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花と咲け、君よ舞え

「おデコ貸しなさい。」


A、「今は、奴を殺す方法を見つけるのが先!」

A、─「いいから貸しなさいタコ!私あんまりこれ得意じゃないのよね。」


こつん。

現勇者トモに首元を握られて、彼女の額が勢いよく「あなた」のおデコにぶつかる。


A、「殺される!」

A、─「殺す訳無いでしょこのイカ!…ああそっか、邯鄲…。」


きぃ、ん。どこか、現実の世界で聞いたことのあるような、航空機の飛び上がるような音が「あなた」の頭の中に響き、思わず「あなた」は強く瞳を閉じた。


「もう一本!!」


サッ!利き手の左から袈裟に振り下ろした木刀が、踏み込みによる加速と共に。


「甘えわ!」


カァン!

多層的に、瞬時に広がった装甲に木刀が弾かれ、


「おらよ!」


その展開する装甲を纏った腕が、木刀を持つ男性を殴り飛ばす。


ごしゃ、ずざざざ!

派手に回転し、赤茶けた地面との摩擦が起きて、やっと横転を止めた剣士が上体を起こし


「3発は耐えろよ若造!」


がんっ!

装甲を納めた男が飛びかかり、殴り、蹴る。


「のうのう、トモよ。」


「あなた」の目線より下から、わざとらしい喋り方の少女に声をかけられる。

つまりこの記憶は、現勇者トモの経験を、邯鄲を通じて見させられている。

そしてこの声の主、銀髪の少女は。


「アミタが面白いと言うから見に来たが、単にシゴキでは無いか。ワガハイは忙しいのじゃぞ。」


「あなた」の持つ「ダリア」の記憶にあるのは、騎士として、一般人としてすら上手に生きられなかった、万年再教育とまで揶揄されるアイクルミエェタ。そのヒトの、邯鄲によりウサギになる前の姿だった。


A、「まあ見てなさいよ。ひたすら私がタコにした結果が出るのよ。」

A、─「そうは言うが、邯鄲の中とは言え、あと何年分やるのじゃこれ。」


「あなた」の意識を持つ現勇者の口が、「あなた」の意識しない言葉を言う。まるで、夢を見ているように。これは、現代風に表現するなら、高性能なヘッドマウント、またはボディカメラでの映像を見ているようだ、と「あなた」は感じるかも知れない。


すっ。

目の前では、思う存分殴られ、蹴り飛ばされた、顔面から鼻血を噴き出すアイクルミエェタが、ゆっくりと立ち上がる。


「まだ殴られ足りねえようだな!」


バシィ!

殴りかかる腕をその加速のまま、手首を掴み、上体を捻りながら、空いた手で肘関節を押し上げるように、投げ飛ばす!


だしっ!

「ごああ!」

がすん!


中空で膝を曲げ、足指で地面を掴んだ男は、即座に屈曲し向きを変え、跳ね飛んで掴みかかる!


ぱしっ!


その腕と胸ぐらを掴み、


く、ん。


腰を落として、


だんっ!


投げ飛ばす!


「ぐっ!」


流石に受け身が取れず、背中から落ちた男は、上体を起こし、


「面白ぇ、さっきまでは打たせてやってたって訳か。ブッー!」


唇に親指を当て、口の中に溢れた血を飛ばす。


「読めた。」


アイクルミエェタが、ゆっくりと両腕を垂らし、脱力する。


「ぜネロジオとポデアを、好きに使ってもいいですよ。」


両脚の指先、腹の部位だけでたん、たんとステップを踏み、そう告げる。


「そんなら腕の一本じゃ、」


さん、さささささん!

男の両腕と腰に、多層的に装甲が展開する。


「済まさねぇぞ!」


その怒号を受けたアイクルミエェタは。


「はあああああ!」


ゆっくりと、腹部の丹田から正中線上の下丹田、中丹田、上丹田へと力を流し、循環させてゆく、それは当時の現勇者の目を通して、「あなた」の目にも、青い炎が彼の魂を燃料に燃え盛る姿として映った。


「ふんっ!」


さささ、さささささささささ!!!


女神の邯鄲の中で、数十年組み上げた男のぜネロジオとポデアを、アイクルミエェタは再現した。


「ほう、確かに面白いの。」


目の前で女神が嗤う。

「あなた」に勇者の記憶が、知識として流れ込む。

女神の邯鄲で圧縮された時間の中で鍛錬した、地球時間で数十年の肉体記憶を保持保管、継承するぜネロジオその原型。それを光崩壊由来の熱量(女神ポイント、mp)を使用して瞬時に再生、再現する熱量昇華の技術の総称ポデア。

クルルガンナ解放戦の初期、妻とその胎の子を殺され、看取ることしか出来なかった万年再教育騎士のアイクルミエェタは、その淡々とした観察に、相手騎士の技を受け続け、女神の邯鄲の中で肉を裂かれ、骨を砕かれ、臓物を撒き散らしての死亡を繰り返し、文字通り己の身体を被験体として、相手の持つ全ての生存、戦闘技術の解析と分析を行い、模倣する。


「てめえ!」


男は、背中、首裏、腰の多層構造の鎧から高圧ガスを噴射し、加速をつけて殴りかかる。彼または彼の祖先の、血肉が積み上げたぜネロジオを、目の前の優男に奪われた。


「邯鄲なんて要らねえ!母と父の、祖先の誇りをかけて、お前を殺す!─ャ!」


しゃきい!

突き出した腕の、多層構造の延長骨格から骨爪を飛び出させ、両腕で切り裂きにかかる!


「良かろ、好きに殺せ。」

A、「マイ!?」

A、─「あなた」は、現勇者トモは声を出して問う。

元来、この2人は殺し合う必要なんてなかった。了承を得たばかの男も、承諾はしてくれたはず。そして気付く。「あなた」の、トモの見つめる女神の向こうには、膨大な熱量によりガラス化したラプリマの街並みが見えた。「あなた」はそこから考える。今この殺し合いが行われている場所は─


じゃいいい!


「─ガョイエヲン!」


バチィィィ!!!

五指の骨、その延長に当たる外骨格指骨五本それぞれがランサーとして完全励起し、周囲の光を奪い、赤紫に塗り替える!

バヂィ!バヂバヂバヂ!!!!!!

同じように、アイクルミエェタも腕からの指骨をランサーへ光化させ、真正面から切り結ぶ。

ジャイン!ジャキイイイイ!!!

対象に接触する瞬間だけは無限の熱量を発生させるランサー同士が真正面からぶつかり合う!

─ここは、ラプリマのあった場所だ。「あなた」のそう判断したこの場所そのものが、幽霊。「あなた」が選抜騎士寮で出会ったナナカマドのように。

ギャリリリリリ、がギィ!!!

殴る、引き裂く、その原始的な、生き物としての本能が唸りを上げるランサーの鍔迫り合いが起こるたび、光を奪われた周りの空間に光が当たり、そこで生活していたひとびとの姿が、笑顔が、泣き顔が「あなた」の目に入る!

ギィィイイイ!ギャリン!

