魔術師の里特別見学会へようこそ!25
これ縛る必要あるかな……という気持ちもありつつ、一応魔術師たちの手足を縛る。途中で縄が足りなくなったら、フィカルが容赦なくローブを裂いていた。スーは周囲でなにをやっているのかと思ったら、魔術師の杖を折っている。それ折っちゃって大丈夫なの、と心配しているうちに、スーは丁寧に折れた杖を焼却処分してしまった。
「……えーと、じゃあ、アルたちのとこ行こうか」
「ギャオッ」
こっくり頷いたフィカルと、しっかり返事したスーと一緒にトンネルの方へと戻る。フィカルが先導するように私と手を繋ぎながら歩き、すぐ後ろをスーが付いてきた。大暴れしたスーはまだ落ち着いていないのか、グルルルル……と喉を鳴らしながら私の肩近くでギョロギョロと大きな目を動かしている。首元を撫でると、その獰猛さを飲み込むように喉が動いたのがわかった。
「ピーギャッ」
トンネルを抜けると、そこはメルヘンでした。
少し斜めになった大きな瓦礫片に、子供たちが座ったり寝転んだりしている。それを囲むようにアルが尻尾と体で子供達を守り、そっと片翼を伸ばして日が当たり過ぎないようにしていた。
なにこれかわいい。子供たちはカラフルなものをガツガツと食べていてますますメルヘンである。
「あっジャマキノコ生で食べちゃってる?! ……あ、ごめんね、怒ったんじゃないからね」
トンネルの中に生えていたジャマキノコを拾ったのだろうか、ムラサキとオレンジのカラフルな笠や裂かれた内側の真っ赤な部分など、子供たちが詰め込むように口に入れている。
しまった、おやつも渡しておけばよかった。しかも私が声を出すとビクッと固まってブルブル震え出すではないか。
「ごめんね、生で食べても美味しくないでしょ? とりあえず焼くね。塩もあるから。干し肉もあるけど、消化に悪いかな」
フィカルが私の足元に得意げに生えていたジャマキノコを収穫し、スーに焼かせる。黒くなったジャマキノコの皮を剥ぎ手早く塩を振った。私がお皿をさし出すと、一口大に切ったそれを載せてくれる。
子供たちの方へ持っていくと、ひったくるようにお皿を取られる。お箸も出そうと思っている間に、小さな手が沢山お皿の上に伸びた。
「熱いから、気をつけてね。いっぱいあるからね」
しかし、栄養豊富なキノコとはいえ、食物繊維も多いので消化には良くはないだろう。とりあえず運び出してお粥か何かを作るべきか、と考えていると、アルがのっそりと起き上がった。
小さい子の「あー」という呼びかけにスリスリで返事をして、私にもグルグルと擦り寄る。それからアルはピギャピギャと小さく鳴きながらトンネルへ入っていってしまった。
「アルー? ジャマキノコ採ってくるのかな? ……魔術師たちを始末しにいったんじゃないよね?」
ちょっと嫌な想像をしてしまいフィカルを見ると首を傾げられた。スーは撫でてほしそうに鼻先で手に触れてきた。
スーさんフィカルさんは危機感を抱いていないようである。
でもこのふたり、もしアルがトドメを刺しても気にしなさそうだからなあ。一応様子を見にいこう。
「スミレさーん!! 無事ですかぁー!!!」
「あ、ナキナさんの声が」
広々と開いている天井を見上げると、声が近付いてくるとともにひょこっとナキナさんが顔を見せた。豪快に崩落した周囲に顔を引き攣らせつつ、ピンクの髪の毛を揺らして降りてくる。ナキナさんが足を踏み出すたびに、ぽん、ぽん、と光る魔術陣が階段のように現れた。なんかゲームで見る光景みたいですごく羨ましい。
「遅れてすみません! 怪我は……」
「あ、この子たちが……ナキナさん?」
見回していたナキナさんの目が子供たちを捉えた瞬間、ナキナさんの表情がすとんと消えた。子供たちが怯えるくらいに。
ピンクがかった銀色の長い髪が風もないのにゆらりと動く。表情のないナキナさんが、ほんの少しだけ口を動かした。
「……殺してやる」
私は思わずナキナさんにしがみつく。
「ナキナさんー?!」
目が、キレたときのフィカルと同じになっている。野宿中に竜に襲われ、三頭を10分でぶちのめしたときの顔をしている。
そんな目がゆらっと動いてトンネルを見つけると、ナキナさんは私をしがみつかせたまま歩き始めた。
「ナキナさんちょっと待って、説明聞いてー! 落ち着いて!」
背は高いけれど細身なのに、私がしがみついて足を踏ん張っても歩く速度が遅くなっていない。トンネルの中に入ると、下が砂なのでますます踏ん張れなくなった。
「スミレ、転ぶと危ない」
「いやフィカル心配するとこそこじゃないからね? ナキナさんー!」
私を背中に付けたまま、ナキナさんはずんずん進む。たまに「殺す」とか「殺してやる」と物騒な言葉が聞こえてくる以外には、私の呼び掛けにも無反応だ。フィカルは私たちの後ろに付いてきて、私が転ばないように見守っている。いやそんな見守りはいらない。その後ろに付いてきているスーも喉を鳴らさない。
子供たちの様子を見て事態を把握したということは、この里で以前もこんなことがあったんだろうか。
やがて私の抵抗も虚しく、ナキナさんとしがみついている私、後ろをついてきたフィカルとスーは再び部屋の中へと戻ってきてしまった。魔術師たちは全く動いた様子もない。アルだけが振り向いて嬉しそうにピギュピギャと鳴いた。
「殺してやる」
「ナキナさん!!」
ナキナさんが両手で杖を構える。髪がふわりと再びなびき、バチバチと音がした。
その杖を魔術師の方へと向けた瞬間、目を瞑っても眩しいほどの閃光が部屋を包み込んだ。大きな雷が落ちたような轟音に思わず声を上げるけれど、自分の声すら聞こえにくい。よろめいた私をフィカルが背後から支え、そのまま抱え込んだのがわかった。
大きな音が消えると、沈黙に耳が圧迫されたような感覚に陥る。
そこに突然聞こえてきた声は、いつもの不機嫌さを5割増にしたようなものだった。
「……全く……どいつもこいつも、人の手を煩わせるのだけは一流だな」




