第17話 生成
(´ω`;)休みになった途端にダウンしてました。
最後に鞘に収まった大剣二本と箱。
おまけで頂いた手入れ用の砥石と油を含めた全てを持って帰る直前になって。
店主が思い出した様に自分の頭を叩いた。
「...そういや名前を聞いてなかったな、あと証明」
「ですね」
ギルドのカードを見せて自己紹介をしたのはその時になってから。
俺はこの鍛冶屋の店主、ドルドさんに一礼してから店を出る。
俺もドルドさんも忘れていたスパイや犯罪者への対策の為の売買のルール。
...実は案外こっそり売り買い出来るんじゃないかな。
二匹と一緒に鍛冶屋を出た俺は布や皮を扱う衣服店で、なるだけ頑丈且つ質の良くて安い布と革と糸を、二枚の金貨と銀貨三枚で買い集めた。
木綿ぽい布だがしっかり厚みがある良い布だった。
革は屠殺ついでに買取りが入るらしいので程々の値段で売られるそうだ。豚と牛両方の革を買い取った。
素人同然の目で材料の良し悪しは分からないが、加工する前という事もあって安く。
ともかく必要とした量だけは十二分に確保した。
服の作成の段階で出る様々な端切れを大銅貨一枚で買う。
タオルを数枚おまけで貰った。
「ほぼ全部使ったなあ...」
「わん!」「ぴゃぁ」
残ったのは銀貨一枚だけだ。
熊の肝の代金回収は為されてないが、今は良いだろう。
エアの言っていた猶予は二時間から四時間(一刻=二時間)。
それもあくまで予定であって、実際にその通りになるとは限らない。
急いで戻ろう。
最後になったが、ココを現世に戻さなければならない。
俺は今も記憶の世界の錬金協会の前で話をしてる筈の親子を探す。
現世から二人の気配を探るが、何処にも見当たらない。
「?【移層】」
...あの二人はいったい何処へ?
しきりに匂いを追っていたラヴィネとステラが広場の門を...さらにその先の方をじっと見ている。
おい、まさか。
俺はラヴィネを抱えて誰もいないケセルナの街を全力で駆け抜けた。
...
集合場所である門の前では、イルダナフさんが壁の近くに転がってた石の上に座っていた。
傍らにはやや赤みがかった狼が寝そべっている。
「イルダナフさん」
「...タリオンか」
その様子からして、凄く疲れている。
二匹の大蛇が慰めるようにその肩へ顎をポンと乗せた。
「ワンダさんって、昔からああなんですか?」
「...そうじゃな」
イルダナフさんが蛇達の頭を撫でながら答えた。
その視線の先に居るのは二人の犬耳親子。
「わはははは!」
「はやいはやーい!あははははは!!」
ラヴィネの父に二人で跨ってコメギ畑を駆け抜けている。
その後ろからは無数の狼が後を追って走っている。
鎧に武器を持った二人を乗せて相当重い筈なのだが、白雪狼は苦もなく駆けていた。
「お主、そのペンダントは」
「アルナさんに頂きました。本当なら貴方のそのペンダントと交換する筈だったと」
「そうか...」
「今からでもこれを──」
「わしにとってこれは変えれんものじゃ」
赤い帽子を深く被り、首を振る。
「あの時、わしを想って作ってくれた。震える手つきで首にかけてくれた。はずかしさで染まった耳まで赤い笑顔。...全部覚えているとも」
イルダナフさんは胸元のペンダントをぎゅっと握りしめた。
「これがあるから、臆病なわしは戦えるんじゃ」
「イルダナフさん...」
俺はそれ以上何も言う事が出来なかった。
「うぉん!」
「戻ったか」
そこへ首領とラヴィネの母がやって来た。
白雪狼だが、長い間ラヴィネと接して来た事もあってなんとなくではあるが父と母の区別がついた。
いつからいたのか、大きな白雪狼の周りに子狼がわらわらと集まっている。
俺の肩からステラが降り、ついでラヴィネが腕から降りて子供達に体当たりするように走り寄って。
「きゅうぅん!?」
一斉に群がられてもみくちゃにされてる...しかし、この子達なんか微妙に成長してない?
