魔術師の里特別見学会へようこそ!26
こらしめた魔術師たちやナキナさんのものを見た後だと、キルリスさんの魔術は他の人よりも力強いように見える。バチバチと散りはじめた火花も眩しく、室内に吹いた風で私の髪が揺れた。
「全く、貴様の脳はどうも取りこぼしが上手いようだな。念のためにもう一度言っておいてやろう」
キルリスさんは魔術師たちに背を向け、ナキナさんへと溜息混じりに告げた。
「貴様が復讐を果たす相手はここにはいない。この魔術師もどきに手を下す権利を有するのは、虐げられた本人だけだ。貴様が私怨で手を出すことは許さん」
わかったな、と念を押したキルリスさんが、ナキナさんが僅かに頭を上下させたのを見る。すると火花も風も何もなかったように消えた。弱々しいランプの光だけになる。
「それに見てみろ、貴様が手を出す隙は少しもないだろうが」
キルリスさんがくいっと示したのは、その背後に倒れている魔術師。の、近くでピギャピギャ言っているアル。鼻先で魔術師たちの足を地面へ押し付けている。
「チリュウは敵を埋めて殺す習性があるのだったな。足から埋めてじわじわ責めるとは中々見所がある」
「ピギャッ!」
「アルなにやってんのー!! ピギャじゃないでしょー!!」
足元をもじもじ踏みつつアルが鼻先で魔術師たちの足を押し付けると、その足はズブズブと泥状になった地面へと沈んでいっている。
チリュウは手こずる獲物の場合、泥に沈めて動きを奪うことがあるのだけれど、人間相手だとめちゃくちゃ怖い。国家レベルの拷問で使えそう。
「生き埋めしちゃダメ!」
「ピギュギャオウ、ピャギャウッ」
「安心しろ、地中に入った部分は周囲の泥が石化している。ただの生き埋めではないぞ」
「ピーギュッ!」
「いやそれもっとダメだからー!!」
キルリスさんが杖の先で魔術師の沈んだ足元を突くと、コンコンと硬い音が聞こえてきた。足枷ってレベルじゃない。
アルを怒ると、しょぼしょぼした顔をしてノソノソと私の方へ近付き、ピギューと鳴いてからトンネルを通っていった。
「いや石化解いて行ってあげて。アル? 聞こえてるでしょアルー!」
「そう気にするな。足に重石がついている程度、問題はないだろう。必要があるなら本人が割るだろうしな」
「どう考えても問題だと思います」
「こいつらは魔術を封じることになるが、なに、手は空いている」
あとで石を砕くためのノミを支給してあげるそうだ。キルリスさん、それは優しさではなく鬼です。
とんでもないことをしていた人たちだとはわかっているけれど、さすがに若干の同情を禁じ得なかった。トイレとか頑張ってほしい。
「呑気に寝ている者たちを眺めていることもあるまい。まずは移動する」
寝てるというか、寝させられているというか。
とにかく私たちは再びトンネルを通ることになった。
「……ナキナさん、行きましょう」
俯いて立っているナキナさんの手をそっと握る。力を入れて握られているそれは、冷たく冷えていた。両手で温めるように握っていると、少しずつ力が抜けていく。手が開いたので繋いで少し引くと、ナキナさんは歩き出してくれた。
トンネルの中は相変わらず暗い。けれど先を歩くスーがメラメラと口の間から炎を出してくれているので、それを灯りがわりに進むことができた。
「ナキナさん、ほら、ジャマキノコが並んでますよー。あとで焼いて食べましょう。ここに並んでるのはなんか視線が怖いんで別のやつで」
「……」
「子供たちもお腹空いてるみたいだし、お粥も作りましょう。干し肉も入れたらいい出汁が出るし」
「……」
「お腹いっぱいになると体もあったまりますよねー」
返事がないまま色々話しかけて、トンネルを抜ける。明るい場所へ出ると、先に出ていたアルがニュッと近付いてきた。
フガフガとナキナさんを嗅いで、それからベロンと顔を舐める。
「あっ! ……ナキナさんすみません、ハンカチ使ってください」
ベロロンと二度舐められたナキナさんの顔は、アルの唾液でべっちょりしてしまった。ひーと内心叫びつつ、ポケットから出したハンカチをそっと頬に当てる。
「すみません、アルは別に嫌がらせしたわけじゃなくて、たぶん元気付けようとしたんだと思います」
ナキナさんが手を繋いでいない方の手で黙ってハンカチを受け取り、顔を拭く。
それから私を見てふっと笑った。
「竜の唾液って、やっぱり魔力が強いですねぇ。肌から染み込んできそう」
「ナキナさん、早く拭いてください」
竜の唾液、ウグイスのフンくらい戸惑う美容法である。
ゲテモノすぎてむしろ美容マニアにウケそうな感じもしなくもないなと思っていると、繋いでいた手がギュッと握られた。
「スミレさん、ありがとうございます」
「私は別に何もやってないですけど……」
「はい」
頷いたナキナさんが、今度はにこっと笑った。
「もう大丈夫です。フィカルさんが不服そうなので、手を離しますね!」
「え?」
振り向くと、フィカルが無言で存在を主張していた。
ナキナさんと繋いでいた私の手を素早く自分のものと接続している。
「相変わらず熱愛夫婦ですね〜! 爆発してください!」
「なんかすみません……」
ものすごく気恥ずかしいけれど、フィカルの握力が強すぎて手を離せない。
結局私とフィカルは手を繋いだまま、キルリスさんにフンと鼻で笑われながらみんなとまとめてお屋敷まで転移させられてしまった。




