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暴れん坊伯爵は"あんまり"暴れたくない  作者: ながしー
襲名 暴れん坊伯爵(二代目)編

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6/11

メイド仮面と恋の炎 2

 結局、持っていた情報が古く、パトリックのお目当ての店は既に閉店済み。

 しばらく散策したものの下町地域ではめぼしい店を見つけられなかった俺達はちょっと高そうな、宿屋近くの酒場に落ち着いた。

 最初は一階の大フロアで飲もうかと思ったが、夜番ではないのだろう公爵家の兵士たちの姿がちらほら見えたので、二階の個室を使わせてもらうことにした。

 これは降家したとはいえ元皇族のパトリックがいるところでは兵士達もゆっくりできないだろうという配慮だ。

 

「それで、私達に相談ってなに?」


 部屋に落ち着き、温度変化の魔石でキンキンに冷やされたビールで乾杯した後でルチアがパトリックに水を向ける。


「ああ、その話なんだけどさ」

「ちょっと待て。一応先に聞いておくけど、俺がお前のこと捕まえなきゃならないような話じゃねえよな?」

「ランドールが僕を捕まえなきゃいけないような話?」

「たとえばこう……継承戦に納得行かないーとか、もともとパトリック派の男爵領でテオドール派筆頭の公爵を捕まえられる状況を利用してーとか、そういう話じゃねえよなってこと」

「ええっ!?反乱を起こすってこと!?パトリックそんなこと考えてたの!?」

「考えてないよ!?というか、ランドールはこの一年近く僕の何を見てきたんだよ。僕はいまさら皇帝になんてなりたくないし、貴族のしがらみとかまっぴらごめんだよ!」

「じゃあなんで意味深に二人に相談がとか言い出したんだよ。俺とかルチアだったら抱き込めるとか、そういうこと考えてたんじゃないのか?正直俺は人相がよくないせいで簡単に裏切りそうと思われていたのか継承戦のさなかに他の候補者周りの貴族にテオドールの暗殺を依頼されることもままあったし、ルチアはグレイス以外にはシモーヌに寝返っていることがバレバレだろ?そんな二人に、秘密裏に相談したいことがあるなんてことを言えばそう思われてもしかたないだろ」


 ちなみに自称革命派の、継承戦終了から10ヶ月も経っているのにまだ駄々をこねたがる貴族たちについては逐一テオドールに報告しているので叩いて埃が出るようなやつらは今後何らかの裁きがくだされると思う。テオドール直々にやるのか、それとも誰か人を使ってやるのかは知らないが。

 

「は?そいつら本当に見る目がないな。そいつらがどう見てたかは知らないけど、君は絶対テオドールを裏切らないだろ」

「い、いやあ。それはどうだろうな。高額な金銭とか、もっと高い爵位とかそういうのが用意されれば、あるいはわからないぞ?」

「いやいやいやいや、君は僕の目が節穴だとでもおもってるのか?もう一度言うぞ?君は、絶対に、テオドールを裏切らない。金銭とか爵位とか言うけど、君は金銭で不自由してるようなことはないし、そもそもそこまで金に執着もないだろ。そうじゃなきゃメイド仮面の話を黙ってるくらいで金貨7枚もポンと持ってこない」


 いや、メイド仮面の一件に関してはエリザベスにバレるくらいなら金貨7枚払ったほうがマシっていうだけの話なんだけどな。

 流石に殺されはしないだろうけど、めっちゃ怒られそうだし、その怒りが後々まで尾を引きそうだし。

 それに、あそこでバレていたら、たとえテオドールに言われてもあいつはこの旅についてこなかっただろう。


「あと、君は最高でも伯爵位より上を望んでない。侯爵にしろ公爵にしろ、伯爵に比べて国に対する義務や負担が馬鹿みたいに上がるからね。そういう意味では兄さんかシモーヌかはわからないけれど今回の子爵という裁定は、今後君がなにか功績を()()()()()()()ときのことを考えると本当にうまいし、君もそれを重々承知している」

