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オランドとアリア2

それはアリアが妊娠して、お腹が大きくなり始めてきた時のこと。


妊娠する前は、毎日やるべきことがあった。兵士としての活動があった。けれど、妊娠したことがわかったアリアはオランドに必死に説得され、兵士を辞めることになった。アリアはそのことに不満を持っていた。


それでは隣で戦えない。

それでは隣で支え合えない。

それでは隣で助け合えないと。


子供を産む時だけ一時的に家にいるだけがいいとオランドに言った。子供は使用人を雇うなどして任せて、兵士に戻りたいとそう言った。だがオランドは譲らなかった。そして喧嘩した。


アリアにはオランドが自分の死体を泣きながら抱いて悲しむ姿を想像したくなかった。幼い頃、そうなったオランドを実際に見てしまっているから、今でもそれは頭の中にいつまでも残ってしまっているから。


そして、オランドを失いたくないと言った。自分の知らない戦場でオランドが一人死ぬことになるのは嫌だと、死ぬ時も共に戦いそして共に死にたいと、私を置いていく事は許さないと。


だから隣で戦わせろと、いつまでも隣に居させろと、頑なに引かなかった。将軍になったオランドだろうと関係ない。それが許されないなら子供などいらないとまで言った。それほどまでに強い意思がアリアにはあったのだ。


オランドも引かなかった。オランドには一度捨てた夢、けれどアリアがもう一度拾わせてくれた夢を叶えたかった。将軍となり、かつての自分を取り戻したオランドは、アリアの作る飯を食ってみたいと言ったり、家に戻ってきた自分を労ってほしいと言った。オランドはその時間を欲していた。オランドはそこに自分が守り抜いた大事なもんがあると実感したいと。帰れる家が欲しいと。そう言った。


本来であれば話し合いで解決出来たことだろう。けれどそんな話をしている余裕が将軍のオランドには無かった。だから突然そんな話になった時に喧嘩してしまったのだ。喧嘩はしたが、お互いの強い意思を確認し合い、結果的に絆を深めることになった。アリアはオランドの夢を聞いたことも無かったのだから。


「私は……オランドさんが幼馴染を泣いて抱きしめていたあの時のようなことを、また味わいたくありません。見ているだけなのも、愛する人を守れなかったと泣いてしまうのも。だから私は兵士になりました。戦えるようになりました。隣に居続けました。それはこれからも続けていきたいです……オランドさんの隣で」


「……アリアの気持ちは……よくわかる。けどよ俺にも夢はある」


「……そう言えば、聞いたことありませんでしたね。その夢のことを」


「……今なら話せる。向き合えるようになったからな」


「聞かせてください」


「……あぁ。俺は……捨て子だった」


オランドは語りだす。オランドは孤児院の前に捨てられていた。その孤児院ではあまりいい思い出が無かったという。時々孤児院から抜け出して、近くの茂みで1人でいた。


「そん時に初めてあいつと出会ったんだよ」


「幼馴染ですか」


「あぁ、俺は孤児院にいる大人の連中によく反発しててな。毎日イライラしながら過ごしていたんだ。そんな俺に怖がらずに遠慮なく近づいてきたのがあいつだった」


どこにでもいる娘。美しいアリアと比べるなんて馬鹿馬鹿しいほどに。最初は話しかけられても無視したり、怒鳴ったりした。オランドの幼馴染はそれでも近づいて話しかけてきた。そんな幼馴染にオランドが折れて話すようになる。


「孤児院での生活を話したらな、気分転換にでも家に来て飯でも食ってけとあいつは言った。たまにはいいかと思って俺も話しに乗った。あいつはただの平民、どこにでもある普通の家で暮らしていたんだ。そこで俺は家族の温かさを知ったのさ」


幼馴染が家に帰ると、家族は温かく出迎えたという。その温かさに驚いた。その優しさに嫉妬した。決して豪勢じゃない幼馴染の母親が作った手料理、その中にある家族を想う愛情を羨ましいと思った。


「けどその家じゃ俺はよそ者だ。その家族の輪の中に俺はいない。だから俺は思うようになったんだ。家族ってやつが欲しいってな」


それからどんどん仲良くなっていった幼馴染と何度も何度も話した。家族の在り方を。


「じゃあ、あたしがオランドのためにご飯作ってあげるよ!」


「俺は捨て子で何もねぇ。だから俺は兵士になる道しかないだろうから、俺が強くなってお前を、お前のいる家を、家族を守る」


そんな約束をしてから、オランドが幼馴染の家に行くと、幼馴染がオランドのために母親の助けを借りながら不慣れな料理をした。味は良くなかった。不味かった。でも美味しかった。幼馴染の気持ちが籠っていた。


オランドが15になり孤児院を出ていく事になった。


「じゃあ行ってくる。必ず強くなって迎いに行ってやる。浮気すんなよ?」


「はん! あんたじゃあるまいし、そんなことしないよ! でも……あんまりにも遅かったら……するかもね?」


「ふん! そうなる前に、俺はすぐに誰よりも強くなって迎えに行ってやらぁ」


「気長に待っててやるさ! また会う時に美味い飯食わせてやるからね!」


「あんな不味いもんが美味くなるかな?」


「なにおう! 絶対美味いって言わせてやるー!」


「はっは! 楽しみにするさ。そろそろ行く」


「そうかい。いってらっしゃい! 元気でやれよ!」


「おう! お前もな! 行ってくる!」


そう言ってオランドは街から出ていった。そして兵士に志願し、兵舎の中で誰よりも強くなろうとした。その兵士たちの中に将軍という圧倒的強者がいた。すぐに尊敬し、目標となった。その将軍に頼み込み、時間を作ってもらって剣を学んだ。何度叩きのめされてもオランドは将軍に向かって行った。幼馴染を守れるくらい強くなるために。少しでも早く向かいに行って、幼馴染の作る美味い飯を食うために。家族を手にしたいがために。


