表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

女神直属騎士隊フラマ セラタ

「さまざまなルリローに用いられるコーラスに代表されるように、地球人類の歌唱には地域年代宗教を問わずしてコーラス、合唱が用いられてきた。

これはまだ地球人類が類人猿だった頃、またはそれ以前から音、空気の振動を感情や同時に行動を起こすための交信手段、または集団として仲間意識を持つための道具として発展したもの、とするのが太陽系第三惑星人に於ける声、言葉の成り立ちだ。」


ウラニシ教官の指が「あなた」を指す。


「例としてどのようなものがあるか?ナイン・エルナ。」


A、「エンゲージや、ランサーを、またディスティノを行使する時に騎士、または騎士とウサギが行う祝詞、誓句。また、選抜騎士寮に至るまでの登攀に於いて、教官と私が行った掛け声も含まれます。」


A─「そうだ。」


教官は頷き、学園内ウサギハンガー、整備と格納を行う施設、その搬入または搬出口を開くためのポデアをかける。


きゅらきゅらきゅら。

地球にいた頃、自動車の入るガレージや、お店のシャッターが開く時みたいだ、と「あなた」は感じたかも知れない。

かんたんな作りの基礎構造に、薄い壁材を貼り付けた、いわゆるプレハブ工法のハンガーの中、鈍い銀の煌めきが、たった今開いた入り口からの差し込む光によって、「あなた」の目に映る。

とうとう、ここまで来た。


「それでは、ナイン・エルナ。」


教官が「あなた」に指示を下す。


「騎乗せよ。」


第九次元人の「あなた」へ。④「実戦」


3日前。

騎士候補生として、地球人の持つ基礎身体能力の向上訓練、ポデアに使用される特殊な圧縮言語の体系的な習得を行った。

肉体の運動を機能させるためには、骨格筋肉腱、脳表皮肺胞胃などの各種臓器そして血流量と血液のコントロールに繋がる呼吸法と、普段摂取する食事のための栄養学、そして食材に適した調理法と調理技術なども地球での学習と経験に加え、命球の持つ大気組成、生命の循環システムに沿う形で学び直す必要があった。

これらは女神の邯鄲無くしては、20年から30年はゆうに費やしていただろう。

つまり、全地球人類の持つ知識と技術、その経験が「あなた」個人へと圧縮された。

そして1週間前。

ぜネロジオ適合前の試験を行うそこは、地球での製鉄と加工を行う環境を再現したものであった。

命球に於いて、少なくとも太陽系第三惑星人の支配区域に於いては、鉄やその他の金属は全てウサギに由来する。自害または他害を行った罪人の魂に、殺害した人数分、地球の質量を与えて光へと崩壊させ、地球人の知っていた中で最も安定した物質である鉄とするそれ。この試験では、かつて地球で製作された銃器製造の工程記憶と弾丸に用いられる火薬の成分比率調整の記憶を確認する。


「太陽系第三惑星人騎士の扱うディスティノは、何をモチーフにしていたか調べてあるか?」


教官が「あなた」へ質問する。

かぁん!ずかぁん!

分厚い鉄板を、更に質量と強度、粘性を持つ剪断加工機に装着した金型が切り落とす。


「はい、主にリボルバーに代表される銃器を使い対象を破壊または殺傷するものです。」


これまでの、邯鄲によって圧縮された毎日の中で、選抜騎士寮での夕食と入浴の後、ガルデニアが購買部で購入してきた、磁気記録式映像再生機、地球の現代日本では中古ゲーム機の買取販売店で埃を被っているような、磁気テープ再生機の模倣品。カランコエの伝手から入手した、歌劇文化再現会の演目を記録した磁気テープ。それらを再生し、保存状態が悪く無音のため、ナナカマドが「それでは私が、活動弁士となりましょう。」と登場人物のセリフや状況説明を行い、「あなた」とガルデニア、カランコエはお互いの手を握り、勇ましい場面では主演の口上を物真似し、悲しい場面では抱きしめ合い、終幕に主演同士が口付けを交わすと、同じようにキスをした。

そして、主役のガンマン、保安官やカウボーイ、賞金稼ぎが悪役と決闘を行うシーン。

「ひゅううう。乾いた風が吹く。ガンマンは、同じく酒場から出た列車強盗と距離を保ったまま向かい合う。天は既に頭の上。「さあ、どちらが抜くのが早いか決めようじゃねぇか。」悪者がそう言い放つ。ガンマンはただ、テンガロンハットの先をつまみ、目深に被る。」ある時は、西部劇を。

「駆けろ、駆けろ!嵐の中を!月明かりを!そして侍は、父を殺された娘から受け取った布を右手に巻き付ける。流れる血は、名も知らぬ娘の涙のように布から垂れる。「お主を、斬る。」鞘に手をかけ、柄を軽く持ち、煌めく刀身を引き抜く。その先には、悪党が。」そしてまたある時は、時代劇を。


ちゅいいいいん。じゃ、じゃああああ。

型抜きされた鉄の塊を、回転する筒に巻きつけられた石布が、その剪断面を滑らかに削ってゆく。


「そうだ。」


きゅ、きゅ、ちりりり。ぱつ、きゅいいいいいい、ちいいいいいい!


固定された鉄の塊の中心を手廻し式の目盛りを交差させて割り出し、軽く鉄芯を当てて傷を付け、秒速1000回転する穿孔用器具で掘り、回転数を徐々に上げて更に掘る。


「これは単純な構造ではあるが、それ故に使い手の技量が試される。」


次の穿孔器具に彫られた螺旋は間隔が狭く、先ほど穿たれた穴を平滑にするものである事がわかる。

シィィィィ!先ほどの倍以上の速度で回転する器具は予想と経験通り鉄の中心を滑らかにしてゆく。教官が「あなた」の左肩を3回叩く。

「あなた」は行っていた作業を止め、教官は模倣再現機構の種別を切り替える。

薄暗い木造の狭い室内。「あなた」は目の前の椅子に座り、同じく木製のテーブルに置いてあるランタンを手に取る。底面と中央のガラスを持ち引き上げ、蝋を固めた棒を刺し、片手で小箱から細い棒を一本取り出して軸をつまむ。

か、しっ。ぼっ。

軸の先、燃焼作用を持つ薬剤を固めたそれを、小箱側面のえんじ色の部位に沿わせて走らせる。火が付く。

さっ、かぱ。

その先を、ランタンに挿し込んだ棒の先端に触れさせ、燃焼させる。その熱は蝋を溶かし、溶けた蝋はその中心を通り新たな炎となる。はめられたランタンのガラス部は屈曲面により、その炎を室内へ広げて「あなた」とその手元、テーブルを照らす。

かち、かたた、ごと、かし、ちゃき。

「あなた」は腰のホルスターからリボルバーを取り出し、弾倉のカラ薬莢を抜き、シリンダーとその支え金具を引き抜く。

すぽ、す、す。

弾倉の内部、銃身、銃口を器具を使い、丁寧に、時間をかけて、大まかに、拭き取ると言うよりも清掃器具の毛先で払い、次に荒目の布で拭き、目の細かい布で磨く。

ちゃ、か。ちゃき。

引鉄、激鉄、銃把それぞれを外し、同じように全体から細部まで段階に分けて、磨く。ゆらめくランタンの灯りに照らされたそれら部品を、同じ手順で組み上げる。

かち。

弾倉をはめ込み、右手側、別に敷いた布にリボルバーを乗せる。

きゅ、く、ぐ、きゅる、かは。

発砲済みの弾丸を手に取り、布で巻き、弾頭と同じ径の棒を入れ、雷管を外す。

さ、ささ。

紙を数枚広げ、テーブル奥の天秤型の測りを、しっかりと握り引き寄せる。

ちや、り。

ポケットに入れていた硬貨を3枚と2枚、それぞれの皿へ乗せる。

す。すす。ぱ、さ。

2枚の方へ紙を乗せて「あなた」は作業テーブルの奥、引き戸の棚から小瓶を数本取り出し、それぞれの中身を紙に落とす。

さ、く。

小さな匙でそれを掬い、別の紙で縁から摺り切り、秤の紙皿へそれぞれを規定回数分乗せ、目分量で乗せた皿が秤のもう片方と釣り合うのを、秤の中央、目盛りと合ったのを、椅子から降りて片膝立ちの姿勢で、目盛りと垂直に眼球の高さを合わせて確認する。

す、す。

そうして、目盛りによる確認を紙皿それぞれを移し替え、不足が有れば足し、過分に有れば削り、それぞれ3回確認した後、測り終えた粉末を、これまで幾度となく繰り返し、身につけてきた手順通りに弾芯を挿し入れ、薬室へ粉末を注ぎ、雷管を嵌め込む。

ちゃ。ちゃらららら、きん。

装填した弾倉を回転させ、手首のスナップではめ合わせる。

空いた手で押し込むのが、銃自体へ余計な力が加わり、ひずみを防ぐ意味で正しい方法ではあるが、寮で見たガンマンのように、「あなた」はこの方法がとても、性に合った。


「よし、最後以外は満点だ。」


ふぉ、ん。

室内も、銃器と火薬の匂いすら消え去る。

教官が模倣再現機構を終了させる。

銃を、その鉄の加工から、分解組み立て、弾丸への火薬の比率調整を行う。


「んむ。見届けた。」


「あなた」の一連の行動を観察していた女神が、そのまぶたを閉じる。


「ナイン・エルナへの、炎熱、黒鉄のポデア、ディスティノ使用権限と、それに関するぜネロジオを付与する。」


「あなた」に起きた劇的な、視覚上の変化としては、頭の先から手足の指先まで、2本の芯が入ったような輝きと感覚があった。しかし、それらはすぐに「あなた」の中へ収まり静まる。

太陽系第三惑星人は、クルルガンナ星人ほしひとの持った技術を解析再現し、ぜネロジオに肉体経験と記憶、人格の断片と遺伝情報を残すシステムを作り上げた。これにより、女神から与えられた熱量、mpを用いて先祖の経験した物理現象をポデアと言う形で瞬時に再現、更に子々孫々経験を積み上げてスケールアップする。

ただの地球人として命球に来た「あなた」には、かんたんな言葉で表すと魔法のように見えるポデアと、それを行うぜネロジオは無い。

今し方終わった試験と、時間圧縮により過ごした地球時間30年に相当する訓練期間は、「あなた」に肉体運動、拳銃製造と弾丸調整の工程経験を積ませ、ぜネロジオとして組み込み、戦闘時に銃身を黒鉄のポデアで作成しUltraSuperGiganticをリボルバーの弾頭として、同じく火薬の配分を炎熱のポデアで行い、地球複数個分の質量を銃撃の形で投射する能力を与えるに足るかを問うものであった。


「さて、ナインよ。」


女神は「あなた」に語りかける。


「お主、携帯お電話と言うものを持っておったのじゃろう?」


「あなた」はいきなり懐かしい、または古くさい地球の言葉を聞いてびっくりしたかも知れません。即座に青い髪の女子高生にしか見えない女性、勇者トモが女神に近寄り耳打ちします。


「むう、すまひょ?よくわからぬが、まあ手元にあったのじゃろ?目を閉じてポケットにあったそれを思い描いてみい。」


A、「あなた」はすまひょを思い浮かべる。大方その言葉が指し示すものの予想は付くが、あくまですまひょ。

B、「あなた」は素直に現代日本で使っていたスマートフォンを思い浮かべる。


A、B─「あわ、あわひゃ、おやめくださいユーザ様〜!」


目を閉じた「あなた」の想像するポケットの中のスマートフォンは、手触りが何だか柔らかい気がする。しかも板状ではない。

声もする。

目を閉じたままそれを撫でる。


「わ、わ、ユーザ様、ユーザ様?」


何だかこの呼ばれ方は、スマートフォンに入っていた自律型の人工知能インターフェースのようだ。

けど、この手触りからの想像出来るのはどちらかと言うと、ヒト型に近い。


「のうのう、もう目を開けてもよいぞ、話が進まないのじゃ。」


言葉の割にわくわくとしている女神の声に促され、目を開く。


「こんにちは、ユーザ様。」


手のひらの上では、ヒト型の人形のようなものが、座っていた。


A、「返品します。」─この人形は「あなた」のスマートフォンでは無い。

B、「うちの子じゃありませんね。」─こんな知り合いは「あなた」には居ない。


A、─「あなた」は続けて言う。「余計な機能を付け足さないでください。」

B、─「そもそもどこから連れて来たんですか?」親御さんはきっと心配しているだろう。


「そんな!私はユーザ様のスマホですよー!」


手のひらの人形のような生き物は両腕を振って力説する。「あなた」は女神に対して、信じられない生き物を見るような目で問いかける。


「う、うるさいのじゃ!お部屋の電話子機が個人の手持ちの電話に進歩して、人工知能?と言うものでお話できるようになったのじゃろ?携帯お電話そのものは与えられぬゆえ、お話ができる妖精として産まれさせたのじゃ!」