アイクルミエェタの持つ、数多の騎士の技を模倣した技術ならば、目の前の激昂した男を昏倒させることも、無傷で制圧することも出来たはずだ。現に今アイクルミエェタは、この男の攻撃を全て、同じだけの熱量で相殺している。


ヂィィ。

腕を振る。


「ぐあ、あああ。」


その繰り返しの中で、その声は「あなた」の耳にも、目にも、聴こえて、見えた。


ぶぉぉ、ん。

アイクルミエェタではなく、何者かに縋るように腕を突き出す。


「母、さん。」


激昂していたはずの男が。


ぎりいい、ぐ、ん。

ランサーの励起が止まる。


「父さん。」


泣いている。


ぐ、だ、す。

両腕が、血に染まった、幽霊の地面に落ちる。


「守れなくて、この力で。」


かしゃ、かしゃあ。

鎧腕の男の、幾重にも重なった装甲が、解除されてゆく。


「もっと話が、したかった。」


力を失くした男が、崩れる。


「子どもを授かれば、名前を付けてもらいたかった!」


その男の肩に手を置いて、アイクルミエェタが。


「君の力は、ぼくが引き継ぐ。生きろ。」


「あなた」が瞬きをすると、アイクルミエェタの手は「あなた」の肩に置かれ、その言葉は「あなた」の瞳を見つめて発せられていた。

「あなた」は、まばたきをする。


「ナイン。「あなた」には、戦う理由がある。命球に来てからの事しか知らないけど、君は、君には、もう守るだけじゃなくて、恋、愛を育む、命を繋いでいくための、パートナーがいる。強さを求めるだけじゃなくて、その大事なひと達の手を握って、おはようからおやすみのあいさつをしなさい。戦士である前に、君はもう、彼女たちの拠り所でもあるのだから。」


アイクルミエェタの顔は、まばたきと共に現勇者トモのものになる。

ばしゅううう。

黒い影が光に呑まれる。

辺りの風景が、ヴリトラを勇者が光に変えた直後の景色に戻る。

邯鄲の、時間操作?女神はクルルガンナ解放戦で時を無数に巻き戻した。しかし、その情報を持ったままの女神の存在が未来を、近似した現在に導いた─。


そう考えるより先に─


A、「あなた」は辺りを見回す。

A、─ガルデニアとカランコエ、ナナカマドの立つウサギ、タニガワが徐々に速度を落とす。 


B、「みんな!」カタギリを跳ねさせ、タニガワの近くへ。

C、「みんな、無事で良かった!」


B、C、─「ふっふーん!わたしが歌えばだーいじょーぶ!」瞳を閉じ、腰に手を当て、ガルデニアが得意げに鼻を鳴らす。「けっこう走りましたからね!今日のナインとお風呂とナインのマッサージとナインとお布団は私が予約しますよ!」カランコエがカタギリに飛び乗って、ガルデニアが普段するように、「あなた」の胸元に顔を埋める。「確かに私は今回びっくり係だった気がします。」ナナカマドは残念そうに、それでも笑顔で「あなた」に微笑む。


つんつん、肩をつつかれる。

A、振り向く。

A、─肩にアロエが乗せられる。

「君は、「あなた」はマイや私と同じように地球から来たって聞いてる。」険しい顔ばかりだったトモが、柔らかい微笑みを浮かべる。「まさか、未来の情報を持ちながら全く別の結果を選び取るなんてね。私達より特別なんじゃない?まあいいわ、この子返すから。あと、お手入れしたげなさいよ。スマートフォンなんだから、それじゃ。」


現勇者トモは、夕暮れの風と共に消えた。


「いきなり勇者がナインの近くに来て、取られちゃうかとおもいましたー。」


ふわ、とカタギリのシリンへ飛び乗ってきたガルデニアが、「あなた」に抱き着く。


「ナインは、これ以上他の女性に手を出すことは無いって信じていましたから。」


言葉の割にカランコエが、恨めしそうに「あなた」を見つめる。


「いざとなれば、私のぜネロジオを使いますので…。」


ヴリトラ攻囲戦の時よりも、ナナカマドの瞳に炎が燃えている気がする。


「そーれでー、ナインは何を言われたんですかー?」


A、「ルニアには聞こえてたんじゃない?」

A、─「それはそーですけどー、ナインのお口から聞きたいでーすなー。」


「あなた」の胸に抱き着いて、ガルデニアは頬を擦り付ける。


A、「ルニアは本当に甘えんぼさんだね。」抱きしめて頭を撫でる。

A、─「私もお願いしたいです。」「は!?エンゲージの順番だと私ですよねナイン!」


「あなた」の背中に抱き着いたナナカマドと、それを剥がそうとするカランコエ。


「あのー、回収作業がありますので、ラプリマなりにお戻りいただければー。」


衛星都市の騎士が「あなた」達に、申し訳なさそうに声をかける。


A、「そうでしたね!帰ろう、みんな。」

A、─「はーい、おふろ一緒にはいりましょー。」「私も一緒に。」「は!?私が予約してたんですけど!?」先ほどまで、ガルデニアのアンカラで覆っていた衛星都市の騎士隊に声をかけられた「あなた」は、帰投の指示を出す。


「ぴろりろりーん!」


「あなた」の肩に乗せていた元スマートフォン、アロエが急に声を上げる。


「お知らせです!現勇者から連絡が来ました!「女神直属騎士隊フラマ セラタ、衛星都市ピニ イラにて7日の休息を取れ。これは勇者命令である。」だそうです。」

「わぁ、アロエちゃんどーしたのー。」

「トモさんとナインは、かんたんにご説明すると同じ都市の生まれなので、ナインの所有物である私と個人的な連絡ができるんです。」

「はあ!?私だってナインのものなんですけど!?」

「あの、私もナインさんとエンゲージをしていますので。」

「それはわたしもだーねー。む!」


笑顔のガルデニアの眉が、少し険しくなる。


「じゃあ、アロエちゃんもナインとエンゲージしてるのー?」

「少々違いますが、私は確かにナインのもので、指先で撫でられるのが好きですよ。」

「はあ!?こんな小さい子と!?嘘ですよねナイン!」

「肩に乗るくらいの、手のひらほどの女の子と…。」


A、「誤解だ!この子は買ったんだ!」だってスマートフォンだから。

A、─「え…ナインはアロエちゃんさらいだったのー。」口元に手を当ててガルデニアは後ずさりを。「ナインにはそういう趣味があったんですね。」カランコエは冷ややかな目で「あなた」を見つめる。「いえ、主人のそういう趣味に口は出さないのが妻のつとめ…。」なぜか俯いて、頬を赤らめるナナカマド。


B、「みんな勘違いしてる!女神にもらったんだ!」

B、─「買ったのにもらったのー、んんー、よくわかりませんー。」ガルデニアは軽く握った両手でおでこの横辺りをこする。「ナインさんは、女神に女の子をもらったんですか…。」カランコエの軽蔑するような視線が「あなた」に突き刺さる。「素直に受け入れて、そういうヒトでも愛します…。」顔を上げたナナカマドは、「あなた」を優しく見つめる。


C、「言い方が良くなかった!この子は板だったんだ!女神に命をもらったんだ!」

C、─「あー、やっとわかりましたー。」ガルデニアの指がアロエをつつく。「ナインさんに変な趣味が無くて良かったです。」カランコエは軽くため息をついて、手荷物の点検を始める。「主人の身の潔白を信じていて良かったです…。」しれっと前言撤回したナナカマドが、瞳に涙を浮かべて「あなた」に微笑む。


「むーむー、でもナインはアロエちゃんに名前を付けてたんだよねー?」

「はい、ナインは私を撫でてくれたり、話しかけてくれました。」

「板に名前を付けて話しかけて…ナインさんはお友達いなかったんですか?」

「きっと、孤独だったんでしょう。これからは私がおそばにいますので。」


A、「ふふ…。」「あなた」はこれ以上誤解を招く行動は控えようと、曖昧に笑う。

A、─たす、たすと跳ねるカタギリは、「あなた」達を乗せてピニ イラのルリロー圏内へ入る。


樹表文明クルルガンナ。太陽系第三惑星人は、滅ぼすことでしか止められなかった彼らクルルガンナ星人ほしひとの名前を、支配区域の総称とした。女神は、天の川銀河の中心天体、いて座Aスターの一部を、それが取り込んだ無数の惑星の記録から、太陽系第三惑星地球の環境を構成し、命球と名付けた。これが「あなた」が知っていた「ダリア」の世界の基本的な構造。あえて人類の発生する以前の大気濃度で再現されたそこは、ルリローまたはアンカラで保護されなければ、即座に肉体は急速に酸化して朽ちる。これもまた、断片的に「ダリア」の本文中で暗示されていた。「あなた」はナイン・エルナとしてこの世界で学ぶ中、この事実を体系的に学んだ。野に放たれた火のように、地球では人類がその勢力図を広げ、文明同士が殺し合い、搾取、掠取を行ってきた。女神はクルルガンナ以外の他惑星文明と接触の起きた場合の不幸な事故を防ぐため、複数の騎士とウサギ、アンカラ一名以上から構成される騎士隊に戦闘技術だけでなく、外交特使としての教育も行い、都市の、ルリロー、揺籠の外へ出ることを許可した。


