カミュとアグリ 1
俺達の何代前の異世界人なのかはわからないけれど、彼らの偉大な功績の一つとして、大き目の町なら上下水道がわりとしっかりしているというのがあげられる。それはこのイデアの街にもしっかり根付いているのだが、使用料か、はたまた税金の問題か、そもそもインフラ作っても掘り起こされて部品取られて売られちゃうとかそういうことか、貧民街のほうには水が来ていなかった。だから井戸から汲み上げてバケツリレーで水をかけているのだが、いかんせんスピードが遅い。これでは消す前に密集している家々にどんどん燃え広がってしまっていつまでたっても火が消えることはないだろう。
俺はバケツリレーをしている奴らのリーダー格の連中に、先に周りの燃えていない家を壊して延焼を防ぐように伝えてから、病気や怪我で逃げ遅れている人間がいないか声をかけ、手を上げた奴らの案内で逃げ遅れの回収に向かう。
流石に火の中で動かなくなってしまっている人は手を合わせるだけになってしまったが、まだ燃え広がっていない範囲の人の回収は無事に済み、その中には今日の夕方にエリザベスから財布を盗った少年とその母親も居た。
そして警備兵が到着し、業務を引き継いだ俺は今、非常にバツの悪そうな少年とともに少し幸薄そうな彼の母親からお礼を言われているところだったりする。
「本当に、本当にありがとうございました」
「いえ、俺は俺にできることしかしてませんので、そんなにお礼を言われるほどのことではないですよ」
褐色の肌であることを差し引いても、血色があまり良くなく、痩せすぎて頬がコケているとは言っても少年のお母さんは結構な美人さんなので、こう何度もお礼を言われるとなんかちょっと照れてしまう。
「それにこの子とも知らない仲ではないですし。な?」
「……う、うん……」
ただでさえバツの悪そうだった少年が、さらにバツの悪そうな顔で目をそらす。そして、気づいたようにポケットをまさぐり、さっきエリザベスから盗った財布を差し出してきた。
「こ、これ。返します」
「カミュ、あなたまさか……なんで……」
そこでカミュ少年の母親は黙ってしまった。なんでもなにも、自分のせいだということを彼女自身が誰よりもわかっているからだろう。
「……カミュ、それは今日のお前のバイト代だろ。自分が働いた分なんだから返さなくて良いんだぞ」
「そんな嘘をつかないでください。この子は――」
「奥さん、カミュは結構才能あるんですよ。この金はちゃんと雇い主がカミュに持っていっていいと言って渡した金なんです。前にカミュが何をしたかは知りませんけど、今日、今ここにあるお金はカミュが使っていいお金なんです」
厳密には雇い主ではないけれど、まあエリザベスが良いって言ってたしいいんだろうさ。俺としてはやっぱりモヤモヤするところはあるけどさ。
「財布も、お前が持ってないっていうから雇い主がくれたものなんだし、なくしたりするなよ」
「……はい」
「その財布に誓って変なことしないようにな」
「はいっ!」
エリザベスがいくら入れていたかは知らないけど、この金を当面の食い扶持と母親の治療費に充てられたらカミュも何かまっとうな仕事に……仕事に……うーん……。
つけそうにないなこれ!よく見たらなんだこの細っそい手足。力仕事とか絶対無理だろ。こんな環境じゃまともに教育も受けてないだろうし、詰んでないかこれ。
「あの……なにか……?」
「いえ……それより奥さんはどういった病気なんです?」
「よくわからないんです。最初の頃は風邪かなと思っていたんですけど、最近は自分でも身体がどんどん弱っていくのがわかるくらいに悪くなってしまって」
「とくにこの地域でそういう病が流行っているとかそういうことではないんですか?」
「ないです。強いて言えばお年寄りが似たような症状になることが多いみたいです」
「ご飯は食べてます?」
「いえ、ご覧の有様なので」
「ですよね」
いや、ですよねって言っちゃうのは失礼かなとは思うけど、でも『ですよね』って感じなんだもん。周りの貧民街住人と比べてもカミュの母親だけ明らかに栄養が足りていない感じがする。
まあ、働き手が居ない状態で母一人子一人ではそうなっても仕方ない感じはするなぁ。
「ちなみに食べたものを戻しちゃったりとかします?」
「はい……」
