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ファラス シア エスペラナ

「あなた」は、手元のデバイスに表示された投稿小説に目を通していた。

それは、天の川銀河中心天体、いて座Aスターに魂を移動させた日本の女子高生、蓮坂舞が己を女神と定義し、ヒトがヒトらしく生きてゆける世界として、ブラックホールのいち領域を命球と定義した世界でのお話。

独自の魂と熱の力学を基にした、太陽系第三惑星人と名乗る文明は、彼らを観測して同じくブラックホールに侵攻したクルルガンナ星人ほしひとと出会い、そして─

絶滅戦争が起こった。

辛くも勝利した太陽系第三惑星人は次第にその数と勢力を回復しつつあり、「あなた」の見ている世界では、新たな敵性知性体、クエーサーズとの決戦が始まろうとしていた。


   ─────


「「ようこそ幸拓室長、ガルデニアくん。ここはぼくの魂の中だ。」」

「へー。あなたアイクルミエェタなのー?」

「こらガルデニア、ひとを指さしちゃだめだよ。」


天井が欠けて青空の見える室内で、はらはらと無数の紙が舞っている。


「2人ともその辺りの椅子にかけて欲しい。ここはぼくの家だった場所だ。どうか気楽にして。」


パキラがブラックバッカラだった肉塊の一部を、自身の隣の椅子に置く。 


「アネモネにほとんど食べてもらったから、今喋ってるアタシは本当に抜け殻だ。」


舌肉がふよふよと動いて言葉を紡ぐ。


「「まさかアイミの中に入れるなんて、思わなかったワネェ。」」

「ひいひいひいおじいさまは、変なことしないでよ。」


同じように腰かけた壮年の男性に、アスターが釘を刺す。


「ふ、う。」

「「落ち着いたかい?パキラ。」」

「はい、心の整理も着きました。」

「「では、君の言葉で説明して欲しい。」」


アイクルミエェタに促され、私は口を開く。


「目を覚ますカンマ数秒後には、私達は第9クルルガンナ研究室へ突入します。」

「うんうん、みんなのかたきうちして、他のみんなをまもるんだよねー。」


ガルデニアの言葉に頷いて、続ける。


「準勇者は、アイクルミエェタの記憶の中でクエーサーズを認識して、ディスティノで殺しました。」


制服のネクタイ通信機を外して、襟元のボタンを外し、胸の真ん中に空いたアザを見せる。


「アイクルミエェタの記憶の中、このディスティノで撃ち抜かれて目が覚める直前、準勇者は私にだけウインクをしたのを覚えています。つまり彼女は、私にメッセージを送ったんだと思います。」


再生される、私の視界を通しての映像には、準勇者の指先から弾丸が放たれ、それは4つに分かれて私と他の、クエーサーズの胸に吸い込まれ、クエーサーズ達は砕け散る。

そして彼女は、後ろへ倒れ込む私にウインクをする。


「「アイミの記憶の中でパキラとクエーサーズを認識して、更に撃ち殺す。どう聞いてもおとぎ話の存在ネ。」」

「また失礼な事言って!ひいひいひいおじいさまだって、どんな空間にも飛べたでしょ?」


オカイグサのスネを蹴り付けるアスターを見て微笑みながら、幸拓室長は話す。


「ふふ、私の目からすれば、君達はみんなおとぎ話の存在だよ。」


それを聞いてからアイクルミエェタが口を開く。


「「ぼく自身は準勇者と直接の接触をしたことが無いから、彼女ダリア・アジョアズレスは身も知らずのヒトの記憶の中でも、自由に動ける可能性があるんだ。」」

「まサカ、そんなコトは熱量力学としてあり得ないワヨ。」


幸拓室長が手を挙げる。


「私が命球に来れた理由は、熱量の中に意識と記憶を保持出来たからだけど、彼女は他人の記憶の中でそれを行なっていると言うことかな?」

「「そういう事になるね、他人の記憶に分身を残せるんだろう。そして─。」」


準勇者の能力に付いて考察を始めたアイクルミエェタを遮り、オカイグサが声を上げる。


「「太陽系第三惑星から他の惑星文明の観測機を使って命球に来たアナタも、相当おとぎ話だワヨ、幸拓室長。」」

「また失礼な事言った!」


アスターがオカイグサのスネを再び蹴る。


「よーくーわかりませんー。夢の中で誰かとお話するかんじですかー?」

「そうね。そして夢の中でおやつをもらって目を覚ましたら、そのおやつが目の前にあるの。」

「そーれーはーいーいーねー。…んっ。」


アスターに頭を撫でられたガルデニアは、力の抜けたようにうつむいて。

顔を上げる。何だか目つきが穏やかに見える。


「うん、何となくやり方はわかった。この子の声であたしが話すのは違和感あるけど。」

「アメリアお姉ちゃんだー。」


ぱ、といつもの屈託ない笑顔のガルデニアに戻る。


「君、は。」

「他の2人も、きっと出来てるよ、先生。」


ガルデニアに、彼女の中にいるアルストロメリアへ抱き着く幸拓室長。そこへ。


「嬉し涙は早すぎるって室長。まーだアタシらにゃ、大きい仕事あんだからさ。」


ブラックバッカラの舌肉がケラケラと笑いながら、少し崩れる。


「「さて、玄孫娘のパートナーは、一体何を思い付いたのカシラ?」」


みんなが、私の顔を見る。


   ─────


すわあああ、んんんんん。

完全に励起させた黒死のぜネロジオが、エルヴィエルナの空の大気に混じり、黒へ染め上げてゆく。

水の入った容器の中へ、一滴垂らした墨汁のように。

染み込み、包み込み、何層にも折り重なるようでいて、それでいて、重ならない。


「お前は、生きているか?」


眼下に拡がった白い騎士の体細胞へ声をかける。


「私が存在することは、お前たち未開文明種の定義する、生きているという意味では無い!」


こちらの囁くような問いかけに、わずかな大気の振動を捉えて的確な返事を、同じように数百レグア四方に展開した全細胞を共振させて返事をする。

クエーサーズは、律儀過ぎる。

本来侵略または絶滅目的の侵攻ならば、言葉という道具を用いた交信手法を取る必要は無いはずだ。

ふわぁん。

白い無数の細胞群が青白く明滅する。

しゅわ、ああ。

その全てが、私の位置へ熱線を放射する。

青と紫の美しい熱線が黒死と大気の境界線に絡め取られ、減退し、色の付いた無害な光となる。


「ならば貴様たち、クエーサーズの存在する目的とは何だ。」


   ─────


「うーん、殺しても殺しても生えてくる。趣味が悪いよぉ〜。」


どぅる、ぷっ。

ばちぃん!

灰の下から現れる触腕へ、鎧虫化した左腕を突き刺してねじ切り、吐き捨てる。


「余裕が無くなって来たな!大人しく肉体情報を寄越せ!」

「だーれがお前らなんかに負けるかよ!」


切り裂いて、突き刺して、噛み砕く。

単調な攻撃を単調な防御で凌ぐ。

その繰り返し。

幾重に並べられる触腕も、そこから射出される無数の粒、それらの内を突き破り、毒液を撒き散らしこちらへ向かってくる巻き槍を叩き落とす。

攻撃自体は複雑なものの、その目的はただのひとつ、私の身体を貫くこと。


「普通の生き物なら、もう諦めてるのに〜!」

「あいつらはクエーサーズだからね!普通の生き物じゃ…ちょっと待って。生きて、ない?」


   ─────


「「─撃鉄を起こせ、我は。」」

「運命の主人!」


炎熱の方陣により加圧加熱圧縮かれた大気を、黒鉄の砲身に装填されたアイクルミエェタのシリンを、その脚部が叩く。

ぱん、あるいはずきゅううん、適切なルリローが展開されていたならば、そう聞こえていただろう。

しかし元の主人達が不在のそこ、第9クルルガンナ研究室は、クエーサーズにより覆われて青緑色に染まったその地上構造物は、完全に打ち砕かれ、灰と塵だけが残った。


「そーれーじゃーあ、しつちょーを守ればいーんだねー。」

「うん、私たちもここから動けないから、あなただけが頼りだよ、ガルデニア。」


ち、ち、ちゅん。

ユキヤナギが板上に変化して幸拓室長の手に収まり、表面に浮かび上がった文字列を、鍵盤楽器を演奏するように弾いてゆく。


ひとつ、ふたつ、みっつ、ディスティノの爆風で巻き上がった灰の中、浮かび上がったヒト型のシルエットは、やがて音を発し始める。


「お。ユ賀ガィ、」

「君たち、まず言葉を以て交信を試みるのならば、まずは文明度の低い相手の言語に合わせてくれたまえ。」


振り向きもせず、演奏に集中する幸拓 結実子はそう告げる。


「お前達は何だ。」


音ははっきりとした太陽系第三惑星人の公用語となる。


「答えてる時間は無いよ。」

「話が違う。」

「じゃー代わりに言うねー。」


袖を振り上げて、軽くステップを踏みながらくるりと一回転する。


「エルヴィエルナ第9クルルガンナ研究室、ノーカラーズのマークシックス、ガルデニア。」


遠く、模倣太陽から右を向いた方向が、きらきらと輝く。


「あなたたち、みーんな食べちゃうぞー!がおー!」


   ─────


同時刻、ラプリマの片隅、とあるオープンキッチン。

椅子にに腰掛けた銀髪の少女は、目の前に座る金髪の少女と、手のひらほどの大きさの少女へ口を開く。


「さて、そなたらならどう見るかの。」

「無論、今ガ攻め時ダナ。」

「末娘よリ我らガ劣るなド、たいそう見くびられたものダ。」


3人の目線の先、エルアートヌの方角では空に沿って黒い渦が広がる。


   ─────


「ツ穿、雫翡陀?」

「遅い!」


通常の励起したランサーでクエーサーズの構成体を焼き切る。

命球に侵入したクエーサーズは、あらゆる物質が命球の重力に捉えられ、熱量に変換される膠着円盤そのものを演算回路、侵入経路とした。

これはアイクルミエェタの着弾と同時にオカイグサの空間跳躍により、クエーサーズの回路系へ転移した事で判明した。


「「次、飛ばすワヨ!」」


クロユリ、アネモネそれぞれの中にいるエーデルワイスとブラックバッカラも辿り着いたように、クエーサーズは生命体ではなく、対象となる生命体、構造物、自然物またはそれぞれを構成する原子、分子に命令文、コードを書き込んで増殖を行う、太陽系第三惑星のかんたんな言葉で例えるなら、ウイルスと呼ぶべきものであった。

単なる化学式でもなく、生物でもなく、付着した生物、非生物の構造を書き換える、まだ知られざる、新たな種類のウイルス。


「ガルデニアも風邪を引いて、せきをコンコンしたことがあるだろう?」


光るユキヤナギの鍵盤を弾きながら、幸拓 結実子は歌うように問いかける。


「あーるーよー!けど今たたかつてるのー!」


舞うように袖から光の尾をたなびかせ、ガルデニアはクエーサーズの群れと拳を交える。


「そうだパキラ、ウイルスが宿主の体内で変異と増殖をする部位には傾向がある。最も繁殖し易く、効果的、合理的に次のコロニーを形成するに足る、増殖体を運べる血流量のある箇所を選ぶ傾向が。」

「わーかーりーまーせーんー!」


鍵盤を弾きながら第9クルルガンナ研究室の幸拓室長は、回路の最前線で光る槍を手に戦う少女へ、次の指示を送る。


   ─────


展開した黒死のぜネロジオが解析されているッ!

