第11話 再会しよう
焚き火の光と木の弾けるような音が何処か遠くのように、火の揺らめきと一緒に草木の影が踊る。
空には大量の雲が月と星を覆い隠している。
明日か明後日には雨が降るだろうか。
前世の野営訓練を思い出す。
睡眠時間五分で起こされ、さらに短くされていく。三日徹夜でこれをやられるのでたまったものではない。
そしてこれは訓練ではなく、実際に命が掛かった野営だ。
少し離れた木にはぶら下がった蛇と恐らく同種であろう蛇が。投げつけたブロードソードで頭をぬいつけられて、今は弱々しく蠢いてる。
この湖の生態系の頂点だろうか。
確かに消える能力を持つアナコンダとか強そうだ。一瞬だけ水を使った何かをしそうだったし。
だがこれ以上何かやる気はないし、脳天を刺し通してるのでそのうち死ぬだろう。
今動くとこの子達が起きてしまう。
血と肉は勿体ないがどうしようもない。
不意にラヴィネと目が合う。
薄目で俺を確認すると頭を膝に擦り付けて目を閉じ、再び身体から力を抜く。
...起こしちゃった。すまん。
自分の未熟さにため息が漏れた。
リンクスの子供は未だに眠ったまま。
周囲から気配と敵意は一切感じない。
二匹目の蛇を無力化した瞬間。湖から無数の敵意みたいなのが薄くなって消えたからだろうか。
蛇だが学習能力は一応あったようだ。
...二匹も殺して生態系に影響あるかな?って考えがちらりと浮かんだがそんなことはなかった。
うん
三分だけ寝よう。
そう思って目を閉じた。
少しして目を開いたら、あたりがとても明るくなっていて。
やべっ!と思ったがどうやら違うようだ。
周囲の地形は一切変わってない。
蛇の死体もそのままだ。
ただ
あんなにも綺麗な月が、三つも真円を描いて。
星と太陽までもが我が物顔で一緒に輝く。
...俺はこの場所を知っている。
「よう」
誰かが俺に声をかけた。
「また会ったな。もう少し先かと思ったが」
いつの間に目の前に立っていた首領オークが口許を歪めて笑った。
「......」
「何でって顔をするな。俺達は常にお前達と共にある。もっとも近くてもっとも遠い場所からだがな」
曖昧な言葉からは情報が足りず、まるで想像が付かない。
この世界は夢じゃない...というのだろうか?
首領オークは俺の胡座の上で眠る二匹を、優しい眼差しで見つめている。
「ふむ、新しい家族か...」
「あ、あぁ...」
さらに周囲から白狼を筆頭とした狼の群れまでやって来た。
遠くの木立では、オークが地面に座りながら話し合い、枯れ木を使った遊びをしている。
胡桃擬きを食べるオークに、栗を突いて遊ぶ狼。
洋梨擬きを分け合って一緒に食べるオークと狼。
湖の浅いところで保護者の狼と一緒に数匹の子供狼と一緒にじゃれあってるオークもいる。
...平和だ。
「!わんっ!!」
膝の中から目を覚ましたラヴィネが、慌てて一目散に駆け出して親狼にぶつかった。
親狼は優しく噛み止めて自分達の目の前で離す。
途端に数匹の大人狼が群がってもみくちゃに。
むう
...確かに群れにいる事が正しい筈なんだけど、ちょっと嫉妬してしまう。
「そんな顔をするな」
「...わかってるよ」
頭では分かっていても感情は付いてかないこの男心よ。
俺は自分で自分の頭をこつりと叩く。
不意に視線を感じてそちらを見れば。
蛇の死体の前で辺りを見回す、二匹の蛇。
...増えてる。
「新顔だな」
「お、おう...」
...墓作って無いんだけどな。
蛇は辺りを見回し、俺を見るやビクッとした後こそこそと這いずり木の影に二匹隠れた。
そして時折ちらちらと木から顔をはみ出して覗くように此方を伺う。
尾っぽと身体が完全にはみ出ていて、隠れる意味が無い。
震えながら絡み合う身体が、哀愁と憐憫を誘う。
...や、その...なんか、ごめん...。
「あっはっはっは!」
そこ爆笑すんなや!
「......?...ぴゃあ」
あ、起きた。
膝の上に垂直に伸びたあと、両手を前に出してもう一度のびーをするリンクスの子供。
思った以上にネコ科だな。
むにむにと足踏みする肉球の感触と暖かさが実に素晴らしい。
「...?...!?、!......!!ぴゃあああああ!」
?
どうしたのだろう?急に辺りに顔を向け、呼び鳴きより大きな声で鳴き声をあげる。
どうやら興奮しているようだ。
寝る前と起きたあとの耳と鼻から入って来る情報の違いに、びっくりしたのだろうか。
落ち着かせようとひょいと抱き上げ、顔を覗き込んで。
思考が停止した。
鳴き続ける黒いリンクスの子供。
「ぴゃああああ!!」
その空虚な筈の、真っ暗闇だった目の中に。
「ある...」
二つの紫紺の瞳に輝く、白金の瞳孔が。
星空の下で驚く俺の顔を二つ映し出して、捉えていた。
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