胃腸もやられてる、と。詰んでるなぁ……いや、まあなんとかならんこともないだろうけど、とは言えやっぱり詰んでるなあ。
「あの、私の身体のことより、なにかお礼をしたいのですが」
「ああ、ええと……お礼とかはとりあえず大丈夫です。それより火事も収まったようですし、家まで送りますよ」
カミュ達母子について、現状詰んでいるのは間違いない。ただ、詰んでいるが、詰んでいない状況にすることもできるというのが今の俺の立場だ。
詰んでいない状況にしようと思ったときに俺が取れる手段は2つ。1つはカーラから預かっている教主御免状を使って母親を教団施設にぶち込んで適切な治療と食事を与えてもらって健康な状態に戻してもらい、なんだったら教団で働かせてもらう。これが絶対間違いないのだけど、そうするとカーラに借りを作ることになってしまう。別にいいと言えばいいんだけど、あのサイコパスは自分の教団を潰したいと常々考えている奴なので、俺の借りを盾に教団潰しに巻き込んでくる可能性がある。
そうなると、なんだかんだお世話になっていて個人的には恩を感じている教団に石を投げることになってしまうのでできれば避けたい。
もう1つは、俺自身の使える人並みの回復魔法でとりあえず母親の胃腸を治し、食事もしばらく面倒を見て就職先も斡旋する(カミュはもうちょっと成長するまで働かせない)という方法。ただ、これはかなり燃費が悪い方法なので、カミュの母親の容態が俺の想定以上だった場合、最悪俺が数日寝込むことになる。
「でもまあ、これしかないか……」
夜も遅いということで結局泊まることになってしまったカミュの家で俺は一人ごちる。
「1つの家庭だけ救うのは偽善だとは思うけど……それでもなんか見捨てられないもんな」
母親は隣の布団で、カミュは俺の隣でスウスウと寝息を立てていて、窓から入ってくる月明かりが二人の胸が上下する様を照らしている。
関わった人全員を救えないのはわかっている。というか、そもそも俺が誰かを救ってやるなんて上等な存在ではないけど、それでも少しでも手を差し伸べたい。一人でも多くに。
眠気からか、柄にもないことを考えながら俺の意識は闇に飲まれていった。
自分にかける回復魔法ではなく、他人にかける回復魔法を使おうと思った場合、俺の場合は治したい部位のできるだけ近くに手を当てる必要がある。
つまり今回の場合だと、胃腸をはじめ内蔵が弱っているだろう奥さんのお腹からみぞおちあたり。
思春期前の少年とはいえ、カミュの前で昨日会ったばかりの怪しい男が母親の腹をまさぐるというのは流石にこう……性癖が歪みそうな話である。
「カミュ。悪いけどこれで朝飯買ってきてくれないか。3人分」
「それは構わないけど、世話になったし飯ならオレが出……って、多いよ!ここ、貧民街だよ!?銀貨一枚でもお釣りが来るよ」
昨晩からすっかり打ち解け、懐いてくれたカミュはそう言って手を前に突き出して俺の手を押し返してきた。金貨は流石にと思って銀貨を3枚渡したのだが、どうやらそれでも多いらしい。
ちなみに10枚で大銀貨1枚、それが10枚で金貨一枚なので大体銀貨一枚で日本円で1000円くらいだ。
「銅貨とかのほうがいいのか?ただ、あいにく今細かいのがないんだよ……あ、そうだ。じゃあこの銀貨はしまっといていいから、昨日の稼ぎから出してくれよ。あまりはお駄賃な」
そう言って2枚の銀貨を渡すと、カミュの表情が明るくなる。
「え!?いいの!?」
「ああ。ただ、大金持ち歩くのは危険だから必要な分だけ持ってってな」
「わかった!」
カミュはそう言ってシュバルツ家の家紋が小さく刺繍された財布を置いて布袋に銅貨を数枚移すと、建付けの悪い扉を押し開いて外に出ていった。
さて、とりあえずこれで少年の性癖は守られたわけだ。
「何から何まですみません」
「いえいえ、ところで奥さん」
「はい」
「カミュが帰ってくる前にちょっと肌着姿になってもらっていいですか?」
「…………はい……私などでよろしければ……ああ、こんなこと、あの子を身ごもって以来だからうまくできるか不安ですが」
ちょっと色っぽい表情で頬に手を当てながらそんなことをのたまうカミュ母。うん、完全に誤解されているな。まあ、俺の言い方も悪かったけれど。
てか、奥さんもしかして結構元気ですか?
