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暴れん坊伯爵は"あんまり"暴れたくない  作者: ながしー
襲名 暴れん坊伯爵(二代目)編

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カミュとアグリ 2

「えっと……リリアンナさ、弟とか妹とかほしかった時期とかないか?」


 アグリさんの家から連れ出したリリアンナにそう尋ねると、リリアンナは険しい顔で額を抑えてため息をついた。


「はあ、セリフだけを聞くとあなたとお母様の間になにかあったのかと疑うようなセリフですけど、勘違いのしようがないほど決定的なものを見せられちゃいましたからね……」

「その瞳って珍しいものなのか?ハイウィンド家にしか受け継がれないとか?」

「そこまで珍しいものではありませんけど、多くはありませんし、あの年頃の子で、しかもアグリの子ということであれば自ずと父親の目星くらいはつきます」


 お、意外と冷静だな。

 

「それに、いつかはこういう日がくるかもという可能性も考えていないわけではありませんでしたし、少しですが兄弟がいたらいいなと考えてもいましたから」

「え?どういうことだ?」

「父が無くなった時、私が15であれば無条件で家を継げたんです。でも私は15になっていなくて……私の上に兄や姉がいたら……そんなことを考えていたことがあって。それに、貴族としては子供は多いに越したことはないですしね。だからカミュやアグリに対して恨みとかそういうのはないです」

「そのために親父さんはリリアンナの他に、外で子供を作っていたってことか?」

「そのためというわけではありませんが、外に子供がいるのでは?という噂はありました。まあ、アグリは外という括りではないですし、そもそもカミュは年上のきょうだいというわけではないですけどね」


 そう言って、リリアンナはなんとも言えない表情で眉をしかめてもう一度大きくため息を付く。


「……前に、私が言ったお父様の二つ名を覚えていますか?」

「ああ、確か暴れん坊伯爵、だっけ?自ら貴族や商人の不正を暴いて成敗していったっていう」

「その二つ名にはもう一つの意味があるんです」

「もうひとつの意味?」

「はい。暴れん坊伯爵に込められたもう一つの意味、それは”夜の”暴れん坊伯爵です」


 リリアンナは意味をはっきり言わなかったけど、多分その”夜の”に込められているもう一つの意味ってそういうことだよな。


「結構派手に遊んでたってことか?」

「遊んでいなかったからこそ問題なんです」

「遊んでないのにそんな意味を込められたりしなくないか?」

「その、噂では解決した事件の関係者に求められた時に限り手を出していたらしく、手を出された側も恩を感じているから妾の立場を要求したり、万が一子供ができても認知を要求したりせずに、一生懸命大切に子供を育てていっているとかなんとか」


 見方によって酷い話にも聞こえるし、美談にも聞こえる不思議よ。

 ましてや今回存在が明らかになったその異母兄弟の母親は自分の面倒を見てくれていたメイドさんなんだからリリアンナの心中は推して知るべしだろう。


「とりあえず、アグリさんとカミュのことは置いておいて、お前は大丈夫か?」

「……母は私と父が一緒に遊ぶことに対してすら嫉妬するような人でしたし、表立って妾を持たなかった父の気持ちも、父と関係を持ったアグリが逃げたのもわからないではない部分もありますし」

「親父さんやカサンドラさんの話もおいておけ。今はお前の話だ」


 お前が安定しているかどうかでこれから先の対応がかわるんだからそこをはっきりさせておきたい。


「さっきも言った通り、想定はしていました……とはいえ、実際に目にしたら少し気疲れしてしまいました」


 リリアンナはそう言って無防備に俺の胸に額を当てて頭を預けてくる……年頃の男子に年頃の女子がそういうことをするんじゃありません!そういうことされるとお兄さん勘違いしちゃうからね!?

 そんな事を考えながらどうしたものか、こういうときは頭とか肩とか抱き寄せたほうが良いのか、どうなんだろう、でもやっぱり勘違いなんじゃなかろうかと、自分の腕をリリアンナの身体のそばでふよふよさせていると、リリアンナは小さくため息を吐いてからスッと離れた。

 どうやら抱き寄せたほうが云々はやっぱり俺の妄想、勘違い、不正解だったようだ。やらなくてよかった。


「どちらにしても、一度お母様に話をしないといけませんね。ダメそうなら私が抑えている間にランドールは2人を何処かに逃してください。この街はあまりにもお母様から近すぎますから」

「あ、リリアンナは逃がす派なのか、よかった」

「少しだけ思うところはありますけれど、姉のように思っていた人と、腹違いとはいえ弟ですからね。殺されそうとなれば逃がしますよ」


 さすがにわだかまりゼロというわけにはいかないらしい。まあ、それはしょうがないか。


「というか、私のことそんなにひどい女だと思っていたんですか?」

「そういうわけじゃないけど事情が事情だろ?リリアンナがいい子なのは知っているけど状況によってそういう考え方になったとしても仕方ないと思うしさ」

「……まあ、今日のところはそれでいいです。さっきのことも許します」


 どうやら今日のところは許されたらしい。

 やっぱり不用意にボディタッチをしようとするのは良くないんだな。

 