説明を聞いた「あなた」は手元の生き物へ、声をかけてみる。


A、「ハローアロエ、今何時?」

B、「アロエ、明日の天気を教えて。」


A、B、─「ごめんなさい、オフラインです…。」そう返答する小生物に対し「あなた」は「やっぱり返品します。」と告げる。


「のうのう。ナインよ。」


女神が、あからさまに面倒くさそうな顔で「あなた」に語りかける。


「本来騎士がウサギに騎乗するには、ぜネロジオを介して魂を接続する必要があるのしゃ。」


ちょうど隣のハンガーから、カランコエが脚走型のウサギに騎乗し外へ歩いてゆく。


「じゃが、お主は地球人なのじゃろ?本来はもう数週間かけて、つまり40年ほどじゃな。その時間でお主の魂にぜネロジオを彫り込まねばならん。しかし、少し厄介な状況になっての。ラプリマには一人でも多くの騎士が欲しい状況なのじゃ。というわけでこのすまひょ?を接続用のクッションにするのじゃ。」


ここまで聞いて理解が出来た。この小さな生き物は「あなた」とウサギのコネクターになるというわけだ。


A、「じゃあ、アロエ。」

A、─「はい、ユーザ様!」


「あなた」は手元の元スマートフォンの生き物へ、人工知能に、かつて付けた名前で呼びかける。それに対して元気よく返事をするアロエへ。


A、「これからはナインか、ナイン・エルナって呼んで。」

A、─「わかりました!ナイン!」


ひるるる、たすっ。

「あなた」の背後に何かが飛んできて、降り立った音。

ぎゅっ。

その何かに背中へ抱きつかれる。


「ナインー!わたしアンカラになれたよー!」


ガルデニアの首が、伸びて「あなた」の眼前に回り込む。

本来なら驚くところだけど、「あなた」は思い出す。同じ四次元人だったおおとろべふこの言葉を。「この子を「あなた」に預けるよ!」そして手紙。「焼かれたこの世界のこの子の記憶と、対惑星文明兵器としての能力には制限をかけてある。「あなた」の段階的な成長に合わせてこの子も強くなる。」


「なんか、えらい首が伸びておるの…。」


女神は四次元人に自身達とこの世界が作られた事実を知らないし、当然カヌメナーアに世界が一度焼かれた事実も知らない。「あなた」はそれを話せないよう制限がかけられている。

そこで「あなた」は最もらしい説明を行うことにする。


A、「この子の身体にはそういうぜネロジオが組み込まれているんです。」

B、「いえ、女神がそうデザインしたんでしょ?ルニアも太陽系第三惑星人だよ?」


A、B─「わ、私、いやいやワガハイそんなの知らぬのじゃ、こわ…。」


あまりに驚いて話し方がただの少女に戻りかけた女神は、なんとか取り繕おうとするものの、やはりただの少女として感想を言ってしまう。


「おかしーねー、ナインー。」


ふよふよと寄って来たガルデニアの頭を撫でていた「あなた」は、いい説明の仕方を思い付いた。


A、「この子、妖怪なんです。知ってるでしょ?ろくろ首。それになりたいヒトが作ったぜネロジオです。」

B、「首の長い恐竜が日本にもいたじゃないですか。フタバスズキリュウ。ガルデニアにはそれを再現するぜネロジオがあるんです。」


これならもっともらしいはずだ。「あなた」は自身の説明能力に自信を持つ。


A、B、─「そう言われたら、そんな研究会もあった気がするのじゃ。けど、けど。」


「まあいいわ、見たところ害は無さそうだし、アンカラの資格を与えたのはアウタナよね?」

「はい!」


不安になりながらも食い下がる女神の肩を叩き、ガルデニアを認める発言をしたのは現勇者トモだった。


「むむむ、まあよいわ。カランコエも来たの。」

「はい。再教育の機会をいただいて、ありがとうございました。」

「んむ。夢に追いついたなら、次の夢を見るのじゃ。そなたらよ、どうか健やかであれ。」


足音も無く現れたカランコエが一礼をして、同じく軍礼をした「あなた」の手を握る。


「なんでガルデニアの首伸びてるんですか?」


A、B、「この子の保護者にちょっと問題があってね。」


A、B、─「はぁ、ナインのお知り合いでしたらまぁ。」「あなた」は「ダリア」の文中でしか知らないが、ガルデニアを太陽系第三惑星人を素体とした対惑星文明兵器へと改造をした人物の来歴を知っている。彼女は─


「さて、選抜騎士寮で騎士となったからには、お主らはワガハイの直属騎士となる。」


つい思い出を掘り起こそうとした「あなた」とガルデニア、カランコエへ女神が口を開く。そう、「あなた」には更に目的があり、女神の直属騎士となったのも、その足がかりに過ぎない。


す、纏う雰囲気が変わる。

先ほどまでの表情は、彼方へと消えた。


女神は話を続ける。


「2週間前、ラプリマの北東75レグアにアーメフォーニの小集団が観測され、騎士隊を有していた衛星都市が喰われた。駆除にあたった方面防衛の精鋭騎士隊5名、内訳は騎士4名、アンカラ1名とウサギ4騎が全滅した。」


淡々と女神は話す。声を震わせながら。


「正しくは、断末魔と共に音信不通となった。既に2週間が経過しているものの観測では生存者反応無し。生存の可能性は絶望的と、ラプリマ中央防衛委員会でも都市単位の殲滅を要すると判断がなされた。」


ただのアーメフォーニに、その小さな群れに。「あなた」達も仮想訓練で対処の方法を学んだそれに、ウサギと騎士が全滅。驚愕する「あなた」たちの前で女神は続ける。


「以上の都市、並び方面防衛騎士隊損失の事実を以て、当該アーメフォーニ群をアイナファ ィ キレアーサにマブルしたと認定し、貴官らと同じく本日叙任した騎士で構成する即応騎士隊ふたつ、その補助、露払いに貴官ら直属騎士を付ける。」


お主ら、という普段の呼び方ではなく、貴官ら、と。

震える声が怒気を孕む。

女神の瞳が、燃えている。


「例により勇者、ワイルドハント以下ラプリマ警護師団、並びにお主らの教官、ウラニシは出さぬ。先の即応騎士隊と、お主らが育たぬからの。」


口調が、普段の演技がかったものに戻る。

少なくても、1000万都市ラプリマの衛星都市は、100万を下らない都市民がいただろう、それが喪われ、つまり喰われた。

それでも女神は、冷徹に、この危機を教材として、「あなた」たちを育てるという判断を下した。


「ナイン以下直属騎士は、殲滅主力となる即応騎士隊の先鋒、補助に当たれ。出動は3日後、キレアーサとなったアーメフォーニの標準的生態を考慮し申七つに出撃せよ。」


ざっ。

女神の令を受け、ウラニシ教官以下「あなた」とガルデニア、カランコエは軍礼を返す。


「お主らの行動に使用するmpは、ラプリマ都市民の供出並びに、そのキレアーサに喰われた衛星都市の住人の分も含まれておる。奴らに炎を見せよ!」


ざ!

振り向いて歩き去る女神達に「あなた」たちは力強く、

軍礼を送る。

命を奪われたのだから、命を奪い返す。

女神ロータスがクルルガンナ解放戦で魔王ペンディエンテと自称したように、その瞳には復讐と鏖殺の炎が燃えていた。


その日、ハンガーでの、ウサギの接続調整をしつつ、「あなた」はアロエを通じてウサギと対話も行う。本来なら魂とぜネロジオを接続するのでこの工程は必要ないが、「あなた」にはウサギを騎乗し、連携するためのぜネロジオが無いからだ。


「「オレぁカタギリだ。」」


騎乗して、ウサギのシリンにアロエを立たせると、その口を借りてウサギが挨拶をした。

その髪色は、アロエのエメラレルドグリーンから、マゼンタへ変わる。


A、「ナインだ。よろしく頼む。」

B、「ナイン・エルナです。よろしくお願いします。」


A、─「「お、いいねぇ、新米って聞いたが歴戦の古兵ふるつわものみてえだな。」」

B、─「「ほうほう、新兵なりにいい面構えだ。よろしくな。」」


カタギリはアロエの姿で腕組みをし、口を開く。


「「何人もの騎士を背負ってきたが、初陣がキレアーサだと?女神め、華々しい初戦にキレアーサを当てるとは。…やるじゃねえか。ところでマブルとキレアーサについての知識はあるか?」」


A、「座学で学習した範囲で。」

B、「クルルガンナ解放戦で、彼らクルルガンナの蒔いた種だと。」


A、B、─「「そうだな。出撃までの時間はあるし、少し詳しく説明をする。アロエの言葉を借りれば、地球人にもわかりやすく、だ。これはアロエが言葉を翻訳、変換する際に多少の齟齬が起きる。それには留意してくれ。まずクルルガンナ解放戦で使用された敵兵器だが─。」」


アロエの中のカタギリは「あなた」の手のひらをジェスチャーで要求し、それに応えた「あなた」の手から腕を伝い、肩へ。


「「ここなら見晴らしもいい。さて、クルルガンナ星人ほしひとの使った兵器、対惑星文明兵器だな。これの原型を理解しているか?」」


A、「クルルガンナ星人ほしひとの、魂を加工したものだと。」


A、─「「そうだ。そして星の海を渡り彼方の文明を焼き滅ぼす。地球人だったお前でも夜空を見上げて、さまざまな星に思いを馳せた経験があるだろう?その魂の動きを兵器へと変えた。これを命球に女神が再現した、熱量として記録されたさまざまな惑星の生物に、同じ改造を施した。」」


「あなた」が頷くと、カタギリはシリンにホログラムのディスプレイを表示する。


「「これが通常のセンテルデ。その他にもだいたいの生き物には、あらかじめクルルガンナの蒔いた種が遺伝子のレベルで組み込まれている。その種の名前をキレアーサと呼び、キレアーサが撒かれた範囲は、おおよそ太陽系第三惑星人の支配区域の1千倍だ。」」


ホログラムのディスプレイには、球形に表示された命球と、ラプリマ他都市の場所が赤い領域で示され、その周りを緑の領域が覆う。恐らくはそれが、キレアーサの範囲。

カタギリはひと呼吸置く。


「「さて、このキレアーサが萌芽し、マブルを起こしてアイナファ ィ キレアーサとなる条件は何だ?」」


A、「命の危機にある時。」


A、─「そうだ。つまり、中途半端に殺すとマブルを起こす。」


カタギリは右肘を腰まで引き、ゆっくりと腕を突き出す。


「マブルを起こしたキレアーサは、基本的にランサーの無限熱量でしか殺せない。しかし、発動中に仲間が襲われた場合守る方法が無い。相手は素体がアーメフォーニだ。女神は出撃まで残り3日と言ったが、これは最適解でもあり危険な賭けでもある。現在目標群は都市構造をそのまま営巣に利用しているだろう。都市陥落から今日で2週間。営巣が終われば何が起きる?」


A、「餌を集め出す。」

B、「一個体が女王になる。」


A、B、─「正解だ。平均的なアーメフォーニキレアーサのコロニーでは、通常のものもだが、営巣完了と同時に一個体がもう一度マブルを行い、女王となり産卵する。」


シリンに浮かび上がるディスプレイには、膨らんだ一個体から、無数の卵が増え続ける。


「女王の産卵が始まれば、他の個体は餌を、カロリーを、更なる養分を集めることに注力する、かつての地球で確認された目標原型種のコロニーでは、女王以下の栄養を、蜜として産むための肉壺へと変化するものも存在する。最悪の場合は。」


A、「数百名が生きたまま、壺内で溶かされている。」


A、─「そうだ。これの処理、犠牲者の昇華は女神の邯鄲で行うしか無い。」


アロエの姿で遠くを睨むカタギリは、「あなた」へ振り向く。


「話が逸れた。再確認すると当初捕捉された数十体全てがマブルを起こしたと仮定しても、女王の警護に当たるキレアーサは数体、肉壺五体として残りは餌探しだ。もちろん不運な場合は巣へ帰還するものと鉢合わせもあるが、まず戻らんので計算から外す。そして直属騎士は露払い。つまり女王は本体に任せて、お前とカランコエだけでキレアーサを数体駆除すれば良い。気楽に行け。」 


A、「都市民と騎士達はどうなる!気楽に、気楽に敵討ちなんて…できやしない!」

そう、カヌメナーアに焼かれたもとの世界のためにこの世界へ来て、更に無数の死を見せられて、気楽に戦うなんてことは、出来ない!「あなた」は叫ぶ。


A、─「勘違いするなよ、新兵。」カタギリは即座に「あなた」の視界から消え、「あなた」の額を蹴る。「!?」反応出来なかった「あなた」に次の蹴りが、耳の上に。「この!」手を振り回した、腕を上げた「あなた」の脇腹へ次の蹴り。


