絶望前夜
「入るぞー」
そう一言断りをいれて,扉の奥から中背の男が現れる
エッジの効いた声の正体はテリウム・エーギルだ
オールバックを櫛でとかしおり世間一般的な髪型に戻っている
額を黒の前髪が覆うだけで夕食の時に感じていた
若干の威圧感や怖さが一気に和らいでいるように感じる
「あー
テリウムか……
てかなんでRPGのボス戦みたいに1人ずつ入ってくるんだよ……
偉そうに思われるけど,何しにきたんだ??」
「まぁお前の明日からの予定と……謝罪だな」
「……え? 謝罪!?
お前がか??」
彼からの藪から棒な発言に
僕はさっきまでの眠気が完全に吹き飛び,慌ただしく体を起こしていく
「んでそんな驚くんだよ?!
まだ出会って1日もたってねぇくせに俺の何がわかるんっていうんだよ
あと勘違いすんじゃねぇぞ
俺が今からすんのは謝罪っていうか……
弁明,,そうだ弁明だ!!」
荒々しく喋りながらも先ほどまでマヤが座っていた椅子に
やおら腰を下ろしてく
そして両手共に腰にあてがい僕の方に目線を合わせる
「夕食の時にマヤがしたお前を突き放すような発言,
どうか許してやってくんねぇか?
もう知っていると思うけど,
あいつ先月に肉親を両方亡くしたばっかなんだ
マヤとはそれ以前から頻度は少なかったが,
それなりに交流はあってよぉ……
近くの街に住んでた,ただの心優しい少女だったんだよ」
今までの威勢を全て手放し,
一変して神妙な面持ちで話を進めていく
浮かべる表情はどこか憂いと嘆きが入り混じったような感じだ
「え……」
「両親,特に母親にベッタリでさ
そんな少女が突然最愛の人を失ったら
あんなんにでもなっちまうだろ??
今は心がささくれ立って,
誰にも胸を内をさらけ出せていないだけなんだ
だからあの子が無事に立ち直れるまで
どうか……見守ってやってくれねぇか?」
文の締めくくりと共に下に向けていた視線を
再び僕の方に向けた
今しがたまでの神妙な表情とは打って変わって
子に寄り添う母親みたいに優しく穏やかな顔をしている
「………ああ 分かった
お前の言ったこと自分の胸に刻み込むわ
絶対に守るよ」
「でも変に距離を置いたりなんかすんなよ?
普通に接してもらって勿論いいけど,
あいつへの最低限の配慮だけは忘れないで欲しい
……それだけだ」
「了解したよ
その任務,喜んで受けさせていただこう」
僕は数分前,体調を確認するためにマヤが押さえていた
自分の爪をじっと見つめる
既に爪床は人肌に馴染んでいるピンク色に戻っていた
「ていうか人の口調について言及する暇があるんなら
まずは自分の口の荒さを見直したほうがいいんじゃねぇのか??」
そのいちゃもんにテリウムは虚を突かれたような表情を見せ
次の瞬間,腹を抱えて大笑いをした
「はっはっは笑
それをフウマが言うんかよ?!
現にお前,俺に普通にタメ口で話してんじゃねぇかよ?」
「ああ違う違う!!
僕が言いたいのは初対面の時の口の強さだよ!
何回も喋ってきてタメ語になるのは当然,
でもほんとに初対面のときからその柄の悪い口調をすんのがやばいって話よ」
「ぐ……ぬ……ぬ
なぜか反論できねぇ」
見事に言いくるめられたテリウムは
悔し紛れに顰めっ面を僕に見せる
「まぁこんな茶番は置いといて……
閑話休題、明日からの予定っていう話の前に,少しだけ質問してもいいか?」
「___? いいぜ
答えれるもんなら答えてやるよ」
「2つあって,
どっちも人と話している時に聞きそびれたことなんだが……
まずファースト,
マヤが言ってた『火牛』に出てきた『妖獣』
スーパが自己紹介で言ってた『妖精』
……それぞれはどういう意味なんだ?」
テリウムは僕の質問を聞き終えて
ボリボリと頭を掻きむしる
「それぇは簡単だ
妖獣と妖精ってのは超噛み砕いて言っちまうと
”皮膚,骨,内臓,その全てが魔法の根源であるシャフトで構成されている生命体”
のことだ
ただの動物じゃねぇ
猛獣以上の知性と自我を持ってて
体が全て魔法の原料で作られてるんだから
人間よりも魔法の扱いに長けている
……って感じだ」
「だから妖精であるスーパは
魔力量がヤバい空間操作系も扱うことができるってことか……
妖獣と妖精の違いは?」
「それも単純
妖獣よりも更に知能が発達してて,
人語も難なく話すことができる,且つ人間に友好的なのが妖精
さっきのスーパみたいにな
対して人間とは敵対的で深刻な害をなすのが妖獣
って具合な」
「ご丁寧にどうも
むちゃ分かりやすかったわ
やっぱ伊達に執事やってねぇんだな
教養がある」
布団の下で適当な手遊びをしながら
僕はそんな軽口を叩きにいく
目覚めた時は全身倦怠感と疲労感でいっぱいいっぱい
だったのにマヤの懸命な治癒魔法のお陰か
体がグッと軽くなり,冗談を吐けるくらいには回復できた
「……いいから
はよぉ2つ目は?」
「あぁ,ごめん
次にセカンド
お前が来るほんと直前,マヤがこの部屋に来たんだよ
満身創痍の僕の体調確認をして治癒魔法を注いでくれて……
それはすごい嬉しいし有り難かったんだけど,
なんであいつは自分自身に対して治癒魔法を使わないんだ?