「ぐっ……」

「とにかく、この旅がちゃんと終わって爵位を得てしまえば君にとって今提示されている以上の環境なんてありえない」

「ぐぐっ……」

「それに君自身、今回の旅と厄介な領地に封じられたのが、君が他の貴族に睨まれないためのテオドールとシモーヌの心遣いだってことはわかってるだろうしね」


 悔しいがパトリックの言っていることは何一つ間違っていない。間違っていないどころか模範解答かってくらい俺の心情を言い当てている。

 まず金銭だが、正直今の状態でも落ち着かない。武器屋で多く払おうとしたのだって、あまりたくさん持っていたくないからっていうのが大きいし、正直金なんてこの先食うに困らないことがわかってればそこまで必要なものじゃない。

 別にこの世界を馬鹿にしているわけではないが、21世紀の日本で生まれ育った俺にとってこの世界で欲しいものなんてほとんどないので、正直使い道もそんなにないのだ。衣食住以外で欲しいものと言えば、せいぜい生活用の便利魔石とか今も腰に下げている刀みたいな趣味の武器、あとは面白そうな魔道具とかくらいだ。あとは自堕落な生活を送っても大丈夫なように身の回りの世話をしてくれる使用人とかか。

 そして爵位。これもまったくもってその通り。伯爵以下、今回の子爵くらいが俺が社会の寄生虫生活を送るにあたって一番ちょうどいい。

 テオドールとシモーヌはそんな俺のことを熟知しているので他のヤツがそれ以上の条件を出しても俺が乗ってこないだろう爵位を用意して見せた。正直あの二人は俺にとってはこれ以上ないくらいにいい上司で、他のやつが俺を引き抜こうとしても絶対にできないギリギリを狙ってきていると言える。


「くっくっく、瞬殺されてて草」

「うるせえ、草生やすな」

「まあ、そういうわけで、万が一僕が反乱を企てたとしても僕がランドールを誘うことはまずないね」

「それだと私は誘うってこと?」

「それもない。君もシモーヌを裏切ることはないだろうからね」

「いやいや、私はなーんにも貰ってないよ?そもそも私はグレイスのところの裏切り者だし裏切りやすいかもよ?」

「シモーヌはルチアの友達、グレイスはルチアの御主人様。その違いじゃない?」

「ぐっぬぅ……」

「はっはっは、俺より早く論破されてて草。お友達大ちゅきだもんなぁ、ルチアは」

「う、うるさいうるさいうるさーい!」

「いや、僕は君も友達大好きだよねって言ってるんだけど」


 ぐぬぅ。


 それからしばらく俺とルチアのどっちがお友達好きの甘ちゃんかで揉めていたが、ふと、もともとこんな話をしたかったんじゃないということを思い出し、俺は改めてパトリックに相談の内容を聞くことにした。


「いや、君が話の腰を折ったんだろ……」


 パトリックはそう言ってテオドールによく似た顔で一つため息を付いたあと、ビールを一口飲んでから口を開いた。


「さっきちらっと言ったんだけどさ、好きな人がいるから、二人にも協力してもらえないかなと思って」

「それこそなんで俺とルチアなんだよ。俺は自慢じゃないがもうじき適齢期なのに婚約者はおろか恋人すらいないんだぞ?ましてやルチアなんて友達すらほとんどいないのに」

「おい、なんでそこで私を落とすんだよふざけんな。大体今の私に友達が居ないのはほぼ城に詰めているから……ああ、でもそうか。私達は特定の貴族派閥には属してないし、それでいて城にも堂々と居られるから城内の人間と橋渡しをしやすいとかそういうことか。さっきパトリックが言っていた話からして、その相手って城内にいてそれでいてそんなに身分が高くない人なんでしょ?」


 確かに、シモーヌを正妻にしてその人を側室にっていう話だったから身分はシモーヌ以下ということになるんだろうが、そもそも公爵令嬢以上の女性なんて知っている範囲だとパトリックから見て腹違いのグレイスか、テオドールの姉ちゃんとかになってしまうが、その二人にはもう相手がいるから絶対違う。


「いや待てルチア。そもそもこいつは俺達に橋渡しを頼むまでもなく普通に城内に入ってきて茶を飲んで帰っていってるぞ。あと、俺達はこれからしばらく帝都には戻らないし」

「あ、そうじゃん。じゃあ私達に頼む理由なんて……ああっ!!そういうことか、身分がどうこうとかじゃないんだ!あえてこのタイミングでランドールくんと私に頼むってことは、相手はリリアンナ?」


