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異世界の歩き方!!  作者: Nihonshi-Sekaishi
信頼関係構築イベント
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14/24

煮えたぎる鍋ども

「マグレガー=カルシュ様……ですか

っていうか当主ってことは…!

もしかしてあなたがルナーシュ様が言ってた侯爵様ですか!?」


「いかにもネ

言われなくとも,

ボクがこのマイン王国の西側国境の総警備責任者なのよネ」


その男___カルシュ様は

ルナーシャ様にお声をかけ,青い果実の湯煎の続きを

彼女に任せてしまう

そして僕とで2人揃って厨房から出て,

厨房と居室を隔てるドアを閉め切った


「ささっ

どうぞお好きな席に座っちゃってネ

少しだけ男同士の話をしようよネ」


着席を促され

僕は巨大な机を囲む6つの席のうち

下座に腰をおろす

その間にもカルシュ様は

真白のエプロンを手際よく脱いで綺麗に畳んでいる


「それで……

お話とはなんでしょうか

侯爵様」


「やだネー 侯爵様なんて呼び方

そんな気張んなくても,普通にカルシュでもいいんだよネ」


そう軽口を叩きながら,

折り畳んだエプロンを壁沿いにある

戸棚の上に丁寧に置いた


「まず……

此度の奴隷商人殺害,

そして我が娘,ルナーシュを助けてくれて

本当にありがとう…ネ

これはきちんと感謝をするべきことだネ」


立ったままでカルシュ様はもう一度頭を深く下げ,

僕に感謝の意を示してくれた


「え…あいえいえ! そんな!!

顔をお上げください!

僕もルナーシャ様に返しきれないくらいの恩がありますゆえ……」


驚きにより手をあたふたさせる

正直,王国の侯爵の立場にいる人から

直々に感謝されるとは

あんまし想像していなかったんで……

不意を突かれてしまった


「そのようなご謙遜はされないで…ネ?

まっ,話は一旦ここまで

詳しくはまたご夕食のときに聞かせてもらおうかネ」


僕の発言を聞き,カルシュ様はゆっくりと顔を上げていく

天井のシャンデリアの眩い光に照らされて

墨色の仮面がより一層黒みを帯びているようにも見える



「おーーーーーい!!!

お鍋,できあがったぞー!!」


視界の外からバン!と

扉を開ける音がした

そして厨房から巨大な土鍋を持っている

プラティさまが現れた

両手には厚手のミトンを装着しており,

その小さな躯体に見合わない

大きな歩幅で机にまで歩み寄っていく


「んー おも…い!

ほい!!」


プラティさまは鍋を

机の真ん中に敷いてある鍋敷きの上に

勢いよく乗せる

それに合わせて,

土鍋を手に持っている

ルナーシャ様とテリウムが厨房から出てきた

同じくミトンをつけており,

羽織っている白衣には料理の過程でついたであろう

シミや汚れが付着してしまっている


***


「……あれ?

いただかないのですか??」


僕の疑問符が居間に響き渡る

巨大な机のちょうど中央には

年季の入っているであろう土鍋が3つ,

横並びで置かれいる

そのいずれもグツグツと

食欲を掻き立ててくれる音を発しており,

沸騰によって

水面には幾多もの泡が現れては消えてを繰り返している


一応僕は礼儀云々を気にして

最も扉に近い下座に腰を下ろしたのだが…

どうやらこの世界に上座下座とかいう無駄文化はないようだ

本来の上座の席,

つまり扉から最も遠い席には

プラティさまが堂々たる様にて鎮座している

おそらくこの中で一番偉い立場であろう

侯爵のカルシュ様は僕の右隣に座っており……

まぁなんとも違和感がすごい


さらにその隣にはテリウムが行儀良く座っている

行儀がいい理由はおそらく雇用主であるカルシュ様が

見ていたからであろう

少しでもカルシュ様が視線をそらすと

すぐに姿勢を崩して,態度が悪くなっているのだし


机をかこむ6つの椅子のうち5つが埋まっている

残りの僕の真正面の席だけが

未だに空席のままだ

そこにも他と同様にお盆と箸が置かれているんで

人が来るはずなのだが……


***


20数秒の沈黙の後,

廊下への扉が開いた

それが奏でる音にはなんの特徴もなく

淡々としているようにも聞こえた


「皆様方,

少しお腹の具合が優れず

お手洗いに参っていました

夕食の時間にまで間に合わず申し訳ありません」


少女は扉の前で立ち止まり,軽く礼をして謝辞を伝えた

紫色髪の少女だ

身長は平均的な中3女子くらいで,

僕よりも10cmくらい低め

その髪は肩にかかっており綺麗なボブにまとめ上げている

一番の特徴は兎に角無表情であることだ

口角は常にまっすぐで,目はぱちくりと開けたまま

ぴくりとも動かない

目のハイライトは

他のみんなよりずっと薄くなっている

派手な装飾もデコレーションもなにもなく,

ただ僕と同じ患者衣のようなものを着ているのみだ


「いいネ いいネ

そんなに待っていないしネ

それよりお手洗いって……大丈夫なのネ??