「今のでお前は、3回死んだ。」


そう、カタギリに殺意があれば、「あなた」は額への蹴りの時点で死んでいた。

女神から、騎士の中でも最上級の、女神直属騎士と認められ、ガルデニアとカランコエという愛する2人のパートナーを得た「あなた」には、冷静な、客観的な視点が抜けていたかも知れません。


「落ち着いたな?では今のお前達の戦力を再確認しよう。」


2人を、この世界のヒトたちと、前の世界のヒトたちを、いずれ来たるカヌメナーアから守る前に、死ぬ。それを想像し身震いする「あなた」へ、カタギリはホログラムに次の図を示します。


「騎士ナイン・エルナ、経歴は知らんが、今のお前は知識と実践能力は段違いだ、が、圧倒的に実戦経験と、押し引きのタイミングを見計らうセンスが欠如している。」


ホログラムに表示される「あなた」のシルエットに、ゲームでよく見る六角形の図に項目と、その中心からの項目ごとにメモリが打たれ、数値が刻まれている。およそどの項目も平均的。5段階中3が4項目。評価の通り知識と実践だけ、枠外にはみ出している。


「アロエが提供してくれた、お前の知る遊びにこういうものがあるそうだな。」


A、「よくわかった。ちなみにガルデニアを、同じ図で表すとどうなるの?」

B、「うん、カコ、カランコエはどうなのかな?」


A、「こいつも来歴が不明だが、特にルリロー関係と格闘能力が高い。」カタギリには言えないけど、これは前の世界の、姉達の資質を受け継いだのだろう、と「あなた」は考える。歌はアネモネの、格闘は、ブラックバッカラの拳とアルストロメリアの踊りから。姉妹は引き裂かれても、ひとりじゃない。

B、「この娘はオレも任務中に見たことがある。ひたむきな子だった。またその性格が災いして恋人不在だったんだが。よく射止めたな?」カランコエを知っていると言うことは、カタギリはウサギでありながら、「あなた」達と年齢が近いのかも知れない。パートナーを褒められた「あなた」が、頬を指先で掻きながら見ると、カランコエは特に身体能力、脚走型のウサギを得るに相応しく、5++、内訳では踏破能力6相当だった。


カタギリは続ける。


「よし、把握が出来たな?まず要となるお前だ。もう一度伝えるが、マブルを起こしたキレアーサ体は通常のディスティノに耐性を得る。最も、準勇者のようにディスティノの不規則連続射撃だけで殺す化け物もいるが、お前にはお前に適した戦い方を見つける必要がある。」


そう、まだ「あなた」には全身全霊を込めた、たった一回の射撃が限界だ。


A、「ランサーはどうなんだ?」

B、「つまりウサギのカタギリで戦う?」


A、「正解だ。ただ半分だ。ランサーの使用中に、対象外の個体がお留守になる。」

B、「いい線の答えだ、ただもう一段、戦術を跳ね飛ばせる必要がある。」


顎に指を添え思考する「あなた」に、カタギリが言う。


「そう難しく考えるな。簡単だ。かんたん。」


そう言われると、更に「あなた」の思考は混乱する。「簡単、かんたん…。」


「そう、邯鄲じゃな。」


集中して対策を考えていた「あなた」は不意の言葉に驚いたかも知れません。


「何をゆうれいでも見たような顔を…。」


A、「さっきまで女神は魔王だったよね!?」


A、─「それは、都市民と騎士隊を思うての事じゃ。今はお主の問題じゃ、第九次元人ナイン・エルナよ。」女神は上体と首を逸らし、「あなた」を見下ろすように笑う。彼女の頭の左の角には、手紙が引っかかっている。


「ほれ、読んでみい。ワガハイも読んでびっくりしたのじゃ。」


手紙を受け取る。

「あなた」は読み始める。


「第九次元人の「あなた」へ。覚えてるかな?わたしは「あなた」に、さまざまな登場人物より強くなる、彼女ら、彼らを超える必要があるって言ったよね。本来、アイナファ ィ キレアーサは本編の主人公、アセデリラ・アルマコリエンデやダンサンカ ブーケが戦うほどの相手、それを「あなた」は、ガルデニアやカランコエを守りながら、ひとりで戦わなきゃならない、たったひとりの身体で、普通なら不可能だよね?だってやっとウサギに乗れるようになったひよっこだもん。けど大丈夫!目の前の女の子は、それを解決する方法を知ってる。またね。」


手紙から顔を上げた「あなた」の目の前には、変わらず女神の顔が、近寄って。


「ゆくぞ!」


女神の瞳が輝き、「あなた」の目は眩み、強くまぶたを閉じる。


「ナイン、なーいーん。」


どこか聞き覚えのある声がする。


「やっと起きたわねー。お母さん忙しいからー、畑でにんじん抜いて持ってきてー。」


どこかで見たことのある、お日様のような笑顔のお母さんが、編み物をしている。

揺さぶり起こされた「あなた」は、しぶしぶ起き上がり、目の前の扉から畑へ出る。

ひゅううう、少し強い風が吹いている。

ちょうどいいや。

畑の端の、休憩するために置かれた丸太の椅子に、作業をするおじさん達の飲んだお酒の瓶をいくつか並べる。

少し距離を取って、両脚を肩幅に広げて、ズボンのポケットに差し込んだおもちゃのリボルバーを手に取る。

つい数日前、馬泥棒と対決した保安官の真似をする。


A、「我は白檀の銃把を握り─。」


A、─「あなた」は誓句と共におもちゃのリボルバーを引き抜き、続け様にトリガーを引く!ぽん、ぽぽぽぽぽん!キィ、キキキキキ、ィン!そのコルクは全弾がそれぞれの並べた瓶に、命中しない。風が強い。コルクの弾丸は風に流される。


A'「はあっ、はッ!」


目の覚めた「あなた」は、呼吸が早まる。


A'、─「ほれ!まだじゃ!」


自分の腕に、噛み付いている。

少し頭の後ろが痛むので、さすりながら目を開けると、目の前には倒れたグラスと、溢れた褐色の液体が木製のテーブルを濡らしていた。


「やっと起きたのね、ナインさん。」


語りかけてきたのは、どこかで見たような、巻き髪がパンに見える女の子だった。


「ははははは、やっとかよナイン。」

「たった一杯で気絶しちまうなんて子どもだなー!」


周りのテーブルには、酔っ払った女たち、男たちが座っている。


「気にすることないのよ、ナインさん。」


巻き髪の女の子に宥められるが、子どもと言われからには、見せてやるしかない。立ち上がる。


「おうおう、ご自慢の早撃ちってか!」

「いーぜ!よーしお前ら、みんなでコップを天井に投げろー!ナインが撃ち抜いてくれるってよー!」

「そんな酔って撃てるかよー。」

「ねえナインさん、もうベッド行きましょうよ。いい子だから。」


笑い声に囲まれて


B、「激鉄を起こせ、我は─。」


B、─「そーれ!」女たち、男たちがそれぞれグラスを放り投げる。「あなた」は腰のホルスターからリボルバーを引き抜き、最初に投げられ、速度を失った瞬間のグラスが見えた。ズキュ!外す!トリガーを引いて直ぐに弾倉を逆手で弾き、ガキュウ!次のグラスに向けた弾丸もあらぬ方向に飛ぶ!ギュア!不慣れな動作で回転式の弾倉を回し、指が火傷で皮膚が破れる!引鉄を引く!ダキュ!銃把を握る腕が痺れる!ギィン!手首を握る!ダキュウウウ!最後のグラスは、砕け散らない!


B'「っぐ、はぁ、はっ!」


目の覚めた「あなた」は、まだ歯茎が震える。


B'─「よいよい、仕上げじゃ!」


じゃっこっじゃっこっじゃっじゃっじゃっ!ぷぅおおおーん!


視界が振動を、全身が赤い液体を撒き散らし振動を続ける!軌道の上を全速力で疾走はしる列車の屋根に、「あなた」はしがみついている!


「ナインー!」

「起きてー!」


どこかで見た、お日様のような笑顔だった女の子と、どこかで見た、巻き髪がパンに見える女の子が、叫んでいる!


ぷぅおおおー!じゃっこっじゃっこっ!

振動の中、見上げる、睨め上げる。


「ほお、まだ生きているとは。」


どこかで見た、厳しい顔の壮年のガンマンが、いる。「あなた」は立ち上がれない。


「君は、その身体で私の早撃ちに勝てるとでも?」


C、「うわあああ!」


壮年の言葉と「あなた」は、絶叫に合わせてホルスターからリボルバーに手を


C、─「遅い。」壮年のガンマンは、微笑みながら「あなた」の眉間を撃ち抜く。


C'「はぁ、かはァー!はっ、はッ!」視界に映るのが、列車の上ではなく、見慣れたハンガーのものとなる。

ど、っ。

「あなた」は、両膝で立っていられなくなり、膝からカタギリのシリンに倒れ込

ぎゅ。

「あなた」の上半身を、お日様の笑顔のような女の子と、巻き髪がパンに見える女の子が抱き止める。


「がんばったよー、ナインー。」

「はい、けど、まだまだです。」


ガルデニアとカランコエ、2人の腕と、胸の中で抱きしめられ、「あなた」の呼吸は次第に落ち着く。


「よし、どうじゃ?」


シリンの下から、女神の声がする。


「はい、ナインの反応、照準、射撃速度それぞれが最終フェーズでカンマ2パーセントほど上昇しました。」


それに続いてカタギリの、アロエの声。


「んむ、初回にしてはまずまずじゃの。」


「あなた」は、肩で息をするのをやっと終わらせた。


「落ち着いたよーじゃのー!ナイン早よ降りて来ぬかー!」


たすっ、べ、ちっ。ごろ、ごろ。

女神の言葉に答え、シリンから飛び降りて、着地に失敗し、転がる。


「なんじゃお主、もうへばっておるのかの?」


床に這いつくばったまま見上げる女神の顔は、


「お主が日々、超えると息巻いておった準勇者はの。」


まるで、


「元は騎士に適さないおさんどんじゃった。故郷を焼かれたあやつは、この特訓を七万五千三百回ほど連続して行い、その果てにディスティノターテと、それを可能にするぜネロジオを編み出したのじゃ。あやつを超えると言うからには、それを超えるものを編み出してみせい。」


まるで、魔王のようだった。


A、「次を。」


起き上がり、「あなた」は彼方の、カヌメナーアを睨む。


A、─「よし。」


女神の瞳が輝く。


どさっ。

もう、数える余裕の無くなるほど繰り返し、またシリンから落ちる。

しかし


「成長してきたのう。」


今回は、受け身を取れるようになった。

それから五千数百回。


った。

シリンから飛び降りて着地することが出来るようになった。

それから一万千五百回。


「次!」


叫ぶ余裕も出来た。


「カランコエの祖先が走り込んだ回数に並んだのう。」


畑で、おもちゃのリボルバーから飛び出すコルクが、どのように風の影響を受けるか、吹く方向と強さ、雲の流れから瞬時に計算出来るようになった。

それから三万三千回。


「ここで、お主が何故か知るクロユリは、黒死のぜネロジオを編み出した。」


酒場で、放り投げられたグラスの軌道を計算する前に、グラスを投げる酔客それぞれの、肩の、腕の、頚椎から腰椎までの骨格と筋肉の動きが読めるように、毎回変わる軌道を全て、計算出来るようになった。


そして

七万と五千三百と一回。


「準勇者は、既にディスティノターテを完成させておる。見せよ!」


じゃ、じゃ、じゃ、じゃこじゃこじゃこ!


揺れる列車の上に立つ。眼前のウラニシ教官を睨む。


「とことん、付き合うぞ。」


ウラニシ教官が今、初めて、期待の言葉を口に出す。彼が左腕を掲げると、もう一本軌道が敷かれ、しゅぽおおおおー!もう一両の機関車と車両が現れ、並走する。


「見せてみろ、ナイン!」


ざんっ!

教官はその車両に飛び移り、先頭の機関車まで走り始める!

「あなた」は追うように、「あなた」の車両を走り出す!


がた、ごとっ!じゃっこ、じゃこっ!


赤茶けた大地の上を、紅に陽を受けて燃える空を、「あなた」は駆ける!

揺れに脚を取られて、よろめきながら走る!

がぅん!

「あなた」の頬を、教官の銃撃が掠める!

踵に力を込め体勢を立て直し、駆けながら「あなた」は応射する!

しかし、お互いに揺れる列車の上、駆けながら、片腕だけでの射撃、当たりようがない!

ちゃ、ちゃららら!