空一面に展開し、地表を覆うように白い泡を取り込み破壊していた翼が逆に絡め取られる。

白い泡は獲物をいたぶるようにクロユリの翼ごと彼女を締め付ける。


「ここ、までかッ!」


エルヴィエルナの空に拡がったクロユリの翼は、一時的にはクエーサーズエーデルワイスの体細胞に死を与えた。しかしクルルガンナ残魂兵器群、亡霊を使い無尽蔵に増殖を続ける敵個体の再生速度にこちらの殺傷速度が追いついていない。

─かつて、クルルガンナ星人ほしひとが太陽系第三惑星人に負けた理由はただひとつ。

重力崩壊を起こした太陽系第三惑星ふたつ以上の質量と熱量を持つ兵器。─

星の瞬きほどの回数復唱した、女神による騎士任命式での言葉を思い出す。


「くっ、ウサギがあれば…!」

「今更負けた言い訳か?惨めなものだな、黒死の騎士よ!」


白い泡が翼の根本まで迫る。


「我らは運命の主人!」

「ディスティノトゥアレラ!」


ぱん、あるいはずきゅううん。騎士や都市民を守る祈りの歌ルリローがあればそう聞こえたかも知れない。しかし、ここエルヴィエルナの戦いでは、クエーサーズの白い騎士はそのような防護技術は持っていなかった。

1人の少女と1人の女性の声が、轟音と衝撃波と共にクエーサーズの白い触腕と、クロユリにまとわりついた泡を霧散させる。


「この騎士にも飽いた所だ。名乗れ!」


再び増殖を始めた白い泡が吠える。


「アンタみたいなのに答える義理は無いけれど!」

「聞かれたからには名乗ろうか。」


そのウサギのシリンに立つふたつのシルエットには、クロユリはわずかながら見覚えがあった。


「エルベラノのダクトロ、不滅のぜネロジオ!ハイェルルラ・エル・ベラーナ!」

「準勇者、ダリアノワール。」


紫の熱線がそのシルエットを焼く。


「カカカカカ!何がダクトロだ!何が準勇者だ!クコココココ!カッフハッー!?」


哄笑するクエーサーズの胸部には、セイヨウキヅタの白い花が咲いた。

それは深い緑、ほぼ黒のツタを伸ばし、エーデルワイスの身体を構成する白い泡すらも覆い尽くしてゆく。

それらツタ、咲かせる無数の花は、伸びるたび咲くたびに熱線に焼かれ、そしてまた、伸びて花開く。


「何ぬぁん、ダ、これはァ!」


己の心臓から咲いた花を手で掴み引きちぎり、そのたびに花開くアイビーにもがきながら、白い騎士は叫ぶ。


「か、はっ。」


血を吐く、崩れ、力の入らない私の身体が落ちる。


「うん、久しぶりだねクロユリ。」

「準、勇者…。」


ふわ、とあたたかな黒い騎士に抱き止められる。


「よくやったわクロユリ。久しぶりね。」


私の頬を撫でる手が、エーデルワイスの身体を指差す、


「さっきうちのかわいい後輩に聞いてたでしょ?ウサギが負けた言い訳になるのかって。」


あらゆる方向からの無数の熱線を、飛んで跳ねて、駆けて回避するウサギの上でその少女は腕組みをする。


「だーからわざわざハイェルちゃんが教えてあげてるのよ。あなたが負ける時の言い訳を。私のぜネロジオをこのオーレルフの炉心と繋いで暴走させてるの。あなたみたいな、かわいい後輩の身体を奪うような寄生体には、お似合いのほっんとーにみじめな死に様を用意してあげる!」

「劣等、未開、文明種がァァァ!」

「まーだ元気なの?じゃあここを狙いなさい?ハイェルちゃんの、おー、でー、こ。」


新たに生まれた無数の白い泡が、少女が指先でつついた額を狙い、熱線を照射する。

赤、赤紫、青紫、青。

模倣太陽の光も届かない、エルヴィエルナの灰色の空を染め上げる量の熱線。

しかし

クロユリは知っていた。

対一の撃ち合いでは、先に引き鉄を引いた方が、負けである事を。


「セカカカカカカカカカ!!!空間ごと焼き尽くせば2度と口を開けまい!その口が残っていればの話だがな!!!!クコココココカカカカカ!!!」


今度は胸の花も枯れた。勝利を確信した笑いが響き渡る。

言葉の通り、幾重にも重なるように照射された熱線は空間自体を捻じ曲げるような熱量を残し、それらは依然として少女の立つ空間を捻じ曲げていた。


否。


「わたしはさそう、あなたのゆめを─、」


沈んだ女性の声が、笑い声を掻き消す。


「─くろいうずの、ひかりのつるぎ。」


熱線すら、この場においての光源となる模倣太陽の僅かな太陽光線すら捻じ曲げ、屈曲させて!空間を歪んだように見せかけていたのは、準勇者ダリアノワールの左腕に巻き起こった黒い渦だった。


「コカカカカ、ケ?」

「ヤリラ ルーマ!」


クエーサーズの白い騎士、取り込まれたエーデルワイスの情報は、その寄生主と共に焼失した。


   ─────


「近づこうにもアタシの触腕が邪魔!」

「もうブラックバッカラのじゃないよぉ〜。」

「うっさい!」


右手が私のほっぺをつねる。


「痛いよぉ〜。」


ブラックバッカラがアネモネの口を借りて怒ろうとした時、新たな触腕の先から2人の知識に無い型の巻き槍が射出される。


「ちぃ!どこからどこまで!びっくりパーティかよ!」


躱わしても、弾いても、その槍はアネモネの身体に喰らい付こうと、


「ぐぅあるるるっ!」


紫の髪の輝きが、その槍を光に変えた。


「な、なに?」


身構えたアネモネの身体を、薄い紫の泡が包む。


「スター、灰の中に本体がいる。」


背後からブラックバッカラと同じくらいの少女の声。


「ばう!!!」


紫の髪は少女に見え、その緑を基調とした服は、クロユリの着ている騎士制服のようなものに、ブラックバッカラの目に見えた。

その人語では無く咆哮のようなものをあげる少女は、輝く牙と両腕両脚で、クルルガンナの灰を溶かし、無数に生える触手を引き裂き、身体に絡み付き肉を穿つ槍をものともせず掘り進み、


「セラ!」


クエーサーズブラックバッカラの本体を咥え。


「食べてよし。」

「わん!」


噛み砕き、光に変えた。


   ─────


「「女神、クルルテラ全騎士隊並びにカネクトゥス、配置完了しました。」」


通信を聞き立ち上がり、両腕を広げる。


「「んむ、総員気ぃ張れや!」」


3本の光の柱が、黒い渦の中心から天に向かって放たれる。


「「彼奴ら、クルルガンナ全域を狙っておるぞ!」」


お人形で遊ぶ小さな子ども、植木に水やりをする老人、夕食の献立を考える夫婦、教鞭を取る女性、機織り機のペダルを踏む男性、彼らの頭上に、太陽が出現する。


   ─────


この太陽は、クルルガンナ地域に存在する太陽系第三惑星人めいめいの頭上に出現した。

女神が全太陽系第三惑星人の意識をカネクトゥスで繋ぎ、グランディオサ ホーラを展開する前に。

それは

エルアートヌにて、勇者トモ、準勇者ダリア・アジョアズレス、対惑星文明兵器モモ・クルルテラが「放出された熱量全てを取り込み放つ、ヤリラ ルーマ」を放った直後に。


   ─────


第五部 アストロブレム攻防戦05 ファラス シア エスペラナ


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大型生物種コロニー鹵獲改造建築都市エルアートヌ、その都市にも、騎士アセデリラ・アルマコリエンデを遙か時の彼方に送り出し、そして3名の勇者、準勇者、対惑星文明兵器がその全力を以て未来へ放った閃光、

地球人の読者の皆様に置かれましては、夜空に瞬く星々の輝きが、遙か彼方の星の輝きが、途方もない時間をかけて地球へ届いた「過去の光」だとご存知の方もいらっしゃるでしょう。地球人はその星の輝きから太陽系、そして天の川銀河、宇宙の中での地球の位置を知る手掛かりとして来ました。

3名が未来へ放った閃光は、それより先に未来へ旅立ったアセデリラに届き、現在の、帰るべき場所を指し示す道標、星の海を眺め航海に出る旅人からすれば、北極星になるべきものでした。


「ヤリラ ルーマが…。」


モモ・クルルテラの言葉のままに、未来へ届くはずだった閃光は、屈曲し、乱反射して霧散しました。


「こんな…クルルガンナ星人ほしひとなんか目じゃない!」


狼狽える勇者トモ。


「わさびちゃん!全隊に臨戦指示!わたしのぜネロジオが励起しない!」


普段なら余裕ぶった態度を見せる準勇者ダリア・アジョアズレスが叫びます。


そして

その場にいた全員、エルアートヌ外郭で戦っていた騎士隊たち、全住民それぞれの頭上に太陽が出現しました。


「ッ!揺籠の─!」


異常性を察知したアウタナ・セリフラウが、かつてブランカ スタランダで見せた姿、フロラータへと変化してカネクトゥスのオリジナルとなったルリローの発展系を展開します。