ああっ!! 

もしかしてだけど生理…とかかネ?」


カルシュ様は

僕の真正面にある椅子に座りかけている少女の方を向き

剽軽な態度でそう軽口を叩く


……最悪だ

あまりにもきしょすぎる発言に

旦那に従順なテリウムと

ただ単に意味がわかっていないであろうプラティさま

以外の全員がドン引きをしている


変な語尾と変な仮面の時点でまともな人ではないとは

薄々勘付いてはいたが……

ここでとどめの一発をかましてきやがった

酒が入ってこの発言だったら

まだ「あはは」で済んだかもしれないけど

シラフでこのデリカシーのなさはもはや天性のものだ

いますぐこの人に超変態貴族の称号を与えたいものだ


「生理用のオムツとティッシュの予備は大量のあるから

必要になったら気兼ねなく言ってネ」


変わらぬ態度のまま更に追撃をかけてくる

そもそも論,お手洗いって情報だけで

生理って断定してくる

その確固たる自信はどこからくるのか……


「あ…ははっ

ど,どうも お気遣い感謝です

……キモ〜〜」


少女はようやっと椅子に腰掛け,

誰にも聞こえぬように

そう愚痴をこぼした

僕が初めて見たこの少女の表情は

上司が女部下にするセクハラ発言による苦笑いだった


***


「ささっ これで6人,全員揃ったネ

我の冗談で十二分にこの場も

あったまったところでお食事……

の前に,お客人のお二方…

せっかくみんないるんだし

改めて自己紹介をしてもらってもいいかネ?」


カルシュ様は置かれた菜箸を使って

ちょくちょく鍋をつついて様子を確認する

そして場の空気感を変えようと

そう催促をする

おそらくお客人のお二方とは

僕といましがた入ってきたこの少女のことだろう


「では,私から」


少女はすっと立ち上がり

僕含めた5人を見渡す

そしてほっと一息

ため息をついて口をひらく


「私の名前はマヤです

マ ヤ

先月,両親と一緒に

山に山菜取りに行っていた時

偶然’火牛’の襲撃に遭ってしまい……

死にかけていたところを

ルナーシュ様に救助していただき…

今は怪我の治療と

里親を見つけてもらうために

この屋敷にお邪魔させてもらってます」


この5人の中で僕だけが知っていないからなのか

少女,マヤは僕の方だけを向いて

淡白に教えてくれた


「え,えっとぉ……

そのさっき言ってた

’かぎゅう’ってなんですか?

それに! 里親探しってことは……ご,ご両親はぁ?」


マヤが一通り喋り終えた後

僕は驚きによって掌を机に突き

椅子から勢いよく立ち上がる

そしてやや早口でまくしたてる


「はぁ…… 困りますよ

同時に2つも質問をしないでください

それって意思疎通の基本ではないですか??」


マヤは呆れたような口調と表情を浮かべる

取り敢えず,

まぁ……初対面でのマヤの印象は

なんとも低めの状態でのスタートとなった


だがしかし,

美少女が無表情のまま

容赦無く毒を吐いてくるのは……

思春期の性教育がほんの少しでも間違ってたら

マジ刺さりしていたから結構危うかった


「まぁ,あなたの質問に答えましょう

第一 両親はどうなったのか

答えは亡くなりました

火牛に襲われた時に

私を守ろうとして焼け死にました


第二 ’火牛’とはなにか

答えは……

話すと長くなるので

端的に言うと,凄く強い妖獣です

常に業火に身を包んでる,超巨大な牛なんですけど…

もう一度ですが,

私はそれに両親を殺されました……」


マヤはその場に立ち尽くしたまま,少し下へ俯く

浮かべる表情には隠しきれない憎悪と恨みで

いっぱいいっぱいだ

当然か……

肉親が殺されて

まだ一周忌も迎えていないのに

元凶への憤怒を抑えろ,というのが無理な話であろう


「……はぁ,私の両親のことはいいとして,

なぜあなた,火牛のことを知らないんですか?

