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精霊と亡国の姫君  作者: 皐月乃 彩月
3章 断罪は強制シナリオ
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7話 苛立ち

ヒロイン(笑)達のお話です。


「待って一輝君っ! 待ってたらっ!!」


ひかるは少し苛立ちの混じった声で、何度も何度も一輝の名を呼んだ。

それもその筈、本来のシナリオ通り(・・・・・・)ならひかるは今頃は一輝との婚約を皆に祝福されハッピーエンドのまっただ中にイルミネーション予定だったのだ。

それをいきなり何処の馬の骨とも知らない女に邪魔され、負け犬の如くパーティー開場から逃げ出す羽目になっている。


何で私がこんな目に……っ!


「ねぇ、一輝君、会場に戻ろう? さっきのだって、あの女がズルしたんだよ、氷属性なんて滅んだ筈だもの、ね? そうだ、一輝君のお父様に言って、あんな卑怯な女学園から追い出して貰えばいいんだよ、そうよ、そうしましょう?」


漸く立ち止まった一輝に、ひかるは捲し立てるように語りかける。

ここに先程の光景を見ていた者がいるなら、馬鹿かと一笑した所だが生憎此処にはひかるを諌める者など居はしない。

感情のままに話していたひかるだが、段々とそれが名案のように思えた。


「……本気でそう思ってるのか?」


だが、ひかるの予想に反して一輝の声は沈んだままだった。


今まで一輝は、一番だった。

双季の力は一輝より上であったが、周りは何時も一輝を上とし大事にされてきた。

自分が双季より下などとは、思った事はなかった。

誰にも、負けたことなどなかった。

まして、あんな何処にでもいるような女に完膚なきまでに負けるなど、予想だにしなかった。


どうして一輝君は、喜んでくれないのっ!?

折角、この私が一輝君の為に名案を思い付いたのに!!

この私が貴方を選んであげたのに……こんな事なら、別の√にすればよかったかしら?


しかしそんな一輝の心情を理解できないひかるは、苛立ちを益々強めた。

ひかるの言葉は、所詮ゲームの知識で一輝自身を理解している訳ではないのだ。

薄っぺらい、見てくれだけのセリフに過ぎない。


「……父上が俺の言うことを聞く筈がない。アレは本物(・・)だ……本物の……」


ひかるを見てるようで見ていない虚ろな目で、一輝はブツブツと独り言を言い始めた。


「本物って何よっ!? 何なのよっ!?」


いい加減苛立ちがピークに到達したひかるは、今まで何とか保っていた猫を殴り捨てて叫んだ。


「落ち着いてください、ひかる。ひかるらしくないですよ?」


そんなひかるを、逆ハーレムの一員である風間 (かざま) 大牙(たいが)が動揺しつつも甘やかな声で宥めた。

大牙はまだ盲目的な恋から覚めておらず、ひかるの時々見せる本性も無かったことにしていた。

つまり、自分に都合の良いことしか見ていないのであった。


「大牙君……でもぉ」


ひかるも大牙の声にはっと冷静になると、すぐに大牙の腕に自分の腕を絡め甘えた声で縋った。


もう、大牙君素敵っ!

やっぱり逆ハーはこうじゃないとっ!!

顔は一輝君の方がタイプだったけど、大牙君√に変えようっ!

もう、一輝君なんて知らないんだからっ!!


「……ふ、大牙、お前そんな事を言っている場合か? 自分の置かれている立場が分かっているのか?」


そんな茶番を一輝は、白けた目で嘲笑った。


一輝は人一倍、プライドが高い。

けれど、それは一輝だけでなく他の7人も同様だった。

だからこそ――――


「……何です? 負け惜しみですか? 自分が負けたからといって」



「……お前、本当に気付いてないのか? あの女の力は本物(・・)だったんだぞ? 氷属性の王族なんて……それこそ俺達(・・)何かよりよっぽど貴重な存在だ」


滅び行く世界の中でその力がどれだけ貴重か、それは考える事なく分かることだ。

何処の国の王家でも、喉から手が出る程欲しい力の筈だ。

それこそ、一輝達を切り捨てる事になったとしても。


「なっ!?……いや、そんな事は……」


やっと事の重大さに気付いたのだろう。

大牙や他の6人は自分の輝かしい未来が崩れた事に、顔を青ざめさせた。


「ちよっと、皆でどうしたの!? 意味わかんないっ!」


ひかるは未だに状況が理解できず喚いているが、今やもう声をかける者は居ない。

皆、自分の将来の方が大切なのだ。

泥を啜って生きていく人生なんて、大牙達には考えられなかった。

それこそ、ひかると天秤にかけたとしても、愛を選ぶ事はなかっただろう。


「な、なんでこんな事に……!」


「……アイツのせいだ。アイツの、水城 瑠璃のせいだ!」


決して自分の非を認めない彼等が、そう結論を出すまでそう時間はかからなかった。




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