7話 捨てられない夢
「──今はなき亡国の末裔、氷の姫君です」
突然聞こえてきた男の言葉に、辺りがしんと静まる。
……はい?
聞き間違いでしょうか?
私は此処にいるのですが……それとも誰かと間違えている?
「白雪……今、貴方の事が話されていた気がするのですが……もしかして、姉妹がいるのですか?」
瑠璃が恐る恐る白雪に尋ねる。
姉妹の話など聞いた事がなかったが、常識的に考えて本物がいるこの場所でその名を騙る事はないだろうと考えたからだ。
「……いえ、居ません。私の次に濃い血を引いてるのは、鈴と翔な位ですから……近しい親族は皆、あの災厄の日に……」
死んだのだ。
それにあの日から永き刻が過ぎた以上、把握していなかった王族の血があっても、精霊の加護を持たない者の血でかなり薄まってしまっているだろう。
それこそ国を支える影達の血よりも、ずっと。
王族と呼べる程の血は、白雪ただ一人だけなのだ。
「ですよね……騙るにしても、白雪の存在は今貴族の中で噂の的ですし……」
瑠璃をはじめ、予想外の展開に皆困惑した。
「ぶっ、クハハハハッ、須々木殿、貴方は本当に・・・何も知らない田舎者ですねっ!! 今、この国どころか各国で騒がれている情報も知らないなんてっ! あぁ、その毛色を染めた薄汚い小娘ごときを王族と騙るなんて……何たる不敬、何たる無知さっ! いっその事笑えてきますよ。私は先程あの方をこの眼で見たからこそ断言出来る。あの輝きこそ真なる王族、あの美しさこそ真の姫君に相応しい!」
次に聞こえたのは、下卑た男の嘲笑混じりの声だった。
内容はあれだが、言っている事は間違っていない。
王族の名を騙るなど、不敬以外の何物でもない。
田舎……というと、本当に私の事を知らなかったと言うことでしょうか?
「言葉のままだよ、つい先日姿をお現しになったのだよ。真の氷の王族が。氷室 白雪様が! だからこそ、断言出来るのだよ。君の連れているソレが紛い物だと!!」
また先程と同じ声が聞こえ、辺りの貴族達からも嘲笑の声が聞こえる。
「……どうやら、とんだ茶番のようだな。白雪、これはホストたる我が国の落ち度だ。此方で対処するがかまわないか?」
双季は茶番の中心を一瞥すると、白雪に声をかけた。
その顔には呆れが浮かんでいる。
茶番と言ったように、あまりに滑稽だと双季は思ったのだろう。
「え、えぇ、光の国できちんと対応してくれるのなら、氷の国はそれで構いません」
白雪は双季の言葉に頷いた。
今回のような場合であれば、ホストである光の国に任せた方がいいと判断した。
双季君なら任せても大丈夫でしょう。
王族を騙った事は許せませんが、他国で起こった事にあまり口出しするのはよくありません。
そう白雪は納得し視線を外そうと瞬間、男に引きずられるように引っ張られ人だかりを抜ける少女と目が合った。
白雪とは違い銀と言うよりは、灰色に近い髪を持った少女。
この子が……
見知らぬ顔、初対面のその少女に白雪は何故か既視感を抱いた。
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「っ、失礼するっ!!」
自らの失態を悟った男爵は、羞恥や怒りからか顔を赤く染めて、私の腕を強く引っ張った。
「ぃ、痛いです、男爵」
私は力加減のないそれに、声を上げた。
「黙れっ! 私に恥をかかせおって!! 恩を仇で返したなっ!」
けれど、男爵は止まるどころか更に強い力で私の腕を引っぱっていく。
その顔には私に対する激しい怒りがあった。
何で……?
男爵が、あなたが言ったのに、私はお姫様だって。
それに、ゲームだって……なんで、なんで、ゲームと同じにならないの?
皆に愛され大切にされるはずが、男爵からは怒りを周囲の貴族からは嘲笑と侮蔑を向けられる。
…………どうして?
人だかりを抜ける時、1人の少女と目が合った。
とても美しい少女だ。
白銀の美しい髪に、透き通るような白い肌、宝石のような瞳。
私が何をしたって手に入らない、本物の美を持った少女だった。
この子だ。
この子が本物の、お姫様……
ゲームのシナリオには反していたけれど、私が偽者で彼女が本物だという事実が胸にストンと落ちた。
私、偽者なんだ。
お姫様じゃないんだ……皆に必要とされる特別な存在じゃないんだ……。
誰だって本物が欲しい。
そして、偽者は本物にはなれない。
だから、私はこれ以上惨めな思いをする前に、この夢を捨てなければ。
一瞬だけでもお姫様の夢が見られた事を、幸福に思わなければ。
あぁ、でも
私はこの少女がどうしようもなく羨ましい。




