トライカー編11 決意
シィィィァァァ。
駆動部のギヤが火花を散らす。
水素結晶で組み上げられたマシンがリングを駆ける。
本来必要のないそれは、かつて地球人類の築いた機械工学と加工技術を再現したものとして、
わああー!
いいぞー!
観客の心に、暴力性と嗜虐心、そして闘争心を植え付ける。
ごあああー!
その叫びは、群衆というひとつの生き物が上げる、咆哮。
「やっぱり何度聞いても面白いものでは、無いですな…。」
隣のガルデニアが眉を顰める。
獣のような目付きの観客が上げる喝采の中心で、「あなた」は利き腕を上げた。
A、「この惑星文明は、現在一時停戦中なんだ。いつ異星文明との戦闘が再開してもおかしくないから。」
「あなた」は答えて、カメラに表情が映らないように、ガルデニアを抱き寄せる。
わああー!
儚げなヒロインを抱き寄せた、そう解釈した観客が更に大きなうねりを上げる。
「みんな、みんな殺したいって、言ってる。」
音、空気振動から感情すら読み取れるガルデニアが、震える。
皆、家族や知人を殺された。
故郷を焼かれた。
鹵獲した異星文明兵器を研究、模倣して製造された人型二脚兵器ロミネンシア。
その自律稼働システムのプログラミングと実戦の大会。その司会者が「あなた」達に近寄る。
A、─「国内をよっつのエリアに分けたこの地区大会その予選、颯爽と登場して連勝を続ける「あなた」、来歴不明、ただ騎士と名乗るナイン・エルナ!当然次の目標は─!?」
マイクを持った司会者が、観客の期待を膨らませるように声を上げる。
アリーナをざっと見渡す。
2.300千人くらいだろうか。
複数台の中継のカメラ、観客の掲げるスマートフォンも含めれば、80.000千人ほどまで数を減らした国内のこのエリア、人口30.000千ほどの、赤子や傷病者を除いたほぼ全員が、見ているのだろう。
マイクを手に取る。
A、「出来ることを、全力でやるだけだ。」
トライカーの思考演算プログラミングは、直接の戦闘経験を反映させる形で行った。
子ども向けの玩具ではあるものの、優勝者または優秀な者は戦乱の後に組織されたアジア─オーストラリア区域防衛機構「AADA」で兵器システム構築に参加出来る。
つまり、異星文明人を殺せる。
うおおああー!
観客が、怒号のような歓声を上げる。
「ナイン…。」
腕の中、「あなた」を見上げるガルデニアに、
A、「この地球に送られた本当の理由が、見えて来た。」
「あなた」の形代として死に続けるナツコの1人を、確定した死から助けるため、だけでは無い。
本当に異星文明と地球人類の争乱を終結させるだけなら、それこそ対惑星文明兵器のガルデニア、リピニィエーラを運用して異星文明を焼き滅ぼせばいい。
この地球文明、人類の攻撃性が抑えきれないのなら、目の前のひとたちを、食い殺させればいい。
ガルデニアには、それが出来る。この地球人類と、異星文明の技術力のレベルなら、既に太陽系第三惑星人は通った後だ。
壊すのは、殺すのは簡単だ。
なんなら、「あなた」のランサーでこの惑星自体を光に、プラズマ化させたっていい。
違う。
最も困難で、過酷な道は、
A、「異星文明人と、この地球人類に、握手をさせることだ。」
そのためには、「大会で勝って、ロミネンシアのパイロットになる。」目の前では司会者がマイクを握って絶叫し、観客が唸る。「あなた」の声は、ガルデニアにだけ、届いている。
A、─「わたしも、出来ること、」
会場に入る前から憂いた表情だったガルデニアが、微笑んだ。
「がんばるよ。」




