第8話 匂い
...いきなり困った事になった。
無駄な時間を使っている余裕などないのだが、腕はガッチリと押さえ込まれている。
「離してくれませんか?」
おもっくそ振り払っても良いが。
その場合こいつの着弾点となる筈の、錬金協会の建物の安全が保証できない。
──なお珍獣の安全は考えないものとする。
「嫌」
おぉい...
こいつが警備隊でなければ...うぐぐ。
そもそもこいつはなんで此処に居るんだよ。
「今日一日ギルドの警備を任命されました!おまけにあとで貴方に謝っとけと隊長とみんなに言われました!」
そ、そう?
まあ仮にも街の治安を預かる警備隊が、善良な一般人に故意に斬りかかった訳だし当然──
「──知った事か!です!」
俺の腕をがっちり抱え込んだままドヤ顔で決める珍獣。
首領とは違い格好良さのかけらもない。
「わたしは自分の意思で貴方を葬...逮捕するのです!」
しかも今こいつ言い直したぞ。
アインさんは何故こんな害獣を野に放すような事を...ああ、二匹ともダメだぞ。
仮にも相手は警備隊だ。
無闇矢鱈に攻撃したらダメ...そういう事は誰にも見つからない場所か、揉み消してくれるアインさんの見てる前でやろうな?
「まあそれは後のお楽しみということで、質問なんですが...」
後のて...やっぱり葬る気か?葬る気なんだな?
「...何故貴方から、ルンナちゃんの匂いがするんですかね?」
...
...は?
こいつは何を。
「すんすん...ルンナちゃんから揮発した汗の匂いと石鹸のにおいに。髪を洗う時に使う香油の...うへへ...」
俺の身体を嗅ぎまわり、ルンナさんの残り香を追ってトリップする害獣。
おまわりさんこの人です。
...って、こいつがおまわりさんじゃねーか!
「でも、何故か泡立実の匂いに......と、ともかくルンナちゃんの持ち物の匂い混じってるの!遂に本性を表したわね!」
こいつ確かに犬耳と尻尾生やしてて犬っぽいと思ってたが、嗅覚まで犬並みとか。
確かにルンナさんから、アルナさん謹製の護身用魔道具を手渡されたが。
まさかそういうのまで嗅ぎ分けるとは思いもよらない。
掴んでいた手を離して、あちこち嗅ぎ回る。
「きゅうぅん...」「ぴゃ...」
自由になった筈だが、俺の用事は害獣が立ちはだかるその先にある錬金協会。
どうにかしてお帰り願わなければならないのだが...その鬼気迫る様子にラヴィネとステラもドン引きだ。
「おまけに手なんか握って貰ったりしたでしょ!!これはもう完全に事故に見せかけて消すしかな.........え?」
ん?
急に動きを止め、ある一点をじっと見つめ。
その視線の先──
「──おとうちゃん」ぽつりと呟いた。
俺の掌を...
...あ
しまった!
犬並みという時点で気づくべきだった。
ワンダさんの娘という事は当然...知っている筈だ。
産まれてから死に別れるまでずっと嗅いでいた匂いなのだから。
「なんで貴方から...お父ちゃんの匂いがするの?」
肉親の匂いを嗅ぎ間違える事など無い。
「答えて!!」
(´ω`)此処まで読んで頂きありがとうございナス!