最初に会った頃より一回り大きいような...気のせいかなあ。
上手い具合に乱戦から逃げてるステラが印象的だ。
《準備は整ったようですね》
エアが空中からやって来て顔を向ける。
「うん。みんなを呼んでくれ」
「わかった」
首領が指を咥えて笛を作った。
ピィぃぃぃぃ──
「うぉふ!わぉぉぉぉん!」
ラヴィネの母が遠吠えすると、それまで思い思いの場所で休憩していた狼とハイオークが一斉に集まって来た。
「ワンダさん...」
「はっはっはっは!」
ワンダさんは笑って誤魔化しているが、これからの戦いに娘を付いて来させる訳ではないだろう。
ココ共々ラヴィネの父から降りて、そそくさと視界の隅っこへ移っていった。
おまけで付いていく子狼達と、ラヴィネにステラ。
本当頼むぞ...
しかし、ハイオーク達が居る中で何事も無く狼と戯れ合うあたり油断出来ないな。
俺は改めて集まった皆を見渡した。
彼等は生前、何処かで奪ったか拾ったであろう布地で腰巻のようなパンツを履いていた。
たまに肩当てを付けたり、鎧や兜を被った者がいる。
首領はリベットが打ち込まれた革製の腰巻と錆びた脛当てにサンダル。
そして手甲付きのリストバンドだが、これが片っぽだけでしかもサイズが微妙に合ってない。
おまけにどこもかしこもボロボロだ。
出会った時は狼の毛皮を付けていたが、今はそれすらない。
皆持っている武器はどれもこれも錆びて駄目なものばかり。
丸太を担いでる者まで何人かいる。
だが...
其れ等が全て、これから使う記述に良い役目を果たしてくれるだろう。
幸いにして手本となるものもすでに見て来たし、此処にある。
この『記述』でサイズの如何に問わず、ぴったり仕上げて見せよう。
俺は鍛冶屋で譲り受け、反物屋で買ってきたものを支配空間から取り出した。
ついでに万屋で買った革のベルトとポーチに投げナイフとトマホークも出そう。
《超越者よ、一体何を...?》
「ごめんみんな。その場から動くなよ?」
思った以上に布と革の素材がギリギリだがなんとかなるな。
「{【鍛冶場】}─【走査】─【錬成】」
記述により世界が変わる。
周辺を一掃するように光の波が走り、必要としていた全ての情報を手中に収める。
その情報を元に。
形を持っていた素材が、光を帯びた粒子となって、ハイオーク達目掛けて殺到し。
「オオウ!?」「ふごっ!?!」
首領を含めた全てのオークを包み込んだ。
「タリオン!?」
「ああ、大丈夫...と!」
組まれた稲木の横枝に分厚く束ねてあった収穫後の藁を失敬する。
...銀貨一枚分の藁ってどんくらいかな?
畑に影響しない道の土中や、石ころの中からも必要な成分を抽出する。
光の粒子の動きが一層激しくなって光の渦となり。
やがて光の渦が消える頃には、全身を鎧で包んだハイオークの兵士五十人が出来上がった。
持っている武器はハイオークの体格と膂力に合わせてより重厚に。
鉄心だけで構成されたような重たく頑丈な持ち手に、相反するように鋭い穂先の槍。
片手で扱うには余りにも大きく分厚い鉈。
鉄塊のような片手斧にメイスだが、彼等にとって枝を振り回すようなものだ。
中身を強固にする為にカーボンナノチューブを構成し、組成をより細かく均一にしながら整列させ。
より強く圧縮して、俺なりにダマスカス鋼を再現した。
木目のような仕上がりが美しい。
槍を持ったオークはタワーシールドを。
それ以外のオークはカイトシールドを持っている。
鋼糸が編み込まれ、緩やかに曲がった鋼板で補強された膝当てに脛当て。前腕を覆う手甲に籠手。
足に履くのはローマで使われた剣闘士サンダルだ。
しっかり布と革で作って、重要な箇所を鋼糸とカーボンで補強してある。
皆それぞれの骨と関節の仕組みに筋肉と脂肪の厚みから何まで、全て読み出して一人一人の為に形作った。