一般常識ですよね 

少し学が足りないのでは?」


既に綺麗な顔にはマイナスな感情はもうなく,

冷静さを取り戻したようだ

そして僕の目を見ながら

再び毒を吐いてきた


「あはは,これからは毒を吐いてくるかどうかで

あなたの体調が測れそうですね

まだ妖獣っての実感がいまいちよくわかりませんが……

まぁ…ありがとうございます」


「最低限の礼儀がなっているのは

まだ良いですね」


「えーーーー

では次は僕の番ということで……

僕の名前はカガミ・フウマです

奴隷商人に誘拐され売られてしまうところを

同じくルナーシュ様に助けてもらって‥‥」


マヤによる強烈な右ストレートの応酬に

完全に意気消沈してしまい

テンション爆下げのまま自己紹介をしてしまった


「んもう

それもそうだけど,

私はフウマに助けてももらったんだから!

暴言を吐いてきたり,吐血を私にかけたりもしてきたけど

一応私の恩人なんだからね!!」


結構長い間沈黙を貫いてきた

ルナーシュ様が口を開く

そしてマヤに訴えかけるように,

やや必死に僕の

名誉を守るための弁護をしてくれる

それに合わせるように

横で傍観している

プラティさまとテリウムが2回ほど小さく頷き,同調してくれた


「ははっ 

恩人とは言っても,

その以前で随分とルナーシュ様に

醜い姿を見せになったようですね

カガミさん……でしたっけ?」


ルナーシュ様の弁明をひとしきり

聴き終わった後,

マヤは表情をぴくりとも変えずに

平然とストレートパンチを打ち込んできた


「ううぅ…

こいつなぁ……」


「さぁさぁ!!

これで互いの自己紹介も終わったことだし,

今度こそ夕食といこうかネ!

あんまり長くしすぎると鍋が冷めちゃうしネ〜」


僕のマヤに対する怒りを遮るように

カルシュ様____

いやもうこんなセクハラオジサンに様付けはなくてもいいか……

カルシュは場を仕切り,皆に夕食をすすめる


「旦那の言う通りだぜ

今は鍋を囲うために集まってるんだしな

喧嘩してても仕方がねぇ」


カルシュに同意し,テリウムが口をひらく

僕が知っているあいつらしく

傲岸不遜に腕を組み,

首を傾げて睨みの意を込めて

僕を軽く見つめてくる



「おおぉーー

よーやーっと食べれるのか!

待ちくたびれたぞ!!」


続いてプラティさまが間を置かずに喋る

既に不器用ながらも箸を持ち,

鍋をつつく用意は万全のように思われる


「そーそーネ

皆もこう言っているんだしネ

いただこうとするかネ」


カルシュはそう言い切り,

静かに箸をお茶碗の上に並べて置く


「……では」


カルシュは全員に聞こえるようにそう呟き,

両手を肘掛けから,机の上へ移す

そして手をグーの形にして机の縁に乗せた

背筋は先ほどと比べれば

ピンとまっすぐ伸びている


それに合わせるように

他の4人もタイミングよく全く同じ動作を行う

まるで事前に示し合わせたように…

奇妙に感じてしまうほど…

動きが一致している


「えぇ?? そぇぇっと……

こ,これはぁ な,な,なにこれ??」


意外さの極み故に

過去一レベルのどもりを披露してしまった

そりゃそうさ,と僕は主義主張をしたい

だってさっきのさっきまで

座りながらバラバラの姿勢をとっていた5人全員が

突然規律を整えて,

背筋を伸ばし

握り拳を丁寧に机の上に置いているのだから


「常識知らずのカガミは黙ってなさい」


姿勢は整えたままマヤは僕に釘を刺してきた

それを聞きビビった僕は

素早く5人と同じポーズを取る

かなりこそばゆくて,

少々動きはぎこちなかったが

一応周りと合わせることはできた


***


10数秒の沈黙が流れる

沈黙と言っても

その間も鍋のグツグツと煮える音は居間中に響いているが…

そんな中でも5人みんなは体勢1つ変えないでいる

時々僕が我慢ならず,

体を横へぶらぶらさせてしまう

そのたんびにマヤは視線を鍋から僕へ移し,鋭く睨んでくる

怖い


唐突にカルシュが握り拳を解いた

そして素早く,手元に置いてあった箸を右手に持ち

中央に構える土鍋に向かって

勢いよく箸を伸ばしていく!


その動きを目視で確認した

他の4人も同じく,手元の箸を持ち

鍋に向かい箸を伸ばしていく!


***


あくまでこっからは予想だが……

これはこの異世界の風習とか文化やらで,

家長の人が食べ始めるまでは

なにがあっても黙って,行儀良く待ち続ける

そして家長者が食べようとしてから,

やっと一斉にみんなで食事を始める…

と言うのが僕なりの考察だ


まぁその考え方が正しい前提で行かせてもらうと……

僕,ルナーシュ様,プラティさま,

カルシュ,テリウム,マヤの

6人による

お鍋の具材を巡る激しい争奪戦の火蓋が

今!切って落とされた!!


……って感じ?

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