マヤ自身も先月に両親を亡くした時の傷が残ってるんだろ?」
当然浮かび上がる疑問だ
僕だけではなくマヤも負傷をしているって話だ
そもそもあいつがこの屋敷に滞在している理由が
怪我の治療と,引き取ってくれる里親探しなんだから
ちゃちゃっと怪我を治しちゃって里親探しに専念すれば良いものを……
それをしないのは不思議に思ってしまう
「…………は?
そりゃ当然だろ?
治癒術師よろしく,治癒魔法が使える万人は
自身を治癒することはできねぇ……
一般常識じゃねぇのか?」
回答し終えたテリウムは
不思議そうに質問してきた僕を同じく不思議そうに見つめる
「え……
あー……いやぁ
初めて言うと思うんだけど,実は僕
奴隷商人に拉致られる時木刀で頭ぶん殴られたんよ
んで……その衝撃でどうやら虫食い的に記憶を失ったみたいなんだよ
だから……たとえ常識だとしても僕にとっては初耳でちんぷんかんぷん,
って感じなんだよね……」
嘘である
僕は頑なに異世界人であることを言おうとしない
その訳は,言わないでおくことが異世界物の
お約束ってこともあるのだが……
何より異世界人と打ち明けることが
未来予知みたく『ルール違反』になることを怖がったからだ
ここで馬鹿正直に異世界人と言ってしまって
また血でも吐いたらそれこそ笑えなくなってしまう……
少々沈黙を生みながらもやりきった僕の名演技に
テリウムは文字通り目を丸くする
「はぁ……?
じゃあお前,家族とか友人とか
誰か迎えにきてくれる人は…
思い出せねぇのか!?」
「思い出せる,出せない以前に
そもそも居ないんだよね 身寄り」
「衝撃の告白をさも日常会話みたいに言ってくる
おめぇがこえぇよ」
テリウムはずいぶんとたじろぎながらも
やおら立ち上がり左にある窓の錠を外し,開け放った
今の今まで暑苦しかったこの部屋に爽やかな夜風が突き抜ける
「分かった
じゃあフウマの明日からの予定は変更だ変更!
お前に身寄りがいたら
その人にまで便箋を送って迎えに来てもらう,
って日程だったが……
頼れる人がいないってんなら,することはマヤのと同じ
怪我の治療と里親探しだ!」
「え……?
マヤは僕よりも年下っぽいから里親探すってのも納得だが……
我18歳ぞ? もう今年成人したぞ?
里親ってか,怪我の治療だけさせてもらったら
足早に屋敷から巣立つ算段なのだが……」
「何言ってんだ?
その成人?ってのもよくわからねぇが
親の庇護を受けれるのは20歳までだぞ?
ていうか20歳までは親か里親,どちらかの監督下になきゃならねぇ
それがこの国の法律だ」
またも初耳情報だ
日本だったら義務教育さえ受け終えれば
後はわりかしなんでもできたが……
この世界ではそうはいかないらしい
「んで どうする?
犯罪者になるか,里親を探すか」
「……探します」
「それでいいんだよ
それじゃ当分の予定は治療と里親探しな
……まぁ明日までは回復に専念してゆっくり休んどけ
探しに行くのはそれ以降な」
そう告げながら両開きの窓を半分くらい閉じて
心地よいくらいの風量に調節してくれる
したらば,ドアを開けて部屋から出る時,彼は去り際にこう言った
「また今日な」
「は? また今日?
また明日じゃなくて??」
「もう日を跨いじまって,
次に会うのは朝のときだろ?
だったら『また今日』の方がよくねぇか?」
そう説明をしながら
テリウムは気前よくニカっと笑う
「まぁそれも一理あるか……
分かった
じゃあ,また今日な」
「おう」
ドアが時分を考えてくれたお陰で
閉め切る時の音は非常に静かだった
「今度こそ……
寝るか
じゃあ自分、また今日だ」
そう小さく呟き僕は眠りに入った
***
この日と次の日はまるまる静養のために休み,
僕は2日後から里親探しに出向いた
まぁ探すって言っても
侯爵領の中にある街を尋ねてみて
引き取ってくれる人を探すってだけで日帰りで終わるものだが
そして僕は里親が一向に見つからないまま…………
1ヶ月が経過した!!!!!