回転式弾倉を叩き空薬莢を捨て、更に駆ける!

す、胸に巻いたベルトから弾丸を引き抜き

ちゃ、ちゃ、ちゃ、

がきゅうん!

弾丸を避ける!

ちゃ、ちゃ、ちゃ

弾倉に装填し、

か、ちゃ!

全力で駆けながらも丁寧に、回転式弾倉を戻す!

これまでの「あなた」は、風を読み、対象であるグラスとそれに運動のエネルギーを与える人体の動きを計算して来た。今お互いの駆ける列車と、軌道により振動を繰り返す列車、射撃しながら駆ける教官、追う「あなた」、全ての変数の中、確実に信用できるのは─。


A、「我は、白檀の銃把を握り─。」


駆けながら、「あなた」は誓句を唱え、教官の銃撃に応射をせず、自身の計算を洗練させてゆく。


B、「激鉄を起こせ。我は─。」


お互いに駆ける列車の上、紅い太陽の煌めきが、「あなた」の網膜を焼く。警笛が、「あなた」の鼓膜を麻痺させる。列車の振動が、「あなた」の身体の自由を奪う。


C、「我は、運命の主人!」


「あなた」の、夜空に見える星の数よりも多い経験から、全ての変数から、「あなた」の導き出した答えは─!


A、B、C、「ディスティナハルタ!」


A、B、C、─がん、ずきゅ、だきゅ、ばきゅ、ぱん、ばっきゅうううん!

駆けず、肩幅に脚を開き、銃把を握る手首を掴み、足指足裏足首からふくらはぎ、ももの筋肉、腱、足の甲、スネ、そこから腰、腹側、背中側それぞれ胴体の中央で交差する腱が肩甲骨、腕、肘、手首、指、そして引き金に力の流れを通し、六斉射により放たれた弾丸は、まるでその全てが意識を持って、獲物を狙う鷹のように、北に向かって飛ぶ渡り鳥のように、教官の胸元へ吸い込まれるように届く。


ゆっくりと、瞳に焼き付いた紅い太陽の煌めきが薄れ、ハンガーの薄暗い内部照明の灯りになる。「あなた」は全身全霊をかけての射撃を行いつつも、ゆっくりと呼吸を行い、姿勢を正す。


「んむ。」


たす。女神がシリンに飛び乗り、つま先で立ち「あなた」の頭を撫でる。


「ようやった。確かにお主は、お主だけのぜネロジオを編み出した。」


女神が瞬きをして、「あなた」の身体に、頭の先から首、胴体を通り、両手指、両足指まで、光が走る。


「名前を付けてやれ、お主のぜネロジオに。」


A、「飛ぶ鳥、鷹のように─、飛鷹ひよう。」


A─「んむ、自己と対象、状況を即座に解析し、必中であり必殺の多段連続攻撃へ繋げる。準勇者のものとは違い、明確に戦闘力で優っておるの。」


「ナインー!」


呼吸を整えた「あなた」は、駆け出してくるガルデニアを抱き止め、カランコエに微笑み、女神へ口を開く。


A、「時間はあと、どのくらい残っていますか?」


A、─「そうじゃの。あと四刻と少しじゃ。一刻を2人と過ごし、三刻眠るが良い。」


ガルデニアを抱いたまま、左腕で軍礼を行い、女神を見送る。


「私も、カッコよかったと思います、ナイン。」


アロエが「あなた」の肩へよじ登り、頬擦りをする。


きゅいい。

ウサギのカタギリ前面のレンズが回転する。「あなた」はカタギリのシリン側面の認識証、女神直属騎士を示すエンブレムに、飛鷹のぜネロジオを励起させて、名前を彫り、書き入れた。

「ナイン・エルナ」と。


「もう君を、侮る者も、訝る者も居なくなるだろう。」


ウラニシ教官が「あなた」たちの目の前に現れ、語りかける。


「学園で君が歩くたび、女神の下知を受けるたび、そうする者たちが居たな。」 


「あなた」は頷いて、少し照れくさそうに笑う。

その手の生徒に当時の「あなた」は掴み掛かり、逆に制圧されていた。


A、「もう、その必要は無くなりました。」

A、─「そうだな。」


教官は「あなた」たちへ指示を出す。


「心よりの食事を用意した。食べて、寝て、起きろ。」


「あなた」たちの身体が自然と、その言葉に緊張を緩め。


「そして戦え!憎き敵へ、炎を見せろ!」


ざっ!

「あなた」の命の炎を、復讐の炎を、そして奪われた命の炎を。

「あなた」たちは、軍礼をして、ハンガーの隣、食堂へ進む。


がららら。地球の日本でよく見た、擦りガラスに木枠を取り付けた引き戸を、右はじ中央の、木枠へ彫られた窪みへ指先をかけ、右から左へ動かす。敷居に埋め込まれた黒いレールの上を戸が通り、摩擦で木と石の音が鳴る。

うらにし、そう書かれたのれんに手をかけ、くぐる。


「おう、いらっしゃい。」


しゃ、しゃあ。

顔に深い、彫り込まれたような皺のある壮年の男性が、細身の刃物のようなものを、立方体の石材へ擦り付けて、研いでいる。


「どうも。三人です。」

「手前の帳場ちょうば、カウンターにお掛けなすって。」


手で示されたそこ、大将の目の前の、カウンターの中央の席、

A、ガルデニアのために、席を引く。

B、カランコエのために、席を引く。


A、B、─2人のために席を引こうとした「あなた」の手をガルデニアが優しく握り、カランコエが席を引き、「あなた」を座らせる。


「いーのー、ナイン。」

「そう、これからなんですから。」


遠慮しつつも「あなた」は腰掛けて、大将の差し出した湯呑みに触れる。相当に熱いお茶が注がれてはいるものの、手にしていたリボルバーのものとは違い、温かな熱だ、と「あなた」には感じられる。

隣にふたりも座り、ふうふうと吹いて、口を付ける。

ず、ずず。


「ふふー、歌い続けて喉がからからでしたー。」

「私もずっと走っていましたから、やっと座れましたね。」


そう、女神の邯鄲による特訓で、百を超えた頃から、2人の姿は別の生徒のものへと変わっていた。つまり、2人も女神の別の邯鄲の中で、戦い続けていたと言うことになる。


「おたくらまだ若いんだ。それくらいがちょうどいいんだ。」


大将、つまりウラニシ教官は、ずっと「あなた」と撃ち合いをしていた。


A、「教官は、身体に何も感じないんですか?」と「あなた」は尋ねる。

A、─「馬鹿言っちゃいけねえ、この歳になりゃ、若ぇのに泣き言言う姿は見せらんねぇや。」そう言いながら教官は、「あなた」たちそれぞれに、店内の照明を受けてきらきらと光る、卵焼きを提供する。


「んん、ねー、ナインー。」


お皿の前に置かれたお箸は使う経験がないので、スプーンで卵焼きを食べようとするガルデニアだが、つるつると滑ってしまい、「あなた」に助けを求める。「あなた」はお箸で器用に卵焼きを切り、ガルデニアのお口へ運ぶ。


A、「ほら、あーん。」

A、─「あー、んっ、んむんむ、んっ。おいしー!」


「あなた」は、この卵焼きが、焦げ目こそあるものの、実際には焼かれて作られていないことに気づいた。


「そうす。お察しの通りす。こちらは湯を張った鍋の上に、砂糖で溶いた卵黄と卵白それぞれを垂らし、熱を受け固まったものをそれぞれ交互に幾重に重ね、押して固め、冷やし、最後に軽く炙ったものになんす。」


だから、卵本来の甘みが。

そして、「あなた」は気付く。


A、「大将も、教官も地球人なんですか!?」この世界に来て、既に体感で30年とディスティナハルタ習得と飛鷹のぜネロジオ編み上げに10年を女神の邯鄲で過ごしている。ラプリマでの、寮での生活には慣れたものの、甘く、茹でる形で作られた卵焼きの優しい食感に、「あなた」の郷愁が、遠く近い故郷への気持ちが揺さぶられる。


A、─「いいええ、あたしゃただの、個人店舗再現会の一員だっただけですん。」大将はただ、年季の入った、シワの多い笑顔で次の料理を提供する。


しばらく舌鼓を打ち、拗ねるカランコエに口移しで料理を食べさせてあげて、ガルデニアにもせがまれ、その繰り返しで、次第に空腹が満たされたふたりは、そのままカウンターに突っ伏して、すやすやと寝息を立て始める。


「お客さんは、まだお休みにならねえんですかい?」


眠るふたりを居座敷へ横にして、借りた毛布をかけてあげると、大将に聞かれた。


A、「まだ、教えてもらう事があります。」

A'─「よござんす。あちらで女神さんが書き物をなさってる間でしたら。」


そして、「あなた」はウラニシ教官から、さまざまなことを学んだ。初めは戦術のこと、アーメフォーニの巣の構造のこと、他の種がキレアーサ体へと変化した際の初期対応のことも、そして話題はウラニシ教官そのひとの事へと移り、彼の初恋、挫折、開戦初期の記録、彼が編み出したぜネロジオのこと、彼の青春とそれからの長い星月が、血と炎に塗れたものであったこと、娘が産まれて、妻が龍に喰われたことも、その娘が、死ぬ事を理解していても、黒死のぜネロジオのために、クロユリのために一身を、愛を捧げたことも、それから─。


「ナーイーンー、おねむさんもいいけど、もー行かなきゃだよー。」


ガルデニアに身体を揺さぶられ、起こされる。

目が覚める。


A、「アロエ!」

A、─「はいナイン。まだ四半刻あります。」


見渡す。

カランコエはもういない、ウサギの調整をしているのか?

辺りを見回す「あなた」の髪に首元や制服の乱れを、ガルデニアが整えてゆく。


「ほーらー、ランサーのホルスター。」


外してカウンターに置いていたホルスターを、腰に付けてもらう。


A、「ありがとう。」

A、─「ふふー、お嫁さんいちごうだからねー。」ガルデニアは、話し方こそ今まで通りに感じるけれど、その手は、てきぱきと「あなた」の身支度と、「るーるるる、るー♪」アンカラを歌いながら、全てを行なっている。そう、「あなた」が繰り返す場面の中で飛鷹のぜネロジオを編み上げたように、ガルデニアも歌い続けていた、「あなた」のために。


A、「必ず、生きて帰ろう。そして、お姉さん達に会いにゆこう。」恐らくはウラニシ教官が用意してくれた携行糧食をポーチに詰めるガルデニアを後ろから抱きしめて、その首元に口付けを


「んんっ、ん。忙しいからキスは帰ってからだよー。」


「あなた」が目を閉じて首筋に顔を近づけた瞬間、ガルデニアの首が後ろに180度回転し、唇同士が触れ合う。ガルデニアの、能力制限が段階的に解かれ、身体構造の一部だけは、かつての第9クルルガンナ研究室式の対惑星文明兵器に戻っていた事を「あなた」は思い出す。そして

がららら。


「ナイン。あなたはしっかり見ていないと、キスばかりするのは知っていましたけど。」


カランコエの呆れたような表情と、その後ろに見えた影に状況を思い出す。


A、「行こう。みんな。」

A、─「みんなナインを待ってたんだよー?」「私はナインを引き摺りに来ました。」


ガルデニアが「あなた」に抱き付き、カランコエが「あなた」たちを手のひらに乗せて、駆ける。

た、と、て。

そんないつもの、かわいいカランコエの足音で、「あなた」とガルデニアはカタギリのシリンに立っていた。


「「コネージョ、ソルタンド、ナイン・エルナ。」」


アロエの髪色がエメラルド単色から、毛先がマゼンタの煌めくグラデーションへ変わる。カタギリのシリン内部の魂の炉心から、脚部の関節へ動力が伝わり、跳ねるようにシリンが持ち上がる。


「ゆーけゆけナインー。ちのはーてーまでー♪」


ガルデニアの、無邪気ながらも、「あなた」の本当の目的を表すような歌が、「あなた」ごとカタギリを、カランコエとそのウサギを包む。


「ゆけ!あめとつちを炎で染め上げよ!太陽系第三惑星人の、名の下に!」


ガシュ、キリリリ!

カランコエのウサギに、カタギリが跳躍、変形しシリン同士を接続する。


A、「女神直属騎士隊、フラマ セラタ、出ます!」

A、─ギャキリィィ!ガッ!その勢いを殺さず、カランコエのウサギを投げ抱えるようにカタギリが跳ね飛び、着地の勢いを初速としてカランコエのウサギが全力で駆け出す!

タタタタタタタタタタ!