 リリアンナは一足先に城へ帰り、対して俺はアグリさんに事情を説明するべく貧民街に残った。

 アグリさんが目覚めるのを待つ間に朝食を食べながらカミュと話をしていると、今まで母子二人、どうやって食べてきていたかを話してくれた。


「なるほど、アグリさんって冒険者なのか」

「結構強いんだぜ!なんて言ったってCランクなんだからな」


 Cか。エリザベスがBなことを考えると相当強いな、確かに。

 ……あれ?じゃあ、もしかしてリリアンナが言っていた失踪時に採取してた食材ってクマとかイノシシとかか?森にって言ってたから木の実とか果物とか、キノコとかだと思っていたけど。


「俺も早く母ちゃんと一緒に依頼が受けられるように鍛えたいのに、母ちゃんは勉強しろ勉強しろ、城とか商店で働けるようになれってばっかり言うんだ」


 まあ、アグリさんの気持ちはわかる。冒険者として食えるくらいの実力があっても、体を壊してしまえば今のような暮らしに落ちてしまう。だったら安定した城勤めや商会勤めで安全に暮らしてほしい。親としてはそう考えるのは当然と言えば当然だ。

 でもCランクか。しばらくはしっかり養生させる必要はあるだろうけど、同情からだけじゃなく普通にうちの家にほしいな、アグリさん。

 リリアンナのスタンスはあんな感じだし、カサンドラさんがうちに来なければワンチャン雇って匿うこともできるか?

 

「俺が母ちゃんと一緒に冒険に行けるくらいに強くなってたら、スリなんてやらずにもっとちゃんとしたところに住めたのになあ。やっぱり一人じゃこういうとこに住むのが限界なんだろうなって思うし」

「……ん?ちょっと待て。アグリさんが具合悪くなって貧民街に引っ越してきたとかじゃないのか?」


 カミュを抱えてなので、日帰りの仕事がメインにはなるんだろうけど、Cランクともなれば街中で暮らしても、多分日本でそれなりの規模の会社でサラリーマンをやるくらいの生活はできていたはずだ。

 というか、そもそもCランクには実力とは別に、売上ノルマではないが、一定以上のギルドへの貢献度が必要になる。そしてその貢献度はぶっちゃけギルドと冒険者が折半する報酬の金額なので、Cになっている以上はカミュを産んでからもそれなりの金額は稼いでいるということになる。


「違うよ。俺が物心ついたころにはもうここに居たよ」


 じゃあ、お金はどこいったんだ?さっきカミュは俺から受け取った銀貨ではなく、自前の銅貨を数枚持って出かけていって、割とまともな、残飯とかではない食事を買って帰ってきた。つまり、ここでは銅貨で食事が普通に買える=物価が安い。であれば街中でそれなりの暮らしができる冒険者の収入はいったいどこに行ってしまったのか。

 

「そんで、母ちゃんが冒険に行っているときは孤児院に預かってもらったりしてたんだ」


 だとしたら孤児院への寄付だろうか。だけど、3ヶ月働けなくなったくらいで困窮するほど孤児院へ寄付するか?

 寄付をして、多少色をつけるとしても、せいぜい保育料+αくらいなもんだろう。

 アグリさんって聖人君子ってわけじゃなく、俺と同じで割と俗世寄りだと思うし、そういうところはしっかりしていると思うんだよな。

 

「まあ、お前が母ちゃん大好きっ子だってことはわかった」

「そ、そんなんじゃねえよっ!」

「はいはい。それでアグリさん、今後の話をしたいんですけど大丈夫ですかね」

「あはは……バレてました……?」

「リリアンナが帰る前には起きてましたよね。隙を見てカミュを連れて逃げようとか思ってました?」

「嫌な人ですね、ランドールさんって」


 まあね、嫌な奴であることには定評がある俺だからね。


「わかっていると思いますけど、リリアンナは味方です。カサンドラさんはわかりません」

「奥様は旦那様を愛していらっしゃいましたからね」

「なにかあっても、俺とリリアンナは貴女とカミュを守るつもりですが、勝手に逃げられたりしたら守るものも守れないんで、そこは覚えておいてください」

「わかりました」


 そんなことを話していると、カミュが頭の上にはてなを浮かべていそうな表情で首を傾げているのが目に入った。


「あっと、その話の前にカミュに話さなきゃいけないことがありますよね」

「そうですね。……カミュ、よく聞いてね」


 そう言って身体を起こすと、アグリさんはカミュに噛んで含めるように昔自分がどういうところにいて、誰とどういう関係になって、どうしてこういうことになったのかということを話した。


「じゃあ……さっきのお姉ちゃんが、半分血のつながった俺のお姉ちゃん……」

「ええ。そして、こちらのランドールさん……いえ、ランドール様がこれから私達がお仕えする方よ」

「兄ちゃんが、御主人様……?」


 男子とは言え、整った顔の、まだあどけなさを残す年頃のカミュに御主人様呼ばわりされるのはなんかこう……背徳感があるな。

 

「……つまり、兄ちゃんは母ちゃんの御主人様で、お姉ちゃんと結婚してオレにとってのお兄ちゃんで、ご主人様になる?」

「結婚しないが」


 どこから出てきたんだよ、リリアンナ嫁説。

 俺はもう慣れっこだけど変な噂が流れると向こうの縁談に差し障るからやめて差し上げろ。


「えー、結婚するんだと思った」

「ね。私もお似合いだと思うわ」

「やめてください。リリアンナの迷惑になりますから。あとそれだと多分俺が婿養子になるんで、結局アグリさんはカサンドラさんと顔を合わせることになりますよ」

「ぴえん」


 ぴえんじゃねえんだわ。反省しろ!

 

 

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