを鍋に入れ、
かん、かかかか、かんっ。
おたまを裏返し刻むように炒める。
ぱらぱらっ。
先の豚の肩肉を塩漬け穀類の汁で煮付け、花椒八角などで整えたもの、の刻んだ─いわゆる角切りのチャーシューを入れ、おおよそふたつまみの塩、粉末のコショウをふりかけ、さらに刻み炒める。
カンカン、カン。
炒まった素材をおたまに掬い、そのまま裏返して皿に盛る。
サッ、
鍋を振り、一粒の米も残さずおたまに乗せて皿の上のものに乗せる。
たぱたぱたぱ。
予め溶いておいた鶏、元は獣脚類だったその卵を、手早くかき混ぜ、
じゅう、わあああ。
お椀を傾け、垂らし、半球形の鍋、その取っ手を持ち、円を描くように垂らす。
じゅわわ、わ。
おたまの裏で、卵を同じように円を描いて広げる。
かぽっ。
先の皿を平手に乗せて、卵を焼いている半球形の鍋に被せ、そのまま鍋をひっくり返す。
しゅうわあああ。
空いた鍋に醤油や先の豚脂、酒を加えて混ぜ合わす。
ととととと。
前日から調理していた、穀類から抽出したデンプンの乾燥粉末を水溶きし、
ちゅわああ。
注ぎ、気持ちかき混ぜ、とろみが付いたのを確認して、先の炒め白米卵乗せの上へ回しかける。
A、「ルニア。」
名前を呼ばれたパートナーは、白い帽子とエプロン姿で「はーい。」お料理の乗った皿と鶏ガラのスープの入った器をそれぞれの手で持って、お客様のテーブルへ。
A、─「お待たせいたしましたなー。」
これで今受けている注文はこなせた。
「はいはーい。」ガルデニアがレジスターへ立ち、お会計をする。次の注文までにお食事を終えられたお客様の食器を片付けて、テーブルを拭き、洗い物をする。
「なー。」
カウンターのお客様が声をおかけに、
「何であんだけトバしてたお前らが町の中華料理屋やってんだよ!」
「ありがとうございましたー。」
マチコの叫びに合わせて、ガルデニアがお客様をお見送りする。
A、「何って言われましても。」
B、「勤労は義務ですから。」
C、「健全な社会生活のために。」
マチコの指先が示す「からあげ」の札の通り、5つからあげをお皿に乗せて、輪切りレモンを添えて提供する。
A、B、C、「ちげェよー!ぱくっ。トライカーで勝ってロミネンシアのパイロットになってってのを目標にしてた別文明の騎士が、もぐっ。何でふつーに、あ、うめ、うめ。」
「もーともとナインはただの地球人だったのですなー。」
サクサクとした食感のからあげに病みつきになったマチコの隣にガルデニアが座り、帽子を取る。
「お昼のピークも終わりましたー。まーかないがたーべたいでーすなー!」
頷いて、ガルデニアのための料理を作り始める。
ぽわわわん。──思い出の中──
同じように、AADAの方面司令官に調理工程をご観覧の上、召し上がっていただいた。
同じ血の通ったひと型知的生命体であるのならば、出会いは不幸でも、その過程を容認は出来なくとも、相手も生きていると理解は出来るはずだ。
それを、食事というかたちで示した。
これは、作者おおとろべふこが自身の転写模倣体として生み出した蓮坂舞─女神ロータスにより開かれた文明、太陽系第三惑星人の持つ宗教、信仰でもある。
「あなた」は、同じ生き物なら、食事だけは相手に「そのまま」届くと理解して、AADA方面司令官へ、食事という形で伝えた。
歩んだ歴史、思想、経験は違えども。
──思い出終了──ぽわわわわん。
「だーから何で命のやり取りするよーなヤツがぽわわわんなんてかわいい擬音使うんだよ!回想とかにしろよ!はむっ。」
喚くマチコへ、ガルデニアが卵で巻いた春巻を突っ込む。
「それはほーれ、かわいーからですなー。あむあむ。」
丸く薄く広げた餅へ酢醤油を付けて、ガルデニアが食む。
「が、ガルデニアがやらせてんのかよ…さすが子持ち人妻。ぱく。」
マチコは呆れつつ次の卵春巻を口に入れた。