   ─────


「あなた」の見ている文字の列には、かつて目にした、難題がきれいに解決して、登場人物たちがそれぞれの新しい道へ歩いて行く、そんなお話がありませんでした。

「あなた」の知る物語では、アセデリラ達が帰還して、彼女たちは前途多難なものの、未来へ歩いてゆくはずでした。

しかし

今、オープンテラス、テーブルのイスのひとつに腰かけて読んで、目にしていた目の前の、ラプリマのひとびと、太陽系第三惑星人たちが、めいめいの頭上に現れた太陽により、焼かれ始めていました。

いいひとも、そこまでよくはないひとも、あかちゃんも、おとしよりも、おんなのひとも、おとこのひとも。


「あなた」は、こんな展開は見たことが無いと思います。


そして


「あなた。」


「あなた」は声をかけられました。

声の方を向くと、ラプリマのロータス綜合学園オープンテラスのカフェ店員、猫の耳としっぽの生えた、女性の店員が立っていました。彼女の頭上には、太陽は出現していません。


「やっと見つけた。あなた、あの、「縦に表記された文字」が見えて、読めたわね?」


─────これからの分中には「あなた」のとることが出来る行動をAまたはBと2種類表記します。どちらの選択を選ばれてもお話に変化はありませんが、登場人物たちの反応が変化します。─────


A─「読めなかった」


「あなた」は「そんなものわからない。」と答えました。


彼女はふう、とわざとらしいため息をついて。


「今そんなおもんない冗談言うとる場合ちゃうの!目の前のひとたちだけやのうて、クルルガンナにいる太陽系第三惑星人ぜんいんが燃えとんの!あなたの頭に太陽が出てないんとおんなじで、うちにも太陽は出てへん!つまりあなたは、わたし「おおとろべふこ」がこの世界とその出来事を書き記したダリア─太陽系第三惑星人戦記─を読んでるしょーしんしょーめーの地球人!」


B─「読めた。十三次元人とは何者だ。」

 

「うん、これからちょっと長くなるよ。」


─質問回答と返答終わり─

彼女はまた早口で続けます。


「ええけ?まず四次元人のおおとろべふこが二次元にダリアの世界を落とし込んで、それを同じ四次元人のあなたが読んでる。」


急にめちゃくちゃなことを言い出した彼女は、燃え盛る空と地面を指差します。


「上の次元の生き物は、下の次元を認識して、介入もできる。」


この説明には語弊がありますが、いちおうは合っているはずです。彼女は話を続けます。


「本来、下層に位置するわたし達が上の次元の存在を認識することはできない。紙に書いただけのキャラクターが、わたし達を実際には認識できないように。」


これもまた真実ではあるのでしょう。


「ただ、あの十三次元人は、ひとつだけミスを犯した。どーせわたし達のことなんて、古本屋の処分コーナーに置かれてる安売り本でも図書館の本棚にも並ばない、電柱に無許可で貼られたシール、風に吹かれる新聞紙、ポストに投函される広告やコンピュータ・シミュレーションで産み出した、よくある被造物くらいにしか思っていなかったってこと。」


つまり「あなた」を含めたわたし達は、値を付ける価値すら無いと思われていた。


「あの「一切の望みを捨てよ。」って一文が書き添えられたあと、本文全体が真っ赤なインクのようなものに漬けられた。あの十三次元人からしたら、そうして本文を読めなくすることで、お話の続きなんて無い、登場するダリアにレジーナにアセデリラ、アウタナ、モモにエウトリマ、マイちゃん達にアネモネやブラックバッカラにエーデルワイスにクロユリ、アルストロメリアにガルデニア、みんなに絶望を味わえって言いたかったのね。」


崩れるラプリマの街並みは無数の太陽に焼かれ、崩れている。


「けど、この世界にこんなことをされて、筆者で登場人物にもなるくらい自己顕示欲の塊のわたし、おおとろべふこは気付いた。」


彼女は俯きながら右目だけで睨め上げるように燃え盛る空を見上げ、左手に持ったペンを中空に走らせる。


「スタニト、メイタゥナ、ローサ、ミアーネ、スペギュエラ、フィガ、ファロブランチェスドオア…。」


いつか目にしたことのある、宮門居 姫子の詠唱を、詠うように口ずさむ。


「これね、ほんとはわたしが、小さい時に夢で見た「上の次元の人」に教えてもらったの。ずっと覚えてて、ね。」


ペンで描かれた、真っ赤な果物の中、瞳を閉じたガルデニアが現れる。


「この物語ぜんぶが焼かれたけど、「あなた」とわたしはここに至るまでの過程をおぼえてる!」


彼女は眠ったままのガルデニアをあなたに預ける。


「今から「あなた」をダリア─太陽系第三惑星人戦記─の冒頭のラプリマへ送る!「あなた」はわたしと同じ四次元人だから、作中で死ぬ事は無いし無敵だけど、わたしの四と読者の「あなた」の四にオマケで一を足して九!あなたは第九次元人!アセデリラやダリア達と同じようにロータス綜合学園で学んで騎士になって!実戦で経験を積んで!勇者も準勇者も星姫も女神もみんなを超えて!」


A,B─「いきなり言われても。」

選択終了


「ここまで読んでくれたんだから、できるわよ!そしてアイツ、新しい世界にもいずれ来たる「第十三次元人カヌメナーア、カヌメナーアって呼ぶわ。」をやっつけて!ガルデニアはあなたのパートナーに、つまりちゅーもいろいろ出来ちゃうわけだけど、あの子が経験出来なかった楽しいこと、いっぱい一緒にしてあげて!」


彼女は両腕を伸ばし何かを口ずさむ。風と嵐、無数の太陽がその中へ流れ込み、渦を巻く。


A,B─「君は?」

選択終了


「わたしはここで「あなた」が主人公で主役でヒーローの、色んな主役が活躍していた「ダリア」の、あなただけの新しい物語を書くよ。」


彼女の腕の中へ流れ込む熱と風は加速し、光が溢れ出す。


A,B─「さようなら。」

選択終了。


「うん、アイツをやっつけたらまた会いましょう。あ、そうそうあなたの名前ね!この世界での名前!本名はあると思うけど!」


加速した光の螺旋は、空間を歪め始める


「ナイン・エルナ!第九次元人ナインエルナ!」


青い光球が溢れ出し、扉が現れ。


「彼方の夢を、此方に繋げ!ダルハルカ!」


扉が開く。


第五部 アストロブレム攻防戦05ファラス シア エスペラナ  了


第六部 第九次元人の「あなた」へ に続く

   ─────

第一話



「あなた」ことナイン・エルナは腕に抱き抱えた少女と共に扉の先、文章だけでしか知り得なかった「ラプリマ」へと足を踏み入れた。

晴れた空には薄くルリローのヴェールがかかっているのが判別できた。

視線を下ろすと4階から5階建ての淡い黄色光の当たり具合では黄緑、赤にも見える建物が十字路に沿って並んでいる。足元の石が敷き詰められた道と同じ色に見える、おそらくはレンガなのだろう。


「ほらほらそこのヒトどいてどいて。」


後ろから声をかけられて道を譲る。


「ほおっ、ほっ。」


たっす、どす。

力強く、重量を感じさせながらも足取りは軽く。

きゅらきゅら、キャリリ。

胴体に巻き付けられた紐に曳かれ、荷車は木製の車輪を軋ませて進む。

薄茶色の体表をした、ヒトほどの大きさの獣脚類が、掛け声と共に荷車を引いてゆく。


A、B

「恐竜がヒトの言葉を喋った…。」

選択終了


声を上げて驚くあなたに、先の荷車に続いて別の獣脚類が声をかける。


「あんた学園で何も学んでなかったのか?俺たちは望んでこの姿になった。肉も生で食えるからな。」


彼は「さあ仕事の続きだ。」と声を上げ荷車を引いてゆく。

「あなた」は何か聞いておけばよかった、と思いつつも仕事中の彼の邪魔はせずにただ見送った。


「むにゅ、ん。」


もぞもぞと腕の中の少女が首を動かして目を開く。

「あなた」が読者という四次元の立場から、二次元の「ダリア」の世界へ来た理由。


「ふあ、んむむ。」


瞳を閉じたり開いたり、強く瞼を閉じて胸の前で両手を握り肩をすくめて伸びをしたり。

「あなた」の脳裏には、第十三次元人、カヌメナーアにより赤いインクへ漬けられた、焼かれたラプリマやひとびとの姿がフラッシュバックする。「この子を預けるから、アイツをやっつけて。」そう言ってこの世界へ「あなた」を送り込んだ作者「おおとろべふこ」。

腕の中の少女ガルデニアへ、何と説明すれば良いのだろう。あなたの姉たちはみんな焼き殺されてしまいました、なんて言えるわけがない。

目を閉じて被りをふる「あなた」。

そこへ


「おはよ、ナイン。お腹痛いのー?」


ナイン。

第四次元人の「あなた」に同じ第四次元人の作者、それとオマケで一を足して第九次元人となった「あなた」に作者の付けた、この世界での仮の名前、それを呼ばれた。


「そうそう、これー。べふこから預かったのー。」


首元の飾りマフラーに挟んであった紙を「あなた」に渡す。


A彼女の頭を撫でる

B加えて「ありがとう。」と感謝の気持ちを伝える。


A「えへへ、くすぐったいよーナインー。」ふにゃふにゃとした笑顔は、絵本の中の太陽のようだった。

B「わたしえらいでしょー。」ガルデニアは得意そうに鼻を鳴らす。


「それで〜、なんて書いてありますかー?」


「あなた」の腕からガルデニアは離れ、手紙を覗き込む。

「あなた」も同じように紙を見る。そこには日本語の走り書きがあった。

声を出して元気よくガルデニアが読み始める。


「第九次元人の「あなた」へ。この世界に入り込んだ「あなた」は戦い方以前に、この世界での生き方、歩き方も学ぶ必要があるよ。この世界の公用語は日本語だから安心して。あと、不要な混乱を避けるために、未来とカヌメナーアに関係することは口に出せないようにロックしたから。住む所や当面の生活費と学費は、この手紙を学園長、つまり女神ロータスに見せれば大丈夫。蓮坂舞さんへ、この人地球人だよ。戦う理由があって命球へ来たの。よろしくね。」


早い話、この手紙を女神に渡せば保護を受けられるらしい。

他にも書いてあったが、内容はガルデニアについてだった。


「この子は焼かれた世界のガルデニアだから、この世界のルニアのことは心配しないで、あとこの子の戦闘能力には制限をかけてあって、「あなた」の成長に合わせてこの子も強くなるよ。それと─。」


