第143話 心霊スポット帰りの事故
517:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:14:27.36 ID:K7mR2vQa0
今から二十年以上前、俺が17歳だった時の話です。
地元に、県外からも人が来るくらい有名な心霊スポットがあった。
夏休みの夜、同級生や二つ上の先輩たちと、単車5台、車2台でそこへ行った。
俺は免許を持っていなかったので、車を持っていた先輩の後部座席に乗せてもらっていた。
帰り道、俺たちの車を追い越していった単車2台が、見通しのいい直線道路で続けて事故を起こした。
乗っていたのは、どちらも俺の同級生だった。
二人ともその事故で亡くなった。
警察は速度の出しすぎと運転ミスだと判断した。
たぶん、記録上はそれで間違っていない。
でも俺は、事故が起きる直前の二人の顔を見ている。
単車で車の横を追い越していく時、二人ともこちらを向いていた。
そして、声が聞こえてきそうなくらい、大きく口を開けて笑っていた。
518:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:15:08.53 ID:Rc4pN8wL0
実話系か
519:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:15:51.82 ID:V2mK6hFs0
心スポ帰りに二台続けて事故って
しかも二人とも笑ってたのか
520:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:18:46.91 ID:K7mR2vQa0
場所は書かない。
今も心霊スポットとして名前が出るし、近くに住んでいる人もいる。
そこは山中にある廃業した宿泊施設だった。
元は企業の保養所だったらしい。
俺たちが行った時には、本館の窓ガラスはほとんど割れ、裏手の宿泊棟は半分崩れていた。
そこで一家心中があったとか、経営者が地下室で自殺したとか言われていた。
ただ、後から調べても、それを裏づける新聞記事はなかった。
実際にあったのは、閉鎖後に侵入した大学生が階段から落ちて亡くなった事故だけだったと思う。
地元では、二階の廊下に女が立つという噂が有名だった。
521:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:19:27.50 ID:F8qA1zYe0
よくある廃墟の後付け話だな
522:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:22:13.27 ID:K7mR2vQa0
俺たちは夜十一時頃、施設の前に着いた。
単車5台に一人ずつ。
車は先輩のセダンと、別の先輩のワゴン車。
全部で12人いた。
事故で亡くなった二人を、AとBとする。
二人は同じ高校の同級生で、いつも一緒にいた。
どちらも怖がる性格ではなかった。
特にAは、心霊スポットに着く前から、
「女がいたら連れて帰る」
とふざけていた。
施設の中へ入ったのは8人。
残りは車と単車のそばで待っていた。
俺は中へ入った。
携帯電話のライトなんてない時代だったので、懐中電灯を数本持って歩いた。
一階の食堂らしい場所を抜け、噂になっていた二階へ上がった。
湿った畳と、鳥か小動物の糞の臭いがした。
特に何も起きなかった。
523:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:25:24.98 ID:K7mR2vQa0
二階の突き当たりに、階段がもう一つあった。
地下へ続いていた。
俺たちは一階しかない建物だと思っていたから、地下室があることをそこで初めて知った。
階段には錆びた鎖が張られ、立入禁止の札がついていた。
Aが鎖を外そうとした。
先輩が危ないからやめろと言ったが、Bも面白がって手伝った。
鎖は南京錠で留められていたわけではなく、針金で巻いてあるだけだった。
AとBは鎖を外し、二人で階段を下りた。
俺たちは上で待っていた。
二人分の懐中電灯の光が、階段の壁を動いていた。
少ししてAが、
「おい、誰かいるぞ」
と言った。
Bが笑った。
その後、二人の話し声が聞こえた。
ただ、何を話しているのかは聞き取れなかった。
524:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:26:03.67 ID:Rc4pN8wL0
そこで帰れよ
525:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:26:42.94 ID:Y5dT3uJx0
不法侵入の上に立入禁止突破か
そりゃ普通に危ない
526:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:29:18.26 ID:K7mR2vQa0
