24 反動
反動
隆之は一人の女性を解放する。
一番年配に見える女性だ。
それでも、三十歳前のように見えた。
その後、彼女も手伝って残りの女性はすぐに解放された。
年齢的には隆之より少し年上に感じる。
けれどもこの世界の年齢はよく判らない。
あくまで、『地球人なら』というべきか。
一応、隆之の知識からすれば、全員人間だった。
隆之が解放している時、冒険者らしい女性が盗賊たちの死体を見つめていた。
特に首領らしい男の首に刺さった氷に驚いている。
正確には死体が無いので、鎧の首に刺さった氷と言うべきか。
それは、魔法以外ありえない状況だ。
その女性が、隆之が魔法を使ったことを伝えていた。
それ以前は、隆之に対する態度に戸惑っていた感じに見える。
ひょっとすると、盗賊仲間の裏切りを警戒していた気配だ。
全員解放されたところで話が始まる。
もっとも、その前に五人の女性達が小声で会話している。
隆之への扱いに戸惑っているのが丸判りだ。
その後、最初に助けた女性が代表で声を掛けてきた。
「賢者様、助けてくれてありがとうございます」
その言葉に引っ掛かる隆之だ。
『賢者?』
賢者と言われて、ようやく思い当たるものがある。
この世界では、男は魔法が使えない。
盗賊達が、魔法を警戒していなかったのはある意味当然か。
魔法を使える男性は『賢者』と言われる解放者だった。
『そんな男が、盗賊をやるわけはない』
そんな確信めいた物が隆之を信用した理由に感じた。
「礼は別にいいけど、なにか食べさせてもらえないか」
隆之としては、急に切実な問題が湧き上がってきた。
この世界に来たのに意識していなかった。
いや意識はしていたけど、切実な問題ではなかった。
魔法を使う前には気にならなかった事だ。
それは、空腹感だった。
先程まで、感じなかった空腹感が一気に襲ってきた。
それと、睡眠欲求だ。
盗賊と出会う前には一切感じて無かった疲労感と空腹感が襲ってきた。
その、理由が判らなかった。
「それは、大至急用意します」
女は事情を察している印象で馬車に手を掛けた。
残った四人もそれを手伝う様子だ。
しかし、金目の物はあっても食料は積んでいない雰囲気。
隆之を突然襲った空腹と疲労だ。
目の前が暗くなる。
覚えているのは、そこまでだ。
隆之は、その情けない理由で意識を失った。
盗賊を倒すために使った魔法。
それが、切っ掛けとして今まで使っていた魔法の疲労が一気に襲った。
無意識に掛けていた、加速と身体強化の分もだ。
隆之が出現した場所からかなりの移動を一晩で行っていた。
出現と同時に隆之を襲うはずの平原の動物達。
今回は少し事情が違った。
弱い動物達は隆之の放つ無意識の波動を感じて巣穴(異次元)に隠れた。
隆之が洩らす圧倒的魔力に当てられたからだ。
それは、生存本能に準じたものだ。
それ以外の肉食の動物達は、さすがに攻撃意識を高める。
けれども、それらの動物もいつもと勝手が違う。
獲物であるはずの、人間が動き出したからだ。
普通なら動物達のほうが早い。
だから、獲物を狩る形だ。
今回の獲物は違った。
隆之のあまりに早い動きに追いつけない。
正面にいた動物は接近する魔力に当てられ逃げるのが必死だ。
単独で当たれる獲物では無さそうな気配に道を譲る。
そのため、襲うことは出来なかった。
唯一、平原の覇者とも言うべき野犬は配下の野犬を連れて追った。
野犬のテリトリーを無視して通過する隆之。
それを放置してはボスとしての威厳に関るからだ。
しかし、疲れ知らずに走る獲物だ。
仲間は少しづつ脱落していく。
かろうじて追いつた時には数百頭の群れは置いてきぼり。
各群れのリーダー格の犬(高レベルのモンスター)がかろうじて追いついた程
度だ。
どうにか、連携を取って囲んだところまでだった。
攻撃的な中ボスクラスの犬が襲ったけど、相手にもされない。
そこに、隆之の攻撃を意識した魔法の波動を感じた。
探索だけではなく、攻撃を意識した波動だ。
ようやく、『手を出してはいけない相手』と気付く。
すでに、及び腰だった犬はさっさと離れた。
魔法テリトリーを自在に扱う怪物を目の前にしたボス。
最後に向けられた魔法波動は強烈だ。
最後まで踏みとどまったボス犬は尻尾巻いて逃げた。
あと少し、遅れていたら・・・
孝之が本気の攻撃を仕掛ける前にテリトリーからの脱出が最優先だ。
どうにか、最後まで踏みとどまったことでボスとしての威厳を保った。
それらの、無意識に使っていた魔法。
特に最後に放った治療魔法だ。
体内の生体を活性化させるために大きな魔力が必要。
その疲労が隆之を襲った。
隆之は、意識朦朧となる。
睡眠不足を無理やり動いていたようなものだ。
そして、意識を失い倒れた。
隆之が目を覚ますとベッドの上だ。
ベッドの横にはあの声を掛けてきた女性が座っている。
隆之が目を覚ましたのに気付くと嬉しそうだった。
「賢者様、気付かれましたか」
「ここは?」
「町長の家で、そして、主人の家でもあります」
「すると、あなたは町長の奥方?」
「はい、賢者様にはいくら感謝してもしたりません。助けていただいてありが
とうございます」
「???」
「いま、主人を呼んできますから、簡単に食事をしてください」
そう言って、出された物はお粥のようなものだった。
強烈な空腹感の前に、味のないお粥も最高の美味だ。
貪るように食べた。
食べ終わった頃に、町長が顔を出す。
「賢者様、ありがとうございました。町長のアウルといいます」
「俺は・・・」
一瞬、フルネームを名乗ろうかと考えた。
しかし、町長でさえ、アウルという名前しかない。
調査の時でも、ファーストネームを呼び合っていた印象だ。
この世界で『苗字』というのはかなり特殊な可能性があった。
ひょっとすると、苗字は特別の意味がありそう。
あまり、特別扱いは困るので名前だけ名乗っておく。
「タカユキといいます」
その言葉を聞いた途端、町長が息を呑んだ。
「タカユキというと、あのタカユキ様!」
町長が誰を指しているのか判らない。
しかし、『タカユキ』というのは特別の意味がありそう。
それが何なのか知りたいところだった。