春都市兼大型龍捕獲機ラプリマのルリローを抜け、日の入りが近付く、焼けた琥珀色の空を駆ける。


「タニガワのコントロールに全力だから、今は触らないで。」


汗を流すカランコエの額を拭こうとした「あなた」は、逆にたしなめられてしまう。

少し肩を落とした「あなた」にしがみつくアロエが口を開く。


「今の私なら撫で放題ですよナイン。」


A、「別に触りたいってわけじゃ─」「「感有り、例の直属騎士隊だな?オレ達は即応隊だ。鈍足どもには悪いが独断で先行させてもらった。既に近衛も数体駆除した。都市を解放する手柄と名誉は総取りさせてもらうぜ!」」


「あなた」たちの胸元、通信用のネクタイリボンから声が入った。


「「ナインー、あのヒト達の分も歌った方がいいかなー?」」


シリンを連結したタニガワとカタギリのコア中心で歌い続けるガルデニアから通信が入る。


A、「彼らも即応とはいえ、女神に認められた騎士隊だ。彼らを信じよう。」

B、「彼らだけでも、キレアーサに対処出来るのなら、それでもいいさ。」


A、B、─「あなた」はその通信の声に覚えがあった。

かつて、学園で女神から何の変哲もない挨拶をされた時、来歴不明の「あなた」を訝しんでいた生徒だ。その後の嫌味を、「エルヴィエルナなんてゴミ捨て場じゃねえか。そこの生まれかよ。」ただ笑って流そうとしたガルデニアが不憫過ぎて、「あなた」は掴み掛かった。「あなた」を地面に押さえつけて制圧したその生徒。名前すら知らないが、その声と性格は覚えていた。「なぜだ!優秀なぜネロジオを持つ、恵まれた家系のオレでは無く、なぜ女神はこんなボロ雑巾共に目をかける!」頭を踏みつけられ、「あなた」自身ではなく、笑った顔のまま泣いているガルデニアを、彼女の姉たちを侮辱された時の記憶が、「あなた」の判断を後押しした。


例の、巣穴へと改造された衛星都市の、濃い黒のシルエットが見えて来る。


「「聞こえてるぜ式典用のお飾り騎士ども!女神の自己満足のために騎士になったとは言え、殊勝な心掛けだな!今からラプリマに帰ってもいいんだぜ!」」

「「あなたたち!独断で─むぐっ!」」


彼の言葉に反応したカランコエの口に手を当てる。どうやら、即応隊には特別優秀なアンカラが居るらしい、こちらの隊内通信まで聴かれていた。

とんとんとん、つーつーとんとん、とんとんとん。

カランコエの太ももに人差し指と中指を揃えて当て、速度を落とさせる。


A、「貴官の進言、痛み入る。」

A、─「「はははは!通信そのままにしておけ!オレの栄光を聴かせてやる!」」


衛星都市のシルエットが大きくなる。

ギャリィ!

タニガワの上でカタギリが回転し、タニガワの前方を蹴り、ブレーキとなる。

ずざざざざ。

カランコエに見えるように左手を肩の高さまで上げ、強く握り、肘を落とす。

その号令はガルデニアにも伝わり、機体を包むアンカラだけでは無く、定期的にルリローの波が、ウサギを中心に発生する。

地球では潜水艦の索敵に用いられるピンガー、アーメフォーニまたそのキレアーサ体は地中を掘り進む能力を有している。音の性質として、地中では伝わる速度が早いため、こうして短間隔での索敵が必須となる。


「「ははははは!女神直属のぼろ雑巾は慎重に過ぎる!臆病者ども!」」


どん、ちゅいいい、だん。


激しい砲撃音と、扇形に展開した陣形でランサーの一斉励起音、どうやら即応隊は、都市防衛に当たる師団ほどの戦力を用意したらしい。


「「ナイン!」」


その言葉に反応し、カタギリを限界まで斜めに跳ねさせる!


ばくぅん!


「オウブブゥエ、ルプぇプレうぅむ。」


カタギリの立っていた位置、そこを中心として、半径3レグア、地球では162.7776平方キロメートルほどの地面が、飲み込まれる!

それよりも、眼前に!


A、「ャ、─ガョイェヲン!」


A、─意識よりも先に、訓練と生存本能だけで励起させたランサーで!


「エメぶぶブゥれ?うぇべぶん。」


空間を圧搾する、巨大な口のようなものを、切り裂く!


A、「はッ、はッ!」


A、─手応えは無かった。


「ナイン!下!」


超大型のアーメフォーニキレアーサが、口を開けてカタギリを待つ!


A、「飛鷹!」


A、─「あなた」の編み出したぜネロジオは、タニガワを抱えたカタギリの、命球の重力による自由落下に指向性を加え、閉じるキレアーサの口吻、牙を交わし、中空で跳ねさせる!


「心臓が私にあったら、止まりそうです!」

「「それよりナイン、さっきどうしたのー?ランサーぶんぶんって。」」

「早過ぎて私にも見えませんでしたけど、アーメフォーニ以外にも何かいたんですか?」


アロエの頭を指先で撫で、「あなた」は即座に判断する。

アロエ、ガルデニアとカランコエには、あれが認識出来なかった。

つまりあの一瞬だけ、カヌメナーアの介入があった。


A、「我は、白檀の銃把を握り─。」


A、─「あなた」は思考を切り替えて、都市区画を飲み込むほどの、巨体を完全に表した超、超大型のキレアーサ、アーメフォーニ女王に向けて、黒鉄の方陣を展開する。練り上げられるそれは、「あなた」が製造した、熟練不足なための無骨さと、機能美を優先した銃身を模倣して構成される。


B、「激鉄を起こせ、我は─。」


B、─炎熱の方陣を展開する。多重に、では無く、火薬として量や成分を変えるのでは無く。純粋な殺意のみを形にする。

キィ、ン

タニガワとの接続を解除し、アロエとガルデニア、カランコエを残す。

もう、補助輪として、ウサギと「あなた」を接続するために、アロエの力は借りる必要が、無い。


C、「我は、運命の主人!」


C、─ぱん、あるいはずぎゅううん。ガルデニアのアンカラに守られているアロエ、カランコエと「あなた」には、そう聞こえた。

しかし、自尊心だけで独断先行により、本来の所属騎士、アンカラを含め外部の傭兵騎士隊を女王に喰われた、離れた場所で高みの見物をしていた即応騎士隊の隊長、経験の浅い騎士の眼球と鼓膜は、破裂した。


即応隊唯一の生き残りとなった彼を保護し、ガルデニアがアンカラで包む。


「わーおー、みごとにやぶけてるねー。」

「いちおう伝えますけど、独断による先行で隊員と外部の傭兵騎士を死に追いやった責任は、女神や中央防衛委員会に通信、交戦記録を提出しますので、しかるべき裁定を受けてくださいね。聞こえないとは思いますが。」


えとっとっとっとっ。

カタギリが、ヒトの歩く速度で短く跳ねる。

カタギリのシリンを連結したタニガワの上で、ガルデニアとカランコエは、保護した彼、五感が破壊された彼に、これまでの意趣返しをするように話しかけている。

けど

そんな事は、どうでもいい。

肩に乗るアロエへ、アロエが接続するカタギリへ、声をかける。


「カタギリ、騎士の先輩であるあなたに質問をしたい。」

「何だ?改まって。」


エメラルドの髪にマゼンタのグラデーションが入り、アロエの身体を借りたカタギリが答える。


A、「ランサーの効かない相手を殺す方法はあるか?」


第九次元人の「あなた」へ。④「実戦」 了


次回予告!

キレアーサ体を駆除する任務の最中、ついに第十三次元人カヌメナーアの介入を認識し、必殺のランサーで切り掛かった「あなた」!しかしその光の槍は空を切り、対策を探す「あなた」を置き去りに、「ダリア」の世界は来るべき破綻に向かい、時計の針をひとつ進める!

次回、第九次元人の「あなた」へ。

⑤エルベラノ攻略戦、裏。

読んでくれなきゃ、ディスティノしちゃうぞ、ばっきゅーん!


燃えた琥珀。

焼けて、空間そのものが、その空間を構成する全ての物質が、太陽そのもので作られた海に焼かれた空間を歩く。

て、て。

硬い足場、それだけ硬く、焼かれてしまったひとびとの肉体、魂。この辺りは人口が密集していたから、そこにいたヒト達は、あっという間に焼かれ、炭のようになってしまった。もう足の置き場もない。「ごめんね。」わたしは、「あなた」たちに何も出来なかった。ただ、この世界の生んだ種をひとつ、次の世界に送り届けただけ。焼かれたあめとつち、その間にある全てのいきものの、痕跡の上を歩く。

て、て。

ここには確かに、さまざまな生き物が、ヒトだけではなく、舞ちゃんに呼び起こしてもらった生き物たちも。「ふう、う。」足を止めて、ゆっくりと息を吸って、息を吐く。わたしはまだ、生きている。この二次元の「ダリア」の世界に。ただ可能性だけが広がっていた世界に、電子のインクで、タイプで世界を描いたものとして。

て、て。

足を上げる。足を下ろす。この世界と、あらゆるわたしの被造物は焼かれてしまった。けど、いつか、この世界が灰になっちゃうんじゃないかって予感はあった。それがわたしにこの世界を描くヒントをくれた、第十三次元人と同じ、別の第十三次元人によって。わたし自身の生まれて、存在している世界もまた、高次の作家が描いた世界なのだとすれば。わたしが今こうやって、この焼かれた世界を歩いているのも、描かれたお話の一部なのかも知れない。この道のりの結末を描くことは、わたしには一瞬でできる。けど、わたしのいる四次元の世界でわたしは、既に下半身の機能が喪われてしまった。せっかくこの世界で歩けるのなら、もうしばらく歩いてみよう。それが、あらゆる命が炭化したものの上だとしても。

て、て。

初めて歩いた記憶は、たぶん生まれてから一歳になる前くらい。這いつくばって進んでいたのが、少しずつバランスが取れるようになって、歩行器を使って歩けるように。この頃、天井を見る時間が減ったのを覚えている。だんだん、歩行器を使わなくても歩けるようになって、玄関を出て、おうちの隣のあぜ道を通って、畑に出る。少し遠くには冶金の工場があって、そこからは大きな音と、まだその時は理由がわからない、青白い輝きがちらちらと見えていた。足元には、その時は首の辺りまで伸びたさまざまな、名前も知らない草が伸びて、黄色や白のお花が咲いて、水色のような空、にっこり笑うお日さまの下、草がいっぱい生きて、てんとう虫やちょうちょが飛んで、転んだ目の前には、ありさんがいた。そして、真っ赤な花。


「それはね、ダリアって言うんだよ。」


燃えて崩れた木と土の、建物の瓦礫を手に取り、横に置く。それでもだいたいは、あまりの熱と風によって、触るだけでほろほろと崩れるようになってしまった。そう、この世界は燃えてしまったし、物理法則なんてあったものじゃない。けど、それでもこの、真っ白の電子のキャンパスに、この世界を描くのは、わたしだ。すべての、太陽系第三惑星人の頭上に現れて彼女わ、彼らを焼いた、第十三次元人のもたらした、真っ赤なインクの太陽は、わたしがダルハルカで彼方へ送った。命球のクルルガンナ地域には今、乾いた風だけが吹いている。蓮坂舞さんに過酷な、短い一生を経験してもらい、そして命球で、女神ロータスとして、魔王ペンディエンテとして、たくさんの生命、その始まりとその終わりを、見つめ続けてもらって。彼女にはわたしの体験を、そのまま追体験してもらった。病気も、両親も、そして、第十三次元人にアクセスされた経験も。


「かんたん。」


全てが一点に集約する命球、ブラックホールの中でなら、意識体である蓮坂舞、作者のわたしは、まばたきだけで、全ての空間と時間の操作が行える。それは被造物の全てを。ちょっと表現がおかしい。女神が作ったんだから、製作物。にも適用出来るよね。わたし達四次元の生き物は、その歴史の、立って歩き始めてから、なにものか、によって作られた、またあるいは高次のものに存在を観測された、と言う形で宗教観を育てた。だから被造物って言葉や概念はしっかりしてる。造られた。お母さんやお父さんに産んでもらった。わたし達は被造物。だからこの世界は、この世界の中で女神となった舞ちゃんが定義した、太陽系第三惑星人は、被造物じゃなくて、製作物か製造物。でも工業的な意味合いが大きくなっちゃうから、産物かな?けどわたしも、舞ちゃんも赤ちゃんを産んであげるって経験も、お腹に発生した経験も無いから、やっぱり産物って言い方は難しい。


「んむ。」


わたしのまばたきと共に、女神ロータスが再生される。この世界では2人め。彼女は辺りを見回す。


「クルルガンナの時よりも、ひどいね。」


何が原因かは、彼女にはわからない。けど、何が起きてこうなったかは、予想ができる。崩れ折れそうなマイちゃん2を、ぎゅっと、強く優しく抱きしめて、背中をぽん、ぽん優しく叩く。


