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迷宮の輪舞(ロンド)  作者: いかすみ
迷宮探索1
23/27

23 馬

馬



自身の魔法の凄さに驚いた隆之だ。


この世界の風の魔法はこんな威力ではない。


中にはモンスターの一部を切り裂く威力もある。


けれども、こうもりの羽の膜程度だ。


どちらかと言えば、孕んだ風が逃げ場をなくして弾けた雰囲気が強い。


なのに、隆之の放った魔法はまるで剃刀のような威力だった。




何が起きたのか判らないまま茫然自失としていた。


倒したことより、盗賊たちが消える直前まで放っていた血の噴水の所為だ。


人が死ぬとあんなに血を噴くとは知らなかった。


しかも、隆之の方に向かって前傾姿勢。


一斉放血を喰らった隆之だ。


あまりの、ショックに呆然としていた。


意識が元に戻ったのはしばらくしてからだ。


幸い、血もエフェクトで消えた。


隆之をまぶしいエフェクトが包んだ。


その影響もあった。




倒した盗賊の残した馬のいななきで初めて気付く。


慌てて、周りを見る。


盗賊の乗っていた馬が周りに徘徊していた。


馬達は落ち着きが無さげにいなないたりしている。


馬と表現しているけど、『馬に似たような生物』と言うべきか。


どちらかといえば、キリンの首が短い生物だ。


便宜上、馬と表現する。


馬にとって、主が殺されたわけだ。


そのため、隆之を恐れているようにみえる。


けれども遠くに逃げる気配はない。


ただ気になるのは、一方向に固まっていることだ。





馬以外、目に付いたのは盗賊が残していった馬車だ。


馬車を守っていた男もいた。


けれども、隆之が接近すると飛び降りて逃げた。


馬たちは、その馬車を守るようにしている印象でもある。


もっとも、隆之の魔法領域には入ってこない。


馬車に近づくごとに、離れていく。


盗賊の男が逃げ出した理由は簡単だ。


馬車馬は男がいくら促がしても逃げようとしなかった所為だ。


いまさら逃げる敵に止めを刺す気は無い。


逃げていくのを見送った隆之だ。




馬車に繋がれた馬は一際立派な黒い馬だった。


繋がれた馬は隆之が接近しても睨むだけ。


少しも逃げようとしなかった。


それについては、周りの馬達も同様だ。


なぜか、馬達は隆之自身を恐れてはいる。


当然、馬達の本来の主を殺した男なので嫌うのは当然だ。


しかし、大きく離れようとはしない。


馬たちが守ろうと心がけていたのはその黒馬だ。


もっとも、本能が勝るのか馬車を置き去りにして離れていた。




馬車には、幌がかぶせてある。


西部劇に出てくる『幌馬車』などではない。


幌というよりシートと言った方が近いのか。


荷物が、風に飛ばされないための工夫だ。


隆之は馬車に近付いていく。


馬は隆之から離れようとした。


やはり、孝之が怖いのだろう。


真っ黒のかなり形の良い馬だ。


しかし、随所に鞭で打たれたような痕があった。


おまけに、後ろ足の付け根には大きな傷。


様子からするなら、馬の足の腱を半分切り裂いた印象だった。




この世界の馬はかなり主人に忠実なのか?


それにしては、鞭傷と切り傷が気になる。


他の馬に比較してかなり立派な体格だ。


そんな馬が馬車馬をやっていた。


もっとも、あの傷では乗馬としては使い物にならない可能性も大きい。




隆之は、怖がらないように宥めるつもりで声を掛ける。


昔、近所にいた犬を思い出した。


その要領で、敵意を殺して馬車に近付いた。


今度は逃げようとしない。


隆之は、馬の首を撫でるように手を動かす。


身体の鞭傷が気になるので、様子を見るため手を当てる。


治せる様な物は何も持っていない。


可哀相と思うだけだ。


そして、手を当てたところが通過する。


すると、鞭傷が消えていた。


目を凝らして、確認する。


どうやら、隆之が触ったところの傷が治っていた。


隆之は、目に付く大きな傷を触っていく。


その間、馬はされるがままに大人しくしていた。





傷の治療が終って、再び馬の正面に立つ。


馬が嬉しそうな表情をするのがなんとなくわかる。


馬は、隆之に鼻面を押し付けて嬉しそうにしていた。


隆之は可愛がる要領で馬の首筋に手を当てて撫でてやる。


馬が気持ち良さそうに目を細めた。


そして、もう逆らう様子は全然見られない。


それどころか、主人を殺されて遠巻きにしていた馬たちも寄って来た。




馬はかなり頭の良い動物のような印象だ。


隆之が、先程までの敵意を消したところで近付いてきた。


それどころか、鼻面を押し付けて甘えるような雰囲気だ。


他の馬の様子に、最初の馬車馬が抗議するようにいなないた。


その声で、他の馬が一斉に隆之から離れる。


どうやら、この中で一番力がある馬の気配だ。


隆之は、期せずして馬の尊敬を勝ち取った雰囲気だった。




ただ、隆之は気になるものがある。


立派な馬なのに、首に繋がれている首鎧だ。


何の変哲もない首輪のように感じる。


しかし、見ていると気分が悪くなる物だ。


隆之は、本能的に首輪に手を掛けた。


嫌な物は棄てたいからだ。


バチッ!


まるで、静電気のような音が聞こえて、嫌悪感がぬぐわれたように消えた。




『驚いたような表情』といえばいいのか?


馬が硬直していた。


「悪いけど、もう少し我慢してくれ」


これだけの馬がつながれていた理由は動けないからだ。


しかし、繋がれた金具などは操作しようもない。


直ったのだから、他の馬に替えたいけど手段がなかった。


そのために、掛けた声だ。


まるで、馬が了解したようにいななく。


『人語を理解する?』


孝之がそう思った時だ。




馬車には、何が乗っているのか一応確認しておく。


場合によっては捨てていくべき物もありうる。


下手に荷物を持って町に向かえば犯罪者にされてしまう。


ここがどこなのか判らない状態で危険な選択は出来ない。


幌を取ると、かなりの金目の物が山積みされている。


どうやら、盗賊の盗みだした荷物らしい。


見るからに高級そうに見える家具が目に付いたからだ。


生鮮品が無いようなら、『町に着いてからこの場所に取りに来るべき』と判断

した。


見落としが無いようにチェックを重ねていく。


すると、荷台の後ろの方で音が聞こえた。




隆之は荷物を乗り越えてそちらの方に回る。


そこには縛られて芋虫状態の五人の女性がいた。


恐怖に襲われた感じで目を見開いている。


猿轡をされた女性達だ。


盗賊たちは荷物以外に誘拐も行っていたらしい。


隆之は、あわてて縄を解く。


被害者が居るなら彼女達が証人になる。


これなら、馬車に乗って町に向かう事ができた。



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