第16話 紅玉
このお話は視点を変更しております(´ω`)くりすますなんてなかった
イルダナフとエアは、オーク達のやる気に満ち溢れた姿に目を丸くしていた。
五十匹のハイオークに五十匹の灰狼...否。所々に森林狼と岩山狼が混じってる。
さらに全ての狼の背から、例外なく別の色のものが薄っすらと混じって見えた。
──進化直前の証。
イルダナフは狼達の評価を上げて考えた。
それらを率いるのは将軍の名を冠したオークと二匹の白雪狼である。
街の外の畑より、さらにその先へ向かう途中。
蜃気楼大蛇がそれぞれ背中にオークと狼を乗せて動いている。
下ろしたと思ったら別のオークと狼が乗る。
どうやら代わり番このようだ。
競って蛇の背中に乗りたがっている。
しかし数十ものハイオークが将軍オークに率いられている時点で、完全に軍隊の派遣を要求する程の討伐対象だ。
そちらの狼達とて例外ではない。
どちらの集団でも小さな村一つなど瞬く間に蹂躙されてしまうだろう。
強力な個体程、人間程では無いが知恵が回る。
──だが、所詮は獣。
...そう言いながら、知恵比べで遅れをとって死ぬ愚か者がどれほど居るか。
イルダナフはある事件を思い起こしていた。
オークによる村の襲撃。
自分と知り合いだった常駐兵の隊長格の男が、オークの戦術を見抜けず真っ先に殺され。
部隊は全滅し、村は蹂躙された。
イルダナフはその村を治めていた貴族に助けを請われ、傭兵と共に出動した。
唯一の女性隊員にして、その男の婚約者だった副官は村娘達と共に地獄をみた。
オークを全滅させて助け出したその後。
副官が自殺したと聞いたのは、それから数週間後の事だった。
自分にとって苦い思い出をもたらした集団が味方である事に、若干複雑な気持ちを抱く。
だが、それでも...今だけは頼りになる事は変わりなかった。
ワンダは超越者の様子を見に行くとの事で行ってしまった。
死んで以来いつものことだ。
おそらく彼の家族の様子を見に行っている事だろう。
イルダナフはオーク達の後をついていきながらため息を吐く。
死ねば女神の膝元で裁かれ、然るべき世へ向かう事となる。
その筈だった。
だが自分はワンダと共にこの世界で目覚めた。
正気に戻ったエアと、声のみだが三柱の女神の内の一柱から謝罪と依頼を受け。
そして此処にいる。
黒幕たる敵の超越者は邪悪で狡猾だ。
女神とその神界の軍及び八竜を無効化して、打倒しうる『力』を持っているとの事だった。
そして、一度でもその者の手に掛かって死んでしまえば。瞬く間に敵の手駒となって味方に牙を剥く事になってしまう。
それは手駒となった者から与えられる死でも同じ事が言えた。
──死から伝わる死によって、女神とこの世界は滅ぶ。
抗う事が出来るのは同じ力を持つ超越者。
あの少年だけだと。
イルダナフとワンダは震えあがった。
命を尽くして戦い、国と家族を守ったつもりだったのだ。
真の悪はまだ其処にいる。
エアの力によって、記憶の世界の深い場所へ閉じ込められた男は徐々に力を取り戻している。
そして時折、新たな手駒と力を得る為に自身の手駒を送り出していた。
少年が現れる数年の間。
二人はエアと共に、この世界を守る為に数多くの手駒を屠って来た。
そして黒幕の手駒と戦った事のあるイルダナフとエアは、先程から同様の違和感を覚えていた。
人形や屍人を思わせる程静かで虚ろな手駒か、ひたすら壊れた笑みを浮かべた手駒しか現れなかった。
何故タリオンの手駒は、此処まで明確な意思を持って行動する事が出来るのか?
それが不思議でならなかった。
エアはタリオンと一旦別行動になったあとからずっと...ハイオーク達のまとめ役である、首領を観察し続けている。
時折遠くにある敵の様子を伺う以外はほぼこれだ。
「...エアよ」
《...なんですか?》
改めて聞く必要がある。
これから先の戦いで、仲間に疑問を残したままでは全力で戦えない。
イルダナフはこの数年で友となった竜の名を呼んだ。
「あの将軍オークと、何かあったのか?」
《...別に、何も》
自分の知る限りでは、確かに何も無かった筈だ。
少年に問題は一切ない。
あの年頃で礼儀正しく、今居る手駒やペットからの信頼も厚い。
だと言うのに、エアの表情はとても固い。
一体どうしたというのか。
皆が街の大門に差し掛かった頃。エアは宣言するように今居る皆に語りかけた。
《此処で彼等を待ちましょう》
「うむ」
「分かった」「「ウォン!」」
街の外はたわわに実ったコメギの穂が、日の光を受けて煌めき。
風に揺れて波のようにさざめいている。
秋は収穫の時期だ。
死者であるイルダナフとエア。
そして手駒でもあるタリオンの仲間達には、現実の世界の有様がそのまま記憶の世界の象となる。
狼達が競い合うようにコメギの海原の中を駆けていく。
「やれやれ...落ち着きがないのう」
槍を持った二十人のハイオーク達が二匹の大蛇と共にイルダナフの側までやって来た。
彼等は戦力というよりはイルダナフの護衛としての役割が強い。
確かに大きい魔術程詠唱と動作に時間が掛かり、動きは止まるだろう。
やって来たハイオークと蛇は、目を輝かせてイルダナフを見ていた。
彼の魔術に大いに期待しているのだ。
(此奴らはいったいなんなのだ?)
互いに出会えばほぼ確実に殺し合う筈の者ばかり。
そんな魔物達が出会ったばかりのイルダナフすら仲間として見ている。
そのような存在は見たことも聞いた事もない。
少し離れた場所では、散兵というあまり聞き慣れない兵種を従えた首領が、エアと何やら話をしていた。
滅多に動かぬエアの表情に、見慣れぬ相が浮かんでいる。
将軍オークの堂々たる立ち振る舞いは見事なものだが相手は竜の中の竜。
抑止力たる八竜が将軍の名が付くとはいえ、歯牙にも掛けぬ筈のオークに感情を露わにするなどよっぽどの事だ。
止めに入るべきかと迷っている内に、聞き慣れた声が街から聞こえて近づいて来た。
「おぉおぉおぉおぉい!」
ワンダだ。
エアが将軍オークから目を離した。
思わずホッとするイルダナフ。
だが...
手を振って走るその背後から、ぴったりと付いて来る存在に気付いてギョッとした。
...彼の娘が、一緒に走ってやって来たのだ。
(´ω`)此処まで読んで頂きありがとうございます!