「ナインさんも軽く寝た方がいいですよ。」


タニガワのシリンの上、ナナカマドがカランコエを膝に寝かせてうとうととしている。

女神直属騎士隊ダンサンカ ブーケがエルベラノの攻略戦において、ドゥモナ・ディエナ以下イングラの駆除に、他騎士隊も掃討を行う間、ガブリエルハウンドやフラマ セラタのような女神直属騎士隊は、ナァフルァーカ、ナラシンハ、ヴリトラなどに代表されるクルルガンナ星人ほしひとの遺した、対惑星文明兵器の中でも特に大型のものが太陽系第三惑星人支配区域へ侵攻するのを防ぐ、防衛戦を行っていた。

ナイン達のフラマ セラタも衛星都市ピニ イラを防衛線として、ヴリトラの攻囲戦を行った。騎士隊は女神の邯鄲の影響化であれば、一定数の龍、大型生物の総称、を駆逐して安全を確保、村、街、都市を興し、今回のように女神直属騎士隊や、経済、医療面での支援も受けられる。


「んん、すう。」


腕の中で寝息を立てるガルデニアを撫でる。

「あなた」の持つ「ダリア」の知識と、綜合学園で学んだ知識を合わせれば。足元の砂粒ひとつひとつよりも無数の騎士隊が、その庇護、女神に管理されず暮らすため、領域の外へ出た。

しかし、どれだけ高い理想を持っていても、正しい知識と管理者が不在の環境では、夢はいつか歪み、崩れる。このガルデニアも、そんな、名も無い街のひとつで生まれた。騎士による防衛や医療はおろか、日々を生きるための食べ物すら、この子の姉達のように、自らを売り物とする事でしか、手に入れられなかった。


「おねえ、ちゃ。」


第十三次元人に、物語ごと赤いインクに漬けられて、太陽に焼かれてしまったこの子の姉たちの分も、ガルデニアを強く抱きしめる。

ひゅうう、う。

風が吹く。


A、「君よ咲け─♪」いつか、自然と口から出た歌を口ずさむ。


B、「君よ舞え─♪」これはきっと、「あなた」の口を借りて。


C、「白き花、ガルデニアー♪」3人の姉たちが、歌っているのだろう。


A、B、C、─「あなた」はルリローやアンカラと呼ばれる専門的な歌の技術は習得していない。けれどその歌に込められた祈りは確かに、ガルデニアを包む紫の、黒と赤の、白の願いの花束となった。


「んん、むにゅ。」


ガルデニアが「あなた」の腕の中で身じろぎをする。「あなた」が前の世界でこの子を預けられて、この子と世界を守るために、戦うことばかりを考えてきた。「ナイン、それは必要だと思う。けど、「あなた」は、君はもっと、この子たちとささやさな毎日を過ごして、触れ合ってあげて。」現勇者トモの言葉を思い出す。「もっと、話をしたかった。」アイクルミエェタと殴り合った、あの男の言葉を思い出す。

いつか、この旅は第十三次元人との決着があるのだろう。

けど、その時までは─。


「ん、ナイン。」


ガルデニアが「あなた」の腕の中で目を覚ます。


「えへへ、おはよ。」


絵本の中のお日さまのような笑顔で、ガルデニアが「あなた」に微笑む。


「だいすきだよー。」


両目を閉じて、軽くあごを上げて、ごはんをねだる雛鳥のように、


A、キスをする。

A、「ん、ん。えへへ。」微笑むガルデニアを抱きしめる。ふわふわとしたほっぺに触れる。「わたしも触っちゃいますー。」白く滑らかな指先が、「あなた」の頬や耳を撫でる。


B、もう一度口付けをする。

B、「2人の世界に入ってるところ悪いんですけどー。」「もうピニ イラの検問検疫所に着きましたので、カタギリから降りてくださいね。」カランコエとナナカマドに呼びかけられた。


C、今度こそ口付けをする!

C、─「ん、んん、んー。」ぷにぷにとした、薄い桜色のくちびるを堪能していた「あなた」は、シリンに飛び乗ってきたカランコエに、ガルデニアごと持ち上げられ、降ろされた。

きゆうう、ん。

カタギリとタニガワを貸しハンガーに預ける。


A、「しばしのお別れだね。」

A、─「こっちは適当にやっとくさ。」アロエの身体を借りたカタギリがウサギに戻り、アロエが軽く背伸びをする。



「確かに女神直属騎士隊フラマ セラタと確認、照合が終わりました。」

「それでは生化学検査を行います。簡単なバイタルチェックと、唾液も頂きます。」


ウサギのコード、4人それぞれの部隊証、所持品を確認した出入都市管理官は「あなた」たちから離れ、検疫官が上着を脱いで胸元のシャツボタンを外した「あなた」達の腋に水銀の体温計を挟み、上腕に布の帯を巻き、聴診器を差し入れ、手元のぽんぷを数回握り、しゅこ、しゅこと空気を送る。膨らんだ布の帯は腕とその中の血管を圧迫し、しゅううと空気が抜け、血圧測定が終わる。

手首の、親指の付け根を軽く抑えて脈を測る。


「体温血圧脈拍も正常値、肺の音も綺麗ですね。」


技師達が下がって、しばらくの待機時間。


「そういえば、ナナカマドさんは幽霊ですよね。どう測定されたんでくか?」

「皆さんと触れ合う時のように、接触部だけ生きていた頃の身体を再現しています。」

「きりかえができるの?べんりでーすねー。」


かたかた、と食器の音。

いい匂いをさせて、職員の方がやってきた。


「検査お疲れ様でした。結果が出るまでもうしばらくお時間かかりますので、こちらのお紅茶とクッキーをお召し上がりください。」

「わー、ありがとうございますー。」

「イチゴのいい香りですね。」

「ナインさんも一緒にどうぞ。」

「できました!」


この検疫所に来てから「あなた」の肩の上でアロエは一生懸命に何かを書いていた。


「ナインとみなさん、私のデートプランです!」

「わーいっぱいかいてあるー。」

「ピニ イラ☺️規制されましたサミ ラ セク☺️の公開資料からまとめたんです!」

「楽しみですねナインさん─あら?」


ナナカマドが「あなた」に声をかける。


A、「ううん、何でもないよ。」

A、─「ナインもお疲れだと思います。ぜひ癒されてくださいね!」アロエが元気よく、「あなた」の肩に登る。


今何か、ノイズのようなものが「あなた」に聞こえた。

目の前ではカランコエの手に乗ったアロエがデートスポットの説明をして、ガルデニア達がきゃあきゃあと声を上げて、どこから回ろうかとおしゃべりをしている。

「あなた」は、少し遠くを見るようにゆっくり3人を見つめて、検疫所の窓の向こうを見る。先の接触で感じたような、第十三次元人の気配などは感じられない。

アロエの言うように、疲れているのだろうか。


「検査の結果が出ました。みなさんピニ イラにお入りいただけます。」


検疫官が「あなた」たちにそう伝える。


A、「ありがとうございます。」

A、─「はい、それと滞在されるのでしたら、ご案内のガイドなどをお付けしましょうか?」

そう言われた「あなた」は、

B、「いえ、我が隊には優秀なデートプランナーがいます。」

B、─「わかりました。それでは良い旅を。」検疫官が一礼をして出て行く。


「えへへ、アロエちゃん褒められちゃったねー。」

「こうしてお褒めいただくのは初めてなので、ほっぺたが熱くなりますね。」


さくさくとしたクッキーを口に入れて、「あなた」は


A、「アロエ、お腹空いた。いいお店ある?」

B、「アロエ、おすすめのデートスポットは?」


A、B、「アロエ─」、と「あなた」が口を開いた時、検疫所の近く、ずずず、ご。と重量物を引きずるような音が聞こえ始める。軽く左拳を握った「あなた」は肩の高さまで左肘を上げ、人差し指と中指を揃えて立てる。口に出さない「臨戦指示」。その場の全員、つまりガルデニアとカランコエ、ナナカマドとアロエが即応態勢に移る。


