王都へ2
竜に騎乗して丸一日飛行に費やせば王都へは3日で到着することが出来る。
南東から王都へと伸びる街道のうち、ラタとタラチネという街で宿泊するといいとガーティスさん達が言っていた。ラタの方が王都に近く南東の方角で最も大きい街で、タラチネもその次に大きいと言われている街らしい。
国語の授業で出てきたような名前の街までほとんど休まずに飛ぶことになったので、夕方に街に到着した頃にはスーも流石に疲れたのかいつもよりも大人しかった。
タラチネの街は上空から見るとほぼ正確な円形で、周囲をぐるりと樹木で囲んでいた。トルテアより建物の密度が高いようで、街には四箇所の出入り口が設けられ、そこから伸びる道にもちらほらと人影が見えている。中心に広場があるのはトルテアと同じだった。
上空でタラチネを飛び越し、北西にある入り口から少し距離を取って着陸する。竜に騎乗している場合は、出発する方角から街に入るというのがマナーらしかった。これは街の中に竜を繋いで置ける場所がない場合、竜に集合場所を覚えさせておく必要があるかららしい。町の外でじっと待たせておくという指示も竜は覚えることが出来るけれど、その場合は人間が餌を用意する必要がある。竜は大食漢なので食費が大変になってしまうので、大体は街の外で食事を探させるのだ。街の中に竜を繋いで置ける場合は、その場所を教えておけば眠りに戻ってくるけれど、他の竜がいる場合はそこを使わないという竜もいるので、やはり集合場所を最初に覚えさせる方がいいということだった。
竜を従えるために幾つか覚えさせると便利な指示というのがあって、それをテキストにしたものをギルドが配布しているらしい。フィカルも中央ギルドから貰ったものを持っていて見せてもらったことがあるけれど、私の知っている限りフィカルはそれを使っていなかった。スーはきちんと説明すると大体わかるようなので必要ないのかもしれない。
「ここに集合するんだよ。わかる? スー、なんでガルガル言ってるの?」
「来たことがある」
「え? そうなんだ。魔王討伐から帰ってきた時? それ思い出してるのかな」
フガフガと匂いを嗅いでは喉を唸らせてるスーを宥めて荷物を解いていく。
背負いながら思い出したけど、フィカルは春にトルテアで名前をつけるまでスーのことは適当に扱っていたらしい。今でも割と適当だというのに、それ以上適当というか、ないがしろにされていたからこそ、あの春の日にスーは怒って追いかけてきたのだろう。その頃のことを思い出しているのだろうかと思うとちょっとかわいそうで、私はスーの頭に抱きついて撫でておいた。腕を回してポンポンと喉のあたりを叩くと、途端にグググと嬉しそうに唸っている。
フィカルがベリっと私を剥がしてもさほど怒っていないので、過去の遺恨はないようだ。
「おい、あんたら!」
振り向くと、タラチネの街の方から男が一人走ってきていた。がっしりとした体型で腰には剣、服の上に木をモチーフにしたマークが入ったチュニックを重ねている。
「タラチネに泊まるのか? どこから来た」
「トルテアから来ました」
「あんたが竜の持ち主か? なんであんなに高く飛んでた」
少し顔をしかめているその人は、歳は三十代くらいで、訝しそうに私と竜を見比べている。
「いえ、私じゃなくてこっちのフィカルの竜です。高く飛んでたのは……特に理由はないですけど、馬が怯えないように低すぎるといけないと思って」
相手が厳しい顔をしているので、何かいけなかったのだろうかと不安になってくる。
私が応えると、男は片眉を上げてフィカルをジロジロと見た。
「この男か? でも今あんたが竜に触ってただろうが」
「あ、この竜変わってるんで、私にも懐いてるんです」
「そんな話聞いたことないが、まあいい。あんたら旅は初めてなのか?」
その男性いわく、竜で街道の上を飛ぶのであれば、馬を脅かさない程度に低く飛ぶのが暗黙のルールになっているということだった。
竜はいるだけで他の魔獣は警戒し、そこへは近寄らなくなる。街道の上を通るだけで魔獣が襲撃してくる被害を減らすことが出来るのだ。冒険者や商人は、お互いに商品を売り買いして生活している。街の人間も、旅人を泊めて利益を得て、有事には旅人の助けを借りる。旅人がお互いに助け合うというのは、自分の旅路を安全にすることに繋がるのだ。
スーで出掛ける時は方向はフィカルが決めていたけれど、高度に関してはほとんどスーが好きに飛ぶにまかせていたので、そういったことがあるのを全く知らなかった。仕事で出掛ける荷運びなどの時は、荷物を誤って落とさないように少し街道から離れて飛ぶように指示をされていたし、トルテア近辺ではそもそも竜を使った旅人などが来ないのでそういう情報を知っている人もいなかったのだろう。
「すいません、知りませんでした。次からは気を付けます」
「この辺りで一晩放しておくことで街は守られるが、当たり前のことをしない旅人は冷たく当たられることもある。これからは気を付けておくんだな」
「教えてくれてありがとうございます」
「ほんとにあんたが持ち主じゃないんだな?」
男性は私達が知らなかったと言うと態度を軟化させて、色々と教えてくれた。タラチネの街には小さい竜騎士団があるものの、旅人の竜を繋いでおく場所はない。竜を一日中飛ばしての旅を何度も続けるのであれば、竜が疲弊しないようにブタや馬などを買って与えたほうがいい。
竜を伴っての旅では街に入る時に申請書が要るということくらいしか知らなかった私とフィカルに親切に色々と教えてくれたその人は街の門番で、そういうことに詳しいということだった。
「あそこの建物で申請書を書いて欲しいんだが……」
男は小さな建物を指差しながら背後を振り返った。
私達の後ろではスーが当然のように付いてきていて、ん? と首を傾げている。
「竜は入れられないぞ」
「えーっと……フィカル」
「来るな」
フィカルが一歩戻って一言そう告げると、スーはビクゥと身を竦ませて明後日の方向へと飛んでいった。
それを見て、男性がようやくフィカルの竜であることを納得したようだった。
「これに必要事項を記入して、身分証明書を出してくれ」
建物の中では他の旅人が3人、同じように案内を受けていた。
男性に差し出された紙にフィカルがペンを滑らせていく。どうでもいいけれど、片手を繋いだままでは書き辛くはないのだろうか。
申請書には名前、住所、竜の名前と種類、所属のギルドもしくは竜騎士団、旅の目的地と日数、旅の理由などを記入する箇所がある。
私には別の用紙を渡された。一般の旅人であれば、名前、住所、職種、次の目的地などを書くだけで良いらしい。フィカルが左手で私の右手を握っていたので、書くために手を放そうとすると不満そうな顔を向けられた。すぐ隣にいるので我慢してほしい。
それぞれ記入し終わってギルドカードを提出すると、男性が素っ頓狂な声を上げる。
「なんだこのカード?!」
「えっ」
男性はフィカルのカードをまじまじと見つめて、カードリーダーっぽいものに翳して本物であることを確認すると、口を開けたままフィカルを見つめる。
「あんた……もしかして勇者か?!」
あっ、そういえばそうだった。そんな称号付いてたね。
私とフィカルが視線でそんな会話を交わしていると、同じく建物にいた人たちも衝撃を受けたように声を上げていた。
すっかり忘れていたけど、勇者って割と有名人だったのだ。
なんだかちょっと面倒な気配がする。
ご指摘頂き間違いを修正しました。(2017/05/21)