 なるほど。リリアンナか……リリアンナなぁ。

 …………リリアンナでいいの?本当に?リリアンナってシモーヌのとこの参謀みたいな立ち位置なので、割と悪巧みをするというか腹芸が得意というかそういうところあるんだけどリリアンナでいいのか?いいヤツだと思うけどさんざん酒のんだあとに人の背中で楽しようとするようなヤツだぞ?まあ体重は意外と軽いなと思ったし、酒の匂いに混じってなんかいい匂いがしたし、悪巧みだってたまに失敗したりして可愛げもあるし普通にかわいいけどスペック高めのパトリックさんならもっと上を狙えるんじゃないですかね?……いや、具体的に誰っていうのは浮かばないけれど。


「いや、リリアンナじゃないんだけど」

「なるほど、わかる。リリアンナとかルチアとかエリザベスとかちょっと物足りないよな。カーラとか、グレイスのところのアマネさんとか、あとはテオドーラさんほどほしいとは言わないけど、シモーヌくらいはほしいよな」

「アマ姉を変な目で見るなっていうか、何が物足りないのかはっきり言ってもらおうか」

「言ったらお前ら怒るじゃん」

「怒らない怒らない、むしろあとで三人揃ってお礼しに行くだけだから」


 それってお礼参りですよね。つか嫌だよ、リリアンナとルチアとエリザベスのお礼参りとか俺死んじゃうじゃん。


「というか、僕は女性に胸の大きさを求めてないよ」

「さすが元皇族。どこかのバカとは違って品があるよね」


 それでいいのかルチア。そいつは自分の性癖発表しただけで、お前らの胸が小さいことについては否定してないぞ。好きな性癖発表皇族なだけだぞ。


「いや、そもそもパトリックがもったいぶらなきゃこんな話題になってなかっただろ。誰なんだよ、俺達が知っているやつか?」

「ベっさんなんだけどさ」

「え?」

「なんだって?」

「ベっさん」


 お前好きな女を『ベっさん』とか呼んでるのかよ。せいぜい同性の友人とか、飲み友達とかにつけるようなあだ名だろそれ。

 いや、わかる。わかるとは言わないまでもわからないではない。エリザベスわりと可愛いし、気さくだし、低身長だし、家事万能だし、胸が小さい以外には手が早いくらいしか欠点がないし。割とおすすめ、おすすめではあるけど……とはいえ、それなりにアイツと仲の良い俺としてはちょっとモヤるところはある。


「いや、わからなくはないけど、なんでリズさん?」

「その……彼女は城に上がってからずっとテオドールのお付きだったんだけど、僕の面倒もたまに見てくれてね」

 

 なるほど、兄のついでとはいえ、面倒を見てくれた美人なお姉さん。城内という狭い世界に閉じ込められた皇子が恋をするには十分なきっかけなのかもしれない。

 

「それで面倒を見てくれるリズさんを好きになったってこと?」

「ああ。昔、僕の着替えの介助をベっさんにしてもらった時期があるんだけど、その時にね、恥ずかしい話なんだけど、僕はべっさんに裸を見られて性的な興奮をおぼえてしまったんだ」


 話が変わった。これは皇子とメイドの素敵な恋物語じゃない。ただの性癖発表皇族の続きだ。


「そして初めて興奮を覚えたその日の夜、僕は初めて自分で自分を慰めることを知ったんだ。言ってしまえば、ベっさんは僕の初めての人ってわけさ」


 性癖発表ですらなかった。これは既にただの猥談だ。

 てか、照れくさそうに頬を掻いてるんじゃねえよ。そんなピュアな感じの話じゃねえだろ。


「年頃の女子の前でする話じゃないんだよなぁ……」


 ごもっとも。


「年の近い女の子に裸を見られたのはベっさんが最初で最後だし、他のメイドに見られても興奮しなかったんだ。これはもうベっさんと添い遂げるしかないじゃないか」


 というか、裸を見られたくらいで添い遂げなきゃならないなら、俺もテオドールもエリザベスと添い遂げなきゃならなくなるんだけど。

 あいつが継承戦の間に何度うっかり俺達の着替えを覗いたと思う?18回だぞ。普段しっかりしていて自分のラッキースケベは晒さないのに、こっちの着替えだけしっかり覗くの何なんだよあいつ。