A、「…。」声を発さず、気配を殺し「あなた」は出口のドアに手をかける。

A、─かちゃり。「あなた」がドアノブを回す前に先ほどの検疫官が、何人かのヒト、腰にランサーホルスターがある。都市の騎士だろう、が入ってくる。


B、「この音は?」

B、─「ああ、お気になさらないでください。」「お前達、見ない顔だな。ふん、ラプリマの騎士隊か。」腕章を一瞥した騎士は、興味を無くしたように椅子へかける。


釈然としない「あなた」たち、突然この検疫所を囲うように、いや、この衛星都市ピニ イラ全体を覆うように歌が聞こえてくる。ルリローのような気もする、けど。


「これ、ルリローやアンカラじゃないー。」


隊のアンカラを務めるガルデニアがそう言う。ラプリマのダクトロ、アウタナ・セリフラウ直々に資格を与えられたガルデニアが感じるのだから、やはり異質なものなのだろう。


A、「新機軸の歌唱体系はダクトロや女神の審査と認可が必要では?」「あなた」は教本通りの質問を投げかける。この逸脱は、処断される可能性がある。

A、─「おたくらにゃおたくらの事情があるように、こっちにゃこっちの事情ってモンがある。」「あなた」の肩にふしくれだった手が置かれ、年季の入った声がかけられる。


「よぉ、ここの都市長、騎士ウバタニだ。」


彼ウバタニは、とん、とゆっくり胸を叩き軍礼を行う。


A、「どうも、フラマ セラタの隊長、ナインです。」ばっ、「あなた」は軍礼を返す。「あなた」の後ろでガルデニアたちも軍礼を行う。

A、─「ははは、若いな。」この男は、臨戦として神経を尖らせていたはずの「あなた」に気取られることなく、部屋に入り、肩に手を置いた。これほどの騎士が、都市長としてピニイラの運営だけを行なっている。


「おたくらがヴリトラの相手をしていたのは、防衛線の内からでもしっかり見えてたぜ、ありがとよ。」


B、「都市の皆様の安全を第一に行動するのは、騎士の責務です。」

B、─「ああ、いいっていいって。それより腹減ってんだろ?おごるぜ。」あの激戦で「あなた」たち全員の動きが捕捉されていた。そして何より、都市民の安全に「あなた」たちが気を配る必要は無いと。つまり、それだけの実力、戦力をこの都市は保有している。


C、「いえ、お手間をおかけするわけには。」この誘いを受けるのは簡単だが、家族の時間が任務の一環となってしまう。何より、アロエの想いを無駄にしたくない。

C、─「若い騎士にゃ柔軟さが足りねぇ、ホストがいいって言ってんだから甘えとけ。」どうしても、うまく丸め込まれてしまう。


A、B、C、─つまり、ヒトを率いる長として、戦場把握を行う騎士隊長、単純に戦闘を行う騎士としての能力、経験、更に交渉において、この男ウバタニは「あなた」より格上となる。


A、「わかりました。ナイン・エルナ以下フラマ セラタ一同、精いっぱいお世話になります!」びしっ、改めて軍礼をする。こうなったらやけくそだ。徹底的に遊ばせてもらおう。

A、─「おう、いい返事するじゃねぇか。お前さんが庇うように立ってるそこの3人も遠慮しねえでいいぞ。」そこまで見透かされていたとは。


A、「そう言うことだから、みんな。」「あなた」は握っていた手を緩め、手のひらを後ろの4人に見せる。

A、「ふうう、知らないヒトいっぱいで緊張しましーたー。」薄く張られていたアンカラの強度を緩めて、ガルデニアが息を吐く。「囲まれていた感覚がありましたので、タニガワを呼ぶ寸前でしたよ。」カランコエの気の抜けた声。「建物外に何も重量物は見当たりません。この振動自体はまだ続いていますけど、やはり理由を教えてはもらえないのでしょうか。」全身が透けた、幽霊本来の性質で検疫所の壁をすり抜けたナナカマドがそう報告する。「何が起きているのかはわかりませんけど、ウバタニさんもいますし大丈夫でしょうか。」「あなた」の肩に乗ったアロエが話す。


「おう、クルルガンナ解放戦からかなりの数の騎士を見てきたが、透けるってのは初めてだな。それとナイン、木の板を肩に乗せる奴も初めて見たぞ。」


ウバタニはテーブルのクッキーを掴み、齧る。


「オレも小腹が空いた。さっさとメシにしよう。」


そう言って検疫所を出るウバタニ。あとへ続く「あなた」たち。


「「ほんとーに一瞬だけだったらバレないよね。」」


ガルデニアの、呼吸を通じて形成された通信が鼓膜を通じて「あなた」やほか3名の頭へ響く。先のキレアーサ体戦で他騎士隊のアンカラに騎士隊内通信が傍受されたため、ガルデニアが編み出した「ひそひそ話」。呼吸だけで意思伝達を可能にする。


A、「「ウバタニほどの騎士がナナカマドを知らない、アロエの姿と声を認識していない。」」

A、─「「彼はクルルガンナ解放戦の生き残りで私も識っていますが、ピニ イラを拓いてからの事は知りません。」」「「私が板に見えている理由もわかりませんね。」」「「ナインさん、やっぱりタニガワとカタギリでこの都市を制圧した方が良くないですか?」」

B、「「彼に何があったのか、この振動とこの街だけの歌の理由もわからない。そして彼は間違いなく、ぼく/私より強い。」」

B、─「「んー、どーもねー、もーちょっとで歌詞がわかりそーなんだけどねー。公用語じゃないから、言葉の組み立てを頭の中で考えてるのー。」」

C、「「とにかく、ご飯を奢ってもらおう。」」これ以上は怪しまれる。通信を閉じて「言ったんですから、おいしいのをご馳走してくださいね!」ウバタニの後に続いて表へ出る。

C、─「あーん、おなかすきましたー!」「確かに、私もカロリーが欲しいです。」「カランコエさんは走るだけ痩せて羨ましいです。」「マドカさんは動かなすぎですよ!」「私も計算のためのカロリー欲しいです。」


検疫所の外は、やはり何の違和感も感じない。

どこにでもある、沈みゆく模倣太陽の赤に染め上げられる、ラプリマより背の高い建物の街並みだけ。

ただ、胸を掻きむしられるような歌が折り重なるだけ。


第九次元人の「あなた」へ。⑥ウキウキワクワクデート 了

第六部 第九次元人の「あなた」へ。⑦「花と咲け、君よ舞え!」へ続く。


次回予告。

ただ、もっと話がしたかった。

子どもに、名前を付けてもらいたかった。

男の後悔と願望は、同じ過去を背負う無数の民の妄執と共に、うねりとなり、形となった。

次回、第九次元人の「あなた」へ。⑦「花と咲け、君よ舞え!」

読んでもらわないと、ディスティノしますから!


