第7話 あなたの子供よ
それは一匹の黒い猫。
...のようなものだった。
脚の太さが今現在のラヴィネよりもさらにもうひと回り大きく。そして分厚い。
猫そのものというよりは、八割猫に残りの二割が豹やピューマの要素を混ぜ合わせた身体と顔立ちをしている。
真っ暗闇と表現しても良い体毛所々金のような丸い紋様が掠れて消え掛かった星のように広がっていた。
最も大きな特徴と言えば、大きく長い尻尾が先端に向かうにつれて刺々しくて、まるで金属のような硬い質感を備えている。
地球の猫科と違い、恐らく尻尾も武器なのだろう。
ゆらゆらと蛇のように怪しく動く。
瞳は閉じたまま...それとも寝ているのだろうか。
その黒猫(?)はまるで、首を掴まれ宙吊りになったような姿で現れた。
後ろ脚の肉球が、とても愛らしい。
...宙吊り?
一体なぜ?
足元に居るラヴィネの震えが、一層強くなる。
ただ、その黒猫が、宙吊りのまま。
草を掻き分ける音だけが聞こえ。
気配もたった一匹の筈が。
急に、もう一匹。
増えた。
「っ?!」
始めからそこに居たのだ。
その黒猫を咥えている存在は。
乳白色の毛に、金の独特なまだら模様。
黒い猫が大人になればその姿にまるという関連付けが、まるで嘘のようで。
大きさはラヴィネの親をさらにもうひと回り大きく上回っている。
鉄の鞭を数十本束ねたような、強靭な尾を優雅に揺らし。
その発達した前脚を踏み出して、一歩。また一歩と近づいてくる。
爺ちゃんの話に良く聞き。今も記憶に残っている特徴。
出会う間も無く、死んでいく仲間の狩人。
次々行方不明になる者達。
爺ちゃんだけが、無事に逃げおおせた。
見逃されたと言っていいだろうとは本人の談。
襲いかかる瞬間すら全く知覚出来ない。
自然の脅威。
食物連鎖の頂点に位置する、竜種に並ぶ存在。
幻獣。
「......リンクス」
深い碧色の目に白金色の瞳に、明らかな知性を宿し。
草むらを掻き分ける音と濃密な気配がやけに大きくなって。
...ある一定の距離で立ち止まった。
俺とリンクスで見つめ合う。
不思議なことだが、敵意や殺気は一切感じなかった。
野生の子連れなのに?
見れば背後に、リンクスをスケールダウンさせたような猫が一匹...。
ぐるる...。
視線を後ろの子供に向けた瞬間。
濃密な殺意を叩きつけられた。
慌てて視線を戻す。
ラヴィネに至っては震えながらおしっこを漏らしている。
しかし、勝てない相手では無い。
なんとなく、そう感じていた。
だが無傷では済まされず、相打ちもあり得るとも感じていた。
だがそれはたった一人の場合に限りだ。
ラヴィネを狙われた瞬間、確実な死が子狼に待っている。
迂闊な事は出来ない。
ふいに俺と見つめ合ってた視線を、ラヴィネに移し。
震えながら俺に縋り付く様子をじっと見て。
俺に戻した。
?
なんだ...?
その次に取った行動は、余りにも衝撃的だった。
大事そうに咥えていたその黒い子供をそっと地面に降ろすと。
何の前触れもなく姿を消した。
後ろの子供共々。
何の気配も感じさせずに。
何処へ行ったかも分からず。
「...帰った?」
「きゅうぅぅ」
今のは幻だったのだろうか。
辺りは今も静かなまま。
ラヴィネは震えは収まったが一向に俺から離れず一点だけを見ている。
「ぴゃぁ...ぴゃぁぁ...」
黒い子供リンクスの呼び鳴きと思われる鳴き声だけはやけに耳についた。
そうか、この子が居るって事は現実なんだよな。
そっかー...やっぱ幻獣って居るんだよなあ。
...うん?
「ぴゃああぁぁ...」
...
なんてこった。
ただでさえ今でも大変だってのに。
あの幻獣。
やってくれた喃!リンクスううううう!!!
この日。
村に行く直前で、俺達一人と一匹の家族は。
一人と二匹の家族になった。
(´ω`)認知して!