「いや、そういうことではなくて。俺は簡単な回復魔法が使えるので、もしかしたら奥さんの身体の不調を治せるかもしれないなと思って」
「え?あ……ランドール様は回復士様だったのですか?やだ、私ったら勘違いしてなんてはしたないことを……」
「いえ、誤解が解けてなによりです。じゃあカミュが帰って来る前にやっちゃいましょう」
「でも、私にはお支払いできるお金がありません」
「昔の女神教じゃあるまいし、いらないですよ。ただ、俺は所詮野良の回復士もどきなんで女神教の上級回復士みたいな劇的な効果は期待しないでくださいね」
伸び切ったスポブラと短パンのような、色気とは無縁の肌着姿でベッドに横になったカミュの母親は服を着ていたときの印象よりかなり痩せていた。
肋は浮いているし、腹も腰回りもほとんど肉がついていない。あいにくと俺は肉をつける魔法なんてものは学習していないので、内臓の調子を上げたあとはしっかり飯を食わせるしかないな。
「ちなみに、一応聞いておきますけど、この不調って、呪いとかじゃないですよね。呪いの種類によっては回復魔法で大変なことになることもあるらしいんですけど」
そうなったらもう母子ともども女神教に放り込む一択になってしまう。
「多分違うと思います。3ヶ月ほど前までは体調が悪いということもありませんでしたし、呪いの症状に多い、痛い、苦しいというよりは体が重い、怠いという感じなので」
「わかりました。万が一なにかあったら責任持って女神教に運びますので安心してください」
「そ、それはだめです。本当にお金がありませんので」
「今の女神教はそこまでお金はかかりませんよ」
破壊の聖女ことカーラがそういうの全部ぶっ壊したおかげで今は治療費名目での搾取は禁止されている。どのくらい変わったかと言うと、アメリカの医療(無保険)から日本の医療(健康保険あり)くらいになっている。まあ、それでやっていけるのはテオドールの奴が各所の領主貴族をふるいにかけがてら領民の保険料を教会に納めるように仕向けたからだ。
ちなみに、これを断った領主貴族はテオドールの粛清リスト行きだったりする。あいつとシモーヌは悪徳貴族に親でも殺されたんかってくらい、業突く張りの貴族に対して容赦がないので粛清対象になるなんて俺だったら死んでもごめんだ。
とはいえ、じゃあ軽減された治療費が貧民街の住民がホイホイ出せる額かといえばそんなこともないわけで。
「これでも貴族になる予定なんでそのくらいは任せてください」
「貴族……そうなんですね」
「なにか嫌な思い出でもあるんですか?」
まあ、嫌な思い出が多い人のほうが多いだろうけど。この国の、特にテオドールの粛清リストに入っている貴族とか全員性格最悪だからな。
そんなことを考えながらカミュの母親の腹に手をおいて回復魔法を発動させる。
「実は私は以前とある貴族家でメイドをしておりまして」
「あ、そうなんですね。どうりで話し方が丁寧なわけだ」
「あの子が生まれる前の話ですから、もう9年も前になります。旦那様のお手つきになった私は、奥様に知られるのが恐ろしくなって屋敷を逃げ出したのです」
「……もしかして、カミュってその貴族のご落胤だったりしますか?」
「はい……」
おお……本当にそういう話あるんだな。武器屋の親父の冗談かと思ってたよ。
「でもそれならカミュの父親に助けを求めることはできないんですか?一応その貴族家の血を継いでいるんですから困っていると知ったら助けてくれたりとかしそうじゃないですか」
「旦那様はとても良い方だったのですが、その……奥様が」
なるほど。まあ、苛烈な性格でなくても普通に旦那とメイドの不倫の子とか腸が煮えくり返るような思いだろうしな。
「それと、旦那様は数年前に亡くなられたと風の噂で聞きました」
