マグレガー・カルシュ
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えっと夕食会のある居間は
確か玄関に入って左に直進したら右手にある……
だっけ?
通気性の良さからなのか,
屋敷の中の涼しさを肌で感じながら
廊下を渡っていく
そうやって歩いていくと,
ずっと奥の部屋の内から
なにやら料理をする音が聞こえてきた
肉がぐつぐつと煮えて,
食材をリズムよくトントンと切って,
野菜をサクサクと千切りにして,
お皿同士がカタカタ擦れ合う
そんな音が
まぁ察するにルナーシュ様が言っていた
晩御飯の準備をしてくれているのだろう
ここにきて初の安全な食事,
そのワードは先ほどまでの僕の憂鬱な気分を
全て吹き飛ばしてくれた
流石に……
こんな食欲をそそられる音を聞かされたら
テンション上がるわ!
どんな料理があるんだ?!
やっぱヨーロッパ舞台らしく
ハーブとスパイスがうまく効いたステーキか!?
もしくは窯で焼き上げられたパンとかか!?
いずれにせよ,
楽しみすぎる!!
僕はそのあまりに大きすぎる期待を一心に背負ながら,
長い回廊をお気楽にスキップしていく
「しっつれいしまーす
さーて今晩のお食事はなんでしょーかーー?」
鼻をくすぐるお肉の匂いが一番する
部屋の扉を期待して開けてみる
「あれ?」
部屋にはだーれもいなかった
あるのは中央の巨大なテーブルと,
そのテーブルのまた真ん中に敷いてある
3つのコルク製の鍋敷き&菜箸
そして6人分のお椀と箸が机の各所にあるのみ
「ん? なにこの懐かしい風景?
いや……懐かしいのはいいんだけど
これ,よくない懐かしさじゃない?」
居室に入って左にはまた木製の扉がある
その壁の素材はそこだけレンガとなっており
そこに空いてある穴から
美味しそうな匂いが漂ってきている
つまりその扉の向こうが厨房なのだろう
僕はしたくもない答え合わせの為に
その扉を開けてみることにした
「頼む頼む頼む たのむーーーよっ…………」
「おーー フウマ!! やっと来たのか!
もうそろできるから好きな席に座ってていいぞ!」
はい合ってました
予想通りキッチンにて作られていたのは
JAPANESE鍋でした
扉を開いて目視で確認できる限り,
見間違えでなければ
ちゃんこ鍋,
トマト鍋,
すき焼き鍋,,,,
とかの古き良きお鍋が僕の眼前に広がっている
その厨房の部屋には
身長に幅のある4人の男女がいる
ルナーシャ様にプラティさま,
テリウムに……
それに見知らぬ長身の男が1人
長身の男は
鍋と真正面で向き合い,
火にかけて煮え切るのを待っているようだ
他の3人は牛刀包丁を手に持ち
具材をトントンと切っている
今までの迫力ある豪邸に比べて,
大分この厨房は作り自体は簡素なものとなっている
石造りの壁に沿って並べてある調理台,
フックに掛けられている数多くの調理器具,
小綺麗なシンクとコンロ…っぽいもの,
ざっとこんな感じだ
「えっと,ルナーシュ様? ルナーシュ様!!?」
キッチンの喧囂のせいで
弱腰な声じゃ全然届かなかったぽいので
きちんと声を張り上げて
呼んでみたら反応してくれた
「はいはいはい? どうしたのフウマ??
もうすぐ出来るからお席に座って待ってればいいわよ」
頭には蝶々柄のタオルハンカチを軽く結び、
腰には無地のサロンエプロンを羽織っている
そのどちらも侯爵のご令嬢様…
とは到底思えない格好をされている
「えとぉぉ まず料理がお鍋というのも十分すぎるくらい衝撃なんですが……
なんであなた様方がわざわざ御夕飯を作っているのですか?
お屋敷にいるメイドさんにやってもらえば良いじゃないですか?」
「そぉーーれはボクが代わりに答えるネ!」
笑顔のルナーシュ様の後ろから声がした
先ほど見知らぬ長身の男と呼んでいた者だ
独特な衣装を身に纏い,
顔に奇妙な彫りがされている黒の仮面を装着している
髪はテリウムと同じ黒髪でショートにまとめ上げている
「今現在,この屋敷で働いてもらっている
メイドさん5人は全員,1ヶ月の慰安旅行に
出掛けているからネ〜
だれもお食事を作ってくれる人がいないのネ
だーからボクらがこの間だけは
代わりに作っているって訳ネ」
男は喋りながらも鍋の隣で
トマトのフォルムをした青い果実の湯煎を続けている
「ああ……
ご丁寧にどうも感謝です…
ですけど…
ところであなたはどちら様でしょうか?
恐らく初対面なんですけど……」
「あーごめんネ!!
僕としたことがうっかりネ!
こほん……
ボクはマグレガー家第11代当主,
マグレガー=カルシュ……
と申します
どうかお見知りおきを」
男はその手を止め,僕の方を向いて右手を胸へあてがう
そして深くお辞儀をしてきた