「そこで戦争が起こったって訳だ。後のことは覚えてるだろ?」


「えぇ」


「あいつは最後に約束守れなくてごめんって言った。守れなかったのは俺だってのによ」


「ヘタレるのも無理はありませんね」


「うるせぇ。ま、俺にとってあいつはとっくの昔に家族だったってことだ。一度失った……いや、捨てた夢を、お前は拾わせてくれた。その夢を俺は叶えたい。けど無理にとは言わねぇ……さっきは悪かった」


「いえ、私にも問題がありました。子供なんていらないと言ってすいませんでした」


「謝るな。それだけお前の気持ちが強いって俺にはよく伝わったよ」


冷静になり、落ち着きを取り戻した2人の出した結論は


子供は育てる。

兵士を辞め、アリアは家に住む

けど、戦争になった場合一緒に行く


そういう話になった。不満はある。不満はあるが、オランドの夢を叶えてやりたいとも思う。


「ふふっ、いいですね。アリアさん、その喧嘩はお互いのことを愛しているから言えることですよ。支えたい、守りたい、子供を育ててほしい、家で出迎えてほしい。その喧嘩はいずれいい思い出話になるんでしょうね。そう言い合える相手がいるのは羨ましいです」


「そうですね。私もそう思います。でもレフィリア様にだってその相手はいるでしょう?」


アリアは今、自分の住む家で、レフィリアと話していた。エレノアももちろんいるが、今のエレノアは親衛隊としてレフィリアの護衛をしている。邪魔にならないよう席を外している。


アリアが、オランドが夢見る手料理を作れるようになってやろうと食材を買いに行っていると、視察に出ていたレフィリア達と偶然出会ったのだ。レフィリア達はアリアの大きくなったお腹を見て興味を示した。


兵士を辞めてから手持ち無沙汰になったアリアには時間があり余っていた。立ち話もあれだからと、家に来るかと聞けばレフィリアはすぐに行きたいと答えた。


レフィリアはティアとエレノアと夜遅くまで思い出話をしたことで、自分の知らない世界をもっと知りたいと、他の知り合いの話を聞いてみたくなったのだ。常にオランドと一緒にいたアリアはレフィリアと口数こそ少なかったが、何度も話したことがある。


「……それは……わかりません」


「わからないですか。私からしてみれば、なぜまだそんな微妙な関係なのかと不思議に思います」


「そうなんですか?」


「えぇ。ヴィータは兵士の頃からレフィリア様を守りたいと言っていたのですから」


「そ、その! その話、く、詳しくお願いします!」


「いいですよ」


アリアは自分が知りうる限りのヴィータのことを話をした。


兵士に志願してきた時のこと。

いつまで経っても鍛錬についていけなかったこと。

時折、城の方を見て手を振っているのを見つかり怒られていたこと。

自分の限界を知って絶望していたこと。

いつからかレフィリアを守りたいと言うようになったこと。

戦場でオランドやルーシュを庇ったこと。

英雄と呼ばれるようになったきっかけの帝国将軍との一騎打ちのこと。


「オランドさんが勝てなかったあの帝国将軍に一歩も引かず、ヴィータは戦い続けていました。女の私ですら心が震えるほどの戦いに勝利した後、こう叫びました。今でも一言一句覚えていますよ」


【我々は王国を守る者達である!!! 我々はレフィーを!!! 王を!!! 国を!!! 民を!!! 家族を!!! 恋人を!!! 友を守るために存在する!!! レフィーを、大切な人達を脅かすのなら、我々の力を!!! その確固たる決意を!!! その揺るがぬ信念を!!! その決死の覚悟を!!! 我々がお前達に死をもって思い知らせてやる!!!!!】


「誰よりも何よりも先にレフィーと言いました。戦場にいるすべての兵士たちの前で」


「ヴィータさんが……はわわ」


「それだけヴィータの心の中にはレフィリア様が占めているのです。でもヴィータは要領が悪いですから、もしかしたら自分の気持ちに気付いていないのかもしれません。まぁ、ヴィータが積極的な性格ではないからと言うのもあるでしょう」


「な、なるほど……確かにそうかもしれません。アリアさんはどうすればいいと思いますか?」


「私から言えることは、時には自分から行くのも大事ということくらいでしょうか。待っているだけでは進みませんから。待ち続けていれば10年も20年も経ってしまいます」


「言葉に重みを感じます。実体験でしょうか?」


「えぇ、そうです。ほんの少し近づくだけでも違うと思いますよ」


「……や、やってみます!」


このアリアとレフィリアの会話以降、レフィリアにほんの少しだけ変化が訪れた。ヴィータに対してもう一歩、自分から近づいてみようと努力を始めるのだ。その成果はすぐに出るだろう。

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