顔を上げて、ガルデニアを見る。紙面の文字を読んでいたものの、険しい顔つきだ。


「うーん、文字は読めるけど意味がわかりませーんー。」


Aガルデニアと呼んで頭を撫でる。

Bルニアと呼んで頭を撫でる。


A、「あなた」に撫でられたガルデニアは嬉しそうに目を細める。

 「お姉ちゃんたちからあなたにあずけられたけど、あなたの手も気持ちいーねー。」


B、ガルデニアは頭を撫でる「あなた」の手に指先で触れる。

 「えへへー、わたしのー、ニックネームー。」


頭を撫でられたガルデニアは、残りの一文を読み上げる。


「今から十を数える間にガルデニアを連れてまっすぐ走って。」


「あなた」はガルデニアが読み終わる前に


A、ガルデニアの手を引いて走り出す。

B、ガルデニアを抱き上げて走り出す。


A、「わっわっ!ナインどーしたのー。」

  華奢なその手を強く握る。離さないように。


B、「ひゃっ、ナインー!?」

  この子は守り切る。全てを懸けて。


「はっ、はっ!」

「あなた」ナイン・エルナの基礎的な身体能力を作者は知らない。健康的な15の年齢と見て、みっつは年下の少女の手を引いて、あるいは抱えて急に全速力で走り出せば、当然息も上がる。太腿の筋肉も攣る。

肺と足が悲鳴を上げ始めた時、「あなた」とガルデニアの立っていた場所に爆発が起きて、その爆風に「あなた」とガルデニアの身体は巻き込まれ─。


「きやあああ、ナインー!」


ガルデニアを強く抱きしめる。

ふわ、と身体が浮いたような感覚。こんな簡単に終わってしまうなんて、これではカヌメナーアと戦うなんて。


「よよっと。」


必死に目を閉じてガルデニアを抱く「あなた」の身体から浮遊感が消え、石作りの道の上を両脚が踏み締める。


「あなたたち、もうだいじょうぶだよー。」


気の抜けたような少女のような声と、とんとん、と肩を叩かれる感触。


A、更に目を閉じてガルデニアを抱きしめる。

B、ゆっくりと目を開く。


A、「あなた」はその声が、今際の際に見る幻覚の一つだと感じた。

 「ごめんガルデニア!きみを、みんなを守れなかった!」

 「いたいよおナインー。」

 ぱしぱしと叩かれて、目を開く。


B、その声に促されて、「あなた」は目を開ける。

  ルリローを突き破り入り込んだシルエットが、うっすらと見える。


視界の大半を占めるシルエットは、その蠢く鎧脚の細部が模倣太陽の光を受け、きらきらと光る。今、「あなた」たちの目の前にはセンテルデの脚部があった。


「ここから動いちゃだめだよ。」


「あなた」たちを助けた少女は、肩まで伸びた紅い髪を掻き上げて、跳ねる。

それを見て「あなた」は呟く。


「紅い、髪─。」


紅い髪の登場人物で、物語冒頭にラプリマに所属するのは一人だけ。

「あなた」はその名前を知っているかも知れないし、知らないかも知れない。


A、「ダリア・アジョアズレス─。」

B、「あれが騎士なのか─。」


A、「あなた」の知るダリアはこのあと、アセデリラと共にセンテルデと戦闘を行う。「あなた」は避難できる場所が無いか辺りを見回す。

B、彼女に助けられなければ、「あなた」とガルデニアは確実に死んでいた。ゆうに3メートルはある無数の鎧脚と体節を持つセンテルデに、単身立ち向かう騎士を、あなたは目で追う。


飛び跳ね、全身に赤い炎の輪を纏い、センテルデの注意を引く紅い髪の少女を見守っていると。


「何やってるのナイン、早く逃げよーよ!」


ガルデニアが「あなた」の両手を握って必死に叫ぶ。

そう、「あなた」はこの世界のヒトでは無いから危機感を持てないが、ガルデニアは目の前の巨龍の危険性をよく知っている。まずは彼女の安全を確実しなければ。

ケシャケシャ、キシャラ。

相当な重量を無数の鎧脚の爪で分散させて保持し、、金属光沢にしか見えない体表のセンテルデは十字路を横切り、その体節ごとに生えた鎧脚は忙しなく動き、身体の果てが知れない。


A、とにかくセンテルデの進行方向の逆へガルデニアを連れて走る。

B、センテルデの進行方向に対して垂直へガルデニアを連れて走る。


A、「あなた」はセンテルデの向く方向とは逆、つまり尻尾の方へガルデニアを連れて走る。対象がどれほど巨体であろうと、必ず抜けられるはずだ。

B、「あなた」はセンテルデから右を向いた方向へ、ガルデニアを連れて走り出す。センテルデの尻尾に対して逆走するよりも、その鎧脚を見なくて良い分冷静な対応ができる。


「「ラプリマのコル、コルソ並びにルリロー、シルヴィトーのみなさま─。」」


女性のアナウンスが至る所から聞こえる。しかし聞いている余裕は無い。


「ナインっ!」


脚のもつれたガルデニアがバランスを崩す。

振り向いてガルデニアの腰に腕を回し、膝裏から抱き抱える。


A「絶対守る!」

B「離さない!」


AB、「うん、うん!ナイン!ナイン!」抱き抱えられたガルデニアは「あなた」の首に腕を回してほっぺたを擦り付ける。そして背後から

ガコォ!

まるで、野菜を包丁で切るような音が、それがはるかに大きい音量で聞こえた。

それに合わせ、センテルデの巨体がのたうち、鎧脚が「あなた」たちの眼前に迫る。


「らー♪」


薄紅色の花びらが咲き乱れ、「あなた」とガルデニアを包む。

鋼鉄の塊、黒く塗られた車のようにも見えるセンテルデの鎧脚は、「あなた」たちに激突するまでに、間に咲いた無数の花びらによって防がれる。


「ふむふむ、あなた達は女神に会う必要があるのですね。」


その藍色に近い髪色の女性は、ガルデニアの飾りマフラーからはみ出した紙を確認する。

柔らかな表情の彼女は、軽く膝を曲げてお辞儀をした。


「申し遅れました。私はラプリマの─。」


「あなた」はこの女性を見た事があるかも知れないし、知らないかも知れない。


A、「アウタナ・セリフラウ─。」

B、ただ彼女の言葉を聞く。


A、「あら、ご存知でしたか。」彼女は微笑んだ。儚げな笑みを。

B、「この私、アウタナ・セリフラウが春都市ラプリマのダクトロをしております。」恐怖で顔の引き攣っていたガルデニアに優しく微笑む。


「追いつけて良かったです。現在ラプリマにはルリローが展開していますので、もう走り回られる必要はありませんよ。」


春の柔らかな日光のような声に心が落ち着いて、少しずつ辺りの状況が見えてきた。「らんらんら♪」、と小さな子どもの歌声、「踏み砕け♪」と勇ましい男性の歌唱。「アタシゃ洗い物してんだい♪」おおらかな女性の声。さまざまなヒトが、思い思いに歌っている。その歌はそれぞれが黄色、橙色、緑などを淡くした色で、波打ち際の泡のように、折り重なるようにしてセンテルデの質量がもたらすはずの破壊を防いでいる。


A、「これがルリロー。」

B、「これは一体。」


A、「あなた」の言葉に対してアウタナは微笑んで頷き、彼女もまた歌い始める。

B、「はい、女神がひとびとに与えた力を、それぞれが歌うことで使用し、ダクトロであるこの私、アウタナ・セリフラウがまとめることで、揺籠のルリローとします。」


ぱん、あるいはズギュゥゥン!

破裂音が響く、「あなた」の世界の簡単な言い回しならピストルの発砲音、しかしその衝撃は遥か先から突風のように渦を巻いてセンテルデの鎧脚を圧壊させる。「あなた」たちの周りにはルリローの花びらが咲き、そよ風に吹かれたほどの風圧しか感じない。

「あなた」はその現象に心当たりがあるかも知れないし、知らないかも知れない。


A、「ディスティノ─。」

B、「これは。」


A、「はい、あのダリア・アジョアズレスのものでず。」アウタナが答え、そして散発的にディスティノの銃声が繰り返し響く。

B、「騎士とウサギが行う、殺傷のための技術、ディスティノです。」アウタナの答える最中にも、銃声と衝撃波が起きる。


そして


「ナイン、あっち!」


ガルデニアがセンテルデの後方を指差す。


シィィィィィィィィ!

緑の雷を纏ったシルエットが、センテルデの後方からその巨体を縫い止めるように駆けてゆく。

バチィィィ!

実際に緑の雷はセンテルデの鎧脚を拘束し、身動きを取れなくしていた。

「あなた」はその緑の雷が起きた理由を知っているかも知れないし、知らないいかも知れない。


A、「緑雷のポデア、アセデリラ・アルマコリエンデ─。」この時点ではただの騎士候補生として、センテルデと相対していた彼女の名前を呼んだ。アウタナが不思議そうに「あなた」を見つめる。

B、「今のは、ヒト、なのか─?」緑色の雷をヒトの姿と感じた「あなた」は思わず口を開く。「そうです。体内のぜネロジオと本人の経験、身体技術をポデアとして実際に発現させる、それが騎士です。彼女はまだ候補生ですが。」アウタナが「あなた」の言葉に答えてかんたんな説明をした。


「お姉さん、ナイン、わたしたちも何かできないの!?」


ガルデニアが居ても立っても居られないという風に尋ねる。「あなた」もアウタナに視線で問いかけるとアウタナは微笑んで口を開く。


「それでは、あの騎士たちのため、ラプリマに暮らすひとびとのため、そしてあなたの大切なヒトのため。」


アウタナは一度目を閉じて、開く。


「歌いましょう。あなただけのルリローを。」


ガガガガガガン!きゅうーん!

