第7話 珍獣襲撃
大通りに面した路地裏でステラを拾い上げる。
間近で俺の姿を捉える二つの紫紺の瞳。
...ごめんな、まだお前を直してやれない。
「ぴゃ...」
ステラは俺の腕から抜け出し、肩の定位置で額を額に合わせるようにこつりとぶつけた。
──気にしないで。
そう言っているようだ。
「わふっ!」
ラヴィネが元気付けるように、俺の膝に体を擦り付け。
尻尾が俺の首に巻きつくのを確認してから...
「【移層】」
己が内に根付いた記憶より、力ある言葉...『記述』を紡ぐ。
世界を築く理に『記述』を差し込み、自分の望む世界の姿へ。
この力を自覚しても、己の中にはステラの瞳を治す記述は見つからなかった。
俺達は記憶から現実の世界に現れ、広場へ向かう。
これから死の危険がある場所に、この二匹を連れて向かうのはあまりにも危険だ。
だが。
何故か、この二匹は大丈夫だという根拠の無い自信がある。
理屈は分からない。
俺はこんなにも自分の勘を信じる人間だったろうか?
でも今は置いておこう。
俺達の姿を見た門番が、身体をビク付かせながら姿勢を正した。
アルナさんの『手入れ』が行き届いた証拠でもある。
...同情するよ。
俺は二人に軽く会釈しながら門をくぐり抜けた。
広場には今もちらほらと人が居る。
冒険者と呼ばれる存在と、傭兵に狩人。
その殆どがダンジョンへ向かったと聞く。
今居る人達はそれ以外の人か、はたまた行く予定のなかった人か。
どちらにせよ、自分の目的には関係無い。
傭兵を雇う事で戦力を補う事も考えた。
だが、相手はある意味たった一人でエアを退けた存在だ。
死に行く仲間を募って集まる馬鹿は居ないだろう。
これから起こる事は、紛れもなく戦争に近い戦いだ。
...引く事の出来ない戦争で、犠牲者無し死傷者無しの勝利は有り得ない。
ただ、俺が生きている限り彼らは再生出来る。
ハイオークと狼に蛇を首領達に委ねながら。
俺は敵の総大将相手に、記述と弓矢による援護射撃で、最善の一手に全力を注ぐ。
その為に此処にやって来た。
向かう場所は錬金術士協会と、ギルドの万屋。
此方にあるのは、アルナさんが持たせてくれたお金に紹介状だ。
これで、俺達に必要なものを買い揃える。
鍛冶屋で武具を見るのは一番最後で良い。
──装備の事なら心配するな。
...首領が自信を持って言っていた言葉を信じよう。
俺達はまず錬金協会に向かって早足のまま──
「其処の不審者!止まりなさい!!」
...
──連れ立って建物の中へt「ちょっ!無視すんなあああ!!」(ぐわしっ!)
ちっ...無理だったか。
がっちりと腕を身体で抑え付けるように掴まれた。
鎖鎧越しだがふにっとした感触が伝わり、二の腕が温もりに包まれる。
ヘルメットから覗く栗色の犬耳。
サーコートとズボンに加工された尻尾用の穴からはみ出た尻尾がブンブン揺れて。
「ぅぅぅぅ...」「くるうるるるる」
二匹が同時に不機嫌に唸り声をあげた。
「此処で会ったが100年目!神妙にお縄につきなさい!」
ケセルナの珍獣その人だった。




