魔術師の里特別見学会へようこそ!27
崩落しながら地下に降りたのと、色々あったおかげであちこち汚れていた私とフィカルは、部屋に戻ってとりあえずシャワーを浴びた。
鞍を外してもらったスーは屋根の上で丁寧に炎で身繕いをし、アルはゴロンゴロンと泥浴びをして魔術師たちをまた喜ばせていた。
一階へと戻って様子を訊くと、子供たちはお互いに離れたがらないので大きなお風呂でまとめて体を洗い、怪我を治療しているそうだ。怯えている様子ではあるけれど、大人しくしているとのこと。
その間にメルソスさんたちは厨房に立って子供たちのための食事を用意していると教えられたので、ジャマキノコを山ほど預けておいた。広間ではキルリスさんが座って私たちを待っている。
「貴様のジャマキノコは無駄なく使わせてもらおう。子供たちは栄養並びに魔力の失調が著しいからな。流石に魔力回復剤をそのまま摂取させるわけにもいかん」
「魔術師の人たちも、流石に子供に対しては食への気遣いができるんですね……」
「あれを飲ませてほしいのか?」
泥やらジャマキノコやらが入っている栄養剤は魔力が多いが故に子供が摂取するのには向いてないそうだ。料理程度の加工で食べるのが一番負担がかからないらしい。
「倒れていた二人についても、魔力が回復すれば動けるようになる。あとは栄養を取れば回復するだろう」
「よかった」
深刻な病気なども見つかっていないらしく、日々の食事だけで体調は回復するということだった。
心底ホッとする。お茶を一口飲んでから、私はキルリスさんをまっすぐ見た。
「キルリスさん、なんであの人たちは子供たちにあんなひどいことをしてたんですか」
ここが異世界の中でも、特殊な環境にある場所だとは分かっている。
魔術の流出を防ぐという面からも、秘匿性が高いところだということも。
けれど、あれは紛れもない犯罪だ。内々に済ませていいことじゃない。あの子たちのためにも。
「そんな顔をしなくても説明してやる。魔術師の里には、古くから『出来損ない』から魔力だけを抽出するという悪しき因習があってな。パルリーカスでは10年前の捜査で一掃したつもりだったが、未だしがみついていた奴がいたようだ」
「……出来損ないって、何ですか」
「簡単に言えば魔力量の少ない人間のことだ。少なければ使える魔術も限られる。能力の低い魔術師を多く輩出すれば家格が下がるのだから、それを防いだ上に有効活用するというのが虫けらの言い分だ」
私の心の中でスーが大暴れしている。大きな顎を開けて炎を撒き散らし、尻尾と脚で全てを破壊し尽くしたい。それくらいにムカついてしまった。
「なにそれ! 魔力が多い人間がそんなに偉いんですか! 私からするとそんなどーでもいい理由で子供にひどいことする人間の方がクズですけど!! てかどんな理由があっても子供にひどいことしちゃダメでしょ!! いや大人にもしちゃダメだけど!!!」
「同感だが落ち着け。窓の外の竜も興奮している」
窓からじっと覗き込んでいたスーが、グルルルと唸っているのがガラス越しに聞こえてきていた。がり、がり、と窓枠を爪で引っ掻いている。
私は少し落ち着いた。お屋敷に爪で傷を作ったらまた弁償沙汰になってしまう。
「今回発見されたのは、いわゆるパルリーカス直系の家でな。以前の捜査ではそれを理由に強制捜査を拒んでいた。代わりに交わした誓約をこうも堂々と破ってくれたお陰で、今度は里の隅々まで捜査することができる」
力を持つ家は、10年前にはその力で家を荒らされることを防いだらしい。そのときに全部捜査していればあの子たちは酷い目に遭わなかったのに、という気持ちも湧き起こったけれど、今更言っても何にもならないと無理矢理気持ちを落ち着かせた。キルリスさんだって手を抜く人じゃない。きっと当時はそれで精一杯頑張ったのだろう。
でもやっぱり、権力ってあんまり好きじゃない。それを振りかざす人はめちゃくちゃ嫌い。
「明日は全ての家のドアと床板を打ち破って捜査することになる。手荒いことが続くだろう。招いておいて何だがもはやもてなすことはできない。私がトルテアまで送る」
「ダメです。明日全部の捜査が終わるまではいます」
「邪魔だと言ってもか?」
「早く帰れと言われても居座ります。アルを使ってください。あの子たちもアルがいたから見つけられたんだし、役に立つと思います」
頬杖をついたキルリスさんが、目を眇めて私を見る。
部外者の私たちがいるとやりにくいこともあるのだろう。けれど、ここでこのまま帰ったら、なんだか私だって悪いことをしている側に立つような気がする。
あの子たち以外に似たような目に遭っている子供が全部見つかるまで、またはいないとはっきりわかるまでここを出ることはしたくない。
「……わかった。協力を頼もう。その代わり、魔術攻撃をされる危険があることも覚えておけ。今掛けている守護の術はそのまま発動するが、もし子供に危機があれば私はそちらを優先するからな」
「ぜひそうしてください」
キルリスさんは深い溜息とともに席を立った。
「貴様の竜と勇者が暴れないよう、せいぜい力を尽くして準備をしておこう」
ふっとその姿が消えるのを見てから、フーと私も息を吐く。
隣に座っていたフィカルがそっと手を握ってきた。
「フィカル……もーイライラするー!!」
温かい手に触れるといつもなら緊張も解けるのに、沸点を超えて煮え立ちまくっているはらわたには焼け石に水だった。
あの子供たちの惨状を思い出すたびにムカムカするし、魔術師たちをもっと懲らしめておけば良かったと思うし、明日似たようなことがあったらと思うとさらにムカムカする。窓から覗いているスーも、いつのまにか増えていたアルもグギャピギャと鳴いていた。
「なんかこう、走りに行きたい……もしくはパンを捏ねたい……」
ムギーと悶えていると、ナキナさんがそっと近付いてきて告げる。
「パン種……ありますよ」
私の怒りは、子供たちに食べさせるパンへと昇華することになった。