そのアウタナの言葉に合わせるように、ディスティノの銃声が続け様に6回起きる。


「歌う…アネモネお姉ちゃんみたいに、るー、らー♪」


ガルデニアが口を開き、歌い始めると、その歌声は淡い青緑の花びらとなり、さまざまな他の花びらと共に「あなた」たちを包む。


A、「あなた」もガルデニアのように優しく歌う。

B、「あなた」は遠くから響く凱歌のように、勇ましく歌う。


A、「るー、るるらー♪」ガルデニアの歌声に寄り添うように、「あなた」は声を重ねて2人の声は調和したハーモニーを奏でる。歌声は他のものとも調和するように奏で合う。

B、「ららら、らっららー、らー!」優しいガルデニアの歌声を多い隠し、守るように力強く歌う。それでいてガルデニアと「あなた」の歌声はお互いを包むように響き合う。


「あなた」たちは、いつしか自然と手のひらを重ね、握り合う。お互いを守り合い、離さないように。


そして、日中のはずの空から、ラプリマの街並みからも光が奪われ、青紫の瞬きがセンテルデの身体を光へと変えてゆく。赤熱し小さな粒のように散らばり、それすらも次第に消えてゆく。センテルデの、生命が終わる。あの巨大で危険過ぎた鎧脚も、それが生える体節も、全てが震え、痙攣し、そして光へと還されてゆく。「あなた」の目の前で今、ある生き物が殺された。直接手を下したのは大きな白銀の、二脚の兵器に乗る2人の騎士。けれど彼女らの支援というかたちで、殺す手伝いをしたのは─。


「あかるく、なった。」


ガルデニアの声に意識が引き戻される。


A、「ガルデニア、ガルデニア!」彼女が無事だった喜びで強く抱きしめる。

B、「君は、見なくて、見なくていいんだ。」彼女の頭を抱えるように抱いて、背中を撫でる。


A、なんとか、ガルデニアを守りきれた。そう思った「あなた」は彼女の生を確かめるように強く抱きしめて何度も名前を呼ぶ。そう、「あなた」とガルデニアは今回は運良く生き残れた。焼かれてしまったガルデニアの姉たち、あの世界のヒト達を想い抱きしめる。


B、「いいんだ、ガルデニア。」いくら「あなた」たちが生きるためだったとは言え、ついさっきまで生きていたセンテルデはその体細胞の、魂の一片すら光に変えられてしまった。名も無き樹皮の街で苛烈な半生を送ってきたガルデニアに、これ以上生命が喪われる所を見てほしくない。


「ふんふん、なるほどのー。お主、相当な地獄を見て来たようじゃの。」


妙に芝居がかったようでいて、無数の生と死を見つめ続けてきた風格のある声がする。

「あなた」は顔を上げる。


A、「女神ロータス。」

B、「あなた」の知り合いにはこのような人物はいませんでした。


A、「ふうむ。」女神はあごをあげて首を反らし、「あなた」たちを見下ろすように、興味深げに見つめる。

B、「そう怯えずとも良いわ。太陽系第三惑星人の女神、ロータスじゃ。」その少女は、両手を腰に付けて微笑む。


「あなた」はガルデニアの首元、飾りマフラーに指を添えて紙を引き抜く。手渡された手紙を受け取った女神は眉を顰めて誌面を見つめ、口を開く。


「なるほどの、この第九次元人、第十三次元人カヌメナーアと言う文字列を解読しようとしても、頭にモヤのようなものがかかる。手紙の主、ワガハイの事を知った上でお主を命球に送ってきたと言う事は。」


女神は指先に火を生み、手紙を焼く。

ぶわっと一瞬で燃え尽きたそれは、手のひらほどの大きさの包みとなる。


「んむ、お主らの身元引き受けなどの面倒、それと当面の生活費と学費はワガハイが負担しようぞ。」


女神は先ほどまでの不適な笑みではなく、心からの笑顔でそう言う。


A、「そんな、大金になるのでは!?」

B、「包みが怪しい。」


A、「そう心配せずともよいのじゃ。」

B、「ええい、なんじゃその疑わしい顔は!」


女神は続けてその包みを「あなた」たちの目の前に掲げる。


「聞いて驚くでないぞ!これは地球でしか食せぬ、かゆずやのみたらし団子と抹茶バッグじゃ!」


A、B「なんだ団子かー。」」


拍子抜けした「あなた」を笑い飛ばし女神は続ける。


「はん、どーせ「いつでも食べられる」と思っておるのじゃろ。確かに命球に於いても「似た」食べ物は確かにある。しかし「オリジナル」というプレミア感は何物にも代え難いのじゃ。」


女神は「あなた」とガルデニアの胸に手のひらを重ね。


「コネージョ、ソルタンド。」


きゅわ、わと軽く「あなた」たちの胸に空気の渦が起こり、そしておさまる。


「迎えの者を寄越す。それまでそこらの露店で好きな物を買って待つか良い。」


女神は軽い足取りで歩き始める。


A、「お金なんて持ってない。」

B、「ありがとう。」


A、B女神はその言葉に振り向いて「そうそう、さっきの戦いでのお主らのルリローもmpに変換されておる。詳しくは学園で学ぶと良いが、かんたんに言うならほれ、普段使っておったお財布を思い浮かべよ。そして詠え、バンヴォル、レスパン ミア ヴォガン パルチェとの。」


女神はそれだけ告げて、小走りで歩き去る。

「あなた」たちは再び取り残された。


「さっきのエンゲージ良かったねー。」

「わしも若い頃は─。」


わいわい、がやがや。

十字路には再びヒトや獣脚類、その他の生き物が戻り、それぞれの生活に戻る。

辺りを見回す「あなた」の手を握り、ガルデニアが口を開く。


「ねーナインー、女神も言ってたしなにか食べよーよー。」


そう上目遣いでおねだりされて、「あなた」はお財布の中身を確認しようとする。


A、「バンヴォル、レスパン ミア ヴォガン パルチェ。」

B、「パンやまもり、レーズンパン、クロワッサン、ソーセージパン。」


A、正しくうたえた「あなた」の手元には地球で普段使っていたお財布が現れ、中を開くと見たことのない紙幣が数枚と、女神の顔が彫られた硬貨がいくらか出てきた。

B、正しくめなかった「あなた」の手元には何も現れず、逆に空腹が「あなた」を襲い始めた。健康な15の肉体は先ほどの全力疾走と歌唱により消費したカロリーを求めて唸りを上げる。


「ナーイーンー!おなか減ったー!」


ガルデニアに手を掴まれて引っ張られる。そこへ


「なるほどー、よくわかりましたー!あなた達ですねー!」


とてとてとて、とガルデニアほどの年齢に見える少女が駆けて来る。

先ほどまでセンテルデと戦った騎士のような制服に、彩度の高い赤のケープのようなものを纏っている。


「申し遅れました!私、レタ ラ リベ勤務のカランコエです!」


彼女は肩からかけた紺色、群青にも見える大きなカバンを掛け直し、帽子を被り直して微笑んだ。


A、「こんにちは、ナインだよ。」「ガルデニアだよー。」

B、「パン…パン…。」「パン…。」


A、「あなた」は初対面のカランコエに微笑みかけてガルデニアもそれに倣う。

B、「あなた」とガルデニアは、カランコエのふわふわのくるくるした巻き髪がクロワッサンに見えて、最高に疲れていたのも相まって、ついかぶりついてしまった。「ちょ、ちょっと待ってください!私の髪はパンじゃありませんー!」じたばたとするカランコエの手が当たり、「あなた」とガルデニアは正気を取り戻す。


「はい、あなたたちの今のお食事に使えるmp、女神ポイントはこのくらいですね。」

カランコエに案内され、露店に並んでいたお砂糖まぶしパンに齧り付き、「あなた」とガルデニアは幸せを噛み締める。噛むたびにじょりじょり、ざくざくと歯や歯茎、舌に固められた甘いお砂糖が当たり、さらに噛めばふっくらとしたパンの生地が甘みを口の中に伝える。


「ナインー。」


ガルデニアは、迷子の子どものように「あなた」の胸に飛び込む。


「モネお姉ちゃんも、ララお姉ちゃんも、アメリアお姉ちゃんも、わたしも、こんなパン、こんなにおいしいパン食べたこと無かったよー。」


「あなた」が知っているか知らないかは別として、ガルデニアは名も無き樹皮の街で親の無い子として生まれ、同じく孤児の三人の姉に育てられた。アネモネとアルストロメリアが一晩中「騎士くずれの相手」をして手に入れられるのは片手におさまるほどの石パンとコップ一杯の水だけ。そうしてブラックバッカラと共に育てられた。ガルデニアの知るパンとは、違うものだった。


A、そっと抱きしめて頭を撫でる。「みんなにお礼、しなくちゃね。」

B、三人の分も強く抱きしめて歌う。「高く飛べ、白き花、ガルデニアー♪」


A、「うん、うん。みんなにいっぱい、いっぱいおいしいパン、食べて、もらう。」ガルデニアは「あなた」の腕の中で震える。そして「あなた」も震える。この世界のガルデニアには、まだ姉達が生きている。しかしこのガルデニアの姉達は、おそらく全員が、カヌメナーアによって赤に塗りつぶされている。「あなた」の瞳は空を睨め上げ、第十三次元人と対決する意思を高める。


B、「あなた」の知識には、このような歌は無かったでしょう。しかし「あなた」の口は自然と開き、三人の姉達がそれぞれしていたようにガルデニアを優しく、慈しむように、力強く抱きしめて、アネモネ、アルストロメリア、ブラックバッカラ、それぞれが口ずさんでいたように、ガルデニアのための歌を歌います。彼女だけでも、守り切る。カヌメナーアの行為から。空を睨め上げる「あなた」の目には焼かれるラプリマとひとびとの姿が映っていました。


笑いながら歩くひとたち、大きな荷物を抱えるひと、大きな声でおとうさんを呼ぶ子ども、ベンチに腰かけて空を見上げるおとしより。ラプリマだけではなくて、他の街でも。「あなた」の知らないひとばかりのこの世界で、それでも「あなた」には、今目の前にある光景が、腕の中で泣く女の子が、第十三次元人カヌメナーアからひとびとを守る理由に、なる。


「おうさーん。」「おーい誰かこの子のお父さん知りませんかー?」「おやおや迷子かい。」「よしお嬢ちゃん、このキャンディ上げるから舐めときな。」「おじさんがお父さん見つけてやるからな。」「ふみこー!」娘を探す父親と、その娘を守るひとびと、そして「おとーさーん!」父親を信じて待っていた子ども。


彼ら、彼女らの、そしてガルデニアの家族を奪ったカヌメナーアに対抗出来る可能性を持つのは、第九次元人である「あなた」だけ。


第六部 第九次元人の「あなた」へ。①抗う理由  了


   ─────

第二話

「私ですか?はい、レタ ラ リベに所属している情報配達員です。」


カランコエに案内されて、ラプリマの街並みを歩く。人通り、荷車を曳く獣脚類の多い十字路を抜けて、少し細い、それでもまだ、地球では片側二車線の道路くらいはある道へ入る。


