6話 泡沫の夢
“悪い魔女を倒した王子様とお姫様は、美しいお城で可愛い子供達とずっと幸せに暮らしました”
幼い頃、保育園の先生に何度も読んで貰った物語。
ありきたりで、予定調和なその物語に、私はどうしようもなく憧れた。
幼い頃からの憧れ。
都合のいい、有り得ない展開と結末。
けれど、その幻想に浸る事はそんなに悪い事なのだろうか?
「あぁ、お久し振りですね、須々木殿」
待ち望んだ舞台は、私の想像とは違った。
沢山の注目を浴びると思った私の存在は、誰の目にも留まる事はなかった。
ようやく声をかけられたと思っても、それは私にではなく男爵の知人からだった。
この髪は珍しいから、人目をひくと思ったのに……。
……でももしかしたら、都会ではこの色が流行っているのかもしれないから、別に目立たないのかも。
舞踏会には色とりどりの花壇のように、様々な色の髪を持つ人が大勢いた。
私はどのタイミングで王子様達と出会うのか、ドキドキしながらその時を待った。
「遠路はるばる大変だったでしょう。なんせ、あんなド田舎…失礼、長閑な土地ですからね。おや? そちらのお嬢さんはどちらの? そうだ、貴方はきっとまだご存じないでしょうが、実は────」
男爵に話し掛けた男は、得意気でまるでどうせ知らないだろうと言いそうな態度。
ニヤニヤと笑みを浮かべて、嫌な感じだった。
チラリと向けられた視線も、ギラギラとしていて気持ちが悪い。
此方の返事を待つことなく発せられる話に、思わず俯いて眉をしかめる。
「……この子は先日私の養女として引き取った子で……今はなき亡国の末裔、氷の姫君です」
その瞬間、辺りの音が消えた。
目の前の男だけでなく、周囲の貴族までもが驚愕に顔を染めた。
私も俯きがちだった視線を上げる。
私は、王族。
果たすべき使命があるもの……ここ程度の事でいつまでも弱いままじゃいられない。
「私は───」
「ぶっ、クハハハハッ、須々木殿、貴方は本当に何も知らない田舎者ですねっ!! 今、この国どころか各国で騒がれている情報も知らないなんてっ! あぁ、その毛色を染めた薄汚い小娘ごときを王族と騙るなんて……何たる不敬、何たる無知さっ! いっその事笑えてきますよ。私は先程あの方をこの眼で見たからこそ断言出来る。あの輝きこそ真なる王族、あの美しさこそ真の姫君に相応しい!」
けれど、返ってきたのは嘲りと罵倒だった。
どうして……?
違う……こんなの、ゲームのシナリオにない。
だって、ゲームでは皆に亡国の姫として認められて……。
「……それは、どういう意味ですか?」
茫然とする男爵の声が耳に入った。
「言葉のままだよ、つい先日姿をお現しになったのだよ。真の氷の王族が。氷室 白雪様が! だからこそ、断言出来るのだよ。君の連れているソレが紛い物だと!!」
その瞬間、私の頭は真っ白になった。