「だいじょうぶだいじょうぶ。あなたはわたしで、わたしがいるってことは、あなたがいて、力を使えるってことだから。」


彼女の、気が済むまで抱きしめてあげて。


「お主は、よいのかの。ここに、この世界にとどまって。」

「うん。やることいーっぱいあるからね。あなたも、わたしも。」


さっきまで掘り起こしていた、焼けた木の奥から、焼け残った琥珀を取り出す。きら、きらと傾けるたび、黄色の中身が、暗褐色にも見えて。


「お主、それは。」


ひとつずつ、だいじに手渡しで、壊さないように、割れないように。


「あなたの見たことのある映画にも、あったよね。」

「んんむ、原理的にも、可能とはおもうのじゃが。」


さらにもうひとつを取り出して、抱きしめる。


「すっごく不本意だけど、この世界の、この子達は焼かれて…けどね。」


しゅぱああああ。


「わたしは、本来のあなた達が立ち向かう相手、クエーサーズとの決戦のために、先に、この世界に伏線、楔を打っておいた。」


青い線が無数に走り、その線は次第に、女の子の姿を形作る。


「ひめ、こ…。」


女神が、ただの女の子のように、舞ちゃん2が手を伸ばす。しかしその、青い情報体に直接触れることは、出来ない。


「とっておきのずるっこ。第十三次元人なんかにも消せない。未確定なままの状態なら、なんとでも解釈できちゃう、ほんもののずるっこ。んー、わたしが言うのも味気ないから、あなたが説明してあげて。」


青い彼女の後ろには、さらに青い線がたくさん走り、ラプリマの街並みを再現してゆく。


「いいんですか!?」

「うん。」

「どうなって、おる、のじゃ。」


青い線だけで構成されたラプリマの、その街並みには、同じく青い線で構成されたひとびとが、歩いて、笑って、怒って、何気ない、ふつうの生活をしている。お友達の、幼馴染の同級生が、女神の視線に気づいて手を振る。


「トモ!トモもそこにおるのか!ワガハイも!私もそっちへ連れてって!」

「舞さん2舞さん2、落ち着いてください!いいですか!これは天国でも奇跡でも魔法でもありません、種も仕掛けもあるんです!現実なんです!物理法則の延長線です!もともと私が地球から命球に来た時の、熱量保管技術の応用です!ささ、どうぞ作者おおとろべふこさん、この技術のかっこいい名前を、舞さん2に教えてあげてください!」


そっと見守るつもりだったけど。

ナインへの手紙を書いていたわたしは、顔を上げる。

キラキラの笑顔でげんきよく!


「ゆけ、ゆけ、刹那トラッカー!」

「はい、舞さん2も!ゆけ!」

「はい、舞ちゃん2!ゆけ!」

2人で「刹那トラッカー!」

「…。」


ひゅううう。

少し気まずい沈黙。


「のうのうお主よ。」


女神2がわたしの肩をつつく。


「なによ。ノリわるわるこ。」

「それはよいわ!それより、もっとかっこいい名前は無かったのかの?」

「はぁ!?かっこいいでしょ!あーなーたーの!このかわいいお洋服もかわいい髪型も尖ったお耳もキラキラさらさらのプラチナロングヘアーも!わたしがデザインしたの!だから、ゆけゆけ刹那トラッカーもかっこいいの!」

「ええいもうよい!わかったわ!それで、なんなのじゃ、この姫子の状態は!ラプリマは!」

「それを説明するのはとってもかんたんだけど、今言っちゃうと面白くないよね?」


ここまでを書き留めて、わたしは、手紙に「第九次元人の「あなた」へ。」と書き添えた。

っていうわけで、第九次元人の「あなた」へ。こっちの、元の焼かれた世界は、わたしがインチキするから、ぜったいだいじょうぶ!って言えない、インチキも出来ないぎりぎりの、野球で言ったら一回裏で10たい0のスリーストライクツーアウト、たぶんフルカウントってやつ。コールド負け5秒前。そんなぎりっぎりの状況ではあるんだけど。今までの伏線回収でなんとかするから心配しないで。わたしお料理もできるから、みんなのお食事も用意できちゃうよ。それと、この手紙を読んだ「あなた」は、瞬きすると、このお手紙の内容はどうでもよくなっちゃうから。はい、かーんたん。  


手紙を読み終える。畳む。どうでもいい話だった。

いちおう、女神に転送しておこう。


「はい、こちらお預かりしました。」


たたたたた。レタ ラ リベの情報配達員が駆けてゆく。

隣には元、レタ ラ リベの職員がいる。


A、「カコは、もうあそこに戻らなくていいの?」

A、─「はい、もう「あなた」だけのパートナーで、フラマ セラタの一員ですから。」


「こう直球に言われると、さすがに照れる。

純真無垢な、絵本の中のお日さまのような笑顔で、直球で好意を伝えてくるガルデニアと違って、「あなた」より少し年上のお姉さんに、しっとりと─。」


「あなた」の目の前で


A、「言われると、やはり気恥ずかしい。なんて思うわけないじゃないですか!マドカさん!」


「あなた」の心を勝手に解釈して代弁していた、目を細めて微笑むお姉さん。もっとも、腰から下が透けている、幽霊お姉さんのナナカマドが、情緒たっぷりに言う。


A、─「ええー、だって私から見たナインさんの顔は、照れてましたよー?」にやにやと、にんまりとした、しあわせいっぱいな笑顔で「あなた」の目を見つめる。


B「悪霊退散悪霊退散…。」「あなた」は腰のポーチにしまっていたビンの塩を、掴んで投げる。


B、─「ああっ、気分的に消えたくなっちゃう〜!」


先のキレアーサ体を駆除、都市解放の初出撃が終わってから、ナナカマドさんは「あなた」たちにもう1段階、砕けたように接してくるようになった。

「騎士の、騎士隊の出撃は、初戦が一番死亡率が高いの。」

無謀な命令で命を落とした、ある意味犠牲者たちへの葬儀で、ナナカマドは「あなた」に告げた。

ひゅうう。

ラプリマを見渡せる小高い丘、集団墓地での会話。

「どんな新生騎士隊の隊長も、けっきょくは新人だから。」

既にその隊長は、責任を免れず、邯鄲を受けて柱となった。

墓地の葬列、その先頭では女神が、衛星都市民、方面防衛騎士隊、そして即応騎士隊の名前をひとりひとり、102万と4千381名の名前を、邯鄲の時間圧縮を使って読み上げる。

A、祈る。

A、─春の日差しを見る前に死んだ、彼らの命のために。


その後で、目の前で「消えちゃう」なんて、冗談だとしても、言われて「あなた」は─


A、「消させない!」両手を握る。

A、「わ、わ、は、い…。」ナナカマドは「あなた」の瞳をしっかり見ていない。何か隠し事でもあるかのように、目が泳いでいる。


B、「何があっても、あなたを消えさせたりしない、ナナカマド!」

B、─「ま、マドカって呼んで、ください。」彼女の顔は、泣きそうに見えた。


C、「あなたはこのナインが守る!マドカ!」

C、─「はい、ずっと「あなた」のおそばにいます。」ぎゅ、抱きつかれる。心なしか、彼女は震えている。きっと、長い時のほとんどを、一人で耐えてきたから、心細かったんだろう。そう「あなた」は思い、その細い肩、腰を抱き締める。


「ナインさん…。」


マドカが目を閉じて、身体を「あなた」に預けてくる。


A、「マドカ。」そう力強く呼びかけて、顔を。

A、─「はぁ、ナインさんはついに、私の見ているところでも他のヒトとキスをするようになったんですね。」「うんうん、けど、ナインとはじめてチューしたのはわたしだからねー。」


振り向くと、カランコエのじとーっとした目と、お風呂上がりのガルデニアの頭があった。


「それでは、お風呂でエンゲージしましょう♪」

「待ってください!ナナカマドさんにはお話があります!ナインさんはお一人でどうそ!」


すごい目付きのカランコエに指示をされて、逃げるようにお風呂場へ向かう。

選抜騎士寮のお風呂場は、寮の普通の部屋より広く、洗い場も浴槽も、足を伸ばして寝転がれるほどには広い。

ぱたぱた

ガルデニアの首から下が、衣類を着けていたので手伝って、「あなた」は一人、制服を脱いだ後に浴室へ入り、洗い場の椅子へ座る。

かぽーん。

この寮自体は、ナナカマドさんの生きていた時のものを、再現してある。

目の前の四角の鏡には、誰かの爪痕のような、擦り傷が付いている。水色のタイルは、「あなた」たちが入寮してすぐ、割れていたのを貼り替えた。薬剤を練り合わせて、床面に塗り、タイルを貼って、乾かす。それは特有の刺激臭を伴うので、窓を開けて換気もする。浴槽にも、恐らくクロユリの垢がこびりついていた。彼女に割り当てられた部屋の掃除もした。最初は、愛する者の生命を喰らい発動するぜネロジオの、苛烈な性質によって彼女の心は擦り切れた、だから清掃もしていないものだと思っていた。「あの子、ほっといたらコミック本を広げて、お菓子食べたまま、お腹出して寝ているんです。」そうナナカマドさんから聞いて驚いた。そして、数多の命を愛して、愛されて生きた、黒死のぜネロジオを持つ騎士も、一人の女の子だったと知った。黄色の風呂桶に、緑色のキャラクターが描かれている。これはまた、別の生徒が割ってしまって、その弁償として買って来たもの、だそう。この選抜騎士寮は、本来女神直属騎士を育成するためのもの。つまり、先の騎士が死ぬことでしか、新たな入寮者が入る事はない。部屋の数は多いけれど、だいたいが、一人の騎士につきひとつ。そして、ここで日々を過ごした騎士は、その全員が彼女を、ナナカマドを置いて行く。彼女は、そんな彼女ら、彼らの生きた証、エピソードを、全部覚えている。


A、「ふぅ。」

A、─少し考えすぎたかも知れない。


浴槽から湯気は立っている、浴室内を湯気が満たしているものの、少し身体が冷えた。

風呂桶を湯船に浸けて、掬う。

ざぱあ。

頭から被る。冷えて固まった肩に背中、背骨から腰に、ほどよい熱さのお湯が心地いい。

この浴槽のお湯も、寮の裏の木を、その枝を切り落とし、ある程度乾いたものを、枝の先に生えた、針のような葉を先に燃やして、次に割った木、薪を燃やす。それらの熱で炊いたものだ。

「お湯加減、いかがですか?」

外の薪割り場から、ナナカマドさんの声がする。

A、「ありがとう。気持ちいいです。」

A、─「それは良かったです。お背中お流ししますね。」ひやりとした、幽霊特有の冷たく白い手が「あなた」の肩に乗る。しまった!清め塩を持ってきていない!

「そんなに怖がらなくても。地縛霊が背後霊になるだけですから─ディスガス ニン♡」

かぽーん。


「はあ、今回は見逃しましたけど、次は私も入りますからね。」

「みんなで入るのー、楽しそうだねー。」


雪を一度沸騰させて、適度に冷ました白湯を飲んで、ガルデニアが笑う。

また、本気で守りたいヒトが増えてしまった。いや、これからだ。

ラプリマに、クルルガンナに、そしてその領域の外に出た、ガルデニアの祖先のようなヒト達も。

「るるるりりうむ、でゅむ、ううれれるむぶえ?」

あの時、初めてカヌメナーアの存在を、「あなた」は直接目にした。

しかもそれは、思い返すたび、違う言葉を、違う表情をする。だが、その理解できないはずの言葉が、その表情と言い方で、意味は恐らく、理解できる気がした。

「前の世界でも逃げたように、この世界でも逃げるのか?」

あれは、超、超巨体のキレアーサ体の顎を回避するための、必要な行動だった。

だがそれは、この「ダリア」の世界と「あなた」のいる四次元世界全てを俯瞰する存在、第十三次元人からすれば、逃げたように見えるはずだ。虫かごに入れた捕食者のカマキリから、か弱いちょうちょが逃げるように。それは命を繋ぐための行為であっても、理由を知らない、理解する必要も、その気もない存在からすれば、逃げたようにしか見えない。

さらにあれは、ランサーがいっさい通用しなかった。いや、テレビジョン、スマートフォンの画面に映った映像の内容が、どれだけ危険でも、どれだけ悲しそうに見えても、画面の中の出来事。そう、喜劇であれ悲劇であれ、それは劇。究極的には無関係。「あなた」の振りかざした、無限の熱量を放つランサーであっても、画面の中の出来事。「そうだ。元々のお前がアロエを、彼女の意思と無関係に、不良品として女神に返品しようとしたように、そのカナーン?というのも、お前のランサーなど、本人の生命活動には、無関係なのだろう。」そう、ラプリマへ帰投の最中、カタギリに判断された。あれをこの世界に関わらせないようにする、撃退する、前の世界を焼いた責任を、罰を取らせる。「いいやナイン。それは立場が上の、管理する存在が下す、という視点からのものである。女神が邯鄲で自害、他害を行った者の魂を光へ変えるように。つまり、無法の世界で弱きものが抗う場合には─。」ウラニシ教官は、そう区切った。彼には別の例えで話してみたが、その言葉の裏にあるものを、すっぱり見透かされたような言葉が返ってきた。


