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無限考 2

この前、ラエリアンの友人から聞いた“無限”の話を、高校で物理を教えている友人にしてみた。

すると彼は、グラスを揺らしながら言った。


「ふ〜ん。その“ラエリアン”ってやつは、僕と同業者(理数系の教員)なのかい?」


「いや、彼は大学時代の友人で、バリバリの文系。今は地元の市役所職員だよ」


「へえ、文系か。それにしては面白いことを言うね。“宇宙のフラクタル構造”なんて初耳だよ。王道の理論じゃないからね。

僕らの世界では、ビッグバン宇宙論に逆らうのは今のところタブーなんだ。あのホーキング博士だって、その枠組みの中で議論していたくらいだし」


彼は少し笑って続けた。


「でも考えてみれば、現代の数学や物理の法則は“無限ありき”で成り立ってる。そんな僕らが“無限を否定するような説”を聖書みたいに崇めているのは、ちょっと矛盾してるよな。

そういえば、生物の教員も嘆いていたよ。“進化論”って一言で片づけてるけど、実際にはいろんな説があって、どれも完全に証明されたわけじゃないのに、事実として教えなきゃならないってね。まあ、僕たちの世界なんてそんなもんさ」


「そうだな。文系の私でも“進化論や弱肉強食は、西洋の植民地支配を正当化するために利用された”なんて話を読んだことがあるよ。

“歴史も常識も支配者が作る”ってことなのかもしれないな」


少し沈黙があった後、彼はまた口を開いた。


「“無限に続くフラクタル構造”か……考えてみれば、あり得ない話じゃない。でも証明はできないだろうし、ホーキング博士を覆すのは難しいだろうね。“ナノマシンを作るナノマシン”って発想も悪くないけど、今の科学じゃまだ遠い領域だよ」


「じゃあ、今度は私が“文系”の話をしようか。と言っても、ラエリアンの友人からの受け売りだけどね。

君は古代ギリシャの哲学者ゼノンの“二分法”って聞いたことがあるかい?」


「おっ、文系の話にも興味があるねえ。聞かせてくれよ」


「ゼノンによれば、“A点からB点まで線を引くことはできない”んだ」


僕が得意げに言うと、彼は笑った。


「文系は屁理屈をこねるなあ。どんな屁理屈なんだい?」


「いや、私の屁理屈じゃなくてゼノンの屁理屈さ。

AとBの間には“1/2”の地点があるだろ? その1/2の間には1/4があり、さらにその間には1/8がある。

中間地点は無限に続くから、そこを通過するには“無限の時間”が必要になる。つまり不可能ってわけさ。

でも現実には線を引ける。不思議だよなあ……」


僕が“受け売り”を自分の知識のように語ると、彼は目を細めた。


「なるほど。そこには“感情の文系”と“論理の理系”の接点があるわけだ」


彼は氷が溶けた水割りを飲み干し、ふと思い出したように言った。


「そういえば、最近僕も“無限”を感じたことがあったよ。

SUNOっていうAIで音楽を生成してるんだけど、“この曲って何パターン作れるんだろう?”って思ったんだ。

世界中の人がAIで曲を作っても、まったく同じ曲は生まれない。まさに無限だよな」


彼は天井を見上げ、しばらく考え込んだ。


「ところでさっきの“現代の物理学は無限ありきで成り立っている”って話、文系の僕にもわかるように”やさしく”教えてくれないか?」


「もちろん。簡単に言うと、“現実の世界は、目に見えないほど細かく(無限に)分解したり、どこまでも(無限に)足し合わせたりすることで、初めて正確に計算できる”ってことかな。

君だって“微分・積分やな気分♪”って高校で歌わなかったかい? あれは“無限”を前提にした数学なんだ」


「それに、アインシュタインの相対性理論にも“宇宙定数 λ”っていう、宇宙のスケールや膨張に関わるパラメータが出てくる。あれも“無限の議論”と切り離せない」


“宇宙定数 λ”という言葉が出た瞬間、私は固まった。

“ぜんぜんやさしくないじゃないか”と訴えるように彼を見ると、彼は苦笑して続けた。


「まあ聞いてくれよ。

僕たちは世界をデジタルで捉えがちだけど、実際の世界はアナログなんだ。

だから割り切れない数がある。円周率“π”なんて典型だろ?

値は確かに存在するはずなのに、絶対にたどり着けない。

なのに“AIで〇〇桁まで計算しました”なんてやってる。

最初から“無限”だと考えた方が、むしろすっきりするんだよ」


彼は少し意地悪そうに笑った。


「もっと難しい話をしてやろうか?

日常でも科学でも法律でも、“これ以下の確率なら起こらないとみなす”という基準がある。

例えば物理学や気象学では“5σの壁”という基準があって、“偶然の可能性が350万分の1以下なら事実とみなす”んだ。

2012年のヒッグス粒子の発見も、この基準をクリアしたから“存在する”と認定された」


「おいおい、私が数字に弱いことは知ってるだろ? 酒の席で文系をいじめるなよ」


「じゃあ身近な例で言うと、

“飛行機が落ちる確率:約110万分の1”、

“隕石が家に落ちる確率:約1億1800万分の1”、

“115歳まで生きる確率:約20億分の1”。

どれもゼロじゃない。でも誰も“隕石が落ちるかもしれないからヘルメットをかぶろう”なんて思わない。

人間の脳は、一定以下の確率を“ゼロ”として処理するようにできているんだよ」


彼はグラスを置き、静かに言った。


「存在するのに、起こらないとみなす。

矛盾してるのに、違和感なく共存している。

それが、僕らのいる“この世界”。

君の“宇宙のフラクタル構造”の話を聞いて、僕もいろいろ考えさせられたよ。

話が合いそうにない僕らが、こうして無限の話をしてるんだから、これも“矛盾の調和”だよな。

もしかしたら、”数字のうえでは、ごくわずかの確率だとしても起こりうるはずの出来事が、実際には永遠に起きることはない”なんてこともあるのかもしれない…」


「そうだな。“デジタルとアナログ”“無限と限界”……確かに”奇妙に共存”しているよな」


聞けば聞くほどわからなくなり、酔いも回ってきた。

その夜の記憶は、そのあたりで途切れている。


それにしても、まさに“無限”は身近にある。

いや、“無限について考えると精神病院行き”になるらしいから、もう考えるのはやめておこう……そう“考えた”ところで、また無限に戻ってしまう自分に気づき、苦笑している。

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