がららららん、どおおおん。

稲光。

視界を埋め尽くす黒、青。

びだびだびだ。

滝のような雨。


「生きろ、生きろ。逃げろ。」


耳元で力強く囁かれる声。

肩を押されて走り出す。

ぬかるむ泥を足爪で掴み、滝壺の中をもがくように走る。


「ぐぅおおうええ!」


断末魔が、背後から聞こえる。

走る。

逃げる。


「ぼしょくしょも、べぶぐりゅ。」


何度も聞いてきた音、咀嚼音。

びたびたと、木々の枝葉を伝い落ちる滝雨の中にあって、その音が聞こえる。

同族たちが、噛み砕かれ、臓物を引き摺り出され、貪られる音。

がらがらがら、どおおおん。

雷鳴、稲光。

びたびたびた。

黒い木々のその枝葉から流れ落ちる、滝の雨。

がらがらがら、なおおおん。

おおおききいいてええ、なあああいいん。


「おーきーてー、ナーイーンー。」


「あなた」の頬を摘む、白く細く、柔らかくしなやかな、包み込むような指。

黒と青の牢獄の中で願った、お日さまのような笑顔。


A、抱きしめる。抱き着く。母親に縋る子どものように。

A、「わわ、どーしたのナインー。」ガルデニアの優しい手が、「あなた」の頭を撫でる。「震えてますね。お酒飲ませるからですよ。」カランコエの手が「あなた」の首元を撫でる。「せっかくの休暇なんですから、ハメを外してもらおうかな、と…。」ナナカマドのひやりとした指が、「あなた」の耳たぶに指を這わせる。「脈拍と呼吸に乱れがありますね。」アロエが「あなた」の耳元の血管の辺りに頭を押し当てる。


「おーう、起きたか、若いの。」


声の方を見ると、ウバタニが顔を赤くしてカウンターに突っ伏していた。

ずきずき。

軽く頭の奥が疼く。

手の甲側、指の付け根の骨で眉間を押さえる。

少しずつ、気絶する前の記憶が戻ってくる。

連れられた食堂で、白ぶどう酒の煮込み野菜と白身魚を食べた。

軽く包丁を入れた葉物野菜、皮を剥いて乱雑に切った根菜、橙色の根菜、芽を取っただけの穀類が雑に切られ、ごろごろとした食感と熱を口の中に伝えて、振り掛けられた粒の香辛料が口の中に刺激を与え。そして、よく火の通りった肉厚の白身魚が、噛み締めるたびに純粋なうまみを提供する。ナナカマドの入れてくれた良い香りの、酸味が弾けるぶどう酒を飲んだ。


A、「だいたい、マドカのせいだね。」

A、─「そんな、愛しい主人に気持ちよくなってもらおうと。」袖を目元に当ててよよよ、と泣くナナカマド。


「さーて、どこまで話したか。」


ウバタニはカウンターに右肘を乗せ上体を起こし、左手でとっくりの首元を持ち、軽く左右に振る。


「おかみさん、もう一本。」


こと。

追加のお酒が入ったとっくりが置かれ、ウバタニはそれを見つめる。


「現勇者が、お前たちをここで休ませるって言ったんだ。」


酔っているとは思えないほどの明瞭な口調で。


A、頷く。これはきっと、あの振動と歌について真実が語られる。

A、─「つまり、ここの支払いは現勇者以下、お前たちのモチだ。」


B、「そんな!あれだけ甘えろと言っておいて!」これは裏切りだ!

B、─「甘えるのは旨い店の案内までだ。注文して食べたのはお前の意思だ。さあ騎士よ、責任を果たせ。」ウバタニは注文伝票を「あなた」に渡す。


C、「ぐぐぐ、く、うぅ〜っ!おかみさん、お店のお手伝いします!まけてください!」

C、─快諾した女店主は、食器の片付けから行うように「あなた」たちに指示を出した。「うわぁ〜、まるがいっぱい付いてるねー。」「特にナインとウバタニさんのお酒がお高いですね。」「休暇の半分はここで過ごすことになりそうですね。あのタヌキめ。」「美味しいお話には裏がありますね。」薄手の貫頭衣式エプロン、割烹着と呼ばれるものを受け取り、「あなた」以下女神直属騎士隊フラマ セラタは、住み込み店員として働くこととなった。


「なかなかよく動くじゃないか。」

「経験が、ありますので。」


女店主の言葉に、顔を見ずに手を動かして答える。

ラプリマの女神ロータス綜合学園。学費や生活費は女神が負担してくれたものの、それは必要最低限であり、「あなた」は学園生活の初期に、手持ちのお小遣いが足りない時は、このように申告を行い、ささやかな幸せと引き換えに社会勉強に従事した。


初日は旅の疲れもあり、泥のように眠った。

2日目から、お店の手伝いをしつつ、都市の散策も行った。

3日目には騎士練兵場、基礎学習を行う教育機関の視察も行った。

4日目は、都市構造と歌による力の流れについての案内を受けた。

5日目は、近隣で駆除された大型生物、龍の素材転換工程を確認した。

6日目は、ただ一室で、騎士としての役割関係ではなく、ただの家族の時間を過ごした。

そして

7日目、寅七つに起床し、店内の清掃から買い出し、調理に使用するダシの煮出し、仕込みを行う。女店主以下、ガルデニアたちの食事を調理する。


「「食卓」の資格はありませんが、ニ級素材までなら調理を認められています。」

「今は「膳」って呼ばないのだねえ。」


予測はついていたものの、女店主の反応に違和感を覚えつつ、厨房に立つ。

あらかじめ転換されていた四級素材たちを前に、割烹着の上、右肩に紐を垂らし、背中で交差するように左腰へ回して一周巻き付け、右腰から背中で交差させ左肩へ、腕も一周させて右肩の紐とちょうちょうに結ぶ。


A、「では─。」

A、─「えへへー、ナインのお料理だー。」「ガルデニアのお料理は素材まるごとですからね。」「カランコエさんのはカロリー計算が細かすぎます。」「えー、マドカさん「お菓子のパンばっかりでお肉付いちゃうよー。」「私がレシピを伝えました。つまりナインは私が育てました!」


清掃を終えて、カウンターできゃいきゃいとお話を始めたパートナーたちの視線を受けながら。

とぽとぽとぽ、と、ん。

鍋に水を張り、釜戸に乗せる。

すこここ、かち、かち、ぽん。

圧縮された燃料を薪に添え、火打石をぶつけ、火花を起こし、着火させる。

す、すう。

まな板に寝かせる、または手に取った根菜の皮を剥く。

こん、とん、こん。

素材に適した、刃の侵入角度、包丁自体の重量を足首、腰、肩、腕で緩やかに動きをつけ、手首のスナップを効かせて断ち切る。

ささ、

軽く水に晒して、

しゃ、しゃ、しゃ。

乾燥させた赤身魚の切り身を、ほぼ水平に寝かせた包丁で薄く、薄く削ってゆく。

指先でつまむだけで、そのわずかな熱で反ってしまう。向こう側の愛しい彼女たちの顔が透けて見える。そこまで薄く削った切り身を。

こぽ、こぽこぽ。

加熱により、気化しようと、空へ上がろうとする水が、大気により押さえつけられ、泡として音を立てる。

さささ。

切り身を流し入れ

か、ぽ。

釜戸の下、薪と空気が反応し火が起こるそそこへふたをする。空気の流入が止まり、わずかな酸素と薪自体で反応は、抑えられる。

薄く削った切り身はその、叫びを止めた水、お湯の中をかつて生きていた頃のように泳ぎ、太陽の熱を受けて増えた、生育したプランクトン、それを喰らう小魚たちを喰らってその身に蓄積した、海と太陽の恵みをお湯の中へ広げる。つまり、この鍋の中には、太陽と海が再現されている。