「ちなみにいくつのときの話だ、それは」

「ええと、10年くらい前かな」

「そうか」


 例えば8歳とか9歳のおねえちゃんが6歳とか7歳の弟と風呂に入るみたいなシチュエーションがあったとして、多分お姉ちゃんの方は弟のアレに対する単純な好奇心は多少あっても性的な好奇心はないんじゃないかな。つまり何が言いたいかというと、多分エリザベスはそんなこと忘れてると思うし、その話を引き合いに出されてもドン引きされるだけだ。


「まあその……頑張れよ」

「頑張ってね」


 言っていて俺は自分の顔が引きつるのがわかったし、ルチアも頑張ってねとか言いながらもスンと表情が消えているのが伺える。


「いや、協力してよ!!」

「逆に聞くけど、お前、今日一日エリザベスと一緒にいた時、何かアプローチしたか?今更俺らなんかに相談するってことはこれまでもなにもしてこなかったんだろ?俺達が手伝ったって自分から行動しなきゃ結果には結びつかないぞ」

「今日は1日中ベっさんをしっかり見つめていたよ。視線でアピールしたよ」

「いや、怖いわ。よく知らん相手から1日中見られてたらなんか怖いわ」


 ましてやあいつはメイドとしてだけではなくテオドールの警護も長年兼ねていたこともあって、視線や意識が自分や自分の警護対象に向いていることには人一倍敏感なんだから。

 それもパトリックの気持ちを知らないエリザベス的に、パトリックは『一応追放されているけどしょっちゅう帰って来る、皇帝陛下のお気に入りで潜在的なテオドールの政敵』という認識なんだろうし、そんなやつに1日中凝視されていたエリザベスのストレスたるや相当なものだっただろう。


「でもさ、僕って兄上に似てるでしょ?ちょっとはチャンスあるかなって思ってるんだけど」

「あー……ルックスは確かに似ているんだけど、多分その路線で攻めるのはやめたほうがいい。エリザベスには効かねえよ、それ」


 効かないはちょっと違うか。エリザベスはむしろそれを嫌がる気がする。その……好きな子に似ている動画とかで致してしまった後みたいな罪悪感を感じそうというか、テオドールとパトリックに対しての申し訳無さとかでおかしくなるタイプだと思う。


「てか、もしかしてシュバルツ男爵を重用してたのもそのせいか?」

「取り入ってきたのをこれ幸いとは思っていたよ」


 パトリックの敗因は大貴族の後ろ盾がなく、メイン戦力がアランとその配下の兵士達ばかりになってしまったことだ。参加条件のひとつである異世界人もいるにはいたのだけど、テオドール陣営最弱の俺とかルチアより弱かったからな。

 そういう意味では最後の最後で乱心した長兄皇子のアーノルドについていた異世界人のほうが強かった。


「まあそれとなく男爵に匂わせたら婚約者がべっさんの妹になったのはちょっと計算外だったけど、降家した時に解消されたからヨシ!」


 ヨシ!じゃねえんだよ。フラグじゃねえか。

 エリザベスは男爵家の血統魔法が使えないからあまり可愛がられてなかったらしいので、男爵的には多分厚意で妹をパトリックの婚約者にと立てたんだろうけども。

 

「でもさ、だったらなおさらパトリックは男爵家にいかなきゃだめだったんじゃない?というか、そもそも皇族やめた人間がこれから爵位もらう人間と結婚できるの?」

「あ」

「あー!」


 それは盲点だった。前にシモーヌが言っていたように一度貴族家に養子で入って体裁を整えてという形ならできるんだろうけど、許されているとはいえ、一度は次期皇帝の敵に回ったパトリックに対してそんなことをして、万が一にもテオドールの不興を買うかもしれないというリスクを犯す貴族がいるとも思えない。

 ルチアの指摘でパトリックもそこに思い至ったのだろう、頭を抱えて机に突っ伏してしまった。

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