その通りだと思う。
擁護するつもりはない。
俺たちは馬鹿だった。
先輩が二人を呼び戻した。
返事がなかった。
もう一度呼ぶと、Aだけが、
「今行く」
と答えた。
それから二人が上がってきた。
二人とも普通に見えた。
怪我もしていなかった。
地下に何があったのか聞くと、Aは、
「何もない。ボイラーみたいなのがあるだけ」
と言った。
Bは黙っていた。
ただ、階段を上がった後も、何度か下を振り返っていた。
先輩が鎖を元へ戻そうとすると、Aが止めた。
「閉めたら出られないだろ」
と笑った。
誰が出られないのか聞いても、Aは答えなかった。
527:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:30:00.28 ID:V2mK6hFs0
もう連れて帰ってるじゃん
528:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:32:57.56 ID:K7mR2vQa0
その時は、脅かそうとしているだけだと思った。
建物を出てから、駐車場でしばらく話した。
AとBは少し離れた場所にいた。
二人で同じ方向を見ながら、時々笑っていた。
他の誰かと話しているようにも見えた。
俺が何をしているのか聞くと、Bが、
「人数、合ってる?」
と言った。
全員いるだろ、と答えた。
Bは俺たちを順番に数えた。
途中でやめて、
「まあいいか」
と言った。
その時、先輩が帰るぞと声をかけた。
AとBはそれぞれ自分の単車へ乗った。
二人とも一人乗りだった。
529:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:33:41.16 ID:F8qA1zYe0
人数増えてたんだろ
530:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:36:22.73 ID:K7mR2vQa0
帰りは先輩のセダンが先頭だった。
その後ろに単車が何台か続き、ワゴン車が最後尾だった。
俺は先頭のセダンの右後部座席にいた。
運転席には先輩、助手席には先輩の彼女、左後部座席には俺の友達が乗っていた。
施設から十数分走ると、山道を抜けて県道へ出る。
そこから先は、田畑の間を通る長い直線道路だった。
深夜なので他の車はほとんどいなかった。
AとBの単車は、最初は俺たちの車の後ろを走っていた。
バックミラー越しに、二台のライトが並んでいるのが見えた。
そのライトが急に近づいてきた。
Aが先に右から追い越した。
続いてBが来た。
二人とも速度はかなり出ていたと思う。
俺は窓のすぐ横を通った二人の顔を見た。
531:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:39:03.20 ID:K7mR2vQa0
二人は、半キャップのヘルメットをかぶっていた。
顔は隠れていなかった。
Aは車の横へ並んだ時、左を向いた。
俺と目が合った。
笑っていた。
楽しくて笑っている顔ではなかった。
口を限界まで開き、歯を全部見せていた。
目も細くなっていた。
Aが先へ出た直後、Bも車の横へ来た。
Bも同じ顔をしていた。
二人が事前に打ち合わせて、俺たちを怖がらせようとしたのだと思った。
俺は窓を開けて、
「前見ろ、馬鹿」
と怒鳴った。
二人には聞こえなかったと思う。
そのまま車の前へ出て、横に並んだ。
532:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:39:50.37 ID:Q9sL4mWa0
笑いながら横見てたら、そりゃ事故るだろ
533:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:42:38.92 ID:K7mR2vQa0
俺もずっと、そう考えていた。
最初にAの単車が右へ寄った。
ハンドル操作を誤ったようには見えなかった。
緩やかに、道路の端へ吸い寄せられるように移動した。
そのままガードレールに衝突した。
火花が出た。
ほぼ同時にBの単車が左へ寄り、反対側の用水路へ落ちた。
二台が接触した様子はなかった。
ブレーキランプも点かなかった。
先輩は急ブレーキをかけた。
俺たちは車を降りた。
後ろを走っていた仲間も次々に止まった。
救急車を呼んだが、場所を説明するのに時間がかかった。
Aは搬送先の病院で亡くなった。
Bはその場で意識がなく、翌朝亡くなった。
二人とも17歳だった。
534:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:43:26.40 ID:Rc4pN8wL0
きついな
535:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:44:02.75 ID:Y5dT3uJx0
二人並んでふざけていて、バランスを崩した可能性はあるだろ
536:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:47:15.33 ID:K7mR2vQa0
警察にも、そう説明された。
二台が並走中に接触し、Aが右へ、Bが左へ転倒した可能性が高いと。
暗かったし、俺たちも混乱していた。
実際には接触していたのかもしれない。
単車の速度も、制限速度を大きく超えていた。
事故そのものに怪異が必要なわけではない。
ただ、俺は二人が笑っていたことを警察へ話さなかった。
心霊スポットへ不法侵入したことも、できるだけ伏せるよう先輩たちから言われた。
施設の近くを走っていただけということにした。
二人の家族にも、あの顔のことは言えなかった。
事故の直前まで楽しそうだった、などと誤解されたくなかった。
537:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:50:24.03 ID:K7mR2vQa0
葬儀の後、仲間は集まらなくなった。
単車を売った奴もいた。
施設へもう一度行こうと言う者はいなかった。
俺もその町を離れ、進学して就職した。
十年ほどは、あの事故の夢をよく見た。
夢の中でも、二人は俺たちの車を追い越していく。
俺が窓を叩いて前を向けと叫ぶ。
二人は笑ったまま、少しずつ道路の端へ寄っていく。
ただ、夢を見るたび、二人の顔が現実より高い位置にあるような気がした。
単車に乗っている人間の顔は、車の後部座席から見れば、もう少し低いはずだった。
それでも記憶は変わるものだと思っていた。
538:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:51:10.65 ID:F8qA1zYe0
顔が高いって何だよ
539:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:54:36.82 ID:K7mR2vQa0
事故から二十年近く経った頃、当時ワゴン車に乗っていたCから連絡が来た。
Cとは卒業後、ほとんど会っていなかった。
地元へ帰るので、事故のことを話したいと言われた。
駅前の居酒屋で会った。
Cは、最初から酒をほとんど飲まなかった。
事故の夜、ワゴン車は単車の後ろを走っていた。
Cは助手席にいた。
施設を出た時から、AとBの単車が変だったという。
二台とも後部が沈んでいた。
誰かを後ろへ乗せているように見えた。
だが信号で近づくと、どちらも一人だった。
荷物も積んでいなかった。
540:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:55:21.26 ID:V2mK6hFs0
二人乗りしてたのか
541:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:58:34.61 ID:K7mR2vQa0
Cには、そう見えたらしい。
県道へ出る直前、ワゴン車のヘッドライトが二台を後ろから照らした。
Aの背中の後ろから、白いものが見えた。
最初は首に巻いたタオルだと思った。
それが動いて、Aの右肩へ手をかけた。
Bの単車にも同じものがいた。
細い腕だった。
二台とも、誰かが後部座席に座り、運転している二人へしがみついていた。
Cは運転していた先輩に、
「AとB、女を乗せてる」
と言った。
先輩は、
「何言ってるんだ。誰もいないだろ」
と答えた。
その後、AとBは速度を上げ、先頭のセダンを追い越しに行った。
542:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 22:59:20.78 ID:Q9sL4mWa0
何で二十年黙ってたんだ
543:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:02:17.24 ID:K7mR2vQa0
俺も聞いた。
Cは、事故直後にも話そうとしたらしい。
ただ、運転していた先輩から、
「余計なことを言うな。俺たちまで頭がおかしいと思われる」
と止められた。
C自身も、暗闇と疲労で見間違えたのだと思うようにした。
それでも、俺が二人の顔を見たという噂を、後から他の仲間に聞いた。
俺が、二人は笑っていたと言っていることも知った。
Cはそれがずっと引っかかっていた。
「お前、本当にAとBの顔を見たのか」
と聞かれた。
車の真横を通ったから、はっきり見たと答えた。
二人ともこちらを向いて笑っていたと。
Cはしばらく黙った。
それから、
「AとBは、笑ってなかったと思う」
と言った。
544:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:03:01.63 ID:Rc4pN8wL0
じゃあ誰だよ
545:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:05:48.29 ID:K7mR2vQa0
Cがワゴン車から見た時、AとBの顔は前を向いていた。
二人とも体を硬くして、ハンドルにしがみついていた。
Aは何度も首を振っていた。
Bは後ろを見ようとしていたが、何かに頭を押さえられているように見えた。
二人の背後にいたものが、それぞれ肩越しに顔を出していた。
Aの左肩から一つ。
Bの左肩から一つ。
どちらも長い髪の女だった。
二人の単車が俺たちの車を追い越す時、その女たちは体を前へ乗り出した。
ちょうど、運転している二人の顔へ重なる位置に。
「お前が見たのはAとBの顔じゃない」
とCは言った。
「後ろに乗ってた奴らが、お前の方を見て笑ったんだ」
546:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:06:36.24 ID:Y5dT3uJx0
二十年後に言われても、記憶が混ざってる可能性あるだろ
547:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:09:41.71 ID:K7mR2vQa0
その可能性はある。
Cと俺が互いの記憶へ影響を与え、後から話を作っただけかもしれない。
それでもCは、俺が一度も話していなかったことを知っていた。
笑っていた顔の位置が高かったこと。
二つの顔が、どちらもヘルメットをかぶっていなかったこと。
事故当時は、髪が風でなびいているように見えたので、AとBの前髪だと思った。
だがAは短髪だった。
Bは半キャップの中へ髪を入れていた。
俺が見た二つの顔には、顎の下まで濡れたような黒い髪が垂れていた。
そのことは警察にも家族にも、仲間にも話していなかった。
548:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:10:29.57 ID:F8qA1zYe0
じゃあ笑ってたのは、AとBじゃなくて後ろの女二人だったのか
549:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:13:18.36 ID:K7mR2vQa0
Cはそう言った。
俺には証明できない。
事故から二十年以上経っているし、互いの記憶が混ざった可能性もある。
ただ、Cの話を聞いてから、あの夜の光景を何度も思い返した。
俺がAの顔だと思って見ていたものは、ヘルメットより少し高い位置にあった。
その下に、もう一つ黒い影があった。
当時は単車のミラーか、Aの肩だと思っていた。
違った。
下にあった影の方が、Aの頭だった。
Bも同じだった。
二人は俺を見ていなかった。
二人とも最後まで前を向き、ハンドルにしがみついていたのかもしれない。
その背中に乗った女たちだけが、肩越しにこちらを見て笑っていた。
550:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:14:06.31 ID:Rc4pN8wL0
AとBは笑ってなかったんだな
551:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:16:42.90 ID:K7mR2vQa0
たぶん。
俺は二人が事故の直前までふざけていたと思い、それを家族へ話せずにいた。
でも実際には、二人とも背後に何がいるのかわかっていて、必死に振り落とそうとしていたのかもしれない。
Aが右へ寄り、Bが左へ寄ったのも、二人が別々の方向へ逃げようとした結果だったのかもしれない。
警察の記録では、速度超過による事故のままです。
俺も、それを否定する証拠は持っていません。
ただ、あの施設から帰る時、Aが言った言葉を今でも覚えている。
「閉めたら出られないだろ」
あの地下室の鎖は、俺たちが帰る時も外れたままだった。
これで終わりです。
552:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:17:31.72 ID:Y5dT3uJx0
二人が中へ入ったんじゃなくて、二人を出したのか
553:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:18:16.49 ID:V2mK6hFs0
顔が高かった理由に気づくところが一番嫌だな
554:本当にあった怖い名無し:2026/08/02(日) 23:19:04.83 ID:F8qA1zYe0
乙
笑いながら死んだんじゃなかっただけでも、家族には救いかもしれん