ささ、ぱちゃ。

まばたきの間ほど寝かせたそれを、交差して網状にした布を沈め、それら、エキスの抜けた切り身を掬い上げる。

か、こ

再び釜戸のふたを外す

ふーっ、ふーっ。

左右の手を軽く握り、釜戸の扉に添えて息を吹き掛ける。筒のようにした手を通り、肺から喉、口から出た酸素は薪の中で弱まっていた火を、もう一度昂らせる。

こぽ、ぽ。

す、ぱちゃ、ぱちゃ。

まな板を斜めにして、お野菜を包丁の腹で優しく押し出す。新天地へ旅立つ子を見送る母鳥のように。

す、す。

目の部位に紐を通し乾燥させた、手のひらより小さく、細い青魚の糸を引き抜き、節くれだった木の枝を通す。

ぱち、ぱち。

空いているもう一つの釜戸に鍋を乗せ、ごまの油を塗り、青魚を当てて、焼く。

干して凝縮された魚の脂と旨みが、香ばしいごまの油のものと混ざり合う。

かとかとかと、たぱぱ

味噌を水に溶き、火の通った野菜の鍋へ手早く注ぎ

ぱこ

もう一度扉へ蓋をして、火の勢いを削ぎ

さ、ん

焼いた青魚を皿に乗せる。

さ、か、か、かちゃかちゃ

掬っておいた魚の切り身を青魚を焼いた鍋へ移し、軽く砂糖、みりんを振って青魚の脂と絡め

と、ぽ、しゅうう

塩漬け大豆から染み出した生醤油を垂らして香りと塩味を付ける。

きゅ、ぎゅ。

昨夜の残りの麦飯を俵形に結ぶ。

とぽ、とぷ

めいめいの器に汁と野菜を入れる。

ととと、とん

刻んだ香味野菜、ネギを浮かべて。


A、「この龍一匹の命を以て、我らフラマ セラタ5名は今日1日を生き存えます。彼または彼女の尊き犠牲に感謝を。さあ、おあがんなさい。」食祭の祝詞、その日常版を口にし、料理をカウンターに乗せる。

A、─「あなた」たちは両手を顔の前で合わせ「いただきます。」と厳かに唱える。そして、「わあー、うんうん、いー香りだねー。」「やはりナインさんのお料理は栄養価とバランスが取れています。」「ナインさんの愛情が伝わってきますね。」「ナイン、これからも私のためにお味噌汁を作ってください。」ガルデニアがおむすびを頬張り、ほっぺについた米粒を「あなた」がつまみ、口に入れ。カランコエがメザシのごま油焼きを噛み締めて。ナナカマドがお味噌汁を啜る。


戦いから、死の匂いから遠ざかった、この地での生活が数日続いて。


「「やっぱり、ちっちゃい子いないねー。」」


「ひそひそ話」の、吐息に忍ばせた意思の中で、そうガルデニアが漏らす。

ここ、ラプリマ衛星都市ピニ イラには相当の都市民が居住している。おかみさんの名前のついたこのお店、ブルガナンタにもまいにち、たくさんのお客さまが、お一人様、お二人様、ご家族ご友人方がお越しになられて、やはり。

あつあつに加熱したお味噌汁を、ふうふうと吹く。

ガルデニアの「ひそひそ話」を効果的に、誰からも悟られず行う方法としては妥当だ。

特にウバタニは、その名前を口に出すと、まるで建物の外で待機していたかのように、即座に現れる。

責任ある、多忙なはずの都市長が。

その神出鬼没さは、まるで現勇者のものに近い。


「「それとなく、お客さまの会話を聞いたりもしていましたけど、」」


カランコエは調理に関する資格はあるものの、情報配達員レタ ラ リベでさまざまなヒトと接してきた経験を活かして、接客、お料理の提供、片付けなどを行ってもらっている。


「「お子さまに関するお話は一度も聞いていませんね。」」


クルルガンナ解放戦にてその数を文明はおろか、集落の維持すら困難なほど減らした太陽系第三惑星人は、女神の邯鄲により、性別の区別無く、パートナー同士のぜネロジオを接触、混触する事で新たな生命を与えられるようになった。受精着床から妊娠出産、自然分娩を経ず、即座に。本来「あなた」の知る、十月十日の大事な時間を消し飛ばして。キスだけで赤ちゃんが出来ちゃう。その言葉の通りに。赤子の生育と教育にもまた、邯鄲による時間圧縮が用いられる。両親には一切の加齢なく、苦痛もなく、口付けを交わしてまばたきをすれば、相応に成長した子どもと、確かに育てた記憶だけが残る。そうして女神の力の影響下に於いて、各都市では爆発的に人口が増し、惑星文明同士の絶滅戦争で減少した太陽系第三惑星人の個体数は、増大した。


「「やはり、この歌の力は女神の認識外で、それが関係しているのでしょうか?」」


この街に来て初めての、検疫所でウバタニは「あなた」に「関わるな」という内容の答えを返した。「あなた」がナインという姿でこの「ダリア」の世界にいるように、「あなた」が「あなた」であるように、この衛星都市にも相応の理由があるのだ、と。


A、「「もう一度、整理しよう。」」お味噌汁を吹いて冷ます、その刹那に意思の伝達を行う。

A、─みんなが、まばたきをするように返事を返す。


B、「「この都市は、標準のルリローものではない、未承諾の形式の歌で覆われている。」」護る揺籠としてではなく、何かを隠すように。

B、─「「なんだか、お祈りをしてるかんじがしーまーすー。」」それは今も、何かに、祈りを、願いを捧げるように。元来、女神は太陽系第三惑星人の持つべき信仰を、命を繋ぐための食事とその関係する職業、素材となる生命体の魂に限った。異なる信仰は差異となり、いずれは争いを生むものだから。つまり、歌、ルリローまたアンカラに関わる、女神直属のダクトロ─アウタナ・セリフラウに直接資格を与えられたガルデニアがそう判断したという事は、この衛星都市ピニ イラは女神未承諾の歌体系を構築し、異なった信仰を持っていると言うことになる。つまり、女神への、太陽系第三惑星人すべてに対する明確な叛乱となり、この都市を構成する全ての人員が、邯鄲の柱となるほどの重罪を犯し続けている。


C、「「そして、この振動が、胎動のものに相似している。」」これは、都市とそれを覆う歌の構造そのものが、脈動している。

C、─「「ハンガーに格納されているカタギリ、タニガワ両機体と私アロエの計測した数値を、近似するパターンと照合した結果、太陽系第三惑星人では無く、ナインと私、女神の本来の故郷である地球にて、ヒト型の二足歩行生命体が胎内で子を育てるものと同じ、と断言出来ました。」」スプーンに掬ったお味噌汁を吹き覚まし、アロエが続けた。


「「この街に赤ちゃんや小さい子どもは、いないんじゃなくてー。」」

「「この街そのものが、赤ん坊を育てる母親の胎。」」

「「この街を覆う歌は、女神や勇者、外の騎士から、子を隠し、護るための歌。」」


ならば、その子は、ウバタニが、都市民全てが祈り、守ろうとする仔は、どこにいるのか。


A、「「カランコエ、タニガワとカタギリの駆動を。ポデアぜネロジオ使用自由。気をつけて。」」

A、─「「わかりました。隊長、いえ、ナイン。」」「あなた」に軽く口付けをして、カランコエは音も無くハンガーへ向かい、走り去る。かつて騎士資格を持たず、それでも日々の鍛錬を欠かさなかった、愛しい巻き髪の騎士が駆ける。


B、「「ナナカマド、できるだけ、都市民の認識の保護をお願い。」」

B、─「「はい。私にポデアは使わせてもらえないんですか?」」頷いて、ナナカマドの唇を受け入れる。次第に全身の薄れ、透けてゆくナナカマドは、都市民それぞれの目に、薄い膜のように拡がって。おかみさんの瞳を塞ぐ。


「「そーれーじゃあーあー、ナーイーンー。」」


ガルデニアの声に合わせてアロエを肩に乗せ、口を開く。


B、「ピニ イラ都市長ウバタニ!並びピニ イラ全都市民、騎士に告ぐ!」

B、─両脚と両腕を精いっぱい広げたガルデニアが、都市を流れる、母親の胎を模した祈りの歌を、「あなた」の声に塗り替える!

がしゃあ!

「ナインんん!!!」

店内へ飛び込んできたウバタニを、その四肢をガルデニアの歌が包み、自由を奪う!


C、「神妙に、縛に付け!」

C、─「現勇者が、お前たちを休暇として送って来たのは、偶然だと思っていた。」


さん、ささささん!

ウバタニの両肩両脚、全身に多層的に装甲が展開する!