「あの、そろそろ私も抱きしめて欲しいのですが。」

「は!?エンゲージした順番だと私が先です!」


ナナカマドさんとカランコエ、2人の声に我に帰る。

その奥では、ウラニシ教官がテーブルに肘を突いて、頭を抱えている。


A、「すみません教官、お呼びしたのにおもてなしできないで。」

A、─「違うんですナインさん、ウラニシくんは、私がエンゲージしたのがショックだったみたいで。」


「教官からしたら、守れなくて幽霊になっちゃった憧れの先輩が、教え子とエンゲージをキメちゃって甘酸っぱい青春を謳歌してるんだもん。そりゃフクザツですよね。」

「きょーかんもマドカさん好きだったのー?」

「違い、ます…。」

「えーウラニシくん、私の事好きじゃなくて嫌いだったんだー?」

「いえ、好きです…。」

「ふむふむー、これはフクザツだーねー。」


いじられる教官に同情しつつも、「あなた」は夕食の準備にかかろうと、


「お主ら…。」


その来訪者は、信じられないものを見るような目で、「あなた」たちを見渡していた。

女神ロータス。作者おおとろべふこと同じ経験を与えられ、命球に送られた、「ダリア」の登場人物であり、騎士である「あなた」の上司、最高司令官にあたる。


びしっ。

先ほどまでふにゃふにゃしていた、「あなた」を含めた全員が軍礼を行う。踵を揃え、左腕の肘を肩の高さまで真横に上げ、拳を握り胸に当てる。手の甲は、女神に対しては女神へ向け、それ以外へは頭上へ向ける。


「よいよい、そう大層な話でも無いわ。」


そう言って、女神はテーブルの椅子をひとつ引き、てん、と深く腰掛ける。

そんな訳がない。

先のキレアーサ駆除出撃から帰投の最中、「春の一月、クルルガンナ全域イ食事件」が起き、解決された。

未確認惑星文明種ベヌ ナ ラ ベンターの、たった一体の子どもの歌の練習が、引き起こした大惨事。ヒト的被害は最小限だったものの、エルベラノを除く各都市ダクトロの見解では、ひとつの首からななつの頭が生え、その歌声は太陽系第三惑星人の知覚、精神に食欲の過酷なまでの増大という、深刻な症状を引き起こす。何よりも脅威なのは、その全身。およそ、地球の属する恒星、太陽に相当する巨体。それが、そのスケールのまま、子どもとして走り回り、歌を歌う。女神の令により、交戦を望むものには、太陽系第三惑星人としての全ての加護やウサギを剥奪した上で、それを認める、と邯鄲により魂へ刻み込まれた。


A、「ラベンターの、話ですか?」

A、─ぱこっ。ふわふわの恐竜スリッパで頭をはたかれる。


B、「なんでですか!叩かれる理由ありませんよ!」

B、─「お主はせっかちすぎるわ!最後まで聞かぬか!」


「おー、女神さまそのスリッパ選んだのー。かわいいよねー。」

「んむ。ガルデニアが買い揃えたのかの?よい趣味じゃな。」


きゃいきゃいと話し始めたふたりを見る「あなた」の身体をナナカマドがすり抜ける。

ごとり。

わざと大きな音を立てて器が置かれる。


「お待たせいたしましたー。ぶぶづけどすえー。」


いつものナナカマドの声ではなく、やけにドスのある、圧の強い声。よく見ると、笑顔のようで笑顔ではない。


「気が利くの。急いておったゆえ、ちと小腹が空いておっての。」


かちゃ、ちゃ。


地球のとある国、とある地域の、「早く帰って。」という意味のぶぶづけを、女神はスプーンで掻き込み始める。


「ロータス。」


周囲の熱を奪って冷やし始めたナナカマドが、女神を呼び捨てにする。


「むぐむぐ、ナインとのお熱い時間は後にせよ。フラマ セラタに令を出す。」


ナナカマドの真意を知った上で、女神はぶぶづけを食べている!?


A、「やはりラベンター!?」

A、─「2度は突っ込まぬぞ。ぱりぽり。」


女神はお漬け物を音を立てて齧り、お茶を啜る。


「ずず、ふう。さて、火急じゃが。」


女神は直立不動の姿勢のまま、軍礼を続けているウラニシ教官をちらりと見て。


「ナインの期待するベヌ ナ ラ ベンターの件の前に、実力だけで直属騎士隊となったダンサンカ ブーケを主軸に、エルベラノからドゥモナ・ディエナを駆除するのじゃ。」

「女神、それは!」

「焦るでないウラニシ。」


女神は一本の、切られていない柴漬けの先をお箸で掴み、持ち上げる。


「さてナインよ。お主にはドゥモナ・ディエナへの記憶があるとも、無いとも聞いておる。」


女神は更に、食べかけの、短くなった柴漬けを、爪楊枝に刺して、同じように持ち上げる。


「この長いものをディエナ、短いのを子、イングラとしよう。どちらを先に叩く?」


A、「当然ディエナ本体から。」親から叩き、子は後で。戦術の基本だ。

B、「まずはイングラから。」先に邪魔者を叩いて、大物をじっくり料理しよう。


A、B、「それは当然、まずは─。」そう口にしようとした「あなた」に、「ダリア」本文での記憶がなだれ込む!

ドゥモナ・ディエナは子イングラ、またその子、通常のセンテルデと1:3:数千という比率を常に保つ特殊な家族であり、群れ。その対処には─。


C、「ダンサンカ ブーケの主力がディエナ以下イングラを駆除すると同時に、子体を全滅させる必要があります。家族を瞬時に、皆、殺、し、に、皆殺しにす、る、必要が、あり、ます─。」


C、「ナイン─?」「ナインさん。」「ナイン、さん?」

ガルデニア、カランコエ、ナナカマドがそれぞれ、「あなた」の様子が普段と違うことに、気が付いた。手を震わせ、声を震わせ、絞り出すように出すその声に。


「やはり、手紙の通りじゃの。」


女神が、「あなた」の目の前の、不動の姿勢を崩さないウラニシ教官と、先ほどまで鬼の形相だったナナカマドの、ふたりの腕を叩く。


「こやつはかつて、クルルガンナ解放戦の始まりと同様か、あるいはそれ以上の地獄を見てきておる。飛鷹のぜネロジオを、ディスティナハルタまでをも、いちから編み出さざるを得なかった、地獄をの。頼むぞ。」


女神は振り返りもせず、肩で風を切るように寮を出てゆく。

ど、さ。

全身の力が抜け、かちかちかち、歯が鳴り始める。視界の焦点が合わなくなる。


A、「あ、わ、ころ、す。こ、ここここ、こ、ころす!」

A、─「ナイ、ン─。」声をかけようとしたガルデニアを手で制止し、ウラニシ教官が何かを囁く。


B、「─ッはー!殺す、母親も、父親も、姉も、兄も、妹も、弟も!」

B、「ナイン、さん─。」居た堪れない気持ちで、手を差し伸べるカランコエをナナカマドが抱き止める。


C、がん、がん。「殺す!一瞬で殺す!理解する前に!気付く前に!抵抗する前に!ただ生きている命を!殺す!ラプリマのヒトたちのように!殺す!ガルデニアのお姉さん達のように!殺す!ぼく/私が!アイツの、カヌ☺️規制されました☺️のやったように!」

C、─バキィ!床に頭を打ちつけて、自分を抱きしめて絶叫していた「あなた」の頬を、教官の拳が殴り飛ばす!


ど、さ、


「そう。殺すしか無いのです。ナイン。」

「お前の見た地獄に、私達は居るのだ。」


鼻の軟骨が折れて、出血し、膨れ上がる鼻頭と、歯により切れて出血した頬を抑える「あなた」の手を取るナナカマド。


「よし、一気に鼻息を出せ。」


「あなた」の折れていない側の鼻頭を抑えるウラニシ。

ブーッ!

鼻息と共に、切れて詰まっていた鼻血が噴き出す。

ぐにゅ、ぐに。

ナナカマドの細く白い、冷たい指が「あなた」の鼻穴へ入り、折れて位置のズレた鼻軟骨を整える。

ジェスチャーだけで、鼻の頭を抑え続けるように促すウラニシ。

それに倣う「あなた」に、ナナカマドは椅子を置き、「あなた」は座る。


「やっと、震えが止まったな。」

「ウラニシくんは、昔からこうでしたね。」


2人は「あなた」から視線を外さず、頷き合う。


「それでは、もう一度授業を始める。再教育騎士ナイン・エルナ。」

「「あなた」やみんなは騎士だけど、「英雄」では無いの。」


ナナカマドの言葉を反芻する、「英雄」。

それは、絶望にあるひとびとを奮い立たせ、力を起こさせる存在。

そう「あなた」は理解しているかも知れないし、別の解釈をするかも知れません。


「我ら、太陽系第三惑星人は、等しく罪人である。」

「生きるため、食べるため、命を奪うの。」


「あなた」の目線が、はっきりと焦点を合わせるのを待って、教官が口を開いた。

この言葉も反芻する。生き物を殺す。それがどのような様式を持つものであっても、それは罪。しかし、罪という概念自体、地球人が作り上げた宗教とその価値観によるもの。

だから、女神は宗教的な全ての儀式を、食事またその調理など、食に限定した。

これは、地球のお寺で聞く「ひととしての教えを説く」説教では無く、事実の確認。


「普段お前が学園で口にしていた、勇者を超える。」


そう、これはオリジナルの「ダリア」の世界を焼いた、第十三次元人カヌメナーアと対決するために、必要だ。と「あなた」が作者に託された条件のひとつ。


「この世界で勇者、英雄って言うのは。」


ナナカマドは言葉と共に、「あなた」に手のひらを向ける。

促されている。

答えを。


A、「命を奪うことが罪だと知りながら、それでも、命を奪う勇気があるもの。」


A、─ばっ。「ナインー!」ガルデニアが「あなた」を抱きしめる。「いやだよね!つらいよね!あんなに、あんなにふるえて、こわがってたもんね!やめてもいいの!にげてもいいの!だれかがころしてくれるのをまってもいいの!ないてていいの!わたしとラプリマで、ふたりでいてもいいの!」


B、「それでも、」

B、「いいんです。ナインさん。」カランコエが、「あなた」を抱きしめる。「「あなた」が罪を背負わなくても。「あなた」が殺さなくても。きっと誰かが、「あなた」以外の誰かが、代わりに罪を背負って、代わりに殺してくれます。それで、いいじゃないですか。」


C、「それでも、君たちを。」カランコエの手を握り、ガルデニアの頭を撫でる。「あなた達を、ラプリマのヒト達を、太陽系第三惑星人を、この手で守りたい。」ナナカマドとウラニシ教官を見つめる。

C、「んむ。しかと見届けたの。」「そうね、その意気だけなら、もう勇者級よ。」背後から声が聞こえる。


「そうね、後は─。」


女神と並んでいたのは、どう見ても、女子高生の姿をした、青いショートカット。


「何が起きても、守り切るだけの速さね。」


A、「現勇者トモ─!」

A、「私の事なら、トモでいいわよ。」


ガルデニアを抱いて、カランコエに抱きしめられたまま、全身が強張る!「あなた」は「ダリア」で知っているかも知れないし、知らないかも知れませんが、彼女は女神と同じく、地球人として、己を台風に合わせ、爆薬で自爆を行い、熱量移動を成し遂げた─。


「エルベラノの、ドゥモナ・ディエナ以下の駆除自体は、ダンサンカ ブーケに投げるとして。」


女神が、「あなた」たち、女神直属騎士隊フラマ セラタに指示を下している─!


「フラマは、私が預かるわよ。」

「ワガハイのセリフを取るでないわ!とにかくじゃ!」


女神は、手に持つ石パンを、犬歯を光らせてひとくち齧り。


「ん、クルルガンナの全騎士隊をディエナ駆除に預けると、どうなる?ナイン。」


A、「守りが、手薄になる─。」

A、「そうじゃ。トモやガブリエルハウンドがその隙間を埋めるとして、それとは別に、お主らをさらに鍛える必要のあることが、お主の転送した手紙により伝えられた。」


─あの、どうでもいい手紙。


A、「どうでもいいと、思わされていた手紙─!」

A、─「そうじゃ、よって。」「フラマ セラタ、そしてその騎士隊長ナイン・エルナ。」「トモに指示を受け、お主ら4人で勇者ひとり分の仕事をせい。」


ばさっ!