「そういうことだったんですね。じゃあ、うちで働きます?今のところまだ正式に領地を持っていないんで、本格的な給料とか仕事は領を取り戻してからってことになっちゃいますけど、カミュと二人の生活くらいならしばらく面倒見ますよ」
「ええっ!?でもそんな……」
「どっかの皇太子とその婚約者が家の人間も領民もろくに用意してくれなさそうなんで人手があると助かるんです。特に貴族家の経験者なんて俺からしたら喉から手が出るほど欲しい」
これは結構真面目な話で、たとえば前の領主の家の人間なんかが、荒れ果てているという領地に残っていたとしても無条件で俺を歓迎してくれるとは思えない。なのでそいつらを残すとしても、半分くらいは家の中に俺派の人間を入れて力を拮抗させておきたい。
「……私でよろしければ」
「大歓迎ですよ。じゃあ今更なんですが、お名前――」
教えて下さいと言い終わらないうちにバーンと大きな音を立てて入口の扉が開いた。
「ランドール!こんなところにいないで帰りますよ!」
そう言いながら現れたのはリリアンナ。多分昨日の夜、俺が泊まりになると伝言を頼んだ兵士から聞いてきたのだろう。
一方俺は妙齢の半裸の女性の腹部を手で弄っているように見える状況。すぐに俺とリリアンナの目が合い、みるみるうちにリリアンナの顔が歪みゴミを見るような目で俺を見る。と、すぐにその表情が驚きの色に変わり、目を見開いたリリアンナに俺が恐怖するのとほぼ同時にリリアンナの口から「アグリ……?」と、女性の名前がこぼれた。
「ひょっとしてリリアンナ様……?ですか……?」
「えっと、リリアンナの知り合い?」
そうじゃなかったらいいな。人違いだったら良いな、人違いじゃなかったら修羅場だなとか思いながら恐る恐る尋ねると、リリアンナは深くうなづく。
「私が小さい頃にたくさん遊んでくれたメイドです。10年くらい前に、森に食材の採取に入ったまま戻らなかったので、てっきりモンスターに襲われて亡くなったのだとばかり」
状況を整理しよう。とある貴族家で働いていたアグリさんはそこの旦那さんとの間にカミュ(10歳前後くらいに見える)を授かって屋敷を出た。一方リリアンナの知っているアグリさんはカミュを身ごもっただろうころに森での採集に向かったまま戻ってこなかった。
……マジか。これだとアグリさん雇えなくない?俺のとこだからセーフとはならないよな、流石に。だってカミュってばリリアンナの腹違いの弟だもの。そんなカミュを隣の領の俺が握ってるとかある意味人質外交だし、そもそもカサンドラさんがどうでてくるか全く予想がつかない。はっきり言って俺とハイウインド家の間の確執のもとになる案件だ。
「なんで……生きていたのなら、なんで連絡をくれなかったの!でも、生きててよかった、アグリっ」
感動の再会。リリアンナは長いまつ毛に涙をためながらベッドに駆け寄り、子供のような口調でアグリさんに抱きつきながらそう言った。
一方抱きつかれながら『やっべー、どうしよう』みたいな表情で目をそらすアグリさん。わかる。同じクズである俺にはわかるぞ。この女、割とクズだ。だがそれ故になんかうまくやっていけそうな気もする。
「お、お嬢様こそご無事で何よりです。旦那様が亡くなられて領が王家直轄になったとお聞きしましたが」
「今はモロー家に母共々お世話になっているの。でもまさか、こんな近くにアグリが居たなんて!ごめんなさいね、気づいてあげられなくて」
「い、いえ。か、カサンドラ様はご息災で?」
「ええ。もう、あのころから相変わらず元気よ。きっとあなたの顔を見たらさらに元気になるわね。だってあなたがいなくなったときには捜索隊を組織して『草の根分けても探し出せ!』なんてすごい剣幕で心配していたんだから」
「は……はは……もったいない話です」
いやもうそれ完全にカサンドラさんに不倫がバレてるやつじゃねえか。
「ねえアグリ。これから一緒にお城に行きましょ?きっとお母様も喜んでくれるわ」