D、「ヤ─。」

D、─「ヤ─。」


「あなた」が流れる水のような動きで腰のランサーホルスターから黒鉄の槍を取り出し、ウバタニの手を覆う装甲から指骨が飛び出す。


D、「ガヨイェヲン!」

D、─「ガヨイェヲン!」


バヂイイィィィ!

お互いのランサーが完全励起し、ガルデニアの歌の拘束を装甲から噴き出すガスの推進力で引き千切ったウバタニが、その勢いのまま突進してくる!

輝く必殺の拳による連続の正拳突きを躱し、逸らし、矛先を変え、「あなた」は退かず、背後のガルデニアのため、自身が第十三次元人に告げるように、立ち向かう!


「しゅ、ぼ、ほぼ、シュ!!」


ウバタニの口が、全身の多層装甲が短くガスを噴出する!

ウバタニの拳は、純粋に「あなた」の頭部、胸部、腹部を狙う!腰の捻りを加えた、上体そのものの質量をガス圧で加速させるストレート、振り抜きさまに返す逆腕を肘を曲げたままのフック、軽い突きと見せかけてのアッパー!

ランサーによりプラズマ化した拳を、飛鷹のぜネロジオにより瞬時に把握する!拳そのものではなく、ウバタニの爪先、膝、腿、腰、腹、胸部肩肘、何よりウバタニの瞳から、殺意から軌道を見出し、躱わす!


じゃきいいいい!!!


プラズマ化した拳が室内の大気を膨張させ、文字通りの白熱した空気が店内を溶かし、ピニ イラの街、空を露わにする!

豪速の拳を躱し続ける「あなた」の知覚に、カランコエとタニガワが都市騎士隊のウサギを撹乱し、切り裂き、機能停止に追いやる姿、自律起動するカタギリが、都市の歌による回路を引き裂く姿を感じ取る!


「ごめんねおじさん。」


たす。

上の階が溶け落ち、下階の基礎構造が剥き出しになった梁の上に飛び乗り、ガルデニアが謳う。


「マリアンテ ラ ナダ─♪」


その祝詞は、多層的に構成されていた「祈りの歌」に食い込む様に染み渡り、


「しまった!アンカラのガキ!」


ウバタニが気を取られる。もともと、彼が優先して殺害するべきはガルデニアだった。

もう遅い。


「─リポズィ♪」


あらゆる、歌による願い、祈りを掻き消す唯一の祝詞。

女神からダクトロのアウタナ・セリフラウに与えられ、さらに彼女が資格を有する者にのみ授ける、邯鄲の力の一部、とっておきのずるっ子。

こればっかりは、女神の目から隠せた方法でも、逃げられない。


「まるふぇーにいぃや、ふぇー…。」


複数の、衛星都市ピニ イラ都市民400万ほどの紡いでいた歌が、祈りの歌が消える。


影が落ちる。

「あなた」の頭上に、ウバタニの頭上に、ガルデニアの頭上に。

その質量体は、ほの紅い体表を薄い半透明の膜で覆い、所々が脈動している。

ぐわあ、あ

膜の中で、それが指の様なものを動かす。

「あなた」は地球でカエルと呼ばれる生命種を見たことがあるかも知れません。

そのカエルの指の間にある薄い膜、みずかきによく似たものが、それにもありました。

ぐにゃ、びしゃ、びちちちゃ。

その指は伸ばしきったあと、膜を突き破り、内容液がこぼれ落ち、「あなた」の頬を、全身を濡らします。

「あなた」は地球で、鳥類や魚類、爬虫類などの孵化を観察されたことはありますか?

または、犬や猫、うさぎやあらゆる胎生の生き物を。

お花やお野菜、いわゆる植物も。

お胎の中、外、種の中、外と場所は違いますが、あらゆる生き物は、栄養を与えられて、外で生きる準備が整えば、自身を覆う薄い膜を突き破って、生まれます。

ぐわあ。

それ、が顎に当たる部分を動かす。


「ゆめのーなかぁに、あってー♪」


ガルデニアが歌い、フラマ セラタ隊員の鼓膜及び全身をアンカラで包む!


きゃおおおおー!


叫びと共に、それ、が手足を広げ、その巨体から生み出される咆哮と共に、400万の都市ピニ イラの各構造物を破壊する。押し潰す。


「ああ、起きたのかい。」


「あなた」とランサーを交えていたウバタニが、その手を止めた。まるで我が子に声をかけるかのように。


「いっぱいお食べ、私の赤ちゃん♪」


これまで不明瞭だった祈りの歌が、急に明確に、「あなた」にも理解できる太陽系第三惑星人公用語、つまり日本語のものになる!


こぉきゃあおおお。


それ、の手が押し潰した都市区間が黄色く明滅し、何か、無数の小さいものが吸い寄せられて、


ああ、む。


「あなた」は、ガルデニア、カランコエ、ナナカマド、そしてアロエやカタギリ、タニガワも、誰かに説明を受けなくても、それが何を意味する行動であるか、理解が出来た。


「たくさんお食べ、愛しい我が子♪」


都市を覆う歌は、それが咀嚼と嚥下を行うたび、弱く、細くなる。


A、「望んで、あれに喰われているのか。」「あなた」は、ウバタニに問いかける。

A、─「我々はクルルガンナ解放戦で、子を失い、子を成せなかった、親になりきれなかった生き物だ。その我々が、その子に食べ物を与えているのだ。失礼な言い方は控えてくれ、あの子の教育に良くないだろう。」


それ、は「あなた」とウバタニの会話の最中にも、無数のひとびとを、その口に頬張っている。


「愛しい我が子、私がおまえの瞳になりましょう♪」


ばく、ばぐぅ。

それ、の頭皮に無数の裂け目が生まれ、開く。


「ああ、父さんは嬉しいぞ、やっと目が開いたね。リピニィエーラ。」


ウバタニは、満面の笑みでそれ、リピニィエーラに語りかける。


A、「撃鉄を起こせ─。」きゅうあああ、ちゅいいいいいい!!!!「あなた」がほぼ無意識に、殺意のみで展開した黒鉄のポデアが、「あなた」の言葉に合わせて必殺の銃身を鍛造する!

A、─「ゴォ リィア!」ウバタニの多層装甲を纏った腕が、銃身を捻じ曲げる!


「我々の祈りが産んだ子に、何をする気だ。」


B、「該当個体リピニィエーラを、太陽系第三惑星人に害を与える対惑星文明兵器その亜種として、排除する。」

B、─「あのヴリトラのようにか!」ウバタニは、「あなた」たちフラマ セラタが現勇者、ガブリエルハウンド以下複数の騎士隊と協調作戦を行い破壊した、クルルガンナ星人ほしひとの対惑星文明兵器の名前を挙げた。


「たくさん食べて、大きくおなり♪」

歌声は止まず、更に無数のひとびとが、その子、祈りの子リピニィエーラに笑顔で貪り喰われてゆく。

だす、だすどす、バヂィ!

ランサーでウバタニの剛腕を捌き、いなし、建物の瓦礫とヒトの部品、赤黒い内容物が降り注ぐ中を、せめぎ合う。


C、「ルニア!」「あなた」は叫ぶ、焼かれた作品世界から預けられた、愛しい少女の名前を。プラズマ化した拳を、見切り、避ける!頭上の巨体、リピニィエーラとは別種の思想、別の惑星文明技術で製造された、対惑星文明兵器の名前を。「ガルデニア・エル・ヴィエルナ!」叫ぶ。およそ300万の祈りの歌がコーラスを上げる中、たったひとりで、「あなた」の歌が─


魂の限り。


A、「君よ咲け─♪」剛腕が、その拳がさらに白熱し、瞬時に大気をプラズマ化させ、ガルデニアの歌に、恋の輝きがルリローとして織り込まれた制服と反応し、青紫の、アネモネの煌めきを放つ!