「普通の通信や放送には、クルルガンナ星人ほしひとの遺した技術を解析して作られたこちらを使うんですけと。」


カランコエは手のひらに、半透明の青い立方体、胸元のネクタイリボンを外してそれらをひらひらと振る。


「「あなた」の、命球に、ラプリマに来た理由は特殊、とのことなので、私が女神から直接任命されました。また、ロータス綜合学園の編入手続きも行いますね。」


A、「ガルデニアはどうなるんだ?」─「あなた」は歩きながらガルデニアを抱き寄せる。

B、「この子と離れたくない。ルニアも一緒に入れて欲しい。」─「あなた」は揚げパンを頬張るガルデニアの腰に腕を回す。


A、B 「ふふ、そうご心配なさらないでください。」カランコエは微笑んで、群青色の肩掛けカバンから手帳のようなものを取り出す。


「かんたんな書類自体はもう出来ています。お名前、ご確認くださいね。」


「あなた」とガルデニアはそのページを覗き込む。


「んん、ん。」


パンを飲み込んで、首の付け根をとんとんと叩いたガルデニアが口を開く。


「私だって騎士になりたい。パートナーを見つけることはできなかったけど、きっとすてきなヒトにであえるはず─。」

「きゃ、きゃあ!だめです!みないで!えっち!」


顔を真っ赤にしたカランコエが手帳をぶんぶんと振り回して「あなた」たちから遠ざける。


「はあ、はあ。ありました、ここです。」


何回もページをめくったカランコエは、そのまま読み上げる。


「「あなた」、ナイン・エルナ。身元保証人女神ロータス。そちらのガルデニア・エル・ヴィエルナ、身元保証人おおとろべふこ。」

「べふこだー。あれ。べふこって誰だっけ。」


首をひねるガルデニアを撫でて「あなた」は思い返す。

この世界、「ダリア」の作者。第十三次元人カヌメナーアによって焼かれた世界で生き残ったガルデニアを「あなた」に託し、このラプリマへ送り出した。


「そちらに関してはわかりませんね。ただガルデニアさんの身元を保証されるのですから問題無いでしょう。」


話しながら歩くうち、ずっと道の端にあった壁と植え込み、模倣植栽がひとつの大きな建物の、敷地の外周を囲むように存在していると気が付いた。

すぐ先には壁の終わりが見え、木で組まれた門のようなものがある。


「少しお待ちくださいね。マリアンテ ラ ナダ─。」


カランコエは門に手を当て、祝詞を詠み上げる。

門がゆっくりと開く。ふわ、と春の柔らかな風を「あなた」とガルデニアは感じた。


「わあ、気持ちいいねナインー。」


さわやかで、新しい生活の始まりを告げるような風。

それはガルデニアも同じであった。絶えず灰の舞うエルヴィエルナ、冬都市と呼ばれるそこから春都市ラプリマへ。全ての熱が奪われてゆく冬から、あたたかな日差しが包み込む春へ。


「さあ、ロータス綜合学園です!」


カランコエは一歩下がって左腕で、開かれた門に、「あなた」たちに足を踏み入れるように促す。


A、B─「行こう、ガルデニア。」


A、B─「うん、ナイン!」


「あなた」とガルデニアは門の中へ踏み出し、そして。


「ねえナイン、どこに行ったらいいのー?」


目の前には葉の広い模倣植栽が。石作りの通路に沿うように。それが配置された向こう、恐らくは校舎が見えて、その右手にはやや古めかしい印象のある、赤黒い木造の建物。左手には湖のようなものがあり、丸みを帯びた背の高い植物が並んでいる。それらはゆっくりと、丸くなった部位がまっすぐに伸び、また丸くなる。


A、「あなた」は、ガルデニアの手を引いて、まずは正面へと踏み出した。何事も正々堂々と。

B、「うわあああー!」古めかしい建物の方から、断末魔に近い絶叫が上がる。「あなた」とガルデニアは声の方向へ駆け出そうとする。

C、「ねーナインー、あれ何だろー。」「あなた」はガルデニアが興味を示した、伸び曲がりを続ける植物の方へ2人で歩いてみる。何事も冒険だ。


A、B、C─「わわ、おふたりとも待ってください〜!」後ろからとてとてとて、といつもの足音でカランコエが追いついてくる。「もう、言うの忘れちゃってた、私が、よくないんですけどー。」はぁはぁ、と肩で息をするカランコエに対して「あなた」は不思議に思う。


A、「そんなに歩いてない。カコは全力疾走したみたいだ。」

B、加えて「あなた」はとりあえず、カランコエの背中をさする。

C、更に「あなた」は見るからに重そうなカバンを代わりに持つことを提案する。


A、B、C─「はぁはぁ、ありがとうございます。学園に在籍していた時の設定そのままだったのを、忘れていたんです。」呼吸を整えたカランコエは、「あなた」達の先に立ち、中央の校舎らしき建物に歩き出す。


「それってなんなのー?」


ガルデニアが、「あなた」が聞くよりも先に、カランコエに質問した。カランコエは、少し俯いたあと、何か吹っ切れたように空を見上げ、「あなた」たちに口を開く。


「はい、私は騎士科への進級が不可能って判定されたあと、適正な職業への訓練を受けることになりましたが。」


彼女は自身の腕、脚に絡み付いた、ポデアの発現したような鎖を見せる。


「それでも、騎士になることを諦められなかったので。」


「あなた」たちを見る彼女の瞳は、どこか遠くの、憧れている騎士を見ているようだった。


「学園の敷地内では、トレーニングのためにこうやって、負荷をかけ続ける設定にしていたんです。」


諦めたようで、それでも諦めきれない姿を、彼女は「あなた」たちに見せる。

夢を、見続けている女の子。

戦闘用のポデアを扱う才能が無いか、身体能力に致命的な不備があったのか、その他にも理由があるのかも知れない。けど「あなた」は、それを聞けるほど彼女と親しいわけでは

無い。ほんの少し前に出会っただけなのだから。

それでも胸襟を開いて、笑顔で話してくれたカランコエへ「あなた」は。


A、「まだ諦めてないなら、ぼく/私たちと一緒に目指そう。」そう言ってカランコエの手を取る。「1人より2人、2人より3人だねー。」ガルデニアもカランコエの手を握る。

B、ただ頷いて。「ありがとう。」と伝える。そして書類を受け取り、「あなた」とガルデニアの名前が記載された欄へカランコエの名前も書き込む。


A、「あなた」の申し出にカランコエはびっくりして声を上げる。「え、え、そんな!何を言ってるんですか!確かに騎士を目指すヒトへの再教育もありますけど!」ならそうしよう。どうせ女神は面倒を見てくれる。と「あなた」は笑います。

B、「な、何をしてるんですか!?」目を丸くするカランコエへ「あなた」は「女神の言い方なら、君の生活費や学費を出すのにも、そこまで痛手とは思わないはずだ。」と言います。女神は確かに「何ものにも替え難い。」と言いながらお団子の袋を抱きしめていました。


そうして、地球の、どこにでもある学校とそれほど変わらない、焼き入れがされたような落ち着いた色合いの木造の、三階建て校舎へ足を踏み入れます。

きーんこーん、かーんこーん。

ちょうどチャイムが鳴り、ざわざわと、恐らくは生徒たちの声などが聞こえて来ます。


「アタシのものよー!」

「よーし今日こそ1番乗りだー!」

「負けないわよー!」

「いくぜー相棒ー!」


とたたたた。どたたた。

「あなた」達の目の前を、何人もの生徒が両腕を高く掲げて、明るい橙色のトレーらしきものを持ったまま走って行きます。


「なーにー?たのしそー!」


ふらふらとそちらへついて行きそうになるガルデニアを、「あなた」は抱きしめてカランコエに視線を投げかけます。


「はい、今はちょうどお昼休みなので、購買部のパンを買うために競争をしているんです。」


歩きながらカランコエが説明するところによると、この購買部、そしてそこで販売されるパンの製造もまた、適性のある判定を受けた生徒が職業の訓練として行なっているそうだ。


「あなた」は疑問に思う。地球では、日本を含め、おおよそどの国でも職業の選択や他のことにも自由があったはずだ、つい先ほど見たような、センテルデその他との戦闘を行う騎士に関しては、確かに適性は必要かも知れない。

「けれど、この世界にほんとうの自由は存在しないの?」と「あなた」が口を開くと、カランコエは困ったような顔をして、あらぬ方向を見る。


「何をどう思おうが、個人の自由ではあるが─。」


後ろから壮年の男性の声が響く。

「あなた」は振り向く。


「女神からの通達の通りだな。反抗的でいい面構えをしている。」

「はい!ウラニシ教官!」


先ほどまで気の抜けていたようなカランコエが、即座に姿勢を正し、左肘を肩の高さまで上げ、その拳を胸に当てる。

彼は頷き、口を開く。


「女神の邯鄲やこの世界について、ある程度の知識があるとも聞いている。それを前提に説明する。」


わーわー、きゃー。

どたばた。

遠くの方でパンを取り合い乱闘が起きているが、彼はそれを一瞥しただけで、「あなた」たちに話を続ける。


「このロータス綜合学園ラプリマ校に学ぶ者達は、中等生から騎士科をはじめとして、さまざまな科へ進級する。が、初等生の間に、君のいた世界における高等教育、それ以上のものも一年で学ぶ。」


「あなた」の世界、地球では早くて3年か7年はかかる教育を初等生の間に。


A、「たった1年で!?不可能じゃないですか!」

B、「だから、邯鄲を使うんですね。」


A、「そこで女神の邯鄲がある。この学園に在籍、関係するもの、またその家族は常に邯鄲により、時間の経過が意味をなさなくなる。そして一通りの教育と一通りの職業訓練を3年分行い、適性を診断する。」

B、「そうだ。全ては瞬きの間の思い出となる。」


命球、地球での呼び方はブラックホールのいて座Aスター。あらゆる熱量とその移動を記録して一点に集約するそれ、に取り込まれた物質には、時間の概念が無くなる。例えばお弁当箱に詰められた具材は、どれを食べても、その具材をその場で調理する必要が無いように。


A、B、「だから、カヌメナーアは…。」


「あなた」は気付く。わたしたちが普段口にするお弁当が「ダリア」の作中世界に当たるなら、それを食べる、読む「あなた」は二次元を消費する四次元人となり、第十三次元人であるカヌメナーアは、同じように「ダリア」の世界を赤に塗り潰した。