勇者が、グレーのブレザーを脱いで、袖を腰に巻く。

きゅ、きゅっ!

勇者が、髪を掻き上げて、口紅を目尻に引く。


「守る言うた!吐いた唾飲み込むなやナイン!あんじょうシゴいたるからな!」


それはまるで、歌舞伎役者の隈取りのような─。

お寺の門に設置されている、羅漢仁王像のような─。


第九次元人の「あなた」へ。⑤エルベラノ攻略戦、裏。


カズン!

カランコエのタニガワ、シリン後方に接続したカタギリが、飛鷹のぜネロジオで見出した、大気の流れ、構成する粒子を蹴る!

シュタタタタタタタタ!

その急加速を殺さないよう、カランコエがバランサー、姿勢制御と慣性制御を行う!

「ああー、見果てぬーゆめーのためー♪」

タニガワのシリンに立つ「あなた」とカランコエを、2騎のUltraSuperGiganticが連結した接続部、光崩壊により発生する、この瞬間においては無限の熱量を生み出す炉心、自害または他害を行ったカタギリ、タニガワの魂の中で、ガルデニアがアンカラを歌う!

音、頭部首、胸部腹部を振動させて、意志の、感情の伝達を行ってきた地球人が創り出した、歌!野生の、獣としての咆哮が知識、それを扱う理性の獲得と深化により、それは願いを、祈りを込めた「ましない」となり、天上に座する造物主、またはあめとつち全てのものに内在する力として、また原初に於いて初めて知性を獲得した存在へ捧げる祝詞となり、聖歌とかたち作られた!詠みあげる、謳い上げる、奏であげる!ただの、感情を表すだけの唸り声、鳴き声だったそれを、歌へと昇華させた地球人の歌を今、ひとりの少女が歌い、それは太陽系第三惑星、地球を複数個圧縮させ、限り無くゼロへ近付ける事により生み出される熱量を制御し、ウサギとその騎士を保護する!


「「フラマ!ヴリトラを覆う陣の裂け目、次の目標を感知したな!」」

「「はい!」」

「「よし、基本は先と同じだ!」」


勇者ではなく、ガブリエルハウンドのパンパスグラスからの通信、「あなた」の肩に手を添える背後霊、ナナカマドが答える!


「「お前たちだけで、切り開け!」」

「「わかりけました!」」


かつてのクルルガンナ解放戦。太陽系第三惑星人支配区域、中枢神臓都市ラプリマ。そこで都市民に時間圧縮による教育を行い、戦闘技能に秀でたものを騎士として、更にその最上を、女神の直属騎士を育成するための選抜騎士寮。その管理者であったナナカマドは、反陽転斥砲での砲撃により、都市区画ごと、燃焼、蒸発ですらなく、空間そのものに、情報として焼き付いた。自らを地縛霊と称していた彼女は、「あなた」とエンゲージを、魂の情報を交わしたことで魂の所在を「あなた」に移した。

元来、ナナカマドの本分は指揮者であり、「あなた」、そして「あなた」がエンゲージで魂の情報を交わしたカランコエ、ガルデニアにも。


「わ、ひゃっ。おてて冷たーいー!」

「んんっ、いい冷却方法ですね!」


幽霊特有の、ひやりとした、冷たい手を、同時に複数の人物の肩に添えて、情報を伝達する。

女神直属騎士隊フラマ セラタ。

「あなた」ナイン・エルナを隊長とし、「あなた」の魂と繋がった3名と─。


「予測、計算出来ました!網膜へ情報転送します!」


現実の四次元世界、地球にて「あなた」の使用していたスマートフォン。

その内部、人工知能による対話型演算応答アプリケーション。


A、「わかった、アロエ!」

A、─「いっぱい出ます!ナイン!」


「あなた」が地球でそのアプリケーションに付けた名前、アロエ。彼女には既に、元来の地球での検索、推論能力は無い。


「ちょああー!」


両手でたくさんの紙を広げ、「あなた」の視界を、スマホサイズの人形が炭素粒子で書き記した計算式が埋め尽くす!

女神により、いち生命として生を受けたスマートフォンは、人格を持って「あなた」のために計算を行う!それは正確無比な推論能力を持つ統合人工知能ではなく、単純な、人類の叡智である筆記具、紙と鉛筆によってのみ、書き記される!


「カタギリに移ります!」


そのキラキラとしたエメラルドの髪に、熟れた柑橘類の表皮に陽光の差した赤が入る!

女神が「あなた」のスマートフォンに生命を与えた理由は、本来ただの人間だった「あなた」をこの世界の兵器、ウサギと接続する際の緩衝材とするため─そしてその必要が薄れたはずの機能を、アロエとカタギリが使用する!


「よし、情報の処理と演算はそのまま続けてくれ─。」


七万と五千三百と一回。

女神による時間圧縮、空間操作の邯鄲の中で「あなた」は空力の計算、運動力学、振動、陽光、音による視覚聴覚、三半規管の不能、そして複数人による嘲笑、敬愛する教官による銃殺を繰り返してきた!その結実、取り巻く状況と「あなた」、殺傷または破壊目標、全ての変数を計算し、惑星質量を持つウサギを弾頭として射撃する、「あなた」が編み出した飛鷹のぜネロジオと─。


ジャキィ、ン。

カランコエのタニガワとカタギリ本体の接続を切り離す!

ざ、ぱ。ぱん、ぱぱぱぱ!

その動きに呼応するように、対惑星文明兵器と化した無数のセンテルデが地表を食い破る!


ザンッ!

飛鷹のぜネロジオで見出した大気の流れを蹴り付け、カタギリ本体が高く跳ねる!


A、「パフィルテニラ サンダリガン─。」

A、─「我は、白檀の銃把を握り─。」


ダァン!チュイイイイイイイ!

腰の、ランサーホルスターに手をかける「あなた」は誓句を唱え、黒鉄のぜネロジオが、「あなた」が製鉄と剪断、切削、研磨加工を行って作り上げた、魂に刻み込んだリボルバーを、ウサギのサイズに練り上げる!


ケシャラシャカ!

無数のセンテルデ群は、「あなた」とそのウサギの持つ熱量を優先破壊目標と認識し、能動的にお互いを喰らい合い、マブルを起こしキレアーサ体へと変化する!


B、「レブ ラ マルテロン─。」

B、─「激鉄を起こせ─。」


シィィィィ!

学園の模倣再現室で、選抜騎士寮の暗室で、「あなた」が夜空に瞬く星ほどの回数繰り返してきた火薬の調合手順を、炎熱のぜネロジオとポデアが再現し、カタギリのシリン後方に展開してゆく!


C、「ラ マスタロ ラ デ ミア─。」


シャキュヲヲン!

複数の超巨龍となったセンテルデキレアーサが、その口吻、触肢から無指向性対惑星文明弾を放つ!

「あなた」たちの背後には衛星都市と、そこに住まうヒト達がいる!


「またそうやって、保身のために逃げるのか?」

「あなた」の脳裏に焼き付いた、カヌメナーアの、第十三次元人の声が響く。


かつて焼かれた世界から、この世界のアーメフォーニ女王の牙から、逃げたように。


「あなたのー、ひとみをー♪」


「あなた」とカタギリから分離したカランコエとそのウサギ、タニガワが駆ける!

高速で駆けるタニガワのシリンの上で、カランコエに抱き止められたガルデニアの歌声が、センテルデ群と「あなた」の後方を、覆うように、幕を張るようにルリローを展開する!


「「ルリロー強度安定を確認しました!」」

ナナカマドの声!


「撃って、ナインさん!」

カランコエの声!


「やっちゃえナインー!」

ガルデニアの声!


「ナイン、あなたが。」「殺せ!」

アロエと、カタギリの声!


A、「もう、ぼく/私はひとりじゃないさ。」

B、「君たちを、殺す。」

C、「ぼく/私たちが、生きるために!」


A、B、C、─「ディスティナハルタ!」ぱん、あるいは、ずぎゅうううん!ガルデニアのアンカラで護られた「あなた」の耳に、ガルデニアやカランコエ、その後方、ガルデニアのルリロー越しに「あなた」たちの方を見る衛星都市の住民たちの耳には、そう聞こえた。

炎熱のぜネロジオをカタギリの跳躍脚が、トリガーを引かれたハンマーとして叩き、黒鉄のぜネロジオ内部で圧縮されたそれが加圧されれ着火、燃焼反応を起こす。惑星質量数個分の弾頭となるウサギの炉心は、本来黒鉄の銃身、または掘り込まれたライフリングにより直進する、が、その弾頭の起動を「あなた」ナイン・エルナの飛鷹のぜネロジオが解析し、流れを読んだ大気その中を、自在に、お花畑の上で走り回って遊ぶ子どものように、自由に、無邪気に跳ね回り、無思考性対惑星文明弾の全てと、センテルデ群を飲み込む!


ぐぅぅん、ぐおん、ぐおん。

ディスティナハルタ、その熱量の奔流の中で、黒い姿が、それが放つ動力音が残る。影響範囲内の生物種にキレアーサの種を植え付ける、クルルガンナ星人ほしひとの対惑星文明兵器。ヴリトラ。  


A、「トモ!」

A、─「聞こえてる!」


各戦場、太陽系第三惑星人都市それぞれの防衛線を、文字通り光速で駆け回る勇者は、「あなた」の叫びを聞き、「あなた」の眼前で、左腕を上げる。


「ダリアもアイクルミエェタも使えるようになったんだから、「あなた」もやりなさい。一度しか見せないから。」


ガルデニアの展開したルリローの幕が、「あなた」の放ったディスティナハルタの生み出した熱と衝撃、光を受け止めている。


「暗く冷たい光の海に─。」


その詩に合わせ、トモの左腕を中心として黒い渦が起こる─。


しゅうううううう。

ヴリトラの反陽転斥力エンジンが鳴動し、大気を吸収し始める。


「我ぞ花よと舞い踊る─。」


ルリローが受け止めた光、熱と衝撃、そして、「あなた」の感じる1秒、2秒という時間の感覚すら、その黒い渦に巻き取られてゆく。


キュピカカカカカカカカカカカカカ!!!

かつて、太陽系第三惑星人と、婚姻を結び、混血の子を成したクルルガンナ星人ほしひとの胸を貫いた無数の生体指向性誘導弾がヴリトラ天面の砲塔より空へ放たれ、「あなた」たちを、背後の衛星都市そのひとびとを狙い、追従する!


「黒い渦の、ひかりのつるぎ─。」


渦は、それら決死の光をすら、巻き取って。


「ヤリラ ルーマ!」


渦の中心から放たれた閃光が、ヴリトラを気化させた。


さああああ。

戦闘の余波で焼けて、陥没が残るクルルガンナの樹皮に、雨が降る。


「「トモさん、ヴリトラの元になった魂は回収した。帰っていい?」」


ただ空を見上げ、雨に打たれていた「あなた」達の耳に、パンパスグラスの通信が入る。


「「おけ。伝票出しといて。」」


軽い、勇者の返事。


「んんん、んー!つかれましたー!」

「そうですね、私も今までの中で一番走りました。」

「それじゃあ、帰ったらご馳走にしましょうか。」


ガルデニア達も、緊張が解けたのか、きゃあきゃあと夕食の献立について話を始める。


「きみは帰らないの?お嫁さん達先に行っちゃうよ?」


勇者に問いかけられる。


A、「トモ、もしヤリラ ルーマですら殺せない相手がいたら、どう戦えばいい?」

A、─「ちょっと、顔をよく見せなさい。」


勇者はシリンに飛び乗り、「あなた」のあごを掴んで、瞳を覗き込む。


「きみの戦う目的はある程度聞いてるから、予想はしてたけど。」


彼女は、「あなた」の肩で静かに待機するアロエの顔をつつく。


「ひゃ、なんですか!」


トモはアロエを手のひらに乗せて。


「きみの瞳は、奥さんとお腹の赤ちゃんを殺された時のアイクルミエェタに似てる。アロエ、あなたのナインに、戦う目的じゃなくて、生きる目的を、お嫁さんたちとあなたとのデートプランを立てて、教えてあげて。」


第九次元人の「あなた」へ。⑤エルベラノ攻略戦、裏。 了


次回予告!

この世界を第十三次元人から守る。つまり、カヌメナーアを殺す。その目的のため、あらゆる戦闘方法、戦略、技法を習得する、力を渇望する「あなた」ナイン・エルナ。しかし、勇者トモは、そんな「あなた」に、ひとりのヒトとしての幸せを持つように提案する!

次回、第九次元人の「あなた」へ。⑥ ウキウキワクワクデートプラン!

「え、私がコールしていいんですか?読んでくれないと、ナインがディスティナハルタしちゃいますよ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