そりゃあ、大喜びだろうさ。探していた夫の不倫相手が何もしなくても帰ってくるんだから。
ああ、アグリさんが超涙目でこっちに助けを求めてる。
でもどうだろう。リリアンナ的にはこの件、許容範囲なんだろうか。許容範囲なら事情を話して城へ連行するのは勘弁してもらいたいところなんだけど、許容範囲じゃなかった場合即連行、もしくはリリアンナの電撃魔法で即処刑もあり得るんだよなぁ。
なお、この場合関係ないのに多分俺も処刑に巻き込まれる。
「り、リリアンナ様。現在の私はご覧の通りの有様で、とても公爵様のお城になど――」
「大丈夫よ!どこかの宿でお風呂を借りましょう。その間に髪結い師も服も用意するわ」
なんとか穏便に断ろうとしているアグリさんに対して今まで見たことがないくらいグイグイ行くリリアンナ。
普段三人娘の中ではシモーヌがグイグイ行く役回りで、ルチアが煽り役。リリアンナはどちらかと言えばそれを抑える側だったので、こういうのはちょっと新鮮で面白い。
「た、助けてくださいランドールさん」
おいバカやめろ。こっちみんな、こっちくんな。
「そういえばランドールはなぜアグリの家に?」
ほらぁ、リリアンナがこっち向いたじゃねえか。
「……昨日の火事の件は知ってるだろ?その現場でたまたま知り合ったんだよ。で、貧民街の中でも特に健康状態が心配だったから治療がてら泊まっただけだ。というか、急に城に来いとか言われてもアグリさんだって体調の問題や予定があるし困るだろう。居場所がわかったんだから今度時間のあるときにまた来ればいいじゃないか」
「まあ……それはそう……かもしれませんけど」
リリアンナの気持ちもわからないではない。一度姿をくらませた相手なんだから理由はわからなくてもまたいなくなるんじゃないかと不安に思う。それはそうだろう。
「じゃあ……そうね、アグリの家の前に今私と一緒に来た兵士を何人か置いていくから、なにか困ったことがあったら言って。私は一旦城に戻ってお母様にアグリの話をするから」
それじゃ意味がないんですよリリアンナさん。
というか、それだとカサンドラさんが動かせる兵士全員で貧民街を取り囲むようなことになりませんかね。そんなことになったら昨日の火事よりもよっぽど被害がでかくなりそうまであるんですけども。
リリアンナは「そうしましょう」とノリノリだが、アグリさんは死にそうな顔色で俺に懇願するような目を向けてくる。
「え、ええとだな、リリアンナ」
「はい、なんですか?」
「その……」
どう言い訳したら穏便に事が運ぶだろうか。別に俺がそこまでする必要はないといえばないのだが、知り合ったばかりとはいえ、知り合いの親子が友達親子に惨殺されかねない状況を放っておいてなにかあったら寝覚めが悪すぎる。
そんなことを考えていると、ひょこっとカミュが戻ってきた。
「ただいまーって、お客さん?あ……まさか外に居た兵隊ってオレのこと捕まえに来たの!?」
貴族令嬢というよりは、動き易いパンツスタイルの役人のような格好をしているリリアンナを見てカミュの顔が青ざめる。
「いや、違う違う、違うけどちょっと待っててくれ。ちょっと今、ややこしいことになってるんだ」
「なんだ、よかったー」
「あら、もしかしてアグリのお子さ……ん……」
振り返ったリリアンナとカミュの目が合う。
「……あなた、その瞳の色……」
そう言えば、カミュの瞳の色はリリアンナと同じきれいな緑色だ。
「あ、きれいでしょ。これはお父さんからもらったものだから大事にしなさいって、母ちゃんによく言われているんだ!って、お姉ちゃんもおんなじ色だね!」
無邪気にそう言って笑うカミュの前でリリアンナは驚きのあまり目を見開いて絶句し、アグリさんは白目をむいて泡を吹いて気絶し、俺はリリアンナの魔法が暴発したときに避雷針にするため、昨日ルチアが作ってくれた短剣に手をかけた。