「ふむ!何か思うところがあるようだが。」


ウラニシ教官はわざと高い声を出して、思考に集中する「あなた」の注意を引き、話を再開する。


「ナイン・エルナ。当然わかっているだろうが、私ウラニシが君達の専任教官となる。」


彼、ウラニシ教官は左胸のポケットから丸い時計を取り出し、恐らくは時刻を確認したあと。


「まずは君達の制服だな。縫製部へゆこう。」


校舎の中を歩きながら、彼は自身の側頭部を叩く。


「さて、おまえさんたちそれぞれの制服を作らにゃならんが、それにはルリローを編み込まにゃならん。せっかくエンゲージの相手も決まってるんだから、お仕立てをしとる間ずっと歌っときなさいよ。」


「あなた」は驚いたかも知れない。彼ウラニシは、厳しい教官の顔と、どこにでもいる笑顔の絶えないお爺さんの顔を、頭を叩くことで切り替えて、使い分けている。


「きょーかん、エンゲージってなにー?」


ウラニシ教官が親しみやすい口調になったのもあって、ガルデニアが気安く質問をする。


「そうだね。ガルデニア、騎士は見たことがあるだろう?」

「うん、さっき戦ってたー。」

「学園で騎士科に入って、「このヒトを何があっても守りたい。」そう思う相手を見つける。そして、そのヒトととな、ちゅーをするわけ!」

「えー!ちゅーするんだー!?」


わざとらしくジェスチャーを交えて説明するウラニシ教官と、その動きに対してややオーバーにも見える反応をするガルデニア。まるで祖父と孫娘のような。


ちょっと待って。

ついさっき、教官は。


A、B、「ガルデニアのエンゲージ相手が決まってる!?」そう「あなた」は声を上げる。何が起きても守りたい。そう決心してこの世界に来た「あなた」は声を荒らげる。「かわいいガルデニアが誰かとエンゲージするなんて、お母さん/お父さんはぜったい認めませんからね!」


A、B、「ナインはわたしのお母さんでも、お父さんでもないよー?」聞き分けのない子どもをあやすようにガルデニアが「あなた」に告げて、「あなた」は肩を落とす。


「そうだガルデニア、言ってあげなさい!君のエンゲージしたい相手が誰なのか!」


ウラニシ教官が、ガルデニアと「あなた」の間でわざとらしく片膝をついて、両腕を広げ、声を上げる。


「うん。」


ガルデニアは両手を胸の前で組んで、少しうつむく。ほっぺが真っ赤になっている。

「あなた」の知らないところでガルデニアは誰かに恋をしていたのだろうか?焼かれる前の世界で、エルヴィエルナにいた頃の秘めたる思いなのか?それともセンテルデから走って逃げる時に一目惚れ?まさか学園の敷地内ですれ違った生徒か教官の誰か?それとも隣でパンを巡って殴り合う生徒の中に?

誰が「あなた」のガルデニアの心を射止めたのか、辺りをきょろきょろと見回し、愛しいガルデニアを狙う、花を盗む者を探す「あなた」へ。


「ナイン。」


呼ばれた気がする、けど構っていられない。この腕にガルデニアを抱きしめて、獲られないように強く、強く抱きしめる。


「んんっ、ちゅっ。」


唇に、ぷにっとした、柔らかいものが当たる。


「えへへ、ナイン。」


「あなた」の思考は止まったと思います。周りでパンを食べるために戦っていた生徒も、両手をひらひらとはためかせ騒ぐウラニシ教官も、肩掛けのカバンがずり落ちるカランコエも、その全てが止まって見えて。


「ナイン。」


ガルデニアは、ゆっくりと瞳を閉じて。つま先で立ってもう一度「あなた」に。

キスを。


「だいすきだよー。」


まるで、絵本の中のおひさまのような笑顔。


A、抱きしめる。

B、「君を守る。」


A、「えへへー、ナインの、あったかーい。」

B、「うん、わたしも。」


「はーいそのままそのままー、そっちのヒトもそのままねー。」


妙に手際のいい女子生徒たちが巻き尺を持って「あなた」とガルデニア、カランコエの採寸を始める。


「なに、まだ第一ラウンドだ。」


立ち上がった教官が、カランコエに何かを語りかけている。


「おー、生エンゲージ初めて見たー。」

「なかなかロマンチックだったわねー。」


いつしか、生徒たちが周りに集まり、さっきのガルデニアとのエンゲージ、つまりキスに対するコメントを口にする。

「あなた」は─。


A、「隠れたい。」

B、「ガルデニアは渡さない。」


A、隠れたい、と口から漏らした「あなた」の首にガルデニアが腕を回す。「ナインはわたしのものだよー。」

B、腕の中のガルデニアをさらに強く抱きしめて、周りの生徒たちを威圧する。そう、「あなた」だけのガルデニア。


「はいはい、お熱いところどうもすみませんね。」


縫製部のメンバーの手が伸びて「あなた」とガルデニアは引き離され、あっと言う間に制服へ着替えさせられた。

他の生徒と同じデザインではあるものの、黄色を基調として、黒が差し色になっている色合いになっている。ガルデニアの首元には、飾りマフラーも。


A、B─「この色は?」学園の生徒は赤、緑、青に統一されているはずだ。黄色の生徒は視界には存在しない。


A、B─「こちらは基本的に、再教育騎士に当たる生徒が着用するものです。」縫製部の生徒が答える。


「ルリロー、歌うんじゃなかったのー?」


てきぱきと撤収作業を始める縫製部の1人へ、ガルデニアが声をかける。


「いえ、さっきのエンゲージだけで、じゅうぶん過ぎる量の祈りをいただきました。」


ぱたり。

一礼をして歩き去る縫製部の面々を見送ると。


「わー、ナインかっこいーねー。」


ガルデニアに声をかけられる。


A、「ガルデニアもかわいいよ。」

B、声に応えてかっこいいポーズを取る。


A、「えへへー。」左足でくるりと一回転するガルデニアは、舞う天女のように見えた。

B、「わー、かっこいいー、ナインー。」ポーズを決めるたび、ぱちぱちとガルデニアが手を叩いてくれる。「あなた」はとても良い気持ちを感じるかも知れない。


「あの、おふたりに水を差すのもなんですけど。」


カランコエが「あなた」たちに声をかける。

彼女もまた、「あなた」たちと同じように黄色の制服と、今まで着けていた赤いケープを纏っている。


「そうだ。君達の入る、選抜騎士科寮へ案内する。」


ウラニシ教官は、既に厳しい教官の顔へ切り替えている。


「期待しておけ。ここでの生活が君の力となる。」


校舎を出て、その裏側へと回る。整備された石床から、気をつけなければすぐに転倒してしまうような、荒くれた道へ。その中でもヒトが歩いてきた、比較的なだらかな所を選んで歩く。林、そう表現するのが正しい、背の高く、葉が細く尖った、地球においては雪の降る地帯に生える針葉樹林、それを再現した模倣植栽が立ち並び、日の差し込まないそこには、今までいた校舎やラプリマの街並みのような暖かさがなりをひそめ、長袖の制服ですら肌寒く感じる。


A、「ふぅ、ふ。」


A、急な温度の低下によって、肺へ送られる冷たい空気を暖めるため、「あなた」の鼻先には鼻汁がつまり、熱くなる。「あなた」はたまらず大きく口で呼吸をする。白い息が口から漏れる。吸う空気は冷たく、喉が、肺が痛む。


「ナインー、だいじょうぶー?」


ガルデニアに声をかけられる。彼女の鼻先もまた、少し赤みがかっているものの、「あなた」のように深刻なものではない。


「君の経歴は確認した。そして女神は君の身体、魂にぜネロジオを組み込んではいない。」


ウラニシ教官が、まるで天気の話をするように告げる。


「正しくは、息を吸って吐くように、ぜネロジオを扱えるようには、していない。」


隣のガルデニアが、「あなた」にわかりやすいように大きく口を開けて、はあっと一気に息を吐く、肺から温められた空気が、喉を通り口を通り、わかりやすい白い息として出る。


「この選抜騎士寮に入る者には、同様にぜネロジオの使用に際して制限がかかる。」


教官の言葉に合わせ、ガルデニアが口を開かず、鼻先だけでゆっくりと時間をかけて息を出す。「あなた」も同じように、ゆっくりと時間をかけて、鼻先だけで呼吸をする。


「クルルガンナ解放戦のはじめ、その先の数年には、ぜネロジオはまだ構想すらされていなかった。」


岩のような、3メートルはある垂直の壁に教官は向かい、腰を垂直に落とし、手のひらを組んで、視線で促す。カランコエがその手に足をかけ、教官は垂直に立ち上がる。カランコエは岩の出っ張りに手を伸ばし、教官は掛け声と共にカランコエの靴を持ち上げ、カランコエは岩によじ登る。


「選抜騎士寮とこの道は、クルルガンナ解放戦における基地の状況を再現したものだ。」


同じように教官はガルデニアを持ち上げ、先に登ったカランコエがガルデニアの手を掴み、引き上げる。


「開戦初期、クルルガンナ星人ほしひとはまず都市部への殺戮を行ったが、同時に空を奪った。」


次に教官が「あなた」の番だ、と言うように手で促す。


A、B、「あなた」は首を振り、教官と同じ姿勢を取り、教官の足首を待つ。「あなた」の姿勢を確認した教官は肩と腰の位置に指摘を加えた後、「あなた」の手に足をかける。


「せい、や!」


「あなた」は掛け声と共に、教官の体重を垂直に持ち上げる。

そして教官が登りきったあと、「あなた」は一度下がり、助走を付けて踏み鳴らされた地面を蹴り、岩を駆け上がって、

伸ばした手は空を切り、

姿勢を崩す。


「掴んだぞ。」


教官の力強い手が、「あなた」の手を掴む。

「あなた」の両方のつま先は、岩の切り欠きに当たっている。


「よくやった。だがここからだ。3で短く息を吸え、2で腹に力を入れて膝を曲げろ。1、で岩を蹴り足を伸ばせ、跳ねろ。」

「あなた」は頷く。

「行くぞ、さぁん!」

A、B─「ひゅうう!」息を吸う。

「にぃい!」

A、B─お腹に力を込め、膝を曲げる。

「いぃち!来い!」

A、B─「せあっ!」腰を曲げて両脚で岩を蹴り、跳ね飛ぶ!浮いた身体は教官の力強い腕に引き上げられる!

