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無限考3(時間の無限性) 第一部 二度目の再開

午後5時30分。待ち合わせはマリアタワーのエントランス。

彼は、約束の時間ぴったりに現れた。


「相変わらず時間に正確だな」と言うと、

「君こそ、“珍しく”時間どおりじゃないか?」 と、いつもの調子で返してくる。相変わらず正直だ。


彼は大学時代の親友で、今は地元の市役所職員。 この4月から観光課に配属され、名古屋に出張で来るたび、 バスの時間まで“ちょっとお茶をしながら”情報交換をするようになった。 今回で、まだ二度目だ。

そして彼こそが、先月、僕を“無限病”に感染させた張本人——ラエリアンである。


「さあ、始めようか。時間がもったいない」


「そうだな。今日は9時のバスか?」


「ああ。オアシスを9時7分だ。3時間はある……前回よりはたっぷり話せるな」


私たちはビアガーデンに上り、さっそく生ビールで再会を祝った。


「今度は泊まりで来てくれよ。いい店を案内する」


「そうしたいけど、案外忙しいんだぜ。外から見れば楽な公務員に見えるだろうけど、市役所もけっこうブラックなんだ。 そっちはどうだい? 編集長様ともなると、仕事は全部部下任せか?」


「相変わらず冗談がきついな。社員は私を含めて三人だぜ? 雑用係ってところさ。今日だって仕事をやりくりするのが大変だったんだよ」


「懐かしいな。“卒業したら二人で出版社を起こそう”なんて、鼻息荒く語ってたよな」


「本当に懐かしい。君のアパートに押しかけて、夜遅くまで語り合ったよな。 私が留年してから、あの夢も途切れてしまったけど」


「まあ、俺も実家に戻らなきゃならない事情ができたし、あれで良かったんじゃないか。 お前は編集の世界でちゃんとやってるんだから、立派だよ」


「よしてくれよ。大手出版社の下請け仕事と、広告のデザインや印刷ばかりだ。 あの頃、俺たちが熱く語った“ウィキリークス”みたいな真実を発信する仕事なんて、何ひとつできていない。

この世界に入って初めて知ったことも多い。 一般に知られている雑誌なんて、取材も記事も、ほとんどは俺たちみたいな会社が安い単価で請け負ってる。 内容も筋書きも指定されていて、実態と違っていても、そのとおりに書くんだ。 広告だって嘘だらけさ。目指していた仕事とは真逆だよ。

でも、大衆が求めているのは“真実”じゃなくて“安心できる嘘”なんだって、やっとわかった。 目の覚めるような真実を発信したところで、誰も相手にしない。 大衆は“自分が多数派でいること”を求めている。多数派でいることこそが“安心”なんだ」


彼は街の夜景を眺めながら、ぽつりと言った。


「俺たちの仕事だってそうさ。地方自治なんて名ばかりで、国の力は絶大だ。 それに与党の国会議員ってのが厄介で、開発や許認可で圧力をかけてくる。“〇〇の件、進めてやってくれ”なんて電話が来るんだ。 公平な行政よりも、そっちが優先される。

学生の頃は知らなかったことばかりだよ。 知ってたらどうしてたんだろうな……アサンジのように真実を公表しようと燃えたか? それとも目を背けて別の仕事に就いたか……」


「盲目にされた大衆の目を覚ますなんて、不可能なんじゃないかとさえ思うよ。 “大衆を牢屋に入れておく最適な方法は、そこが牢屋だと気づかせないこと”——それが成功してしまっているんだ。

牢屋の中で不満を言っている大衆に、“そこは牢屋だ、早く出てこい”“ここからなら牢屋の中だってわかる”と言ったところで、 “騙されないぞ! お前たちの方こそ牢屋の中だ!” なんて言われる……そんな感じだよな。

もしかしたら“牢屋の中”にいるのは、本当はこっちなんじゃないかとさえ思えてくる」


夜7時を回り、店内はいつの間にか満席になっていた。 私は酔い過ぎないうちにと、前から気になっていた“無限”の話を切り出した。


——そして、このあと“時間の無限性”の話へと、ゆっくりと流れが変わっていく。

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