肩当てと胴鎧。腰と腿に急所をガードする下散も忘れていない。
守備力と快適性の両立には本当苦労した。
一部を除いて全て、ドルドさんとこの鎧をベースにローマと日本方式を織り交ぜて作ってある。
散兵はナイフベルトにポーチと投げナイフを。
槍兵はベルトのみだが、接近戦や乱戦の為のグラディウスを持たせてある。
足りなかった繊維や素材は、現地の藁その他から調達した。
「!」「オオオ」「ヒャッホー!」
「わふ!うぉん!」「ぐるるるる!」「シャーッ!」(ペシペシ)
ハイオークが飛び上がって感動する中、狼達から「ずるい!」と抗議の声が上がった。
当然か。
おまけに蛇達からのバッシングが酷い。
いてて。
「ごめんて...戦いが終わったら、必ず狼と蛇用の装備というか、アクセサリー的なもの探すから」
「ぐるるる!(はみはみ)」
絶対だよ!と言わんがばかりに、狼達から甘噛みとすりすりの複合攻撃を受ける。
蛇達も巻き付いてきた。
「ぴゃあ」「わんわん!」おっと肩の定位置にステラが。となりにラヴィネが戻って来る。
よしよし...うへへ。
しかし狼の装備は首輪とかでわかるけど。
蛇用...ううむ。
...作るしかないかなあ。
「おい、俺の大剣が無いぞ」
おっと忘れてた。
周りのオークよりさらに一回り大きい上に、指揮官だからより頑丈に作る為。
首領の持ってた大剣をまるごと使ったんだっけ...。
首領だけは鎖と板を多用し、サーコートまで仕立てたドルドさんの作った鎧風にしてあるが。一応生活レベルを落とさぬように、快適性だけは保ったつもりだ。
あと首領にはナイフベルトとグラディウス両方付けてあるが、それだけじゃ心もとないだろう。
「はいこれ」
「む」
俺は支配空間から、ドルドさん謹製の二本の大剣を取り出した。
「お前...」
「必要だろ?」
首領は俺の言葉に唖然としていたが、にやりと笑って二本の大剣を受け取り鞘ごと背負った。
「手を貸すよ」
「すまんな」
首領の鎧を通して金具を固定。
時折柄に手を掛けて貰って丁度いい場所になるように少しずつ調整する。
「ああ、その位置でいい」
「ここ?」
「其処だ。すまない」
補強された二つのベルトが大剣の重みで軋んだ。
一つは肩から抜くように。
一つは腰から抜くように。
この大剣の鞘はドワーフの技術と錬金協会の協力で持ち主の意に沿うように開くという。
右手で牢鉄大剣を。
左手で借り物の大剣を。
首領はほぼ一瞬で、同時に二本の大剣を抜いて見せた。
生前には無かった技の冴えだ。
もしかしたら、今迄あの壊れそうな武器のお陰で本気が出せなかったのかも知れない。
「ほう...真銀に牢鉄か」
「お前それドルドんとこの一番高ぇ剣じゃねえか!?」
いつのまにか、俺の近くにやって来たワンダさんが首領の借りた大剣を見て目を丸くした。
成る程真銀か。
ゲームや物語にある金属であっても此処では存在するんだな。
「そう言えば牢鉄ってなんですか?」
貰った山刀も牢鉄製っぽいし。
「そうじゃな──」
イルダナフさんは丁寧に教えてくれた。
魔法を通さず。魔力を介さず。魔術を受け付けず。
真銀より大量にあるが、鉄より産出量は少なく。
硬く。鈍く。重く。
その特性上、牢屋の鉄格子に使われる事が最も多い金属なのだとか。
鋼と組み合わせて鍛える事で武器になるが、それでも重さ故に使い手は限られるそうで。
牢鉄と鋼の配合と鍛え方は、その鍛冶職人でも極秘中の極秘の技だそうだ。
そら一千万以上もするわ。
俺は自分の腰に佩びた山刀を見て思わずため息をついた。
...でっかい借りだよなあ。
《ところで、貴方の防具は?》
...忘れてたよ。
( _´ω`)_此処まで読んで頂きありがとうございナス!