A、─「これはぁ、あの女の、願いかぁ!」ウバタニの視線の先、瓦礫を蹴り上がったガルデニアは、誕生日に、姉が身体を売り物にして手に入れた、たいせつな黄色のリボンをはためかせ、舞い上がる。

B、「高く飛べ─♪」突き出したウバタニの拳を「あなた」は躱わす!多層装甲の各関節から骨指が無数に伸び、その一本一本がランサーとして白熱する!リピニィエーラの腕脚が急速に延長し、ガルデニアを絡めとる様に無数の熱線を放つ!

B、「何だァ!この力はァー!」「あなた」の制服に編み込まれたガルデニアの願いが反応し、闇の漆黒と血の赤を持ったブラックバッカラの腕剣が無数に現れ、骨指を弾き返す!ガルデニアひとりだけを狙い収束する無数の熱線は、彼女の周囲を高速で旋回する黒と赤の剣に弾き返される!

C、「花と舞え─♪」ウバタニの拳がついに「あなた」を捉え、必殺のプラズマ化連続正拳突きを叩き込む!

C、─リピニィエーラの無数の瞳それぞれが、中空に描いた熱線の紋様が、瞬時にガルデニアの四方八方を埋め尽くす!


光化したナインのシルエットを尻目に、ウバタニはリピニィエーラに笑いかける。


「さあ、ラプリマへ、お父さんといっぱいご飯を食べに行こうね。」

きょおおおお。ウバタニに呼応するようにリピニィエーラが哭く。


A、B、C、「白き花、ガルデニアー!!!!!」それは「あなた」ひとりの声ではなく。

A、B、C、─「まさ、か─!」ウバタニが「あなた」に振り向く!


「そうだよ、ナイン。」

声が聞こえる、誰かの

「この飾りマフラーは、あたしが誕生日にあげたんだ。」

それは「あなた」が直接は知らない。

「あの子、よく食べ物こぼすでしょ。」

かつて、その身体で妹達を守って

「それでいつも汚してるの。」

そして、クェーサーズによって機能停止させられた。

「いつも、「あなた」の手で洗ってくれて、」

機能拡張のため、幸拓室長により、ガルデニアの摂食が行われた。

「ずっと見てるよ。」

血の繋がりは無いけれど、ほんとうの姉妹、その次女。

「あんがとね。」

アルストロメリア。ガルデニアの、お姉ちゃん。

「んー、んっ。」

彼女の唇が、「あなた」の唇に触れる。


A、B、C、─「お前は、お前は何なんだ!」ウバタニが、「あなた」を護る青紫の歌声、黒と赤の剣、そして白い羽衣に全ての攻撃を阻まれて絶叫する。

A、B、C、「ガルデニアの、パートナーだ。」


その言葉と共に、ガルデニアの位置に集中していた熱線が、包み込むような白い花によって、照射されていたという事実ごと、白く大きい花となる。

きょおおお。

リピニィエーラがその異常に成長した、ちぐはぐなな長さの左右の腕を白い花に伸ばし、つかも─


「ばあ。」


何重にも生えたその指を駆け登るよう青の螺旋がリピニィエーラの手指、前腕、上腕に白い花を咲かせる。


「な、何なんだ!」


声を上げるウバタニの目の前で、祈りの子、対惑星文明兵器リピニィエーラが、その肉体が、青緑の螺旋に四肢を貫かれてゆく。


A、「それは、かつて太陽系第三惑星、地球では、フタバスズキリュウと呼ばれ─。」

A、─「な、何を─。」

B、「それはかつて、その星でオトヒメコンニャクウオと呼ばれ─。」

B、─「何を言ってるんだお前はぁー!」ウバタニの拳が、「あなた」の顔面を捉える。

C、「そのふたつのいのちを、ぼく/私が繋ぎ合わせた。ハゴロモオトヒメリュウ。」

C、─もう見飽きたその拳を、肘からランサーで切断する。「っが、ぐわ、があああああ!!!」


触れた瞬間だけは無限の熱量が、カルシウムを主原料とする多層装甲を根本から溶かし、本体であるウバタニの肩骨、胸骨、肋骨、頚椎を伝わり、頭骨と、それら全てを覆う筋肉、血管、腱、リンパ管、神経系を異常加熱する。

同様に、リピニィエーラの異常発達した四肢、舌上に生えたひとびとの頭骨、頭部表皮の無数の瞳も、ガルデニアの螺旋と白い花が埋め尽くす。


ひゅりりる。

たすっ。

「あなた」の前に舞い降りた愛しい少女、ガルデニアは。


「ナイン、わたし、あの子を殺すよ。」


A、「うん、眠らせてあげて。」

A、─そうして、ガルデニアが左腕をリピニィエーラに向け─


ちゅいいいいぃ!


ガルデニアのものではない、輝く黄色のランサーがリピニィエーラの頭部を切開する!

たっ!

刹那の判断で、「あなた」はガルデニアを抱き寄せ跳ね!


「おやおや、そんなに怖がらなくても。」


声の方には、紫を基調とした燕尾服らしきもの、ゆるくウェーブのかかった赤毛で跳ねたボブカット、片眼鏡の少女、いびつなランサーホルスターが見える。騎士のようで、別種と判断出来る。


「預けた種子が花開いたと聞いたので、刈り取りに来ただけさ。」


ちゃき。

「あなた」は腰のランサーホルスターに手をかける。


「血の気の多い、物語の登場人物には理解できないでしょうが、ぼくたちは☺️規制されましたサミ ラ セク☺️と申します。残された日々を、どうぞ快適にお過ごしください。」


ズガアアア!

リピニィエーラの身体が、脳を摘出された事で、崩れ、「あなた」達の方へ倒れ込む。

サミ ラ セクの騎士、のような者は、「あなた」たちがリピニィエーラの死体を避ける方向とは別方向へ歩き去る。


A、「ルニア。」

A、─「うん。」

B、「サミ ラ セクって言ってみて。」

B、─「☺️規制されました☺️さみーく?」

C、「ありがとう。」

C、─「うん、あのヒトの言葉、よく聞こえなかったねー。」


音、声に資格を持つガルデニアが、聞き取れない理由がない。

「あなた」が第十三次元人に関する発言をすれば、第二次元人であるガルデニア達には正しい認識が出来ない。

つまり、第九次元人の「あなた」と同じように、第十三次元人と同じように、サミ ラ セクもまた、「ダリア」世界に干渉を行なっている別階層の次元人と言うことになる。


「リピニ、ィエーラ…。」


カランコエとナナカマドに感温、痛覚神経を脳、意識から切断されたウバタニが声を上げる。


A、「研究を行ったところで、太陽系第三惑星人が独力で対惑星文明兵器を作り上げることは不可能近いでしょう。彼女らサミークに技術提供を受けましたね?」

A、─「今は、頼む。娘が、死んだんだ。ラプリマで、女神の前で、罪を、告白、する。う、ぐ、おお。」


ウバタニは瞳を強く閉じ、切断された両肘で顔を覆い、むせび泣く。

「あなた」は現勇者の邯鄲の中で、過去のウバタニの慟哭を聞いた。

そして、アイクルミエェタが彼に言ったように。

彼の肩に手を置く。


A、「裁きを、罰を受けるまでは、生きろ。」それが、罪と知りながら罪を犯した者の、責任だ─。


第六部 第九次元人の「あなた」へ。⑦「花と咲け、君よ舞え!」 了


次回予告!星姫アセデリラ・アルマコリエンデが対惑星文明兵器モモ・クルルテラを組み上げたように、時を同じくして第九次元人の「あなた」、ナイン・エルナのパートナーであるガルデニア・エル・ヴィエルナもまた、対惑星文明兵器ヴィナヴァルテとして制限が解除された─。

第十三次元人カヌメナーアがもたらす破滅へ時計の針が進む中、「あなた」は遂に、準勇者のカゲと対決する!

次回、第九次元人の「あなた」へ。⑧「ハイェルルラ・エル・ベラーナ奪還作戦 裏」へ続く!

「戦闘スケジュールが過密過ぎます!お風呂で洗ってくださいね、ナイン!」


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