21 接触
接触
訳の判らない力で野犬を追い払った。
なにしろ、孝之自身なぜ野犬が逃げていったのか判らないからだ。
いつ攻撃されるか判らない野犬に対して警戒感を高めて位置を探っただけ。
最後にボス級の野犬に対して孝之の方から殺気を送ったのかもしれないけど?
それだけで、逃げていくほど弱い相手には思えなかった。
そもそも、野犬が襲ってきた理由を考えた。
あれだけの、野犬が集まってきたぐらいだ。
一見ただの野犬に見えた。
けれども、近づくまでその姿さえ見えなかったのだ。
これだけ、だだっ広い平原で姿さえ見えない存在。
それが、ただの野犬なわけはない。
何らかの理由があるに違いなかった。
地球の常識を当てはめるなら、縄張り?
孝之が無意識に彼らのテリトリーを横切った可能性は高い。
そして、分野外ではあるが迷宮のルールに則っている可能性もあった。
迷宮であれだけのモンスターが横行しているのに冒険者はモンスターを見かけ
ていない。
たとえば、高レベル冒険者が戦っているすぐ脇に低レベル冒険者がいる。
普通なら高レベル冒険者が襲われているのだからモンスターはその脇を通過し
たはずなのだ。
それなのに、低レベル冒険者は目の前のモンスターと格闘中だ。
たしかに、乱入と背後から襲うことは禁止した。
だから、格闘中の低レベル冒険者は目の前のモンスターに集中する。
でも、他のモンスターに囲まれている状況で集中できるのか?
そのような状況を見て孝之が気づいたことがある。
『対象者以外にはモンスターは見えていない』
こればっかりは、当事者ではないので確認できなかった。
それが、今回初めて当事者?になった印象。
それも、あれだけの数にいきなり襲われた理由も思い当たる。
よく言われている『トレイン』だ。
モンスターを引きずって走り回るあれだ。
孝之の足が速かったので、追いつくのに時間が掛かった可能性もあった。
月の出に足を止めた直後に襲われたからだ。
そして、あれがモンスターなら・・・
この不自然な大地?と思われる地上。
それも、『迷路の床』と思えばありえる。
この広大な大平原は『迷宮?』いやその一部である『迷路』の可能性だ。
『まさか、これが一階ではないよな?』
孝之の中に浮かぶ。
改めて、周りを見渡してそのスケールの大きさにあきれる孝之だった。
孝之は、再び町?に向かって動く。
見えるようになって、足の運びは更に早くなった。
見えるのではなく『感じるようになって』というべきか。
ただ、いくら走っても変化のない地形だ。
マラソンでもやっている感覚で定常走行を繰り返した。
いくら走っても疲れを感じない。
そのことから、ジョギングをしている感じだ。
月がまだ残っている状態で、日の出だった。
月明かりに慣れた目にはまぶしい様な変化だ。
一晩中、動き続けてようやく疲れを意識する。
少し休憩を兼ねて立ち止まった。
改めて、煙の見える方向を確認する。
そこで、初めてあの煙は火事によるものと気付いた。
『何故判ったのか?』
直接視認した形だ。
それを意識した途端、その方向に関する視野が拡大した。
そして、町の姿を見かけた。
割と大きな町を思わせる密集度だった。
町外れの数軒が燃えていた。
昔やったゲームにあったけど『鷹の目』とかいう能力ではないか?
なんとなく、迷路を作成していた時の感覚に近い。
迷路全体を俯瞰していた時の感触だ。
ある程度の高空から地上を見ている感覚だった。
町までの距離は10キロぐらいのところだ。
もっとも、この身体が地球同様の170センチ前後としてだ。
煙を意識をした途端、その周囲数キロが判った。
まるで、上空にジャンプしてその光景を見たような印象だ。
正確には、現在位置からその町の途中までの様子も見れた。
そして、賊が逃げた方向も。
それが、判ったのはこちらに向かっていたからだ。
皮肉にも、隆之と盗賊は鉢合わせする寸前だった。
賊の移動速度からかわす事は不可能。
朝日の眩しさに周りの観察がお留守になったのもある。
それより、鷹の目の方に意識が奪われていた所為か!
今更、逃げても手遅れだ。
隆之は真っ向からぶつかる事になった。
馬上の賊から隆之は丸見えだったらしい。
逃げる余地もなく囲まれた隆之だ。
背後の方に逃げ道はある。
けれども、相手が馬ではどこまでも平地では逃げられるわけはない。
「旅人か、不運だったな」
正面に立つボス格らしい男のセリフだ。
相手の言葉が判る事に一抹の安堵が広がる。
外国語の可能性もあったからだ。
「見逃してくれる気はない?」
念の為に、声を出して確認してみる。
賊たちの笑いが広がった。
ただ、気づいたことは言葉にした時、口元と声が微妙にずれている。
そこに、気づいて男達の声と口元に注意する。
「こんな離れた場所で遭遇するとは運の悪い男だぜ」
そう言って、背後の男から刀を受け取っていた。
やはり、音声と口はずれていた。
おそらく、空間その物で翻訳されて聞こえている感じだ。
孝之はこの世界のルールがなんとなく判った気になる。
言葉も、読むことも自由に出来る。
なのに、書くことには今まで接したことがない。
たしかに、契約書は存在していた。
奴隷契約書とか、支払い証明書だ。
それに対して、孝之の目いやそれを書いた当人さえも普通の文章に見えた。
孝之に判るのはすべて横書きといえることだけだった。




