あらくれスーの森林伐採6
呼ぶとこちらを向く。仕事のためにフィカルが命令すればきちんと動く。毎日呼びかけると少しずつ近付いて来てくれているけれど、スーはやさぐれたままだった。返事のように鳴き声を上げたりしないし、嬉しそうに跳ねて近寄っても来ない。撫でろと頭を近付けてくることもなく、家の庭で眠らないし、黄緑色の大きな目に縦に走る瞳孔はいつも細くなっていて、何より仔竜がいると一目散に飛んでいってしまうままだった。
「スー、森に行くよー」
まだ暗い外で声を掛けると、家に近い森からのそっと紅いスーが顔を出し、のそのそと歩いて近付いてきた。暖かいマントを着た私とフィカルに少し遅れるような位置ではあるけれど、大人しく付いて来ている。あれだけいつもグルグルギャウギャウうるさかったスーが鳴かないとは、まるで借りてきた竜のようである。
少しずつ冷えてきた気温で森の落葉が始まると、全体的に植物の色が薄くなってパステルカラーのような色彩に変わっていった。西の方は針葉樹が多くあまり変化は見られなかったけれど、それでもどことなく色合い薄くなった気もする。
徐々に明るくなってきた空の下でスー、私、フィカルは並んで静かにその時を待った。
「あっ」
森の見通しが良くなっている部分、新しく埋めた土が僅かに盛り上がったと思うと、辛子色の芽が出た。芽はその勢いでぐんぐん伸び、高くなって、太くなり、表面に歪な鱗のような模様が走る。あちこちでぐんぐんと空を目指す先鋒は途中で細い枝を出し、その先端から花火のように臙脂色の細長い葉を沢山広げた。私達の視線も、その勢いと一緒にどんどん上がっていく。
かすかな音を立てながら見る見るうちに成長していったミッカマツは、やがて5メートルほど伸びたところでその勢いを和らげる。最後に天辺にも雲のように葉を茂らせて、立派な松があちこちに生え揃った。
「おぉ〜。ホントにすぐに伸びたね。すごい勢いだった」
思わず拍手を送ってしまう。あっという間に大きなものが出来ていく光景はとても楽しく、確かにこれは待って見るほどの価値があった。近くに寄って見ると、青々とした松脂の匂いがかすかに広がっている。初日に植えた場所はしっかりとミッカマツにカバーされていた。まだ見通しが良い場所は、その後に植えたものなので、明日以降もこの急成長を見せてくれるだろう。
「ほら、スー。この前植えた実の木だよ。これ。植えたでしょ?」
まだ余っている種を見せてミッカマツを指すと、スーは種を見て、それからミッカマツを見上げる。
「今日からはこの黄色っぽい木を倒してね。わかる? これだったらどんどんやっつけちゃっていいよ」
ゴツゴツした幹を押す真似をしてみせると、スーは大きな目を瞬かせてそれを見ていた。あいにく幹を倒す力はないので、手が届く場所に出ていた小枝をナイフで切って、スーに見せるように曲げたり投げつけたり踏みつけたりしてみる。キョトンとした顔でそれを見ていたスーが、小さくギャゥ……と鳴きながらゆっくりミッカマツの幹に頭突きして見せて、それから私の方を見る。
「そうそう、どーんってやってたでしょ?」
ミッカマツの幹を軽く蹴ってみせると、スーは私が持っているミッカマツの実が入った袋を嗅ぎ、それから幹も嗅ぐ。どうぞどうぞと勧めると、私が蹴った位置に同じように紅い鱗で覆われた強靭な足をあてた。最初はあまり力を入れていなかったスーに私が頷いてみせると、次にミシミシ言うほど重い蹴りが生えたばかりのミッカマツを揺らす。ソロソロと様子を窺うスーにさらに勧めるように私がもう一度ミッカマツを足で押すと、スーの細長い瞳孔が細い線のようなものからアーモンドのように膨らんだ。
グギャッ、グウゥ、グォウ、と小さく何か呟きながら、スーがミッカマツ相手にどしどしと格闘を始める。
これ以上森の木が伐採されて辛子色の松林が広がってしまうのは良くないけれど、ミッカマツであれば倒されても実を植えれば3日で元通りだ。木が伸びた翌日には松の実が生るらしいので、一本でも残っていればそれ以外を引き抜かれても数日で補充できる。
けれど、スーはこれまでほどの勢いはなく、弱い力で時間を掛けて木を倒していた。今までは倒してしまえばそのままで次の木をターゲットにすることも多かったけれど、倒れたミッカマツもしっかりと折ったり裂いたりし尽している。お陰でミッカマツは運び出すのが簡単になっていた。
今までにスーが伐採した木で大きなまま残っていたものは、フィカルがロープを結んでスーに運ばせていた。今までは呼ばれて渋々運んでいたそれも、フィカルがロープを結んでいるのに気付くと近付いて待っている。ミッカマツ相手にエキサイトしている時でも中断してやってくるようになったので、森の中に散らばっていた倒木はさほど時間を掛けずに片付けることが出来た。
そして、私を見ながら引っこ抜いたミッカマツの根本を鼻先で軽く掘る。私がその中にうっすら青い実を落とすと、鼻先で土を掛け直して満足そうに鼻息を吐き、また格闘へと戻るのである。
「スー、そろそろ罠の確認に行くよー」
「グゥウ」
小さく唸るような鳴き声だけれど、昼前になると返事もするくらいにまでスーの機嫌は持ち直したようだった。昨日までは面倒くさそうな素振りを見せながら飛んでいたのに、今では少し大人しいだけで前と変わりはないほど素早く飛ぶし、手伝いもする。
鞍を外して森の外で作業する時にも傍にいたので今日は家にも一緒に戻るかもしれないと思っていたけれど、家の上を飛ぶ仔竜の姿を見つけて森の中へと引き返してしまった。
消えていくスーをフィカルと2人で眺める。
「うーん、あと一歩って感じ?」
私達を見て嬉しそうに近付いてきた仔竜が、私と同じように森を見ながら首を傾げた。
ご指摘頂いた間違いを修正しました。(2017/12/20)




