刹那トラッカー発動編⑨トライカー、ゴー!
ちりんちりん。
ドアに着けられた小さな鈴が鳴り、「あなた」とガルデニアは喫茶店の中へ入る。
当然命球の都市ラプリマにも同様の喫茶店はある、店内を見渡して席配置や窓の位置などを確認していると「いらっしゃい。」とやや無愛想にも思える声をかけられた。好きな席にどうぞ、と案内されたので、
「窓があるほーがいーですなー。」
とのガルデニアの意見に頷いて、窓際の席に座る。
それまできゃあきゃあ、とおしゃべりをしていた若い女性たちは、ハンチング帽を取り膝に置いたガルデニアを見て、再びおしゃべりに戻る。
「こちらメニューとなっております、ご注文がお決まりになられましたらこのベルを鳴らしてください。」
先程の男性店員とは別の女性店員がコップの水とメニューボードを持って来た。
「ふーむふむ、命球でも公用語は日本語でしたので、メニューは読めますなー。」
元々孤児同士が寄り添う中で育ったガルデニアは、「あなた」と学園で過ごし始めてから、読み書きを学んだ。筆記具を握り、殴り書きをするガルデニアへ、「あなた」が知る持ち方と、書き方を教えた。
だから、ガルデニアが文字を読んで理解するというのは、「あなた」との思い出の時間そのものでもある。
「あなた」たちが店員さんを呼んでメニューを注文した辺りで、先程までおしゃべりしていたグループの会話内容が変わったのが、「あなた」にも聞き取れた。あの子髪の毛青色だ。コスプレかな?でもスタイルいいし外人かも。一緒の男の子カッコいいよね.彼氏かな。そっちは日本人ぽいよね。けどブーツありえなくない?ちょっと時代遅れよね。ださーい。
目の前のガルデニアは、まばたきの回数が増えた。不自然な微笑みもしている。幼い頃から、姉たちが大人からの略取と言う形で生命を繋ぐ食料を得ていたのを、幼いガルデニアはその行為を目の前で見て育った。また、ガルデニアは学園に入ってからは、音、つまり空気振動の制御技術を学び、都市管理権限を与えられるほど熟達した。つまり、女性たちの会話は全て、聞き取れて内容の理解が、出来てしまう。
その身を持って育ててくれた姉たちの、選んでくれた服装を貶されている。 女性たちは、ガルデニアが外人に見え(文字通りだが)、日本語を理解出来ないと予測を立て、失礼な事をまくし立てる。
「あなた」は会話を続ける女たちへ警告するため口を開く。「聞こえてい─。」
「うるせェ!」
意外な事に、その言葉は店内奥のテーブルから発せられた。
「トライカー調整の邪魔だ!」
その声は、中学生ほどの少年の声に聞こえた。まだ声変わりもしていないように聞こえる。
女性グループは、静かになったように見えた。
しかし、
ダンッ。
女性グループの中央の人物が、テーブルを叩く。
「なんだガキぃ!ここらのトライカー仕切ってるアタイに楯突こうってのか!」
双方立ち上がり、歩み寄る。
「前からテメーらを、ブッ飛ばそうって思ってたんだ!」
少年は、手に持った何らかの機械を構える!
「へぇ、少しは出来るみたいだねェ!」
女性の方も、マシンを構える!
「アネキが出るまでもねェ!ウチが走らせてもらいやすゥ!」
更に別の女性が立ち上がりマシンを構え!
先の女性は下がる!
「勝負は一度!」
「負ければ破壊!」
「トライカー!」
「ゴー!」
少年と女性は、交互に叫ぶ!
ジャリイイイイ!!!
手から放たれたマシンは店内床を駆け巡る!
それぞれの内部ギヤが!
火花を散らす!
思わず「あなた」とガルデニアも立ち上がり、ガルデニアの手が「あなた」の手を掴む!
キュイアアアアアア!!!
チュイイイイイイイ!!!
お互いのマシンが唸りを上げる!
「いっけぇぇぇ!!!」
そして、加速が最高潮に達する!
「やっちまええ!!!」
少年と女性の叫び声に呼応するかのように、マシーン同士が!
バキイイイィィィ!!!
正面から衝突し!
火花と共に弾けた!
「あなた」はガルデニアを庇うように立つ、がその必要は無かった!
破片、もとい衝突の衝撃で飛び散った部品は、燃え尽きた!
しゅううう。
がくっ。
女性が、膝をつく。
「あ、ああ、ウチの、レールゴージャス。」
ただひとつ残った、薄い板を手に取り、彼女が撫でると、
「アリガトウマスター、タノシ、カッタ。」
薄い板は機械音声を発し、
しゅう、うう。
煙を上げて、沈黙した。
ガルデニアの手が、「あなた」の手を強く、握りしめる。
一体何を見たのかはわからない。
だが、何が起こったのかはわかる。
戦いが起き、負けた者が死んだ。
「何だ、お前らトライカー見た事が無かったのか。」
リーダー格の女は、咽び泣く女性の肩を抱いて、「あなた」とガルデニアに声をかけた。
チリンチリン。
少年は、店を出た。
「これが、ウチらの戦いさ。」
刹那トラッカー発動編⑨トライカー、ゴー!




