第9話 気をとりなおして
湖の水辺で餌を食べてた大ネズミにパチンコ程度の小石を指で弾くようにぶつけて一匹転がした。
急に倒れた仲間から逃げるよう、大ネズミ達は一目散に水の中に入って泳いでいく。
その集団を尻目に、意識を無くしたネズミの尻尾を掴んで持ち上げ野営場所に持ち帰る。
弓は矢がネズミ相手に勿体ないので使えない。
命の危機や逃したくない大物に出くわした時は積極的に使うだろう。
...多分
気絶した鼠の首を短剣で垂直に切り裂き。
心臓の働きで吹き出した血が収まるのを待って、そのまま胸骨ごと割って一直線に短剣を通す。
鍋に血を回収しながら煮る事も忘れない。
胴体を開いて内臓を取り出し、細かな身体を大体の所で素手でちぎるように骨を捻った。
ペキペキ、パリパリと骨が間接あたりで擦れて折れ。それに従うように筋繊維が裂けて剥がれるように剥離する。
分解し大まかに分けられたネズミ肉へ火を通して消毒した木の枝を突き刺し。
そのまま焚き木の炎の前の地面に挿して燻る。
しばらく経つと、肉に残った血と脂が焼けて弾ける音が、肉の焼ける匂いとともに辺りに響き。
「......!」「わふっ」
俺の膝の上に座って陣取る、白黒二匹の子供達の鼻と耳がほぼ同時にぴくりと動いた。
食べ時を見極める優秀な耳と鼻だ。
煮立った血を下げ。ラヴィネに用意してもらった氷を一個放り込んだ。
元々そんなに無かったネズミの血があっという間に冷えていく。
今日の夕食は大ネズミ。
わざわざ鹿ジャーキー作って大量に持ってくる程じゃなかったな。
よく考えりゃ一日二日の距離だし。
...随分魔石も減ったし、これ幾らで売れるかな?
「ぴゃあ...」「わん!」
おっとすみませんお嬢様方。
ただ今用意致します。
あれから、俺の身体をサンドバッグにしたなでなで争奪の大喧嘩はひとまず収まった。
何故かはわからない。
今でもちょっと不穏だが、嫉妬のままに相手を無闇矢鱈に攻撃しないラヴィネは、やっぱりお姉ちゃんだった。
しかし、たった一匹愛情を注がれていたと思ったら。いきなり他所から来た子が、その愛情を奪ったようなものだ。
ようするに俺の配慮が足りてない。
外見はともかく、三十も越えた大人が一年も生きてない子供に無理と我慢を強いた。
...馬鹿は俺だ。
ラヴィネはあとでしっかり褒めてあげたい。
ちなみにリンクスの子供は雌だった。
鞄からラヴィネ専用の餌皿と俺が使ってた皿を取り出し、大ネズミの肉の一番食いでのある腿肉を皿に乗せて血をかけた。
冷めた血が熱せられた肉と合わさって、二匹が食べるに適温となる。
最近は兎の骨ごといくようになったラヴィネは骨を付けたままのを差し出す。
一方で黒い子は一応歯が生えてるのは確認しているが骨ごとは無理だろうと思い、骨を抜いてあるものを差し出した。
幻獣が、リンクスがどんな食生活をしているか分からないが。おおよそ肉食であろうと考えてる。
ザラザラした舌は骨から肉を舐めとる為のものだ。なにより歯は骨を砕くにはまだ発達不足だろう。
ラヴィネは俺の膝から降りて、石の上に乗せた皿に顔を入れて食べ始めた。
一方でリンクスの子供は鼻を使っても目的地に辿り付けず。俺の胡座の中で悲しげにぴゃあと鳴いた。
...目が見えないものな。
その鼻先に骨を掴んで肉を持っていくと、鼻をひくつかせて匂いを嗅ぎ。
...齧り付いた。
咀嚼して飲み込む姿に、思わずため息が漏れた。
大きさと形から離乳食は抜けていたと決め打っていたが、これでなんとか安心できる。
しかし、その前途は余りにも険しいものだ。
目を見開いた彼女の瞳に位置する場所。
そこには一切何も無く。
夕暮れの薄闇の中でもわかるほどに、ただただ真っ暗だった。
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