だ、すっ。

「あなた」の身体は教官の腕から離れ、踏み鳴らされた選抜騎士寮への地面を転がる。

「はあっ、はあっ。」肩で、全身で息をする「あなた」にガルデニアが抱きつく。

「ナインー、かっこよかったよー。」

まだ興奮が収まらない「あなた」の目の前には、半ば林と雪に埋もれ、仄かな灯りのある選抜騎士寮が見えた。

「そうだナイン。」

教官の声が「あなた」の目的を呼び起こす。

「今の跳躍が、騎士としての、君の初めての一歩だ。」

差し伸べられた彼の手を取り、立ち上がる。

「跳躍を続けろ、ウサギのように。」

その声に強く頷いた「あなた」は、「あなた」たちは、目の前の寮へ向かう。

ざ、ざっ。

先ほど、先ほどとは言っても、彼方に過ぎ去ったような印象のある先ほど。縫製部の生徒に交換してもらった、制服と対になった黄色の靴が雪を噛み、体重を支える。

「ここまでの道のりを考えれば何かある、と期待させてしまうだろうが、入り口は何の変哲もない。」

教官の言葉に引っ掛かりを覚えながらも、「あなた」は寮の扉の前に立つ。

かすかに漏れる灯りから、中開きの扉と判断して押し開く。

ぎぃい。

軋む音を立てて開くそれはさながら、何かを閉じ込めておくような、檻のような感触があった。

「さあ、怖がる事は無い。」

教官に促された「あなた」は、仄かに薄暗い選抜騎士寮へ足を踏み入れる。

ぎ、し。

まるで山道を歩いたような足の疲れと登攀の補助、跳躍により疲れ切った「あなた」の足は木造の寮の木床に悲鳴を上げさせる。

その感触に不安定さを感じた「あなた」は、恐る恐る第二歩を、

「んー、侵入者ー?」

ぎょっとする。

薄暗いものの、ランタンの仄かな灯りのあったその玄関ホールと呼ぶべき場所には、誰もいないように、見えていた。

「へー、再教育騎士でここに来るのー、クロユリくらいじゃないー?」

目が室内の灯りに慣れる。

焼き入れがされたような赤黒い建物内の、仄かに橙色のゆらめくランタンの灯りの中。

彼女はずっと「あなた」の正面に立っていた。

A、「ナイン・エルナです!」見よう見まねの軍礼を「あなた」は行う。

B、続けて「よろしくお願いします。」「あなた」は頭を下げる。

A、「うん、私はナナカマド。ここのヌシやってるよー。」彼女は「あなた」に軍礼を返し、後から入ってきたウラニシ教官とも軍礼を交わす。

B、「あなた」の言葉と態度に感激したような彼女は、明るく笑う。「ふふ、再教育騎士に見えて、かなりかわいいところあるね。ウラニシくんもこんな素直だったら良かったのにね〜。」

「あなた」は更にぎょっとすると思います。なぜなら目の前の彼女ナナカマドは、ガルデニアとそう変わらない年齢の少女に見えたからです。その彼女が壮年のウラニシ教官をくん付けで呼んだ。

「ガルデニア・エル・ヴィエルナです!」「カランコエ・ラ・プリマです!」

「うん、ナナカマドだよ。気軽にマドカって呼んで。」

挨拶の終わった後、彼女は背伸びをする。

「んん、んー。クロユリが駆け落ちしてから、選抜騎士も最近なかなかいなかったから、暇してたんだよ。」

そして「あなた」は気付く。

彼女ナナカマドの腰から下が、透けている。

「あなた」の視線に気付いた彼女は、目を細めて笑う。

「ロー学からここに来るまで、寒かったでしょ?」

「あなた」は頷く。

「私とこの辺りがクルルガンナに焼かれて消えた時、寒くなりすぎちゃってね。」

「あなた」と後ろのふたりは何も言えなくなる。

「この場所と私が、あんまりな熱量で焼かれて、情報として空間に焼きついちゃったから。女神はここをそのままにしてくれたの。」

つまり、ナナカマドと選抜騎士寮と今通った道は。

「私が寂しくないように学園も置いてくれてね。いつでも遊びに行けるように。」


文字通りの、幽霊。


「さて、湿っぽいお話はここまで!ここからは私が案内するから!ウラニシくんは座ってていいよ!」

「いえ、自分には仕事がありますので、先輩。」


教官は、一礼をして寮から出て行く。


「助けに来れなかったこと、まだ、気にしてるのかな。」


教官の後ろ姿を見送るナナカマドは、寂しそうに見えた。


「それより、お部屋だったね!」


ぎし、ぎしと歩くたびに軋む通路から、手すりのついた階段をのぼる。 


「たくさん部屋があるんだけど、もちろん3人用もあるよ。」


こんな年代物の建物なのだから、きっと空気が澱んでいる。そう思ったかも知れない「あなた」の予想に反して、透き通って抜けるような、清涼な空気の流れがある。


「ナイン、今失礼なこと考えてなかった?」


ナナカマドの言葉を首を振って否定した「あなた」へ、


「なんだか、エルヴィエルナにいた時みたいー。」


壁にかけられた「大声禁止!」の張り紙を見ながらガルデニアが声を出す。


「うんうん、ガルデニアちゃんはいい子だねー。」


ナナカマドはそう言って頭を撫でた後、かんたんな扉に付けられた、古めかしい南京錠へ鍵を差し込み回す。

かちゃ、り。

南京錠が外れる。

きい、い。

扉が開く。


「この選抜騎士寮はもともと、学園で生え抜きの生徒を女神の直属騎士として育成するために建てられたんだ。」


振り向いたナナカマドは、「あなた」たちへ、手紙を読むように思い出を話し始める。

彼女は靴を脱ぐ、履き物を靴箱または下駄箱にしまうジェスチャーをして、部屋の中へ入る。「あなた」たちもそれに倣って靴をしまい、部屋へ入る。


「設計と建築をしたヒトが少々偏屈でね、私の父だったんだけど。」


部屋の中には日本、地球の和式住宅にはよくある、畳が何枚か立てかけられており、ナナカマドはそのうち一枚の両端を持つ。

四枚の畳を、長めのものを端に一枚敷き、短めのものを一枚、長い畳の端に垂直になるよう敷き、残り二枚を先の一枚に垂直に並べ敷く。


「父さんはね、太陽系第三惑星の家屋を再現、研究する委員会にいたんだ。」


ふすまを開き、押し入れの仕切りの上に畳まれた敷布団、毛布、掛け布団を広げて重ね、枕を乗せた後、掛け布団をめくって潜り込み、両手を頬の横に揃えて「おやすみなさい。」と言って目を閉じた後、「おはようございます。」と言って起き上がり、またお布団を畳んで押し入れにしまう。


「ナインは知ってるみたいだから、ガルデニアやってみる?」

「はーい!」


意気揚々とガルデニアは襖を勢いよく開ける。

スコン!

スライドした襖が枠組みへぶつかる。


「わあ!」


すすす、スコン!すすす、スコン!

襖を引っ張って、勢いよくぶつける。

その手触りと音の面白さで、何度もガルデニアは遊び始める。


A、B、「ガルデニア、そろそろやめなさい。」


A、B─「あなた」がガルデニアを止めようと手を伸ばした時、その手にナナカマドの手が重なる。


「いいんです。子どもが無邪気に遊べる場所を作ってあげるのが、大人の役割なのですから。」


ナナカマドの顔を見る「あなた」に、彼女は微笑みかける。


「はいはい。その子どもとキスしちゃったのが、今あなたがいい雰囲気になってるナインなんですけどねー。」


カランコエが、じとーっとした目で「あなた」を睨んで来た。


A、「ぼく/私はカランコエも大好きだよ。」

B、「君も、守ってあげたい。」


A、B「も、ってなんなんですか!もって!私を再教育の場所に引き摺り込んだのにー!責任取ってくださーい!」


そう、「あなた」にとって新しいことばかりで、忘れそうになっていたかも知れませんが、カランコエはとあるプライベートな理由から、騎士になる事が不可能であると判定されていたのです。


A、B「カコは、どうして騎士になれなかったの?」今、「責任をとって」と言って両手で手を掴んでくるカランコエになら、理由を聞けるかも知れない。そう判断した「あなた」は、思い切って詳しい理由を聞いてみます。


A、B─「…好きなヒトが、出来なかったから。」斜め下の方向を見て、顔を少し赤らめて、ぼそっと呟くカランコエ。


「あなた」は、あんまりにもカランコエの声が小さかったので、よく聞き取れませんでした。スコンスコン鳴ってますし。


A、B「ルニアの音でよく聞こえなかった。もう一度大きな声でお願い。」


カランコエの、戸惑ったような顔。

きれいなくりくりのおめめが大きく見開かれて、まるで火花が走るように。


「は、ーあ!?」


そして、カランコエの顔が真っ赤になり、ボルテージが最高潮に達したのが、「あなた」の目にもはっきりとわかりました。


A、B─「一緒に学園で素敵な恋愛して過ごそうって!騎士になるのを諦めないで!ぼくが君を連れて行くから!って言われた時から!ナインにドキドキが止まらないの!責任取って!エンゲージして!キスして!んーっ!んーっ!」


「あなた」は突然の告白によってびっくりしたかも知れません。

さらに言った覚えのない言葉も、言ったことにされているような気がします。

それでもカランコエは、目を閉じて唇を突き出してきます。


A、ガルデニアの方を見る。

B、ナナカマドの方を見る。


A、「あなた」が助けを求めるように視線を向けたガルデニアは、カランコエの大きな声の告白にびっくりして、大きく口を開けながら、ぱちぱちと拍手をします。「おー、いーねー。」とまで言っています。

B、ナナカマドは、クルルガンナとの絶滅戦争が始まる前から、そして幽霊になったあとも、こうして誰かの恋愛事情を観察して楽しんでいたのでしょう。少々口元をだらしなく広げたにこやかな笑顔で、胸元で両手を合わせ、指と指を絡め合わせています。


「あなた」は

A、覚悟を決めた。カランコエを再び学園に引き摺り込んだ責任と、「あなた」自身もカランコエに惹かれるものがあったから。

B、決心した。ガルデニアを守りたいと思う気持ちも本当ですが、カランコエのことも守ってあげたいと思う気持ちも、本当の「あなた」の心でした。


A、B─「それでは、ごゆっくり。」部屋の扉を閉めたナナカマドは、軽い足取りで階段を降りる。次回連載するロマンスコミックのいい題材ができた。


第九次元人の「あなた」へ。第二話 選抜騎士寮へ  了


次回予告

ガルデニア、カランコエとエンゲージを行い、騎士候補生としての必要条件を満たした「あなた」ナイン・エルナ。しかし、騎士の任務は、決断を求める。

次回、第九次元人の「あなた」へ。第三話「実戦」。

読んでくれないと、ディスティノしちゃうぞ!

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