20 超感覚
超感覚
この光景には思い当たる物がある。
強い相手に部下をけしかけるチンピラの姿だ。
当然、痛い目に遭いたくない部下は逃げる。
ボスに攻撃されるのが痛いか、敵わない相手に襲い掛かって痛い目に遭うか?
犬たちには究極の選択だ。
そして、犬たちはボスを見捨てた。
もういかにボスが威嚇しても隆之に迫ろうとはしなかった。
その先は、予想が出来た。
部下への威厳を示すためにはボスが戦うしかない!
事実、ボス以外の犬たちは隆之の周りからさらに離れた。
ちょうど、隆之とボスを等間隔に囲むようにして立ち止まっている。
その様子は、闘技場を思わせる距離だ。
ボスだけが隆之の正面に立つ。
そんな光景を見ると管理職の憐れさを髣髴する。
どうやら、ボス犬は犬たちの完全なボスではなかった印象だ。
隆之には疑問に思うことがあった。
野犬は、なぜ暗闇のうちに襲わなかったのだろう?
まるで、見えるようになってから襲って来た様な印象だ。
犬が鳥目?
それは、考えられない事だ。
目より鼻を重視する犬が暗闇で獲物を襲わない理由が判らない。
『暗闇と明るいところの違いは何だろう?』
そのことに、意識してみる。
隆之は、見えない時には細心の注意で前方を探りながら走っていた。
見えないのだから当然だ。
隆之は見えない大地を探るように歩いていた。
事実上、先を急いで走っていたのだけど・・・
それに対して、見えるようになった途端視覚に頼るようになる。
野生の犬はその違いを察したと思われた。
先ほどの襲撃直後の反応でもおかしく感じる。
体勢を崩したのだから、その方が隙が多いように感じた。
それなのに、犬達は攻撃を新たに加えなかった。
隆之が行ったのは、新たなる襲撃に備えて気配を探っただけだ。
それ以前の、構えていた時の方が隙が無かったように思う。
なのに、その時には襲撃してきた。
その時の状況を思い出す。
あの一瞬、隆之は大きなボス犬に意識を取られた。
そして、そちらの方から来る風のような物に気を取られる
それに、意識を合わせたので、周りの犬の気配を忘れた時だ。
それまでは、『だるまさんが転んだ』状態で、犬が動けばそちらをみていた。
そもそも、見えないのに犬の動きが判った様な気がする。
その探っている感覚を、襲われた一瞬は忘れていた。
隆之は、闇の時の感覚を思い出して、気配を探っていく。
まるで、意識を広げるような印象だ。
視覚から感覚を別の物に変換したような感じだった。
あの、背後から襲われた時の殺気を感じた感覚だ。
見えないはずなのに、周りに感じる物があった。
見えない背後に犬の姿を感じた。
熱源のような印象?
犬の形ではないけど、そこに何かがあるような印象だった。
思わず、その何かに意識を集中する。
その直後だ。
その何かが動き出す。
それを察した犬が逃げるように離れた。
かなり離れていた犬だけど、隆之が集中した途端、動き出す。
まるで、『探られるのが嫌』と言わんばかり。
一番驚いたのは、それを見ていないことだ。
見ていないのに、犬の動きがわかった。
今度は、別の犬に焦点をあわせてみる。
それが、軽々と行われた。
ボス犬を正面に見たまま、囲んでいる犬を察知する。
犬を感知するごとに犬たちは離れていく。
隆之の感知が外れるまで、動いて意識が外れると停まったような印象だ。
『ちらり』と動いた犬の方に視線を走らせても犬に反応は無い。
だから、『見られて』動いたのではない。
察知されて逃げ出したような印象だった。
残ったのは、探知範囲にいるボス犬だけだ。
そのボス犬も居心地が悪そうな印象だ。
隆之は、ボス犬の動きを集中的に探るように意識を高める。
そして、戦闘に当たって攻撃意識を高めた。
キャンキャンキャン!!!
まるで、何かに攻撃を受けたように離れていくボス犬。
恥も外聞もなく、生存本能に駆られて逃げ出したような印象だ。
その様子は、石を投げつけられた野良犬を思わせる。
先程までの、威厳は全然感じられなかった。
勘の鋭い野犬は隆之からの何かを察したのだろう。
戦うまでもなく逃げ出すボス犬だった。
結局、隆之はまともに二匹と戦っただけだ。
ボス犬の撤退で、群れは潮が引くように撤退していく。
隆之は、探るだけで野犬の群れを追い払った。
意識を高めたところで気付いたこともある。
まるで、第三の目で見た感覚で周りの地形を把握していた。
犬たちが動いて倒れた草の感触まで掴んでいる。
今まで、平坦だったために気付かなかっただけだ。
『野犬』という変化が生じた。
そのことで、その感覚に気付く。
見えない目で地形を探るような感覚だ。
『まさか、攻撃範囲意識ではないよな?』
犬たちが逃げるほどの攻撃意識を向けたわけではない。
単に、犬たちの位置をはあくしただけだ。
犬たちが何を恐れたのかは現段階では判らなかった。




